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 学校に行けば変わらず、友だちが声をかけてくれる。

 何事もなかったかのように、それが当たり前のように。わたしが死んでいると、自覚しながら。

 知らなかった前は安心した。

 知った今は……不安になる。


「先生、おはよう御座います」


「………………」


 いつか、こんな日が来ると分かっていたけど。実際に起こってみると、悲しいもの。

 一人一人から徐々に消えるのと、一度に全員と。どちらが、苦痛だろう。

 目の前の先生は、無反応。すれ違う人はわたしを見ているようで、通してその向こうを見ている。

 交わす言葉の数は……確実に減っていた。

 クラスで、認識していないのは片手の数だけ。

 認識できて、話しかけてくる友だちに、『誰と話しているの?』と小声で聞いていた。

 話し相手の名前を告げる。

 案の定、『誰?』という顔をされた。


「ねぇ、喧嘩でもしているの?」


「別に、そんなつもりはないよ。何かした記憶もないし」


「それにしたって……なんて言うか、まるで晴夏が見えないような感じだった。それってガン無視じゃない」


「……いいよ。ある意味、当たっているから」


 教室の片隅で、白い花が揺れている。あれは間違いなく、この机に飾られるはずの花。

 置いてあれば、認識していない数はもっと居ただろう。

 誰かが『そうさせない』ために、意図的に寄せたのか。


 何の、ために?


「――ほらお前ら、席に着け」


 教室に入って来た担任。さっき、わたしを認識しなかった先生だ。

 一人一人名前を呼び、出欠を確認していく。

 途中、順番を飛ばされたのもワザとじゃない。

 誰かが声を上げた。


「先生、飛ばしてまーす」


「は? 笹森の次は須藤で間違いないだろう。俺が自分のクラスで間違えるか?」


「間違ってますよ。笹森さんの次は『し』で、神城さんです」


「……三嶋、お前何を」


 飛ばすなんて信じられないという顔と、お前は正気かという顔。

 どれも間違ってはいない。

 どれも本当のことだ。




「神城晴夏は、一ヶ月以上も前に亡くなっただろうが」




 瞬間、世界が透けて見えた。




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