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「何……これ?」


 神城晴秋――それは間違いなく、兄さんの本名。

 新明出版は、この雑誌の出版社名。契約している出版社だ。

 ペンネームで同名の人はいる。だけど、全部が同じ人は見たことも聞いたこともない。

 名前も出版社名も、兄さんと一致している。

 新手の、嫌がらせだろうか?

 兄さんはここに居て、ずっと仕事をしている。届く雑誌が、証明していた。


「デマ……だよね、きっと」


 世の中には、真実よりもデマが多かったりする。

 もしかしたら、まだ知らない土地に同姓同名が居るのかもしれない。

 ペンネームはあり得ないかもしれないけど。現実に、同じ苗字が存在するのだから、その可能性だってあった。

 何かの間違いだ。

 次号には『間違いでした』と出るだろう。

 兄さんは、ここに居るから。


「あーもう、ビックリした」


「何がだ?」


「うにゃっ!」


「にゃって……朝に驚かないと思ったら」


「いや、普通に驚くって」


 入ってきたドアの音さえ聞こえなかったのだから。

 驚いている所にそうやってくれば、驚いた声を出してしまう。


「で、何にビックリしたんだ?」


「あー、これだよ。このデマを信じかけちゃって、ビックリしたんだ」


「――これは……!」


「ね、驚くでしょ?」


 食い入るように真剣な眼差しで読んでいる。

 彼も、信じられないのだろう。本当に、そうだから。


「晴秋さん!」


 大声で兄さんを呼ぶと、部屋に居るためか篭った声が聞こえてきた。

 それからドアの開く音がし、兄さんがやって来る。


「何ですか?」


 口調がぶっきらぼうなのは、仕事の途中で呼ばれたからだ。自分から途中にするのは良くて、他人から途中にされるのは嫌らしい。

 彼から雑誌を受け取り、目を通す。


「デマですね」


 あっさりと否定された。

 面倒くさそう言い方だったけど、本人の口からそう聞くと、やっぱり安心感は違う。

 ボリボリと頭を掻く姿を見なければ。


「仮に、それが本当だったとします。では、ここに居る私は誰でしょう?」


「神城晴秋。わたしの兄さん」


「はい。私が私であると言う証明は、晴夏がしています。だからデマです」


 目の前に居るのは誰でもない、兄さん本人だ。

 言葉も仕草も、癖でさえも。誰かが成りすますことなど、ほぼ不可能。

 ずっと、ここに居たのだから。


「仕事もちゃんとやっています。今もやっています。だから証拠として掲載雑誌が送られています」


「あ……そうだよね」


 何一つ、ウソも偽りもなかった。

 だからこの投稿記事は、デマだとはっきり言えるんだ。これで完全に真っ白。明日、この雑誌に投稿しよう。


「でもこの投稿者、何で兄さんが入院している――なんて書いたんだろ?」


「それは本人のみぞ知る……ですね」


「ふーん」


 もう一度、その投稿記事を読む。

 投稿者名はペンネームで、誰だか分からない。どこの県かも、最近ではプライバシー云々があるから、それも明かされていない。

 全くの、謎である。

 一体、誰がこんなことを。


「名前が売れていると言うのは、悪いことも起こります」


「確かに、世の中いいことだらけ……って訳にも行かないよね」


 そんな世の中なら、誰もが幸せだろう。

 彼も、悲しむことなんてないはずだ。




 嫌なことなんて、やっぱり消えてくれない。




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