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それから二日後――今日の話だ。
後輩が待っていたかのように聞いてきたので、偽りなく答える。
いつか、彼が言っていた。
『ウソを言っても、誰も救われない』
言えば、心に罪悪感を抱くことになるから。聞いたまま、ありのままを伝えた。
「うーん……チャンスは薄いですね。でも諦めるには嫌ですし。どう思います?」
「……言われても、困るし」
「やっぱり、自分の耳で聞かなきゃ納得できませんよね!」
「話、聞いてよ」
「うん! 告白します!」
「…………何でその結論になるの?」
猪突猛進。我が道突き進む。
この生き物は、勢いが凄まじい。
好きな人がいるかいないか。それを聞いたとしても、結論は変わっていなかったと思う。
ただの、勢いのため。キッカケのためだった。
作ったのは、愚かな自分。
「先輩、ありがとう御座います」
「……別に」
返すのが、やっと。
意識しないで言うと、きっと恐ろしいことを口走ってしまう。
望まない言葉。
言いたい本音。
ごちゃ混ぜだ。
「あ、そうだ。もうすぐ祭りですよね。その時に、会えますか?」
「……さあ? 彼が行きたいと言えば、会えるんじゃない?」
「良かった。私って、なかなか会えない分、チャンスは祭りしかありませんし」
だから、何だと言うのだろう。
そう思うと、『ああ、嫌な奴だな』と自己嫌悪する。
もしかして……嫉妬、なのだろうか。
「じゃあ、先輩。祭りで会いましょう」
出来るなら、会いたくなかった。
放課後に起こった出来事を、偽りなく話し終えた所だ。
「……珍しい住民だな」
と言うのは、後輩への感想だ。確かに、珍しいとは思うけど、告白することには何も思わないのか。
友だちも、商店街の人も、彼には冷たいし、敵意すら感じる。好意を持つ人を探す方が難しいくらいなのに。
そう考えれば、わたしの家も珍しいのかな。
「で、その祭りと言うのは?」
「えっと、ショウレイ祭って……この町の神社に居る神様の祭り」
「もう何年もやっているのか?」
「んー……そうだけど。あ、名前がついたのって十年くらい前、かな?」
そう言えば…小さい頃は『神社のお祭』と言っていた気がする。ショウレイ祭なんて名前は、つい最近つけられたような。
曖昧なのは、気にしていないから。毎年欠かさず、当たり前のように行われているからだ。
それが何の名前かなんて、気にはならなかった。
「どんな祭りなんだ?」
「どんなって……出店があるだけ。あとは……神主さんが霊の成仏を願ってお経? 祝詞? を読むんで。幼稚園とか学校のみんなも、成仏を願って別れの歌を歌うくらい」
「別れの歌?」
「えーっと……町民唄って言うのかな? こっちは二十年くらい前に作られた歌。霊に会える町だから、お別れの歌で送ろうってことで作られたみたい」
誕生秘話の詳細は分からないが、大まかに言えばそうだ。
「……そう、か」
「え、何が?」
「いや、何でもない」
なら……どうしてそんな悲しげな表情なのだろう?
「――それより、買い物に付き合ってくれるか?」
「へ? あ、いいけど……唐突だね」
「そうか? 少し空気が沈んだせいだろう」
準備して来るからと、彼はボードに貼られたメモを取り、冷蔵庫を開けに行く。メモは兄さんからのリクエストメニューだろう。
わたしも着替えに戻り、玄関で待つ。
今日の夕飯は何かなと聞いてみると、肉じゃがとサラダが食べたいそうだ。
冷蔵庫には、昨日使わずに余った豚肉だけ。残りは買い足さないと作れないと言っていた。
町を歩いていると、いつもより賑わっている。祭りが近いため、準備が本格化してきている。毎年見ている光景でも、毎年楽しみだと思う。
商店街も忙しいのか、彼が店先に現れても、いつもよりは態度が緩和していた。わたしが居るから……と言うのは、この時ばかりは関係なかった。
ふと、歌の話をしたからだろうか?
気づいたら、口ずさんでいた。
「…………何だ、この現象は?
この町だからなのか。それとも、その歌だからなのか?」
言われてみて、違和感に気づく。
去年も歌ったはずなのに、ザワザワすると言えばいいのか。それとも、モヤモヤか。
もう一度口ずさんでみる。
「昨日に結んだ約束、明日も交わしたいから。
ワタシはずっと、想い続けます。
記憶に残るアナタの姿を。積み上げ、泣いて……――――」
泣いて、その後は?
ちょうど公園前。
頭痛を引き起こしそうな耳鳴りがする。それは酷く、不安を掻き立てるような、突き刺さる音。
もしかしたら、気を失ってしまいそうなほど。頭の中が、真っ白になって行く中で、
「ねぇ……どうして、ここに居るんだろう?」
何かを、自覚してしまった。




