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【おまけ8】天誅と天罰と慈悲?(後)




 拙作へお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(*^人^*)




 殿下が危機!!






 あまりのことに放心したのは一瞬だ。


 とにかくこの状況をなんとかしなくては! 私はウォルセンが襲われる所なんて見たくない。……中には喜んでしまう ハイレベルな貴腐人(お姉さま)方もいるかもしれないが、私は見たくない!!



「近くで見ても、完璧だぁ。こんなに美しい少年がいるなんて……」



「……」



「ダメ、離れて!」



 こちらは全く眼中に無く、私の力では引っ張っても叩いてもびくともしない男。軽く振り払われてしまう。



「アーシャ! ……僕は大丈夫だから! 人通りのある所へ行って!!」



 全然大丈夫じゃない。ウォルセンの危機だ。ここは修羅となり 我が禁じ手を使わせていただこう。というか、コイツほんとに気持ち悪いし。


 腕輪から小瓶を取り出して 蓋を開ける。中身がウォルセンにかからないように注意しながら、前のめりにウォルセンへと迫る男の頭に……。



「天誅」



  トクトクトク……



「な?! 何をするか!!」



「悪しき変態に慈悲はない。禿げ散らせ」



 数歩下がって空の小瓶を腕輪に仕舞い、男を睨み上げる。私の言葉に 男は訝しげな様子で頭に手をやり……。



「はげ……お? おおぉぉおぉぉ?? ……毛が!毛がぁぁぁ!! あああぁぁぁ~~っ!!!」



「こっち!!」



「……え? あ、うん」



 はらはらと哀愁を漂わせて儚く散りゆく頭髪に、絶望の叫びを上げる男の隙をついてウォルセンを奪還し、手を引いて走り出す。



「……えぇと、アーシャさん。つかぬことを聞くけれど、今の薬は?」



「脱毛薬」



 今日、医務棟へ持っていくハズだった クリスティン先生()悪ノリして共同開発した脱毛の魔法水薬(外用のみ)の試作品である。ちなみにルイン先生の監修なので効果はご覧の通り。薬液が触れた部分周辺が あっという間に抜け落ちる。


  カミソリの刃に負けてしまう肌にも優しく、脱毛後は お肌がWの意味でつるつるになる優れものなのだ。まさか 乙女の敵(無駄毛)を駆逐する薬が、美少年の敵(悪しき変態)への天誅として使われるとは、先生方も薬自身も思わなかっただろうけど。……しばらくしたら、また生えてきちゃうのが残念である。



「なかなかに斬新な薬だね……」



 今回は用途が違ったけれど、徐毛剤などの無い世界ゆえ 確かに奇異に見えたかもしれない。でも、頭髪の復活や再生を願う男性の悩みと同じく、剃っても抜いても駆逐できず、肌を(いたずら)に傷めてしまう乙女の悩みも深刻なのである。ポロっと徐毛剤の存在を話してしまった私に、クリスティン先生が勢いよく食い付いたのも仕方がないのだ。



「急いで。追ってくるかも」



 膝をついて嘆く男を痛ましげに振り返るウォルセンを急かす。そろそろ 衝撃が過ぎ去って、逆上して追いかけて来るかもしれない。とりあえず気を逸らしてウォルセンを連れ出すことを優先したけれど、ここから逃げ切れるかは私の足に懸かっている。撒いてしまった護衛さんに会えるか、人の多い大通りに出られれば 追いかけっこは勝ちである。



「そうだね。行こう」



「……」



 そして、前を向いたウォルセンにあっという間に追い抜かれて 逆に手を引かれる。



(悔しくなんかないもん。元々の運動神経の違いだから仕方ないんだもん)



 でも、ちょっと悔しい。思わずキャラが変わるくらいには。




むあ()ぁぁぁぁ~とぅ()ぇぇぇ~っ!!!』



 路地に響く 地を這う咆哮。ちっとも楽しくない追いかけっこが始まった。





~*~*~*~





 敗因はなんだろうか?



「くふ、けひひ……小娘ぇ……よくも、よくも 俺の髪を……」



 目の前の男が、陰気で運動不足そうな見た目の割に 足が速かったこと?



「アーシャ、僕の後ろから出ないで」



 不慣れな道を闇雲に走ったから、袋小路に入ってしまったこと?



「ウォルセン、ダメ。怪我したら大変……」



 私の足の速さと体力が、逃げ切るには全然足りなかったこと?




 いずれにしても、大ピンチであるのは変わらないのだけど。ごめん、アイツを逆上させたのも逃げ切れなかったのも ほとんど私のせいだから手を放して。(庶民)を庇っちゃダメだよウォルセン(皇子様)



「ボクぅ、君は傷付けたく無いんだよぉ。少ぉし、その小娘の()()()を叱るだけだ。退いておくれぇ」



「じゃあ、その刃物を捨ててくれるかな? アーシャに傷をつけるのは許さないよ」



 さっきは ウォルセンにしか興味が無かったけれど、今は 私へ射殺さんばかりの憎悪の眼差しを向けている男が、舌打ちとともに足を踏み出した。速い!?



「っ?! 《風よ…うぁ!!」



「ウォルセ…んぐっ」



 瞬く間に距離を詰めた男は 荒事に慣れた身のこなしで、魔法を使おうとしたウォルセンをナイフの柄で横に殴り倒し、直後に私のお腹へも膝蹴りを入れてきた。その勢いで後ろの壁へぶつかり、地べたに倒れ込む。一瞬、意識が飛んだかもしれない。



(いたい……いき、できな……)



 強かに腹部を蹴られたせいか 一時的に正常な呼吸ができない私を、男は髪を掴んで引き上げる。冗談にならないほど痛い。私も禿げてしまいそうだ。



「つかまえた。よくもやってくれたね、小娘ぇ。この綺麗な髪、俺と同じようにしてやろうなぁ……くへへっ」



 ……禿げ仲間にしたかったらしい。頬っぺたにヒタヒタされているナイフで切り刻まれるよりはマシかもしれないが、コイツとお揃いは できれば遠慮したい。痛いし、怖いし、嫌だし、そろそろ ちょっとばかり泣いても良いだろうか?



「それとも、二度と見れない顔にしてや……ぐべっ!」



 目頭が熱くなってきたので 唇をきゅっと引き結んで涙を堪え、精一杯睨み付けていたら 急に“く”の字になった男。


 わき腹にボーリング玉のような氷塊が当たったらしい。髪を掴まれていたので、引きずられるように再び倒れてしまった。あ、放した。あちこち痛む体で にじにじと蠢いて、なるべく男から離れよ……う?



「汚ない手でアーシャに触るんじゃないよ ()()が」



「ぎょべっ」



 今度は地面が隆起して、男を私から離れた場所へ撥ね飛ばした。というか。ウォルセンさん? どうしちゃったの?? キャラが違いませんか??? ナゼか止めどなくゾワゾワするのですが……。



「ねぇ。アーシャのさらさらで綺麗な髪をどうするって……? 時々だけど ふわって笑ってくれる顔をどうするって……?? ……ねぇ、教えてよ」



 ウォルセンが質問する度に、男は 小さな鎌鼬でボロボロになったり、先ほどより小ぶりな氷の礫に乱打されたり、生えてきた石柱に打ち上げられたり……これ、ヤバいかもしれない。転がる男を追って振り向いたウォルセンの目が、うっかり殺ってしまいそうな感じになっている。



(流石に“それ”はダメでしょ)



 倒れ伏す男に向けられた右掌に、バチバチと紫電が集まる。うっかりじゃない。明らかに殺る気に満ちている。急いで 気力とか気合いみたいなものをかき集め、なんとか起き上がって ウォルセンに向かって走る。



「ダメ」



「っ!!」



 とりあえず、ウォルセンの頭を抱えるように抱きついて視界を覆ってみた。思惑通り、集中が乱れて雷が霧散した。足下でくぐもったうめき声がしたけど、死ぬよりはマシだと思って我慢してもらおう。



「お、おも……」



  ちらり



 視線だけで男を見下ろす。



「こ、小鳥のように軽、やか…デ・ス……」



 よろしい。余計なことを言えば 私は即座に撤退し静観する所存だ。これは慈悲ではなく、堕天使になりかけているウォルセンの手を汚させないためなのだから。




 という冗談(?)はさておき、硬直したウォルセンの頭を撫でながら落ち着かせるように声をかける。



「もう大丈夫。私は無事だし、これ以上は必要ない」



「……」



「この人も、たぶん反省した」



  ぐり。



「ハンセイシマシタ」



 うん。少しだけ足首の調子が悪かったのだけど、大丈夫みたいである。棒読みだが仕方あるまい。ああ、頭もヒリヒリする。



「ね。だから、もう大丈夫」



「……じゃない」



「ん?」



 小さな囁きに、耳を傾ける。足下のうめき声は もちろん無視だ。



「大丈夫じゃない。僕は……僕を……ばけものって 思ってない?」



「どうして?」



「だって、カッとなって……危険な魔法をつかったし……ころしかねなかった……こわい、よね?」



 あぁ……きっと、彼は自分の力が厭わしかったのかもしれない。前に私が「羨ましい」って言ったら嬉しそうにしてたのも、そのせいだろう。魔法を使う授業や試験で“本気を出さなかった”のも。


 先ほどの魔法を見れば、欠片ほどの力しか使っていなかったのだろうと分かる。



「私を守ってくれた魔法を怖がるわけないよ。それに、ウォルセンのことを化け物だなんて思ってたら、こんな風に触れないよね?」



「……ぅ……」



 あやすように言い聞かせれば、しがみつくように背中に腕が回される。ちょっと苦しいけど、しょうがないな って気分でしばらく震える頭を撫で続ける。ついでに、硬いナイフの柄で殴られていた所にこっそり(無詠唱で)回復魔法を……って、バレた。更にぎゅうぎゅう締め付けられて、ちょ、ギブ ギブ!! あ、護衛さんだ、こっちです、た す け て ー 。



「殿下!! 御無事ですか?!」



(た、たすけて……)



 駆け寄ってきた護衛さんは 私の声にならない救助の求めに眉を寄せ、冷淡な声音でウォルセンを諫める。



「殿下、婚約者でも無い女性に軽々しく触れてはなりません」



 真面目だ。生真面目である。いや、悪いことではないけど、ちょっと空気が読めてない?



「あと、ご友人が苦しげにしておいでです」



 あ、ちょっと力が緩くなった。というか、良かった……一応 空気は読めていたようである。かなり遠回りしたけど。助かったのになんだか素直に感謝しきれないのはどうしてだろう。






~*~*~*~






 その後。なかなか離れないウォルセンを最終的に護衛さんがベリッと剥がしたり、土や胸元の血は魔法で落とせたけれど、ほつれたり擦り切れて酷い有り様になってしまったワンピースにウォルセンの方が しょぼんとしたり、奇跡的に無事だった髪留めに死ぬほど安堵したりしながら、駆けつけた治安維持の騎士様たちによって、護衛さんの縛り上げた ボロボロな男が引き立てられてゆくのを見送った。無駄に(頭皮が)ツヤツヤな頭が 夕陽を照り返す。試作品の出来は上々なようである。




 初犯では無いそうなので、髪がまた生えてくることは教えなかった。どうせ そのうち分かることだ。それまでよ~く反省して、二度と年端もゆかぬ男の子を狙うような真似は止めて欲しいものである。









 清らかな天使を守らんとする主人公による天誅(笑)と、主人公を傷つけ その身を損わんとする発言にガチギレした殿下による天罰(殺)と……主人公の慈悲? 命は救われたから慈悲!



 ちょっぴり補足しますと、序盤で主人公を逃がしたら、殿下は魔法で適当にやっつけて逃げるつもりでした。まさかの天誅に呆気に取られていたので、あの反応でした。



きわどい(アウトな)裏事情]



《胸元の血》


 無性にネタをぶち込みたくなった作者の遊び心(?)の名残。あるか無きかのささやかな膨らみを鋭く感知した殿下の鼻血(煩悩)か、殴られた際に出た鼻血かは謎に包まれている。なかなか離れなかったのも、主人公が前日に使った石鹸の残り香を堪能していたからでは 断じて 無い。そこまで彼のレベルは上がっていない。見られたくない所(堕天使モード)情けない所(ベソっかき)を見られて顔を上げられなかっただけである。



~*~*~*~




 こんな感じで、大好きアピールをしては微笑ましくスルーされ、主人公を庇ったりと良いところを見せては庇護対象的な扱いをされたり、不安定な一面が主人公の恋心ではなく母性というかお姉さん心を刺激したりと……一進一退(ニ退くらい?)しながら殿下は頑張ります。何年も。



 また、おまけ が増えるか、上の「何年も」を飛ばして新作として続きを書くか、殿下ではなく作者が挫折してそのまま消えてゆくか……未来はわかりませぬが、とりあえずはここまで。


 好き勝手に描いてしまったおまけにお付き合いくださり、まことにありがとうございましたm(_ _)m


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