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「――と言うワケなんだけど、これって何?」
次の日、昨日の出来事を話した。
嬉しいと思ったのは、何なのか。結局、自分で答えを見つけることができなかった。
彼の言葉が嬉しかったのか。
彼の言葉が優しかったからか。
一体、何なのだろう。
「鈍いよ」
「何で?」
「キミを知りたい。それってつまり、告白よ」
「…………は?」
誰が、誰に?
と言うより、何で?
彼が告白する理由なんて、見当たらないし、あり得ない。
多分、気にさせてしまう言葉に対しての、気遣いだから。告白と言う表現は、違うと思う。
「あの人の晴夏を見る目は……悔しいけど、優しいんだ」
「……ゴメン、どの辺が?」
「見た、そのまんま」
悲しげな表情の、その目のどこが優しいのか。
関係のない傍から見れば、その類に分類される?
人の捉え方はいろいろあるけど、それだけは絶対に同じだと思っていた。
きっと、感覚の差。
なら彼の悲しそうな笑みは、どうなるのだろう。
「でも、やっぱり――あの人は、晴夏を連れて行くんだ」
「だから、悪いことは言わない。断ってよ」
「え? な、何で?」
と言うか、『何で』と返したのは何でだろう。自分で咄嗟に出した言葉だからじゃ、通じない。
「何でって、晴夏は彼のこと、好きなの?」
「は? 好きって言われても、そんなこと知らないし……」
彼は、いい人だと思う。兄さんが信頼しているほどだ。
それに……それに多分、彼には好きな人が居る。
勘、だけど。
「知らないなら、言っておくよ」
と続けられる忠告を、聞かなければよかった。
時には聞かず、耳を塞ぐことも必要だったりする。
「彼の存在は、晴夏を不幸にしかしないんだ」
まずは、叫びたいと思った。
彼を好きだとか嫌いだとか。そんなこと知るものかーっと、思いっきり叫びたい。
だって、そんな対象で見られないから。
多分これは、違う。もっと別の感情だと思った。
だから、叫びたいのだ。
でも、流石に公共の場では無理だし、先生に呼ばれたくないし。
仕方なしに家まで、堪えて、ガマンして。
仕事明けの兄さんにぶつけてみた。
長いようで短い、ことの発端から。
自分の感情が分からないのに、誰かに聞いても分からないだろう。
それでも叫べなかった分、言葉にして言いたかった。誰かに聞いて欲しかった。
話し終えると、複雑な表情をされると思っていたのに。
兄さんは、どこか微笑ましそうに見ていた。それは、『若いっていいですね』と言いそうな表情。
「……何で、笑っているの?」
「いえ、晴夏がそんな相談をしてくれることが嬉しくてつい、ですね」
「どーせ、色恋沙汰とは無縁だよ」
「そんなことはありませんよ」
と、否定されても嬉しくない。
――あれ?
ふと、思い出す。
そういえば、今まで兄さんに相談したことって勉強だけだった。
人のことなんて、何もない。自分は自分で。他人は他人だから。
こんなに誰かを気にしたのって初めて……だ。
霊が居ても居なくても、関係ないと思うほどだったのに。
「ただ、少し……いえ、何でもありません」
「いや、気になるって」
「本当に何でもありませんよ。ただ……その、春は遠いなと思っただけです」
「何でもなくないよ、それ!」
兄さんは今、彼女が居て春だろうけど。種類が違うと思った。
春は、笑えたその時。今、誰も笑っていない気がした。
だから、春はまだ遠い。