23
気がついたら、夕方。
外は祭りの音で賑わっていた。
オレンジ色の灯りが、何故か悲しくなって……もうすぐ夜になり、今日が終わる。
昨日が消えて、明日がなくても。たとえ今日だけになっても。
覚えて、居たかった。
「…………自覚って、こんなに悲しいんだね」
呟き、振り返る。
彼は片膝を立て、黙って座っていた。
「本当はわたし……存在しないのに」
左手を見る。
確かに存在しているのに、今はそれが悲しく感じられた。
偽り。
思い出したのは、父さんと母さんの最後と。そこに兄さんと自分が、居たこと。
同じ場所で、同じ出来事……事故に遭い――気がついたら、わたしはいつもの日常を過ごしていた。
当たり前に寝起きして、学校行って、食べられないはずの食事をして。一日を繰り返す。
「……ヤダな、これ」
怖かった。
怖すぎて。
これから、どこへ行くのだろう。そして……彼の心に、強く残れているだろう。
震える手に、触れてくる彼の指先。
温かさを感じて、涙が出た。
どこまでも、優しい。素直に、泣きじゃくってしまいたかった。
でも、それが出来ない性格だから。
「………………もう、いいよ。そろそろ、夕飯の準備……しよ? 兄さんも、お腹空かせて待っていると思うし」
薄っすらと浮かんでしまった涙を拭って、立ち上がる。ここに居るのはもう、いつもの自分だ。
怖いのは変わらないけど。
現実は、仕方ないけど。立ち上がるしか、選択肢は残っていない。
明日、どうすればいいのだろう――という迷いを抱えたまま。
「みんながキミを好きだから。愛しているから、キミは笑って、みんなに『視』える。
みんながキミの存在を望んだから、変わらない日常を、変わらないまま与えている。だがそれは、呪縛になってしまう」
「だから……呼ばれた?」
頷かれた。
彼が言うことが本当なら、みんなにとって彼は、敵。町の反応に、今度こそ納得してしまった。
「分かっている……分かってはいるんだ。だけど晴秋さんも、オレも、同じなんだ」
肩を掴まれ、思いっきり引き寄せられる。
透けていない。
しっかりと、感触がする。
温もりを感じる中、背中に回された腕が確かに震えていた。
「――オレは、ここに居て欲しいと思う」
「だって、アナタは」
ワタシヲ成仏サセルタメニ……――
自分で言ってから、『ああ、わたしってやっぱり死んでいるんだ』と、改めて自覚してしまった。
望みに応えたい。
けど、それは絶対のタブー。
嬉しいけど、それは決して幸せにはならない。どう転がっても、不幸の道になってしまう。すぐにでも、落ちる。
……それでも、いいの?
もしもこの先、わたしが存在し続けられる保証があるのなら、兄さんも彼も、わたしを取り残して行ってしまう。霊になって会える保障なんてない。
永遠という時間。
みんなが時を進む姿を見続けなければならない。そんな悲しさはきっと、耐えられない。
本当に、怖すぎる。
夕暮れの町。
オレンジ色の灯りは、霊の魂なんだと思った。
「この町は……キミの死を自覚している。多分、日常が壊れないように防衛、しているのだろうな」
違う。防衛ではなく、逃避だ。
みんなは、一生逃げ続ける。何もならない。生み出すのは、悲しさと虚しさと知りながら。
人の心は脆い。脆いから、どうすれば壊れないかを探して、自分を守るのだと彼は言う。
分かろうとはしたけど、心が追いつかない。
この目に映っている景色を、あとどのくらい……。
あと何回、彼と見られるのだろうか?




