10.機械班(1)
10.機械班(1)
ミズはスピードが収納されたゲージに佇み、全機を眺めていた。
「どうだった?」
そこにレイスターが現れる。
「順調、順調。ほぼこれでオッケーってとこかな」
「……本当か?」
レイスターは怪訝な表情を隠さなかった。いや、隠せなかった。
「何?」
ミズは不思議そうにレイスターに尋ねる。
「いや……、これ、ちゃんと飛ぶのか?」
レイスターはまじまじとスピードを見て、今更ながらの言葉を言った。そしてその一機に近づいていく。
「あ、それジャスが乗ってるやつだよ。そういえばジャスの機は燃料をケチらずに入れろって機械班に伝えなきゃな」
ミズは言った。
「なんだ? 燃料だって大事な資源だろ? あいつだけ使いすぎなんてあいつを注意すればいいだけだろ」
「いや……、燃料切れで墜落されても困るし。あいつあんま計器読めてないし……。一応その機体に生えてるツタみたいな伝道から電磁気を取り込んでそれをパワーに変換して永遠に飛べるようにはしたんだけど、その伝道を切られたらそこで終わりだし。パワー不足ではあるし……。うん、やっぱジャス用に改良しないとダメだな……」
ミズは独り言のように最後の方は言っていた。顎に手をやりブツブツと何かを言っている。レイスターは怪訝な表情を崩さないまま首を傾げた。
「……その伝道? が気持ち悪い」
青銀色のボディから、枯れた緑色をした、まさに植物のツタが何本もにょろにょろと飛び出していた。
「レイスター……、これはとても貴重なものだよ。まさかネスにこんな植物があるなんて思いもよらなかったよ。科学に打ち勝つネスの力になる。ネスには力を持つ自然が溢れている!」
「……」
レイスターは沈黙した。
「電気を取りこむ植物。そしてそれを取りこむ鉱石。僕が最初思い描いていたものとはだいぶ違う外観をしたものに出来上がったけど、すごく満足してる」
レイスターは沈黙したままだった。はっきり言って趣味が悪いとしか思えなかった。
「レイスター……、乗らない、なんて言わないでよ」
それを見据えてミズが言う。
「……あ、当たり前だろ!」
「ま、いいよ。だいたいの操縦だけ覚えておいてもらえば。レイスターがこれに乗ってコウテンに降りる事態になることは避けたいところだし」
「あ、あぁ。でもこのバカでかい虫は、俺が攻略しとかないといけないんだよな?」
レイスターは視線を後方へ移した。
「バカでかい虫とはなんですか」
バカでかい虫からアスレイが顔を出した。
「アスレイ! いたんだ」
「ええ。ちょっと気になるところがあったんで」
「もー、アスレイがすることないのに。ハートは?」
「機械班は武器のチェックです」
アスレイはそう言うとまた虫の内部に姿を消した。
「ん……?」
アスレイは一旦引っ込んだが再び顔を出した。ミズと目が合う。
「?」
ミズは首を傾げた。
「いえ……」
アスレイはそれだけ言うと今度こそ潜り込んだ。
「なんだろ?」
ミズはもやっとした気分になった。
「ま、いいか。楽しみだなぁ……完成。すごい芸術だ」
「芸術……ねぇ」
やはりレイスターには納得がいかない。
「ん?」
レイスターはミズを見て声を出した。
「何? レイスターまで」
「……お前、背、伸びたな」
「えぇ?」
なんだ、そんなこと? ミズはがっかりしたようなほっとしたような声を出した。
「ジャスのマントとミズのマント、交換した方がいいんじゃないか?」
なんだかレイスターは嬉しそうだった。
「ジャスが怒るのが目に見える。あいつ、やっと裾引きずらなくなったって喜んでたし」
「……忙しすぎて気付けなかったけど、お前もそりゃ成長するよな」
「……そうですよ」
なんとなく照れ臭くミズは答えた。レイスターが父親のように優しく笑うから。
「あいつはまだガキだけど、お前は早く大人になりすぎてるんじゃないか?」
「そんなこと……」
「子どもにばっか頼るなさけない大人でごめんな」
「レイスター?」
ミズは珍しく弱音を吐くレイスターを見て不安になった。着々と近づいてくるその時が、そしてそれは必ずやってくるというその時が、レイスターの心を常に休ませてはくれない。ネスの命を担ぐには、レイスターとて苦悩する。だけど、レイスターしか出来ないことだと、ネスのみんなが思っている。レイスターに頼るしかない。
「レイスター、僕が持ってたっていう……うっ!?」
レイスターは急いでミズの口を塞いだ。
「お前にしては珍しいな」
こそ、とレイスターはミズの耳元で囁いた。
「あ、すみません」
そうだ、アスレイがいるんだった。
「俺がらしくないこと言ったからかな」
ふっと優しくレイスターが笑う。ミズもそれに同調して優しく笑った。
「なぁ……、ミズ……、こうやって……」
「総長様!!! やっと来てくれたんですねー!!!」
そこで、完全なる邪魔が入ってきた。「邪魔」以外の何物でもない。
「武器の整備じゃないんですか?」
ちょっと引きつった顔でミズが聞いた。
「この機械班のさいっきょうでさいっこうのテクニシャンダリアの見事な作品を見て下さい! もちろんあっちの方もテクニシャンですわよぉ」
……そういうの、レイスターには通じないから……、ミズはげんなりとした様子でダリアを見た。本当、機械班には変人が多い。
「さ、さ、どうぞついて来て下さい」
レイスターの手をダリアは優雅に見せかけ無理やりに取った。
アスリーンが怒るぞー、ミズは心の中でむなしくその言葉をレイスターに向かって呟いた。
「ネスの母艦。さいっこうでさいっきょうの極暗色の怪鳥のはらわたへとご案内いたしますわ」
やっぱりこれも気持ち悪い。レイスターは初めて自分のことを意外とデリケートなのかも、と思った。