25
学校に行けば変わらず、友だちが声をかけてくれる。
何事もなかったかのように、それが当たり前のように。わたしが死んでいると、自覚しながら。
知らなかった前は安心した。
知った今は……不安になる。
「先生、おはよう御座います」
「………………」
いつか、こんな日が来ると分かっていたけど。実際に起こってみると、悲しいもの。
一人一人から徐々に消えるのと、一度に全員と。どちらが、苦痛だろう。
目の前の先生は、無反応。すれ違う人はわたしを見ているようで、通してその向こうを見ている。
交わす言葉の数は……確実に減っていた。
クラスで、認識していないのは片手の数だけ。
認識できて、話しかけてくる友だちに、『誰と話しているの?』と小声で聞いていた。
話し相手の名前を告げる。
案の定、『誰?』という顔をされた。
「ねぇ、喧嘩でもしているの?」
「別に、そんなつもりはないよ。何かした記憶もないし」
「それにしたって……なんて言うか、まるで晴夏が見えないような感じだった。それってガン無視じゃない」
「……いいよ。ある意味、当たっているから」
教室の片隅で、白い花が揺れている。あれは間違いなく、この机に飾られるはずの花。
置いてあれば、認識していない数はもっと居ただろう。
誰かが『そうさせない』ために、意図的に寄せたのか。
何の、ために?
「――ほらお前ら、席に着け」
教室に入って来た担任。さっき、わたしを認識しなかった先生だ。
一人一人名前を呼び、出欠を確認していく。
途中、順番を飛ばされたのもワザとじゃない。
誰かが声を上げた。
「先生、飛ばしてまーす」
「は? 笹森の次は須藤で間違いないだろう。俺が自分のクラスで間違えるか?」
「間違ってますよ。笹森さんの次は『し』で、神城さんです」
「……三嶋、お前何を」
飛ばすなんて信じられないという顔と、お前は正気かという顔。
どれも間違ってはいない。
どれも本当のことだ。
「神城晴夏は、一ヶ月以上も前に亡くなっただろうが」
瞬間、世界が透けて見えた。




