表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/32

23




 気がついたら、夕方。

 外は祭りの音で賑わっていた。

 オレンジ色の灯りが、何故か悲しくなって……もうすぐ夜になり、今日が終わる。

 昨日が消えて、明日がなくても。たとえ今日だけになっても。

 覚えて、居たかった。


「…………自覚って、こんなに悲しいんだね」


 呟き、振り返る。

 彼は片膝を立て、黙って座っていた。


「本当はわたし……存在しないのに」


 左手を見る。

 確かに存在しているのに、今はそれが悲しく感じられた。

 偽り。

 思い出したのは、父さんと母さんの最後と。そこに兄さんと自分が、居たこと。

 同じ場所で、同じ出来事……事故に遭い――気がついたら、わたしはいつもの日常を過ごしていた。

 当たり前に寝起きして、学校行って、食べられないはずの食事をして。一日を繰り返す。


「……ヤダな、これ」


 怖かった。

 怖すぎて。

 これから、どこへ行くのだろう。そして……彼の心に、強く残れているだろう。

 震える手に、触れてくる彼の指先。

 温かさを感じて、涙が出た。

 どこまでも、優しい。素直に、泣きじゃくってしまいたかった。

 でも、それが出来ない性格だから。


「………………もう、いいよ。そろそろ、夕飯の準備……しよ? 兄さんも、お腹空かせて待っていると思うし」


 薄っすらと浮かんでしまった涙を拭って、立ち上がる。ここに居るのはもう、いつもの自分だ。

 怖いのは変わらないけど。

 現実は、仕方ないけど。立ち上がるしか、選択肢は残っていない。

 明日、どうすればいいのだろう――という迷いを抱えたまま。


「みんながキミを好きだから。愛しているから、キミは笑って、みんなに『視』える。

 みんながキミの存在を望んだから、変わらない日常を、変わらないまま与えている。だがそれは、呪縛になってしまう」


「だから……呼ばれた?」


 頷かれた。

 彼が言うことが本当なら、みんなにとって彼は、敵。町の反応に、今度こそ納得してしまった。


「分かっている……分かってはいるんだ。だけど晴秋さんも、オレも、同じなんだ」

 肩を掴まれ、思いっきり引き寄せられる。

 透けていない。

 しっかりと、感触がする。

 温もりを感じる中、背中に回された腕が確かに震えていた。


「――オレは、ここに居て欲しいと思う」


「だって、アナタは」


 ワタシヲ成仏サセルタメニ……――


 自分で言ってから、『ああ、わたしってやっぱり死んでいるんだ』と、改めて自覚してしまった。

 望みに応えたい。

 けど、それは絶対のタブー。

 嬉しいけど、それは決して幸せにはならない。どう転がっても、不幸の道になってしまう。すぐにでも、落ちる。


 ……それでも、いいの?


 もしもこの先、わたしが存在し続けられる保証があるのなら、兄さんも彼も、わたしを取り残して行ってしまう。霊になって会える保障なんてない。

 永遠という時間。

 みんなが時を進む姿を見続けなければならない。そんな悲しさはきっと、耐えられない。

 本当に、怖すぎる。

 夕暮れの町。

 オレンジ色の灯りは、霊の魂なんだと思った。


「この町は……キミの死を自覚している。多分、日常が壊れないように防衛、しているのだろうな」


 違う。防衛ではなく、逃避だ。

 みんなは、一生逃げ続ける。何もならない。生み出すのは、悲しさと虚しさと知りながら。

 人の心は脆い。脆いから、どうすれば壊れないかを探して、自分を守るのだと彼は言う。

 分かろうとはしたけど、心が追いつかない。

 この目に映っている景色を、あとどのくらい……。


 あと何回、彼と見られるのだろうか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ