24
次を迎えた朝。
「……あれ?」
目が覚めて、思い出せないことがあるのに気づく。
最初の記憶。
彼と……どうやって出会った?
想いは心にあるのに、その想いがどうやってでき上がったのか。最初の出会いが思い出せなかった。
「事故のことも、全然思い出せないままなのに……」
生きていた時のことは覚えている。
友だちと、最後に交わした言葉も全部。
「あれ? そう言えば……記憶って、どこに行くんだろ?」
普通なら、脳が覚えたり忘れたりする。
幽霊になってからの思い出は、幽霊のどこに残るのと言うのだろう。
現実は、もうないのに。
こうやって、忘れてしまうのだろうか。昨日に作ったことも、今日のことも。明日になれば?
「――仕方ないって、割り切れないよね……」
震える身体を抑えようとしても、どんどん湧き上がる感覚。
死ぬのが、怖い――
実際はもう死んでいるのだけれど、こうなってから気づくのも悲しかった。
概念は理解していたはずだったのに。
唇を噛み締める。
大丈夫だ。
大丈夫、だから。
そう言い聞かせて、無理矢理に震えを止めた。
いつもの自分で居ること。それが精一杯。だって、この世界に存在していることが最大の贅沢だから。
……と、ノックの音で気を取り直す。
返事を返すと、彼だった。
「具合は、どうだ?」
そう聞いてくるということは、わたしが何らかの体調変化を起こしている確信があるのだろう。
大丈夫だよと返し、ふと、気になったことを聞いてみた。
記憶、その行方。
彼は……正直に話してくれた。苦痛に歪んだその表情で。
「記憶は、どこにも刻まれない。いつしか、泡のように消えてしまう。
この町の霊は、過去に囚われている。ここに存在してからずっと、過去を振り返り続ける」
動くことなく、ずっとずっと繰り返して。
ただし、異例もある。
ボーカルの彼や、無自覚だった彼女――須山さんのように。
過去に未練がなければ、囚われることはない……らしい。要は、前を向くか向かないかだけど、とても難しい話だった。
わたしが記憶しているのは、実は覚えている状態ではなく、わたしという魂に留まっている状態に過ぎないそうだ。だからどこにも刻まれず、時間が経てば消えてしまう。
今、どのくらい記憶があるか分からない。未練を持ってしまえば同じ行動を繰り返すだけ。
消えてしまわないうちに、新しい記憶を作れば……過去に思った想いを、今日思い出し想えば、新しい記憶になるはず。
一つ心配なことがある。
「ねぇ……消えたらアナタからも、記憶が消えてしまうのかな?」
わたしが存在した代償として。
それは嫌だった。
「それは、ない」
「わっ、言い切った。何で?」
「キミの思い出は、オレの中で紡ぎ、築かれている。オレの……心の一番近くで」
だったら、嬉しいな。




