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「神城先輩! あの人を紹介してください!」


「…………は?」


 一瞬、意味が分からなかった。

 放課後の校門前で、いきなり言われた言葉。

 何故彼を……よく知りもしない後輩に紹介しなければならないのか。そういう意味で、分からなかった。


「聞けば、恋人でも何でもないのに、自宅にいらっしゃるとか」


「……兄さんの知り合いだから居るんだけど」


「先輩と一緒に買い物していますけど、先輩は恋人じゃないって否定していますよね?」


「あのさ……話、聞いているの?」


 勢いに負けじと、その上を行く。

 だが、『恋する乙女』という生き物の勢いは、凄まじい。恐るべき、と言った所か。

 ついて行けず、折れる。


「あ、でも……この町に来て一ヶ月もするのに、今更ですかね?」


「今更過ぎると思うけど」


「ずーっと見ているだけもよかったけど、やっぱり知りたいと思うわけですし」


「……だから、話聞いているの?」


「せめてチャンスがあるかどうか。先輩、好きな人がいるか知っていますか?」


「知らないし」


「じゃあ、聞いてくれますか? お願いします!」


 パンッと両手を合わせて『お願い』する彼女に、されるわたし。道行く人や、同じく下校しようとしている生徒が、見て行く。

 この状況で断れないと、狙ってやっているのか。そうでなくても、断るに断れなくなってしまっていた。


「……好き、なの?」


「好きです!」


 はっきりと、きっぱりと言われる。

 素直なのはいいことだけど、彼女は知っているだろうか。


「……興味本位じゃないなら、いいよ」


 チクッと、何かが刺さった。そんな自分が、嫌になる。

 大切だと思う彼。

 別に好きだとか言っているワケではないから、誰かに好きだと言われても、平気なはずだ。

 なのに、何かが刺さった。

 違和感は、痛みに変わる。


 ――思い返しただけでもモヤモヤする。


 こんな気持ちはさっさと晴らすが一番。思い切って、彼に聞いてみた。


「あのさ……その、好きな人とか……居ないの?」


「唐突だな」


「……わたしに深い意味はないよ。何か、聞かれたから」


 相手が興味本位じゃなく、本気だったことも告げておく。

 彼は一度だけ、視線をさ迷わせてから言った。


「…………好きな人は居る。だが、想いを告げることは出来ない」


 また、だ。また、チクッと何かが刺さった。

 これは、予兆の一種なのだろうか。

 次の言葉が、乾いて行く。


「何、で?」


「……刹那、だから」


 彼が抱く想いが、どんな恋なのかは分からないけど……それはきっと、辛いものなのかもしれない。


「それでもオレは……その人を想う。この先、オレが独りになっても」


「……強い、ね」


「弱いだけさ」


 そうは言うけど、この先独りになっても想うと思っている時点で、既に強いと言えた。

 彼に想われている人が……羨ましい。


「――で、知ってどうする?」


「さあ? 知りたい人がどうするかなんて……知らないし」


「そうか」


 チクチクチク……痛い。



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