記録12 押し寄せる脅威達
城に攻め込むと決めたゼノフレア達。ヨルの案内により辿り着いた城門は、十分過ぎるほどの警備体制を敷かれていた。戦時中でもなく、魔獣が攻め入る訳でもないのに、この厳重さ。イノベーターがゼノフレア達を察しての事なのか、国王の命令によるものなのか。
しかし、その詳細は今はどうでも良い事だ。いくら数を増やそうと、警備を担当しているのは人間。英霊や式神には及ぶ訳もなく、ゼノフレア達は難なく城の内部に入り込んだ。
無論、殺しはしていない。彼らも洗脳にかかっているのか、ゼノフレア達を見つけるなり仕掛けてきたが、それでも彼らに罪は無い。罪なき者、ましてや人間を殺す理由はない。
やはりと言うべきか、遠くからもその大きさが分かる様に、城の中は広く複雑だった。ヨルの案内が無ければ、ここで相当の時間を要していただろう。それに当然、城の内部にも警備はいる。それらを往なしつつ、ともなれば尚更だ。
「ここの階段を上がればもうすぐよ。でも、ここからは式神達も現れてくる。何せ、王の側近だからね」
「成程、確かにそうみたいだな」
気配や魔力量からも分かる。ここから先は、一段階激しさを増す。
「こっちは殺さないようにしないといけないのに、あっちは平気で殺しに来るんだから…」
「じゃが、式神ともなればそう簡単には死なぬ。こちらも多少は荒くしてゆくぞ」
「ええ。彼らもどうやら操られているようですし、どの道無力化する必要はありそうですからね」
「あぁ。…っと、早速お出ましだ」
広い廊下で、左右から魔法が飛来する。左をゼノフレアが払い、右側はギルノドゥアが同じく魔法で相殺する。
そして現れる、5人の式神達。ゼノフレア達を囲むように前後から現れ、見事に挟み撃ちの形になる。
「5人か」
「多い、というより面倒じゃな。やはり操られておるからか、動き自体は大したことないが」
同時に迫ってくる式神達。
前方3人、後方2人。前の3人はゼノフレアとディアが相手をし、後方の2人はギルノドゥアとカイリ、ヨルが相手をする。
魔法を放ちながら距離を詰める式神に、持ち前の速度で相手を翻弄する。式神と言えど、ゼノフレアの前では然程脅威ではない。
撹乱したその隙を突き、ディアの魔法が炸裂する。小さな、凝縮された焔の玉が式神の1人を吹き飛ばし気絶させる。その爆風に巻き込まれ動きの止まった式神2人には、その背後を舞うゼノフレアの凶刃が襲い掛かる。
槍を構えながら襲い掛かる式神と、それを補助しながら的確に魔法で狙ってくる式神。
魔法を相殺しつつ、目の前に迫る槍を剣で捌く。相手の肉体が凍死しない程度に調整しつつ、足元を凍らせ、その隙に峰打ちを放つ。
目の前に迫る魔法を冷静に魔法で相殺しつつ、素早く反撃するカイリ。避けた先にヨルの矢が飛来する。式神の足元を的確に狙ったその一矢は、小さな爆発を生じる。怯んだ式神に、背後に回り込んだギルノドゥアの止めが襲う。
「…キリがないな」
今の戦いの音を聞きつけ、更なる式神達がこの場に集まってくる。
「流石にこの数は、相手をしない訳にもいかないわね…」
数名であれば、最悪無視をすることも可能だったろう。しかし、今この場にいる式神は少なくとも10名以上。加えて、既に全員が臨戦態勢だ。
「…逃げたところで追われるのがオチだ。ここは先に行け」
「な…」
「状況を冷静に分析しろ。国王の洗脳を解くにはカイリが不可欠。そうなるとカイリを守る為に戦力を割くのが妥当だろ。ディア、ギルノドゥア、カイリを頼むぞ」
「…私は貴方と一緒ってこと?」
「嫌か?」
「別に。ただ、理由は?」
「あんたの実力を知っておきたい、ってところかな。…行け!」
迫る式神達。それに対処すべく、ゼノフレアとヨルは突っ込んで行った。
「…行きましょう。彼の言っていることは、確かに正しい」
「ああ。それに、お主はあやつのことをよく知ってるおるのじゃろう?この程度でやられるような奴ではあるまい」
「そうだけど、心配なのは変わりないでしょ。…まぁ、こうなった以上仕方ないわ。2人とも、頼んだわよ」
「ええ」
「無論じゃ」
去っていく3人の背中を横目で確認しながら、ゼノフレアは式神達に攻撃を喰らわせる。数は多いが、やはり動きは鈍い。それに、先程の奴らの様な連携も見られない。多少の危険はあるが、ヨルもいる以上、この状況を切り抜けるのは簡単だ。
問題はこの状況ではなく、底の見えない増援だ。この地体は只でさえ式神が多い。加えて、イノベーターはこちらの状況を把握していると考えられる。先刻の様に名憑きを呼ばれるかもしれない。
陽狼ですら、5人がかりで何とか倒せたのだ。ゼノフレアとヨルしかいないこの状況下、加えて式神もいるとなれば―その勝算は限りなく零に近い。
そして、その可能性はカイリ達の方にも言えることだ。イノベーターの計画がどんなものなのかは分からないが、国王が重要なピースであることは間違いない。そうなると、その妨害を防ぐために国王の元に、より強力な手下を配置している可能性もある。
ギルノドゥアとディアがいる以上、ゼノフレア達より勝算はあるだろうが、それでも低いことには変わりない。
そんなことを考えつつ、ゼノフレアは的確に迫る式神達を捌いていく。殺さぬよう調整しつつ、可能な限り最速で仕留める。長引かせるのは、対複数において悪手だ。それだけ、相手に隙や機会を与えてしまう。
「あんた、ほんっとに化け物じみてるわね」
自身も式神であるが故に、ゼノフレアの異常さをより一層感じるのだろう。その戦い様を見て、ヨルはそのように呟いた。
「…かもな」
その時―悍ましい気配が突如として現れた。ゼノフレアでさえ、それを直前まで感じることが出来なかった。
「「!?」」
咄嗟にその場から退く2人。そして、その直感は正しかった。
衝撃と共に城の壁が崩れ、何かが急速で突っ込んでくる。そのあまりの衝撃に、式神達は受け身を取り損ね、崩れた床から下の階層へと落ちていった。
「邪魔は消えたが…」
「…骨が折れるわね、全く」
ゼノフレアの予感は、最悪の形で的中した。
「またまた、上位魔獣のお出ましか」
………
………
ゼノフレア達と別れ、王の間へと向かうカイリ達。その道中にいた筈の式神も、ゼノフレア達の方へ向かっているらしく、幸いにも邪魔は殆ど入らなかった。
「…ここで間違いなさそうね」
「じゃな」
目の前には、荘厳で巨大な扉があった。そしてその奥から、カイリにも分かるほどの邪悪な気配を感じる。間違いなく、この奥が玉座だ。
鈍い音を立てながら、その扉はひとりでに開く。3人を迎え入れるかのように、ゆっくりと奥の景色が見えてくる。
「ようこそ、不躾な侵入者よ。いや、叛逆者と呼ぶべきか?」
王の間だと言うのに、中には兵士1人いない。
「…あの眼―」
国王の眼は、あの時のギルノドゥアの時のように生気がない。やはり、間違いなく国王は洗脳下にいる。強力な英霊だったギルノドゥアだからこそ僅かな自我も残っていたが、彼は所詮ただの人間。完全に操られている。
「予想通りじゃな。…しかし、周りに誰もいないのが気になる。この気配といい、何か隠しておるのか…?」
「可能性はありますね。油断なさらぬよう」
「ええ」
先程から感じる邪悪な気配。だが、その正体は国王ではない。操られているが、その気配に恐ろしさは感じない。魔力量も、ごく一般的な量だ。
つまり、今この場所には国王以外の何かがいる。そして、それは式神などという生温いものではない。
「例の男はいないか。…まぁ良い。貴様らだけでも、我が下僕で始末してくれよう」
「例の男…?まさか―」
「カイリ、下がれ!」
国王の意味深な発言に、カイリの意識がそちらに移ろうとする。が、ディアの発言を聞き、カイリは咄嗟に身を引いた。
―現れたのは、予感していた最悪の存在だった。
「………上位魔獣…」
が、2体。
「予想はしておったが、まさか複数とはな…」
名憑き程の脅威ではないにしろ、その力は十二分。こらちは先程よりも人数が少ない上、あちらは2体の上位魔獣だ。それらのことを加味すれば、状況は先の戦いより悪い。
「名憑きでないのなら、まだ何とか出来ます。私が1体を相手しますので、お2人は残りと国王を」
「…無理はするでないぞ」
「ええ」
ギルノドゥアが居たことは不幸中の幸いだった。彼女は上位魔獣を屠る力を持つ。…だが、それはあくまで対一の話。そもそも、上位魔獣程の強力な個体の魔獣は、群れをなさない。寧ろ、お互いの危機と察して争う筈だ。
しかし、目の前にいる魔獣達は争う様子は一切なく、国王を守るように立ちはだかりカイリ達を明確に敵視している。それがイノベーター達によるものなのは最早明らかだが、この際、それは然程重要では無い。
迫り来る魔獣達の攻撃。それらを的確に捌き、巨大な氷の壁を築くギルノドゥア。お互い、互いに干渉し合うことはこれで出来なくなった。少なくとも、互いに目の前の相手に集中出来る。
「…カイリ、先の奴の発言が気がかりなのは分かるが、今は目の前の戦いに集中するのじゃ。国王を止められるのはお主しかおらぬ」
「分かってるわよ」
カイリ達の前にいるのは、巨大な植物の様な魔獣だ。無数の巨大な触手や蔦が四方八方に伸びており、本体と思われる部分には巨大な口の様なものが見られる。
触手が一斉に襲い掛かる。1本1本の速度は大したことないが、その大きさを考えれば十分に致命傷になりうる。加えて、とにかく数が多い。
魔力を刃状に凝固させ、次々と触手を切り刻むカイリ。魔法自体は強力かつ、魔力効率が良いにしても、それでもカイリの魔力量は普通だ。いちいち魔法を放っていてはすぐに底が尽きる。
そして、魔力の刃を腕に纏わせ戦うディア。彼女の場合、魔力量には然程問題はないが、どれだけ長期戦になるか分からない以上、下手に魔力を使うのは得策ではない。ディアも又、ゼノフレアやギルノドゥア程ではないにしろ体術は得意だ。魔法を主軸とするより、こういった戦いの方が性に合っている。
ギルノドゥアの前に立ちはだかる魔獣は、巨人だった。人型でありながら、その巨体は広い王の間の天井に届きうる。そして、その両腕には巨大な2本の剣―いや、剣の形状をした魔力塊が握られている。
(人型の魔獣…、珍しいですね)
魔獣の形状は様々だが、人型の魔獣の発見情報は歴史的に見ても少ない。その理由は未だ不明だが、多くの場合、何かしらの生物の形をしていることが多く、上位魔獣の場合は言葉にし難い、不気味な形状をした個体も多く見られる。
そして、人型の魔獣は強力な個体である兆候がある。人の形というのは、他の生物と違い何かに特化した形ではない。しかし、人の形であるということは、人に近しい動きを出来るということ。つまり、本来の魔獣や生物のように簡単に動きが読めないのだ。今回の場合、大きさが巨大が故、本当の意味での"人型"の魔獣よりは幾分か戦いやすいが、圧倒的な大きさというのは強さにもなりうる。
鈍重な動きは隙を突かれやすいく集中砲火を浴びやすいが、一方でその攻撃範囲は圧倒的。それは覆すことが出来ない利点であり、脅威だ。
「…私が相手で良かったですね」
この魔獣を、カイリを守りながらディアに相手させるのは苦だ。それに、大きな相手には圧倒的速さが刺さる。それに、的が大きい事も変わりない事実。ギルノドゥアの"凍結"も、狙いやすいことこの上ない。
振り下ろされる剣を避け、無防備になった脇腹へ鋭い突きを放つ。やはりと言うべきか、この巨体が故にビクともしないがギルノドゥアの剣は、肉体に突き刺さった。そこから、刀身を媒体に魔力を体内に流し込む。
ギルノドゥアは魔力そのものが冷気を帯びており、そして力により何時でも凍らせることが出来る。"凍結"によって直接凍らせた時の様に完全に機能を失わせることは出来ないが、それでも相手の動きを鈍らせるには十分だ。
そして今、ギルノドゥアはその魔力を体内に流し込んだ。例え表面が硬く魔力を弾こうとも、内側は脆い。あれだけの巨体かつ、流した魔力も微量故に全身を凍らせることは叶わないが、それでも奴の左腕は凍り付いた。
凍り付いた腕に更なる追い打ちを掛け、左腕を砕く。これで、左側の攻撃範囲は狭まった。その大きさ故、片腕だろうと範囲はかなり狭まる。
「さっさと倒させてもらいますよ。色々と、待たせているので」
各々に迫る、脅威。果たして、彼らはその壁を乗り越えられるのか―




