98.修学旅行じゃ
父上、母上、修学旅行というのはの、学生の見聞を広め、団体行動を学び、親睦を深めるという目的があるのじゃが……まあ、遊びというかただの旅行じゃの。
よう考えてみるとの、クラスのおなごとも同じ部屋で寝泊まりすることになるのでの、着替えや風呂もいっしょじゃし、背中の羽をどうしようかと思って困っておったのじゃが、大使館に相談するとガイコツが幻術かけて見えないようにしてくれたわ。なんでもできるのうガイコツは。
女子寮の風呂はの、個室で、バスタブだったのじゃ。
六人乗りの馬車五台に班ごとに乗り込んでの、先生の馬車二台、荷車、それにハンターの護衛馬車が前後について、総勢十台の馬車隊じゃ。
宿場町を巡って港町までじゃの。王都の東、魔王領とは反対側に向かうのじゃ。
平民の子はそもそも旅行なんてしたことが無い子が大半での、学園に入学するために村から王都まで行ったのが初めてだった者がほとんどじゃ。
みんな初めて見る景色にウキウキじゃの。
わしもおんなじなので人のことは言えんのう。
人間の町々は本当に大きい。街道はずっと畑が続いておってのう農家が隙間なく営んでおって、魔物が出そう野盗が隠れていそうな場所などないぐらいじゃ。
ず――っと平野での、凄く遠くまで見渡せて、全て人が住んでおるのじゃ。
人間が栄えるわけじゃ。魔族領にはこんな恵まれた土地はないからの。
班の殿御どもはヒマじゃ言うてカードのゲームを始めてな、わしにもやり方を教えるから一緒にやろうというのじゃが覚えるのも面倒だしのう、わしは先頭のハンターの護衛馬車に行って御者係の隣に座って町々の話をしたのう。
わしはハンター仲間じゃよう知られておるからの。みんな顔なじみじゃ。
「こんな街道で強盗なんて出るわきゃないが、ナーリンがいれば俺たちいらんよなあ」とか言って笑うのじゃ。
わしが制服着とるから、「ホントに学生ハンターだったんだな」と言ってあきれるやつもおる。
わしが盗賊団一人で十二人捕えた武勇伝よう知られておるからの。
はっはっは。
この街はジャガイモが、この街は小麦が、ここはトマトスープが美味いとか鶏が美味いとか、農民が自治をしていて領主がいない、とかいろいろ教えてくれて勉強になったわ。
わしもいろいろ覚えておいてな、送召喚で行ける場所を増やしておくのじゃ。
最初の宿場町で殿御五人部屋五つとの、おなご五人部屋一つで分かれて泊まったのじゃ。このクラスおなごはみんな平民でいつも女子寮で一緒のメンバーじゃし、みんなで風呂に入って着替えて食事して、おねむじゃの。
……風呂に入ってちょっとショックじゃ……。
……わし成長遅いどころの話ではないではないかの……。
……詳しく書きたいがの、これ父上も見るからの、やめとくのじゃ……。
馬車の移動は疲れるわ。
「ナーリン寝るの早すぎ――!」
「ホント子供なんだから――!」
うるさいのじゃ。
10月28日分。 つづくのじゃ。
次回「修学旅行じゃ2」




