9.空を飛ぶ
9.空を飛ぶ
ジャスティーは18歳になった。あの赤いマントをはおった日から3年の月日が流れたのだ。ジャスティーのマントはもう裾を引きずることはなかった。少なからず成長しているということだ。
そして、ジャスティーの能力も、ぐんぐんと伸びる。
「ははっ!」
ジャスティーは赤いヘルメットを被り、二つの操縦桿を握り、ネスの上空を優雅に飛び回っていた。先端の尖ったコンパクトな戦闘機。「♠」をもじって「スピード」という名をミズがつけた。なんて単純だ。と、みんなが思ったが、ジャスティーだけはなんの異論もなかった。「スピード」ね、その名の通りにスピードを最大限に活かしてやるからな、と意気込んだ。
その意気込みは意気込みだけでは終わらない。テスト機では何度も墜落し、画面を真っ赤に染めていたジャスティーだが、ルイの読み通り、実際の戦闘機に乗ったジャスティーは車の運転のごとく、気持ちよく飛行することができた。
それにはあのライラも驚いた。そして、バインズたちは悔しがった。当然、みんなは実際の戦闘機「スピード」の運転の方が難しく、恐れをも抱いていた。
「ジャス、調子乗りすぎじゃない?」
ジャスティーについてこれる人物は今のところ1人。
「ルイ! 何言ってんだよ、まだまだこの機はスピード出したいって言ってる」
「そうかなぁ……。一応出来上がったばっかりでこれから細かい改良を加えていきたいってミズも言ってたし、無理してると墜落しちゃうよ」
それはルイだった。ルイも乗りものの扱いは上手い。テストでも上手かった。
「機械の声は聞こえるから大丈夫だ。現に、ルイだって俺についてきてるじゃん。めちゃくちゃ楽しいくせにスカしてんなよな」
機内の通信機で話をする2人。本当に優雅なものだった。
「っんだよ……!」
バインズは震える手で操縦桿を握る。高度も低すぎる。
「おい、もっと操縦桿を引け。上がれ」
後ろの席からライラが言う。こうやって、教えてもらいながら上達していくのが普通なのに、ジャスティーとルイがもうすでに1人で本物のスピードで飛び回っていると知ってからは焦りしかなかった。
バインズはジャスティーたちを見下していた分、それはなんともいえない悔しさとなって、バインズの足をひっぱる。素直に従わない体。
「……おい、ちゃんとテスト機で墜落率0%までいったよな? 何を怖がっている」
「こっ、怖がってなんかいませんよ! テスト機とは大違いですよ!」
バインズは興奮して言った。
「あのテスト機はリアルだ。あの通りに操縦すりゃ何も起こらない。テスト機よりも墜落率は低いぞ。緊急用の脱出ボタンもあるしな」
ライラは淡々と言う。
「……」
バインズは押し黙ったまま、のろのろと高度を上げる。
「ま、脱出ポットなんて訓練で出してみろ。言ったと思うがそんな余裕ないんだからな」
プレッシャーかけやがって……。とバインズは思った。バインズは空を飛んだことなどなかった。それはネスの皆がほぼそうなのだが。
テスト機っていったって、地上に設置されたものじゃないか。実際に空を飛んでるものと一緒にするな。最初からできるほうがおかしいんだよ、バインズはそう思っていたが、現にできている人間がいるので口が裂けてもそんなことは言えない。♠の落第に繋がる。ライラは主に信頼関係の確立のため、隊は運命共同体だって言ったけど、足手まといだと判断したら俺だけすぐに抜けさせられるということはわかっていた。
「大口叩いた奴が呆れる。行くぞ」
ライラはそう言った。
「え?」
バインズは呆気にとられる。
「うわっ!」
バインズの操縦桿が勝手に動く。高度が急激に上がり、それと同様にスピードも上がった。ライラが思い切り操縦桿を傾け前へと突き出した。
「うわわ! ちょ……」
「おい、操縦桿を放すな。教えてやってんだよ。このくらいのスピードが出ないと奇襲なんて無理だ。いいか? この感覚だ」
「……ッ……」
バインズは生きている心地がしなかった。
「見ろよ。テスト機と同じだろ」
ライラは何もないようにそう言った。
「ね、ちょっと僕やっていい?」
違う戦闘機にはミズが後ろに乗って教えていた。
「え? もちろん。そうしてよ。私の神経へとへと……」
ハルカナはそう言って操縦桿を握りしめていた手の力を抜いた。
「ハルカナ、なかなか上手いよ。すぐに慣れると思う。器用だもんね」
「ほんと? ミズから褒められるならうれしいな」
ハルカナは本当に嬉しそうに笑った。
「でもさ、あいつらがいるから全然実感ないんですけど……」
ハルカナのレーダーからも消えた2つの戦闘機。
「レーダーから消えられるのは困る。きっとレーダーなんて見てないぞあいつら。常に味方の位置に気をつけろって言ったのに。レーダーを見る癖をつけないと敵にやられるし」
ミズはグンッと勢いをつけてスピードのスピードを上げた。ハルカナはミズの操縦だと思うとちっとも怖くなかった。いわばこの戦闘機はミズの子どもみたいなものだと思っていた。そしてこの親は子どものことを隅々までよく知ってる。本当に自分がつくったんだから。内部から、外部まで。だから、どんなにスピードが出ても、機をひねらせても、安心だったし、爽快感を感じることもできた。ハルカナはそれで少しやる気がでた。こんな風にまでこの機体は飛べるのね。
『おい、そこのお調子もん』
「コンタクト」と書かれたスイッチをオンにしてミズは言った。
『あ、ミズだー!』
そこから呑気な声が聞こえてくる。
『どこ?どこ?』
ジャスティーは興奮している、と丸わかりの声でミズに聞いた。
『ちゃんとレーダー見ろ。僕の位置がわかるだろ? ゆっくりこっちに来い。目視できるところまでな』
少しムスッとした声でミズは言った。ハルカナはそれに微笑む。ミズの素を見れた感じがするからだ。
『えー……と、ああ、いるけど……。どっちの方向かなぁ……』
なんとも頼りのない声。頭だけはどうにもならない。ミズは内心でやっぱり距離があく前に来てよかった、と思った。
『ジャス! 僕についてきて! ほら、やっぱり怒られたじゃないか』
ルイの声がした。ルイがジャスの機体に近づき先導してくれるようだ。
『あ、ああ! 頼む!』
結局こうなるか、とミズは思った。もちろん隣でハルカナも同じことを思っている。
「大変ねーぇ、出来すぎの僕ちゃんのお守も」
ハルカナはミズの顔を覗き込んでそう言った。
「え? んー……、ほんとだよ。無駄に能力だけは高くなっちゃって」
「ジャスってほんとに野生児だよね、あんなに下手くそだったのに、なんであんな風に乗れちゃうわけ? そりゃ、ミズは超天才だからわかるけどさぁ」
「いや、僕は天才じゃないよ。ただ勉強するのが好きなだけだから」
似ても似つかぬ兄弟だ、とハルカナは思った。
「あ、来た来た」
少し安堵を含んだ声でミズは言った。
「でも1人で乗ってるんだからそれだけですごいな……」
ハルカナはポツリと言った。
「僕は怖いけどね……、その能力が」
ミズもまた、呟くようにそう言った。




