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PROJECT "C"  作者: 観測者
-起- 混沌の産声

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25/25

記録24 攻戦

 明朝。ゼノフレアはディアから計画通り、城下町を囲う城壁─その門の付近にて他3人の到着を待っていた。同じ宿に泊まっていたカイリとは行動を共にしている。


「…遅いな」

「というより、私達が早すぎるんじゃないの。まだ夜が明けてからそんなに時間経ってないわよ」

「まぁ、それもそうか」


前日の夜から既に待機していたゼノフレアは、夜が明けると共に向かうことにしていた。本来であれば一人で向かうつもりだったが、ゼノフレアのその行動を見透かしていたカイリも結局は着いてくることになったのだ。

 ゼノフレアからしてみれば、体力の少ないカイリには出来る限り休ませておきたかったのだが、充分に休んだと聞き耳を持たなかった為、連れてくることにしたのだ。


「…来たな」

「見えないけど」

「気配が近付いてる」

「ま、あんたが言うんだから間違いは無いんでしょうけど」


今いる場所は、大通りに面している見渡しの良い場所だ。そしてその直線上には城門がある。ギルノドゥアとヨルの行方ははっきりとしていないが、ディアに関しては城の内部で休息を取っているのは確かだろう。

 これだけ見通しの良い場所で、その姿を確認出来なければ疑うのも無理はない。それでもカイリはゼノフレアの発言を全くもって疑う気はない。そこに、長い付き合い故の信頼と確証が垣間見える。


「ほらな」


 数分も経たない内に大通りに続く脇道から、ギルノドゥアとヨルの姿が現れる。偶然鉢合わせたのか、一緒にこちらへと向かってきている。

 そしてその更に奥に、僅かだがディアの姿も確認できた。とは言っても目視できたのはゼノフレアであり、カイリには判断できていないのだが。


「……身体の方は大丈夫なんでしょうね」

「既に回復済みだって言ったろ」

「なら良いけど。最近、大怪我を負うことが立て続けに起こってたから心配なのよ。それに、何やら不穏な気配もあるみたいだし」

「カイリは自分の心配をしろ。こっからは長いぞ。目的地に着くまでは魔力は使うな。道中は俺達が全部対処する」

「普段なら納得しかねるけど、今回ばかりは分かったわ。それはディア達にも?」

「ディアと俺はともかく、だな。ヨルに関しては矢の補給で使うが、そこまで負担にはならないだろうから問題ないとしても、魔法は使わないように言っておく。そもそも、あまり戦わせるつもりはない。ギルノドゥアに関しては絶対だな」

「唯一の回復係だしね」

「能力との兼ね合いもある。例の気配とやらが魔獣で、更に名憑きともなれば陽狼の時のようにギルノドゥアの能力に頼る事態になりかねない」

「了解。でも、だとしたら私は?」

「ギルノドゥアには現地でも魔法の使用は極力避けてもらうようにする。つまり、分かるな?」

「成程ね。でも、ギルノドゥアと私じゃ全然効果も威力も違うけど」

「安心しろ。火力を求める時は俺とディアでやる。カイリに求めるのは、魔獣の核の破壊だ。その点に関しては、俺より得意だろ」

「ん、分かったわ」


 3つの地体を渡り、更にその先でイノベーターと戦わなくてはならない。そしてそこには、上位魔獣や名憑きとも考えられる魔獣らしき存在もある。そうともなれば、道中は温存しておきたいのは当たり前の事だ。だが、魔獣との交戦は絶対に避けられない確定事項。そうともなれば、体力・魔力共に優れているゼノフレアと、身体能力に優れるディアとギルノドゥアにて対処するのが適切だろう。ヨルに関しては、矢の生成に魔力を消費する以上、好ましいとは言えない。


 ディアも又魔力にて武器を生成するが、今回に関してはその心配は要らない。その答えは、彼女の腰元にある。


「早いな」

「暇だったんでな」

「にしてもよ。カイリは大丈夫なの?」

「えぇ。…それは、ディアの武器なの?」


彼女の腰元には深い蒼の色をした刀身と黄金の装飾が施された、二振りの曲剣がある。煌びやかな装飾は如何にも王家の物としての雰囲気を醸し出しているが、その刀身は実戦において幾度と敵を屠ってきている。その証拠としてその手入れされた刃に無数の傷跡が見え、ところどころ欠けている部分も見える。それにゼノフレアにだけはわかる事ではあるが、血の匂いもしっかりとこびりついている。


「シルヴィリオンに伝わる宝刀か」

「あぁ。古より代々伝わる武器。その時代における英雄に与えられたという、魔剣じゃ。名を"双翼の天漢(そうよくのてんかん)"と呼ぶ。此度は妾が使うことになっただけで、妾のものではないがな」

「強い魔力を感じますね。しかも非常に濃い…」

「あぁ。故に使用者を選ぶ」

「使えるのか、剣」

「一応な。其方程ではないが、これでも主流な武具を扱えるように鍛えておる」

「意外ね。ディアって魔法とかの方が得意なのかと思ってた」

「妾は近接の方が好みじゃぞ。とは言え、最も得意とするのは槍なんじゃがな」

「槍か。珍しいな」

「そうか?」

「英霊の中ではな。槍ってのはどうしても火力が出にくい。無論、極めれば別の話だが。それに扱いも容易ではない。普通の人間にとっては間合いを確保できるから魔獣対策には使われがちだが、そもそも現環境で近接武器で魔獣に挑む人間なぞ殆どいないしな」

「ゼノフレア殿は何か得意とするものはあるのですか?」

「一応、あらゆる武器を扱えるが…まぁ、剣だな。剣っつっても色々あるが、主に長柄の得物は得意だ」

「だからそんなデカイ大剣持ってるのね」

「別に重たい武器が好みって訳じゃないんだがな。耐久性と威力を確保するにはどうしても、な」

「まぁ、お主程の力の持ち主があれほどの速度で振るえば、すぐさま壊れてしまうじゃろうからな。その剣も、酷く欠けておるし」

「…こいつは、古い知り合いに作って貰ったもんでな。強度と鋭さだけを追い求めた結果、これが出来上がったって訳だ。だがまぁ、俺も正直ここまでもつとは思ってなかったさ」

「最早壊れてる気もするけど…」

「まぁな」


 少しの戯れの後、ゼノフレアは門へと振り返り気持ちを切替える。


「…行くぞ」

「ああ」

「ええ」

「了解よ」

「うん」




………

………

 魔獣には、所謂強さの階級がある。それは人類が勝手に定めたものだが、通常個体とも呼ばれる一般的な魔獣は、人間達でも十分に対抗出来うる程度の力しか持っていない。無論、個体差はあり中には一際強いものもいるがそれでも、人間が束になれば倒せる上、英霊や式神相手では話にならない。

 そして、それらの魔獣の上に位置する存在が"上位魔獣"である。通常個体とは比べ物にならない魔力を有しており、それ故に強さも段違いである。人間では到底太刀打ち出来ず、軍が動く程の事態だ。英霊や式神でも場合によっては苦戦を強いられ、存在が発見された場合は厳重な警戒態勢と戦闘準備が迅速に行われる。再生能力を持つ個体もいる為、例え対策を講じようとも一筋縄では倒せない。


 そして、その上位魔獣の更なる上の次元が、"名憑き"である。

 見つけた場合は即時撤退、存在が確認された場合は国家1つが動く程の影響力。人間は愚か、英霊ですら勝ち筋の薄い相手であり、そしてその殆どが異様な能力と再生能力を持ち合わせている。そして莫大な魔力も内包している為、魔獣でありながら魔法耐性も多少なりとも有しており故に討伐方法は主に核を破壊するに限られる。

 魔獣は基本的に群れる事がなく、周囲に獲物がいた場合に同じく攻めるだけであって決して協力している訳では無い。しかし、名憑きともなれば更にその関係性は悪化し、生存危機に疎い魔獣とてお互の危機と理解し争い始める。そうともなれば最早人類の介入は不可能であり、名憑き同士の争いの周囲は甚大な損傷を被ることになる。

 それでも最終的には討伐されることが多く、何十年何百年と生き続けている名憑きは稀である。人類の危機ともなれば、生かしておくわけにはいかないからである。故に何としてでも討伐されることが多く、名憑きとて歴史の中で常に移り変ってゆく。


 しかし、魔獣にはそんな化け物である名憑きの、更なる上の存在がある。同士討ちや人類の手から生き延び続け名憑きをも超える力を手にした魔獣は、奇しくもその全ての個体が同じ骨格の個体となり、そしてそのあまりの強さから、人類からは討伐不(・)可(・)能(・)と認定される。

 倒すことも出来ず、存在するだけで脅威である奴らに、最早識別名など必要ではなく故に奴らに名は与えられない。

 コスモスの人類史における最大の脅威。天災や人災に並ぶ―いや、それをも上回る存在。そんな魔獣が、この世界には存在する。

………

………




 イノベーターの拠点に向かい始めて既に数日。予想されていた通り、その道中は常に魔獣の襲撃を受け苛烈極まる旅路を強いられている。


「道中で奴らが何か仕掛けてくると予想していたが、今の所は何も無いな」

「拠点の情報がお主の言う通り撒き餌なのだとしたら、拠点に行かせることが目的なのではないか?」

「そうとも捉えられるが、それでも奴らにとって俺達は邪魔な存在の筈。仕留められるなら仕留めておきたいのが本望だろ?今の状況はそれに適してるし、何より以前あったからな」

「確かにそうだけど、無いならないで良いでしょ。それに、正直イノベーターの目的というかそこら辺も曖昧だし。カタストロフィ再発を目論むにしては、その行動の数々に関連性がないというか」

「ゼノフレアが目的なのかもね。前にもあんたが狙わてたし、話に聞く限りセカイとやらもあんたを狙ってるみたいじゃない?」

「ですが、なら以前のようにこのタイミングで襲撃すれば良い筈です。そうして失敗したというなら兎も角、正直あの時は絶体絶命でしたから」

「…ま、考えても分からんわな。それにカイリの言う通り、無いならそれは有難い話だ」


 ゲンブに襲撃された事がある故、今回もそうならないとは限らない。魔獣達を相手に疲弊している所を突く。そうすればゼノフレア達を始末出来る可能性もより一層上がるだろう。そうとなれば、わざと拠点の情報を流しそこへ向かわせるように仕向けたとも考えられる。

 確かにディアの言う通り、拠点に向かわせることに理由があるのかもしれない。が、今までの傾向から鑑みるにイノベーター達は己の正体を限りなく隠してきている。そんな奴らがわざわざ拠点に敵を招くとも考えにくい部分がある。


 結局考えたところで答えが出ないのも事実であり、だからこそゼノフレアは考えるのをやめた。エグゾルで待機していようと進展は無く、結局は手に入れた僅かな情報に頼るしかない。ともなれば拠点の情報とやらに喰らいつくのも当然のことだろう。

 道中で襲われたのであれば対処すれば良いし、拠点に着いたのなら着いたで何か情報が得られるかもしれない。結局、向かうことには変わりないのだから構わないのだ。


「前方から魔獣」



 ゼノフレアの言葉により、全員がすぐさま臨戦態勢に入る。ディアとギルノドゥアはすぐに剣を構え、ヨルとカイリは万が一に備えて対応できるように最大限に警戒する。2人は極力戦わないように言われている。


「来るぞ。数が多い」


言葉通り、目の前の丘の向こうから魔獣達が5匹現れる。そのどれもが通常個体ではあるが、僅かな負傷も致命的ともなれば油断の隙は無い。


 真っ先に突っ込んで来た魔獣をゼノフレアが一閃し、即座に他の魔獣へと標的を変える。それと同時にディアは間合いを詰め、もう1匹の魔獣を斬り刻む。素早いギルノドゥアはその間に2匹の魔獣を相手取り、確実に仕留めていく。


「残り1匹」


残った魔獣の猛攻を華麗に受け流し、がら空きになったその胴体へ重い一撃を叩き込む。食い込んだ刃をそのまま引き抜き、肉体を切り裂く。


「ふぅ…」


頬についた返り血を拭い、大剣を背中に納める。


「大丈夫か?」

「あぁ、問題無い」

「何かあったらすぐに言って下さい。確かに私達の中では一番体力に優れているでしょうが、それでも常に最前線に立ち続けるのは大変でしょうから」

「目的の場所に着くまでなら大丈夫だ。いつもならカイリの方にも気を回さなきゃならんが、今はそうでもないしな。随分楽だよ」

「それなら良いが、それでも無茶するではないぞ。其方は妾達の中でも1番の戦力じゃからな」

「買い被りすぎだ」

「何言ってんの、この中で名憑きを一人で倒せる奴なんてあんたぐらいしかいないわよ」

「相性ってのもあるからな。毎回そうとは限らん」



 ゼノフレア達が共に闘い初めてから、あまり年月は経っていない。それでもその間には強い信頼関係と奇妙な繋がりが出来ていた。ヨルに関しては特にそれが顕著に現れており、この場にいる誰とも知り合いでなかった彼女は最初こそは警戒心が強かったものの、今やゼノフレアの実力を最も信頼していると言っても過言では無い。しかし、目の前で人弄と渡り合う様子を見せられれば当然とも言えよう。

 

 だが、ゼノフレアはそれを好ましく思っていなかった。繋がりが強くなればそれだけ情も湧きやすくなる。闘争とは常に残酷なもので、時にはかつての味方すらも切り捨てなければならないことだってある。突如の裏切りに遭うこともある。

 それに、人ならざる存在である己と仲を深めるのは決して良いことではない。守護神などと言われているがそれは未だ不確定事項であり、確かなのは己が"死神"であるということだけ。そして、死神とは世界から忌避されている存在だ。

 自ら協力を申し出た以上、あまり強く拒むことはしないがそれでも成り行きで共に戦うことになった彼女らを、巻き込む訳には行かないのだ。



 


数日後───

 イノベーターの拠点があるという情報のあった地体に到達したゼノフレア達。既にそれと思われる場所を見つけており、建物―とは言え既に廃墟で人が寄り付くような場所ではなく周囲にはイノベーターの構成員が警備体制を敷いている。そして更にその周囲には魔獣の姿もある。それらがイノベーターの従えているものかどうかは定かではないが、確かに情報通り何か不穏な気配が既に漂っており、拠点を破壊するにも正面から突破するのは得策ではない。


「気配は、魔獣か?」

「定かではないのか?」

「どうにも拠点が地下まで広がっててかなり広い上に、何かしらの魔法なり魔術なりが仕組まれてるみたいでな。膜がかかったような、ぼやけた感じなんだ」

「それじゃ余計に、突っ込むのは危険ね」

「そもそも、拠点の大きさも分からない以上攻め込むのは危険です。中にどれだけ控えているかも分かりませんし、拠点の構造も分からないですから」

「…ここに来てどん詰まったわね」


 拠点から離れた丘の上、その岩場に身を隠しつつ様子を探るゼノフレア達。相手の戦力や拠点の構造が分からない以上、攻めるとなればかなりの危険が伴う。ただの構成員や魔獣達だけであればそれで良いが、それも分からぬ上拠点ともなれば罠や待ち伏せ等も考えられる。それに閉所での戦闘はそれだけでもリスクが上がる。待ち構える方が圧倒的に有利だ。


「…待て。様子がおかしい」

「「え?」」


 その言葉を聞き、再び拠点へ視線を移すカイリ達。見れば確かに、構成員が何やら慌てた様子で話し合っている。


「ゼノフレア、聞こえる?」

「いまやってる」



「……奴が暴走し始めました!このままではこの基地は壊滅です!!」

「何!?クソ、今すぐ総員退避しろ!証拠などは良い!奴が暴れれば自ずとここも消し飛ぶ!!」

「はっ!!」



「暴走?消し飛ぶだと?」

「何じゃと?」

「どうやら中で何かが暴れてるらしい。そして、そいつのせいでここら一体消し飛ぶそうだ」

「は!?だったら私達も…」

「それが何であれ、私たちが逃げたところでこの地体が危険に晒されます。倒すしかないでしょう。イノベーターを逃してしまうのは悔やまれますが、仕方ありません」

「…確かに、さっきから気配が近付いている感じがするわ。でも、それにしてもこの強大な気配は何…?それに、ここら一体が危険になるなんてどれ程の―」

「おい、来るぞ」


 ゼノフレアがそう発した次の瞬間。何かが地面を破り、とてつもない震動と暴風が巻き起こった。


「っ!」


濃い土煙が舞い、その正体が未だ見えない。だが、その気配は非常に強大でゼノフレア達の体に重くのしかかっていた。そしてそれに匹敵する程の魔力と殺気も、その煙の中から伝わってくる。

 …そして、その煙が晴れる。見えてきたのは―


「……おいおい嘘だろ」

「…あ奴ら、何てものを持っておったんじゃ…」

「これは…非常にまずいですね……」

「不穏、どころじゃないわよこれは」

「魔獣の最上位種が、何で…?」


 名憑きをも上回る、魔獣の最上位個体。その共通した姿形から名付けられた、人類討伐不可能、その魔獣らの名は―


「まさか、"竜型魔獣"とはな………」


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