2-(4)
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ジャスティーがライラの隊にいることについて、レイスターは少し気がかりだった。ミズはそんなレイスターの様子を見て悲しげに微笑む。
「……ジャスは、大丈夫ですよ」
ミズの言葉にレイスターはハッとする。みなが自分の号令によって隊にわかれ、それぞれが隊長から指示を受けている間(ジャスが戸惑いつつも自己紹介をしている間)、レイスターは静かに物陰からジャスを無意識に見ていた。
「あ……、すまない」
「? なんで謝るんです?」
「……虫が良すぎる話だったんだ。若者たちを戦いに狩りだす準備をしながら、ジャスを守りたいなんて。お前には、色々なことを頼んでるっていうのに……」
レイスターはいつになく弱気だった。本音が出ている。赤いマントを着たジャスティーがいる。共に夜を歩くことは、ミズにとっては嬉しいことだったが、レイスターにとってはそうではなかったらしい。
「……僕のことはいいんですよ。それに、心配しなくてもいいです。あいつは、とても強い」
「……知ってる」
レイスターが呟いた。
「え?」
ミズは聞き直す。
「……」
ミズはもっとレイスターを追及して話をしたかったが、レイスターの顔を見るとそれはできなかった。レイスターは黙り込んだまましばらくジャスティーを見た後、ミズに向かって笑いかけた。
「本能が言うんだ。ジャスティーを、カードにするなって」
「え?」
ミズはいつになく話をするレイスターを心配した。厳しい口調でもない、優しい微笑みに不安を覚えた。
「それは、無理な話だったんだけどな」
そう言い残すと、レイスターの顔はジャスの親から『総長』へと変わった。
「機械班! ハート! 扉の開閉とリフトの準備はできてるか! 泊りこめよ。遅れてる」
「……本能が言う……。それは、なんとなくわかるんだ」
ミズもレイスターが去った後一人呟いた。ジャスティー、お前は、何かが『違う』。
「あいつは気にくわねぇよ」
バインズが白い階段を上りながら言った。ブーツの音が乱暴に響く。それは苛立ちをわかりやすく表していた。「ちっ、早くリフトつくれよ機械班め」
「落ち着けよバインズ。能力で言えばお前がナンバー1なのはわかってるだろ。ライラ隊長だって知ってるよ。訓練が始まればあいつはすぐに落第だ。威勢だけの奴ってのは弱いに決まってる」
怒りを顕著に表すバインズとは対照的にランドバーグは爽快に笑っていた。余裕が感じられる。その横にはダルそうに歩くマナシーがいた。
「俺たちは、泥水すすって生きてきたんだぞ……」
バインズは噛み砕くように言った。
「ここの星の奴らはそんなもんだよ」
それを同じようにランドバーグがなだめる。
「……あいつは、気にくわねぇ……」
ランドバーグの言葉もバインズには届かない。
「マナシーも嫌い?」
ランドバーグは黙って歩くマナシーに話を振った。
「嫌い」
すぐに答えは返ってきた。その言葉は言葉としての役割をなしていない。
「うそ、好きでしょ? マナシーはさ、ああいうバカっぽいやつ」
「そーだな」
またすぐに答えは返ってくる。
「ちっ、ふざけんなよ。ランドバーグもマナシーも。嫌いなんだよ、俺は本当にな。あいつの真っ白な目を見たか? 総長のコネなんてのはくそダセぇんだよ。マナシー、お前もちったぁ考えろ。バカと死ぬなんてのはごめんだろ」
「うん」
「……ま、いいけどよ」
マナシーの返事にバインズは気が失せた。それをみてランドバーグが笑う。
「バインズ、なんの心配もいらないよ。温室育ちにはさ、ついていけるわけないんだ。あいつ……、絶対人殺しなんて出来ないって」
「……そうだな」
「ジャス!」
その声にジャスティーは素早く振り返った。
「ミズっ!」
しかしそれにいち早く反応し、輝く声を発したのはジャスではなくハルカナだった。
「ハル、ルカ、第一部隊おめでとう」
それにミズが快く言葉を返す。
「うんっ! ミズの口添えなしだよねっ?」
「もちろんだよ、ジャスじゃああるまいし」
「なっ!」
バカにされたと感じてジャスティーは声を上げた。
「嘘だよ」
ミズが優しく笑ったのでジャスティーは反射的に黙りこんだ。
「ミズ、ちゃんと説明してもらうぞ」
「もちろん。ちゃんと説明するから、今日のところは先に帰っててくれ」
「え?」
「かえろっ。ミズは忙しいんだから」
ハルカナがジャスの腕を引っ張った。
「でもさ……」
夜は危険だって……。
「ネスって、すごく素敵な場所よ。夜がとっても綺麗なの。ジャスとルイとやっと一緒に歩けるわ」
ハルカナが微笑む。
「コウテンを沈めてやる……」
そのハルカナの笑顔を見るとジャスが呟くように言った。
「ジャス?」
ルイが心配するようにジャスの顔を覗き込む。その目は、純粋な子どもの目ではなかった。ミズもその目を優しく見つめ返すことはできなかった。ミズの表情も知らず知らず強張っていた。
「……そうだな」
そして言葉を選ぶようにそれだけをミズは言った。
「そしたらハルカナ、ネスはずっと夜だ」
ジャスティーは清々しくそう言ったが、それは皮肉のようにも聞こえた。