3.ハルカナの想い
3.ハルカナの想い
ジャスティーが初めて夜を歩いた日から、ジャスティーの生活は一変した。ネスは全てをさらけだして戦闘態勢を整えるようになった。ジャスティーら若い少年少女は日々訓練に明け暮れることとなった。
「はぁ……、はぁ……」
ハルカナは息を切らして立ち止まった。よだれが口から滴り落ちるのを無造作に拭う。
「……はぁ、はぁ……」
ハルカナの横にもまた息を切らせ、大きく座り込んだフラニーがいた。
「……」
ハルカナは息を乱しながらフラニーを見た。
「フラニー……、立って」
フラニーは座り込んだままだった。
「フラニー……、このままじゃどんどん離れていっちゃうわ。あまり遅れると落第しちゃうわよ」
「……」
フラニーは何も言わなかった。
「……ちょっと!」
基礎体力訓練。『石地の砂漠』といわれる石と砂の入り混じった荒野を走り抜け、足腰、そして忍耐力をつける訓練中だった。前日の雨で足場は悪く、そして昼間の照りつける太陽により、いつもより足が進まなかった。
「フラニー! 頑張るのよ!」
ハルカナははっきり言ってフラニーのことが好きではなかったが、自分たちがいちばん遅れていることはわかっていた。まだ数カ月しか経っていないが仲間意識はおのずと生まれ、ここでフラニーを見捨てることなどはできなかった。下手すりゃ死んじゃうじゃないのよ……。
ハルカナはフラニーの腕を引っ張った。フラニーの体はぐらっと揺れた。「え?」
ドサリ……
フラニーは濡れた砂漠の赤土に顔を突っ伏した。
「フラニー!!」
ハルカナは腰に付けたベルトから水筒を取り出し、フラニーの口元へと運ぶ。どうしよう……。連絡……、連絡……。
救援弾を打たなきゃ……。
そこでハルカナは躊躇した。ここで、こんなところで打ったら……、私はライラ隊から追い出され、スペードになれないんじゃないか、その思いが邪魔をする。でも……。
フラニーの顔色が青さを含み出した。ハルカナはハッとする。なんて人間なんだ、私は!
そして救援弾を握りしめた。
「おーいっ!!」
涙目のハルカナに場違いでとぼけた声が聞こえた。ハルカナは顔を上げる。
「ジャス……ティー?」
目を細めながら声のする方を見ると、誰かが前から走ってくるのが見えた。
「大丈夫か―?」
それはその通りジャスティーだった。その姿を見るとハルカナはホッとして体の力が抜けた。救援弾を地面に落とす。
「ハルカナ?」
「ジャス……どうして……」
「お前の姿がないんだもん。いつもは遠くてもお前の気配があったのに、こりゃなんかあったなと思って引き返してきたんだ」
ジャスティーは一つも息を乱していなかった。ハルカナはなぜか自分を恥ずかしく思った。
「あっ!フラニーじゃねぇか!」
ジャスティーが声を上げる。
「そうなの!」
ハルカナは思い出したように言った。「フラニーが倒れちゃって! 救援弾を……」
「よせ! みんなもう終点まで行きそうなんだ。俺たちが遅れるなんてのはなしだぜ」
「でもフラニーが……!」
ジャスティーはフラニーを素早く背中におぶった。
「ジャス……!?」
「楽勝だぜ? こんくらい。お前は大丈夫か?」
「……」
「おい?」
「大丈夫よ! フラニーに合わせてただけだもん!」
ハルカナは立ち上がるとジャスティーよりも早く走り出した。
「おい、待てよ」
ジャスティーはそんなハルカナを追いかけた。すぐに追いつくが。
「呼吸を意識したほうがいい」
「はっ……はっ……」
ハルカナに返事をする余裕はなかった。必死に走るハルカナを見守るように半歩後ろに下がってジャスティーは走った。
「こいつ、俺におぶられたなんて知ったらどんな反応するんだろ……」
ジャスティーは笑って言った。
「置いてきちゃえばよかったのに……」
ハルカナは言った。
「言うねぇ、ハルカナ」
「……うるさいっ!!」
ハルカナは止まってジャスティーに拳を振り上げた。それにはジャスティーもぎょっとする。
「おいっ! 止まったらきつくなるぞ!」
「私はッ……平気なんだからっ……」
明らかなる嘘をついて再びハルカナは走り出した。
「いつ倒れてもいいから、思い切り走れ」
何言ってんのよ……、それじゃあ……
「2人ぐらい余裕で担げる」
ハルカナはその言葉を聞くと、なぜか心の中に存在していたもやもやがどこかへ消えた。フラニーに嫉妬していた自分に気付く。そして、その続きはもう考えたくなかった。何故嫉妬をしたのか、詳しく自分に語りかけることはしなかった。
「おっ!」
ジャスティーは声を上げた。ハルカナのスピードが上がる。
「やっぱり、ハルカナって強いな」
ジャスティーはハルカナの後ろ姿に気持ちのいいひたむきさを感じた。いつも、喝を入れられてきた気がする。だけど、やっぱり女の子なんだな……。
「もう少しだぜ!」
ジャスティーはハルカナの前に出た。
「……うるっ……さ」
この体力バカ……、ハルカナは思った。やっぱり、男の子なんだな……、いつも、私がえらそうに説教してた気がするけど。
「ジャスっ! ハルカナっ!」
砂漠の終わり、森の影にある終着地点でルイが2人を呼んだ。
「ルイっ!」
ジャスティーは手をあげそれに応える。ハルカナにそんな余裕はもうなかった。意識とは関係なくただ勝手に体が前へ前へと動いているだけだった。
「フラニー?」
ルイはジャスティーの背中に何かくっついているのを発見した。ついでにジャスティーが途中から逆走していく様を呆け面で見ていたのでより驚いた。
そのために?
「フラニーがさぁ……」
「ぎゃーっっ!!!!」
「うっわ!!」
そこでフラニーが大げさに目覚めた。
「最悪最悪最……」
そして言葉はこときれる。
「……隊長っ! ライラ隊長っ! フラニーがっ!」
再び気を失ったフラニーを見てルイが駆け出した。
「まったく……」
ジャスティーは頭をかいた。そして視線を別の方向へと向けた。
「はぁ……はぁ……」
「ハルカナ」
ハルカナは木にもたれかかり、下を向いていた。
「なんかさぁ、やっぱり俺、お前のこと好きだな」
……。
「お前って、かっこいい」
……。
「末はお前なのか?」
「わっ!」
ジャスティーは後ろにいるライラの気配に気付けていなかった。
「ビビった……。は、はい」
「プラスで走れ」
「隊長、私です……」
ハルカナは息を整えてそう言った。
「ジャスティーは、二往復したから……」
「いや……」
ジャスティーが言葉を挟もうとしたが、ライラのほうが早かった。
「どんな理由であれ、最後の奴が走れ」
「もち……」
「私が最後でしょ! 邪魔しないで! フラニーよりも私のほうがここへくるのが遅かったでしょ!」
ハルカナはジャスティーを怒鳴った。ジャスティーは少し反省した。
「わかった」
そしてそう言った。
「ジャス……、ありがと」
ハルカナはそう言うとジャスティーの前を横切った。
負けたくない。
ついていきたい。あんたの背中を追うだけの力ぐらい欲しいの。追い越すことは無理だとしても。




