35【豊饒祭3】いちばん勇気のある者は誰?
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「邪魔だ」
緊急避難をしたウォルセンの背中の向こう側から降ってきた声に顔を上げれば、煌めく癖の無い金髪を襟足だけ伸ばし、甘く整った顔に収まる蒼穹の瞳を不快気に眇める高等科の制服を着た王子様……いや、皇子様らしき人がいた。上位貴族の子息らしき取り巻きを複数従えて、フランクだけど一応 皇子様なウォルセンに邪魔だとか言い放てる御方など数えるほどしかいないだろうし 間違いないだろう。
しかしながら、非常に不機嫌そうな お顔でいるため、折角の一部女性にウケそうな優男顔が台無しである。もったいない。
「いつまで呆けている、疾く失せよ」
「申し訳、ありません……」
彼の御方は、私たちにこの通路からの退場をご所望であらせられるようだ。私は その場から急いで離れるべく、黙り込んでしまったウォルセンの手を引いてそそくさと逃げ……。
「全く、下賤の者と馴れ合うなど 流石は半魔と言ったところか」
そんな呟きにウォルセンの足が止まった。
「お言葉が過ぎるようですよ、兄上」
「ふん。貴様に兄と呼ばれるのは業腹だな、半魔が」
「残念でしたね兄上、僕も他にお呼びのしようがなくて。気安く名前や愛称を呼ばれるよりはマシでしょう?」
急に食って掛かったウォルセンに 呆気に取られる私と、片眉を上げる兄殿下。一体 彼に何があったんだろう? 逃げたい。
「減らず口を。今日は珍しく饒舌だな。もうよい、さっさと失せよ。目障りだ」
小うるさい虫か動物でも払うように 軽く手を振る兄殿下を、ウォルセンは正面(斜め下)から見据えて言い放つ。
「いいえ」
「……なんだと?」
兄殿下の不機嫌指数が跳ね上がったようだ。さらに凶悪なご面相となってしまった。こ わ い よ ~。
「いいえ……と。彼女に謝罪してくださいませんか? 下賤と貶めたこと、聞き逃すわけには参りませんでしたので」
(って、私のせいか!! ……いやいや、ワタクシは下賤なるド庶民でございます。多少蔑まれようとも全然・全く・ちっとも構いませんので、どうか この不機嫌なる皇子様の御前より 疾く失せさせてくださいませ!)
そんな願いも虚しく、険悪な雰囲気で睨み合う 両殿下。どうしよう、ド庶民の手には終えない……いや、そこらのお貴族様でも無理か。とばっちりのティタリアは むしろ 今すぐ逃げて!
「異なことを言う。“それ”は紛うこと無き下賤ではないか。“どこぞの魔族”と違って、美貌や力で皇族に取り入ることも出来ぬ凡……なっ!」
(冷たっ!)
なす術もないので、せめてウォルセンを引っ張ってでも逃げるべく、身を屈し 分を守りて 天の時を待つ意気込みで様子を伺っていたら……兄殿下が驚いたように目を見張った直後。背後から突然 冷たい水? 違う、真っ赤な果実のジュースを掛けられた。
「アーシャ! 」
「あら? ごめんあそばせ、庶民さん。殿下方、お目汚しを致しまして申し訳ございません。すぐにこの見苦しいものを片づけさせますわ。さあ! 貴女たち、みっともない“これ”を見えない所に片づけてちょうだい」
驚く両殿下にも 観衆にも動じず、堂々と言い放ったのは 薔薇色のご令嬢。猫耳と尻尾を着け、色々な種族に扮した取り巻きたちを引き連れて、女王の如くこの場に君臨した。
(……誰だ、彼女に猫耳を着けさせた剛の者は?! 良い仕事した! 超似合う!! コスプレはあんまり……とか言ってごめんなさい!!!)
「ま、待って! アーシャをどうするつもり?!」
「あら、ウォルセン殿下も お裾が汚れてしまいましたわね、わたくしと一緒に参りましょうか。では、レヴィン殿下、御前 お暇致しますわ」
私が場違いにも密かにテンションを上げている間。そう言って典雅な礼をとり、有無を言わさぬ態度で私とウォルセンを その場から連れ出す ラシエル嬢に、珍しく取り乱すウォルセンも、ジュースの投下あたりから中途半端に片手を上げた格好のレヴィンというらしい兄殿下さえ、何も言えないようだった。
~*~*~*~
「さあ、こちらへ。まずはアーシャさんを着替えさせて差し上げて」
『はい』
取り巻きたちに両腕を掴まれ、連行された貴族用の寮の一室。そこで、私だけ奥の続き部屋へと促された。
「待って、アーシャ!」
「殿下はお待ちになって。淑女の着替えを覗くのは殿方の風上にも置けない行いでしてよ」
ウォルセンが追いかけて来ようとしたけれど、先ほどより少し柔らかな声音のラシエル嬢に 静止されて足を止めた。そして、彼女に振り返り……。
「じゃあ、カリス。どうしてこんな事をしたのか、聞かせてくれるかな?」
少しだけゾワッとする声で言った。
「ええ。丁度、わたくしからも ウォル様にお話がございますの。こちらでお茶でもいかがかしら?」
そして、ラシエル嬢も負けていなかった。優美な微笑みに“何か”を感じる。
そんなやり取りを後目に、ラシエル嬢の取り巻きによって 続き部屋の扉は閉じられたのだった。今は、高位の方々のやり取りに顔色を悪くしながらも、こんなところまで付いてきてくれた ティタリアだけが 私の救いである。
さあ、いちばん勇気のある人は誰でしょう?
いつもは黙ってやり過ごす兄殿下に歯向かう弟殿下?
高貴な方々に囲まれても意外と飄々としている主人公?
皇族の諍いに割って入る公爵令嬢?
そんな公爵令嬢に猫耳を付けた人?
お友達のためにどこまでも付き添う伯爵令嬢?
個人的には、伯爵令嬢ながら 公爵令嬢のお部屋までついてゆくティタリアの勇気に拍手を贈りたいです。
実のところ、控え目で大人しいティタリアの存在感をどうやって作中で出してゆくのかに苦心している作者。もうちょっと出しゃばってもいいのだよ?




