第二十五話
「ティモシー、起きろ」
ティモシーは、自分の呼ぶ声が聞こえると目を覚ます。
「ランフレッド?」
医務室で待っている間、寝ていてもいいと言われたティモシーは、布団を被って横になっていた。そして、いつの間にか本当に寝てしまったようだ。
「大丈夫か?」
ティモシーは、頷きながら体を起こした。部屋にはアリックとダグはすでにいなかった。代わりにレオナールが居た。ティモシーは、彼を見てビクッと体を振るわす。
「ダグとアリックは帰ったよ。今日から暫くは、薬師達は馬車で送り迎えする事になった。街も見回りも強化される事になった。でだ……」
そこで何故かランフレッドは一旦言葉を切った。そして言いづらそうに続ける。
「王宮が手薄になるので、俺は、二十四時間王宮に滞在する事に決まった。つまり、家に帰らない。そうなるとお前は、夜一人で家にいる事になるだろう? そこで王宮に泊まる許可をもらったから、お前も俺と一緒に暫くは王宮暮らしに……」
「は? なんで? 一人で大丈夫だし!」
ティモシーは、ランフレッドが言いたい事がわかり、言い終わる前に抗議する。王宮に滞在するという事は、レオナールの相手をする事になるのは、目に見えていた。
「大丈夫って、お前なぁ。二度も狙われたんだぞ! 一人にしておけるか! 正式に陛下に許可を取ったんだ!」
「え! でも、俺だけ特別って!」
「別にお前だけっていう訳じゃない! 今回に限り、申し出があれば泊まる許可を陛下は出したんだ! まあ、今のところはティモシーだけだけどな……」
ティモシーは、それを聞き俯いた。
暫く王宮に泊まる事は、決定事項で覆す事は出来そうにもない。ティモシーは、大きなため息をついた。
「レオナール王子がお前に話があるらしい。俺は仕事に戻るが、後で迎えに来るから話が終わったら大人しくここで待ってろよ」
「え!」
レオナールが部屋にいるので、話があるのだとは思ったが、ランフレッドも一緒だとティモシーは思っていた。
「では、俺はこれで失礼します」
ランフレッドは、レオナールに軽くお辞儀をすると、ドアに向かう。ティモシーはそれをボー然と見送っているとレオナールが視界に入った。彼は、ティモシーが寝ていたベットに腰を下ろしたのである。そして、ベットの周りに結界を張った。
「別にあなたに危害をくわえる気はありませんよ」
「はい……」
ティモシーは、医務室に来た時よりもだいぶ落ち着きを取り戻していた。襲ってきた男たちが、自分達三人を最初から殺す気はないかったと今はわかっていた。殺す気があるのなら、最初にあの爆発を起こしていたに違いないからである。
レオナールがあの男立ちを遣わせたわけでもない事もだ。あの男たちは、三人を拉致するつもりだったと言っていたからだ。レオナールにそれをする理由がない。
落ち着いてみれば、わかる事だった。
「今、結界を張ったのはわかりましたか?」
「え? あ、はい。ベットの周りに……」
何故そんな質問を? と思いつつティモシーは、素直に答えた。レオナールは、満足げに頷いた。
「この結界は、声を外に漏らさない為のモノです。そして、これがわかったのなら、あそこで魔術が使われていれば、あなたは気づいているはず。聞かせてくれませんか? 何があったのか」
ジッとティモシーを見つめるレオナールの瞳をティモシーは、ジッと見つめ返す。
「あの……。亡くなったのは二人だけですか?」
「えぇ、そうです。一人は命に別状ありませんが、まだ目を覚ましておりません」
ティモシーの問いに、静かにレオナールは答える。
一人の男は生きていた。そうなれば、ティモシーが話さなくともダグがやった事は男が目を覚ませばわかる。いや、二人を殺したところは見ていない。だが、ダグがやっただろうと推測はできるだろう。ただ、証拠はないし、普通なら男二人を簡単に首を絞めて殺せない。言い逃れができるだろう。
自分が話した事を内緒にしてもらった所で、アリックにかかった術をダグ自身が解いているのだから、見ていたのは自分だとわかるだろうとティモシーは思った。それは、自分がダグと同じ魔術師だとバレる事になる。
こうなったのだから、ダグにバレても仕方がないのかもしれないが、逆恨みをされる可能性がある。魔術を使われれば、ティモシーはダグに勝てない。
「あなたの身の安全は、私が守って差し上げます。ですのでお話して頂けませんか?」
レオナールには、見透かされているようだった。多分、ダグが魔術師だろうと見当もついているのだろう。ティモシーは、こくんと頷いた。覚悟を決めたのだ。
「さっき二人が言っていた事は間違っていません。相手は黒い石の様な物を投げて来たんです。エイブさんが投げた石に似ていたので、攻撃が来ると思たんだけど、眠りの魔術だったらしくアリックさんがかかりました」
「あなたは、そのペンダントでレジストしたのですね?」
レオナールの問いにティモシーは頷く。
「運がいいのか、悪いのか。アリックさんが俺を庇って抱き着いていたので、一緒にそのまま転倒してしまって……」
よく考えると、情けないなとティモシーは顔を赤らめた。
「彼は……ダグはどうでした?」
「直接は確認してないけど、男たちがダグさんが起きているのに驚いていたのでレジストしたんだと思います」
「やはり……」
ティモシーの回答に、レオナールは小さく呟いた。
「その後は?」
「男たちは、俺達を拉致するつもりだったといいながら、ダグさんに攻撃を仕掛けたみたいなんです。寝たふりをしていたので詳細はわかないけど……。多分また、黒い石をなげたんじゃないかと……」
「では、あの穴を開けたのは、男たちの攻撃なのですね?」
ティモシーは、はいと頷く。
「その後、ダグさんが……」
ティモシーは俯き、続きを言うのを溜めらう。二人は死んだ。だから本当の事を言うべきなんだろうが、今思えば自分達を助ける為に殺すしかなかった? とも考えてしまう。
チラッとレオナールを見ると、彼は頷く。
「大丈夫です。私を信じて話して下さい」
ティモシーは大きく息を吸った。
「ダグさんは相手の動きを奪い、男たちの首を絞めたみたいなんです。絞め殺すところは見てないんですけど……」
「見ていないとは?」
「一度首を絞めていた手を離して、倒れた男たちの首をもう一度絞めたようなんです。倒れた後は、見えなかったので……」
「なるほど。そういう事でしたか」
ティモシーの説明でレオナールは何か確信を得たようだった。
「ありがとう。とても助かりました。今はゆっくり休んで下さい」
レオナールは、スクッと立ち上がると、部屋を出て行った。
(ダグはどうなるのだろう?)
もしダグが魔術師でなければ、今頃三人はあの男たちに連れ去られていた。自分の力で逃げ出せただろうか? 二人を助ける事が自分には出来ただろうか? ティモシーは布団の中で自問してみる。
魔術を封じる事に成功すれば、逃げ出す事は可能かもしれないが、それが出来なければ、自分は殺されるだろうと思った。彼らは、魔術師を殺すつもりだったのだから……。
やはりと言うか、当然というか、王宮に泊まる事になったので、レオナールの部屋にお呼ばれし、ティモシーは彼に言われるまま魔術師の本を読んでいた。
普通の者なら王子と仲良くなれるのなら喜ぶだろう。だが相手は魔術師の王子、ティモシーでなくとも、少なからず遠慮する者もいるだろう。
「少しお話宜しいですか?」
一区切りついたのがわかったのか、レオナールはティモシーに声を掛けて来た。疑問形だが、命令である。ティモシーは頷いた。
「あなたは自分で思っている程、魔術は劣っておりません。私もあの時、驚いたほどです。あの結界は、ブラッドリーの真似をしたのでしょう?」
前回ティモシーを攻撃をした時の事を言っているのだ。
(驚いていたのか? 全然そう見えなかったけど……)
「結界なんて使った事なかったので、ブラッドリーさんが使ったのを思い出してやってみただけです……」
それを聞いたレオナールは目を丸くした。今回は、言われなくとも驚いたのがわかった。
「あなた、想像以上でした。一度も使った事がなかったとは……」
魔術師だと隠して生活していたのだから魔術など使っていないのは、当たり前だろうと思うも、そうですかとそれだけティモシーは返事を返した。
だいたい普通に生活して、いつ結界を使う時があるって言うんだと、言いたかった。
「そこにある本は全て読んで構いません! まず、知識として取り入れておきましょう!」
レオナールは、そういう言うと意気揚々と次なる本を持って来てテーブルに置いた。
(俺を寝かせる気ないだろう!)
「いや、そんなに読めないし。どうせ王宮に泊まってるんだし。今日はこの辺で……」
「そうですね。急かしすぎましたね」
レオナールは、にっこりほほ笑む。
彼は知っているのだろう。明日から数日、ティモシーが仕事を休んでいいと言われている事を。ティモシーもまた、彼がそれを知りえている事を察知した。
何とかしなければ、ティモシーに平穏な日々はない……。




