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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第十一章 彼らの選択

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第五十六話

更新を不定期にします。週一は、更新する予定です

 まだ夜が明ける前の森は不気味な影を落としている。

 森の中に空中高く、魔法陣が描かれていた。その魔法陣の上に一人の人物がいた。そして、その真下は明るかった。そこには、城がそびえ立っていたからだ。

 ヴィルターヌ帝国の城だ!

 少し時間を遡り、ティモシーがトンマーゾと夢で接触する前の時刻――。



 「まさか、こんな所だったとは。盲点だよ。お蔭で探すのに時間が掛かってしまった」

 「……エイブなのか?」

 呟いた人物に魔法陣の中にいる人物は話しかけた。

 「えーそうですよ。モゼレス様。お久しぶりです」

 エイブは、そう言って頭を下げた。

 「戻って来たのか!」

 モゼレスは嬉しそうに言うが、エイブは首を横に振る。

 「俺は、あなたに恩を返しにきました。この魔法陣は、下から見ても見えない様になっているので、誰も気づかなかったようです」

 モゼレスは、何か言いたげにエイブをジッと見つめる。

 「では何故、俺がここにいるかですか? 今、体の方は捕らわれていまして。精神で動いているんです。ですので、俺が直接助け出す事は出来ないので、誰かに伝えておきます」

 「誰から聞いたのだ? 私がこうなっていると……」

 エイブは、目を伏せた。

 「俺は、あなたの味方ではありません。……俺は組織の人間です。ただ、生きている間に恩だけは返しておこうと思っただけです。ですのでここにはもう、戻ってきません……」

 モゼレスは、エイブの言葉に表情を曇らせる。

 「そんな事をして大丈夫なのか?」

 「俺の心配などしなくていいです! では、失礼します」

 「エイブ!」

 モゼレスが叫ぶもエイブはスッと下におりて行き、城の内部に入って行った。

 そして、ある部屋に入ると机に寝潰している人物がいた。それは、皇太子ピルッガだ。

 「寝るならベットで寝ればいいのに。まあ、それも無理な相談か……」

 エイブはそう呟くと、ピルッガの精神に語り掛ける――。



 「ピルッガ様……」

 暗闇の中に佇むピルッガは、エイブに振り向き驚いた顔を見せた。

 「……夢の中か?」

 「お疲れなら、ちゃんとベットで寝た方が宜しいかと思いますよ」

 「なるほど。夢は夢でも、現実か……。もしかして、イリスはあなたに助けを求めに行ったのか?」

 ピルッガの言葉にエイブは首を横に振る。

 「俺になど求めに来るわけないではありませんか。彼女は、エクランド国におります。そこに今、魔術師の国の王子が来ているので、そちらにではないですか?」

 ピルッガは、眉を顰める。

 「では、何しに来た? それを伝えにか?」

 「いえ。皇帝を探しに」

 そう返しエイブは、上を指差した。それにつられるようにピルッガは、目線を上に向けた。

 「城の上に魔法陣があり、そこに捕らわれております。下から見ても見えませんので、気づけなかったのでしょう。浮遊出来る者に魔法陣を解除させれば、体に戻れるはずです」

 「やはりイリスに会って聞いたんだろう? 無事なんだな?」

 エイブは困り顔になる。

 「たぶんとしか、申し上げれません。俺は、あなた方の敵なので。たまたまこうやって会った時に、お聞きしました」

 「言っている意味がわからないな……」

 「俺は魔術師の組織側って事です。ですが恩を返しに来たんです」

 「なんだと……」

 ピルッガは、エイブを睨み付ける。

 「恩ねぇ。で、何故そこだとわかった?」

 「罠かもとお疑いですか? 精神には触れる事が出来ませんが、魔法陣を用いれば可能かもしれないと思いまして。でもそうなると、範囲が限定されます。だとしたら近くだと思ったのです……この話し方疲れるなぁ。もういい? 信じるも信じないも好きにしてよ」

 ふっとピルッガの口元が緩む。

 「相変わらずだな。ありがとう。助かった」

 「ふ~ん。信じるんだ」

 「そこは、探してないからな。ところで、さっき言った事は本当なのか? 組織の一員というのは……」

 「そんな冗談言っても仕方ないだろう? 俺はもうここには戻らない。医者にならないからね」

 ピルッガは溜息をついた。

 「だから俺はやめておけと言ったんだ」

 「うん。そうだね。……じゃ、そういう事で! さようなら」

 「おい! エイブ!」

 叫ぶピルッガを残し、エイブは夢から離脱しエクランド国へ向かう。

 「朝までに間に合うかな……」

 物体を通り抜けるので、一直線に移動できる。しかも馬車よりも早いスピードだ!

 エイブは、後ろを振り返った。

 「さようなら。俺のふるさと……」




 日が昇る頃、エイブはエクランド国に入った。

 「なんとか着いた……。うーん、直接王宮に向かうかな」

 エイブは、王宮に向かい移動するが、ある程度近づいた時にふと動きを止めた。

 「あれ? ティモシーさんが外にいる! って、そっちってあの建物の方向? なんで?!」

 何が起きたとティモシーの方に向かうも驚く光景に遭遇する。

 ティモシーにランフレッド、レオナール、それにトンマーゾ四人に向かって魔術が放たれた! エイブはそれを放った人物に目を奪われる。

 「嘘……。クレメンディーナさん……」

 エイブより年上に見える彼女は、凛々しくそこに立っていた。

 その攻撃をティモシーは結界で阻む。エイブはティモシーの魔術の威力を目の当たりにする。

 「あはは。何これ……。ブラッドリーさん、並みじゃないか……」

 その後、経緯を見守っていたが、逃げ出すトンマーゾが放った魔術で辺りが見えなくなった。

 「最後の役目を果たすか……」

 エイブは、スッと倒れたティモシーに近づき精神に話しかけた――。




 「ティモシーさん、大丈夫?」

 「あれ? エイブさん! 生きてた!」

 ティモシーは、驚き喜びの声を上げる。

 「生きてたって何それ……」

 「だって、夢にトンマーゾさんが来たから、俺てっきりエイブさんに何かあったのかと思って!」

 「あの人が君に会いに来たの?!」

 エイブの言葉にティモシーは頷く。

 「まずいな。バレてるのか? よく聞いて! 今、皇帝を発見して伝えて来たから。俺の言葉を信じてくれていれば、助け出されているはずだから。イリスに伝えて!」

 「本当! よかった。あ、今、エイブさんどこにいるの? 前の所じゃないよね?」

 エイブは、目を伏せた。

 「ごめん。言えない。たぶん、俺はこの後殺されるだろうし……。探しに来てはダメだよ」

 「何を言ってるのさ! レオナール王子が何とかしてくれるよ! 俺も一緒に組織と戦うから!」

 その言葉はにエイブはギョッとする。

 「ダメだ! 殺される! 君はイリスを守って! 医者になって彼女の側にいてあげて欲しいんだ!」

 「え? それって……。それエイブさんの役目でしょう?」

 エイブは首を横に振る。

 「俺は医者にはなれないから。だから、俺の代わ……」

 バチッ!

 エイブは、ティモシーとの会話を強制的に中断させられた。見れば、レオナールの部屋の前だった。

 「ここに運ばれたのか……。さようなら、ティモシーさん。後は頼んだよ。俺はもう、彼とは戦えないから……」

 エイブは王宮を出て、自分の体を目指した。暫くするとフッと辺りが暗くなる。

 「体が移動された?」

 何故殺さないと暗闇の中、自分の体を目指した――。




     ☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆




 エイブが目を覚ますと、見た事ない天井が見えた。彼は、体に戻った途端眠気に襲われ、眠ってしまっていた。

 「おぉ、起きたか?」

 その声に顔を向けると、トンマーゾがエイブに近づいて来て、ベットの端に座り足を組んだ。

 「少し薬が強かったか? ぐっすりだったな」

 「……なんで殺さないんだ」

 「そんなの利用価値があるからだろう?」

 トンマーゾがニヤッと、冗談っぽく言う。

 「利用価値って……もうないだろう?」

 トンマーゾはエイブの顔を覗き込む。

 「魔力が練れないか?」

 「やっぱり! 俺に何かしたな! 薬に何を混ぜたんだ!」

 肩肘を付いて上半身を少し起こし、もう片方の手でエイブはトンマーゾの腕を掴んで叫ぶ様に言った!

 「薬? お前、薬は最初の一回ぐらいしか飲んでないだろうが。ちゃんと飲んでいれば、今頃はだいぶ動けるようになっていたのになぁ」

 「じゃ、何に混ぜて……」

 エイブが睨む様にトンマーゾを見るとニヤッとして答える。

 「お前が毎回、飲み干していたモノだよ」

 エイブは、目を見開く。

 「水? あの水に薬を混ぜてあったのか……」

 「いや、薬は混ぜてない」

 「じゃ、魔術でもかけて……」

 「それもちょっと違うな」

 「それじゃ一体何を……」

 トンマーゾは、エイブが掴んでいた手を払うと立ち上がって言った。

 「内緒だ。知りたければいう事を聞けよ」

 「何、言ってるんだよ! そんな事を聞いて言う事をきくとでも思ってるのかよ!」

 エイブは、上半身をがばっと起こし、トンマーゾを睨み付ける。

 「じゃお前どうするんだ? あの魔術師の王子に助けを求めるか?」

 「まさか、今更……。もう殺してくれよ……」

 「言っただろう? まだ利用価値があるって」

 ベットに片手をついて、トンマーゾはエイブの顔を覗き込んで行言った。

 「何をさせたいんだ? 協力しないっていってるだろう?」

 「別に大人しくしていればいいさ。お前が魔力を練れるようになるまでな」

 トンマーゾは、体を起こし腕を組んで、いつも通りニヤリと言った。

 「なるほど。実験体かよ! じゃ、殺したくなるように教えてやるよ! 皇帝を見つけ出した! 今頃は助け出さているさ! ……う」

 エイブが言い終わるか終わらないかにトンマーゾは、彼のお腹にパンチを食らわせた!

 「ったく。余計な事しやがって!」

 エイブは倒れ込み、お腹を押さえて丸くなり呻く。

 バンッ!

 勢いよくドアが開きザイダが入って来た。

 「やめて! エイブさん大丈夫?」

 ベットの前に膝を付きエイブを覗き込んで問う。

 「君、まさかずっと聞いていて……」

 ザイダは、エイブの質問にこくんと頷いた。それを見たエイブは俯いた。

 「そう。聞いていたんだ……。わかっただろう? 俺は魔術師だ」

 「知ってた……」

 「え……」

 驚きエイブは、ザイダの顔を見た。

 「王宮から逃げ出した時に、俺もお前も魔術師だと教えた上で選択させたんだ。まあ気持ちは揺るがなかったみたいだな。ザイダもティモシーもお前のどこがそんなにいいのかねぇ」

 ザイダは、脅されていた訳ではなかった。進んで組織に入っていたのだ。

 「……魔術師が嫌いじゃなかったの?」

 「そうね。でも、エイブさんはエイブさんよ。魔術師だろうがそうでなかろうが……」

 「ザイダさん……」

 「で、どうする? 一緒に心中でもするか?」

 トンマーゾがそう言うと、エイブはお腹を押さえながら上半身を起こす。

 「わかったよ。協力するよ。でも、ザイダさんには手を出さないって約束してよ」

 「お前がちゃ~んと良い子にしていれば、何もしない。って俺は、お前よりザイダの方を信用してるぐらいだぜ」

 ニヤッとして、トンマーゾはそうエイブに返した。

 「話はついた?」

 そう部屋に入って来たのは、クレだ。

 「おう。クレちょっと向こうで話がある。ザイダ、そこの薬飲ませておけよ。もう普通の水しか飲ませないから安心しろ」

 トンマーゾは、そう言ってクレと一緒に部屋を出て行った。

 言われた通りテーブルの上にあった薬をザイダは取りに行く。そして、水と一緒にエイブに渡す。

 「はい。飲んで早く良くなって!」

 「ありがとう」

 エイブは、笑顔で受け取ると、薬と水を飲みほした。

 空になったコップを受け取ろうとするザイダをグイッと引っ張り、エイブは彼女を抱きしめる。

 「ごめん。君の未来を奪ってしまって……」

 ザイダは、ううんと首を横に振る。

 「傍に入れるだけで幸せ……」

 「……ありがとう」

 エイブが国を出てから初めて魔術師だと知っても受け入れてくれた相手だった。

 「お取込み中の所悪いが、ザイダはクレと一緒に買い出しに行ってこい」

 エイブは、ハッとしてザイダを離す。トンマーゾは腕を組みニヤニヤと二人を見ていた。

 「はい。行って来ます」

 ザイダは頬を染め、小走りで部屋を出て行った。

 「お前も現金な奴だな」

 「………」

 トンマーゾは、壁に立てかけてあったラグをベットの横に広げる。

 「もしかしてそこに魔法陣を描くの?」

 「あぁ。毎回描くのも面倒なんでな。そうする事にした。お前は描いている間もう少し寝ていろ。そんな体なのに長い間精神を飛ばしていたんだろう?」

 そう言われなくとも寝ると思う程、エイブは眠気に襲われる。

 「それ、俺のだったら音も聞こえる様に描いておいて。聞こえないのは不便……」

 「めんどくせい注文だな……。って寝たのかよ。結構薬が効く体質だなこいつは……」

 そう言うとトンマーゾは、エイブからラグに目を移した。

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