♯14 オーク初討伐と魔法講座
節分です。
高齢の方ほど、歳の数の豆を食べるのが大変そうですよね。
異世界で節分をするなら、鬼はオーガを指すのでしょうか?
作戦会議中に少しだけ魔力が回復したので、範囲を狭めて【エアサーチ】を発動させて、周囲を警戒しながらオークの後方に移動しました。魔力回復薬は他の薬と比べてかなり高いので使いません。
これによって私の魔力はほぼ無くなったので、ライラさんと一緒に前線に出なくてはなりません。怖いですが、ジャイアントクイーンビーのことを思うと楽勝です。あれは本当に怖かったです。 大型バスくらいの女王蜂ですよ?虫嫌いじゃなくても怖いですよ。
地球上の生物の全てが人間と同じサイズになった場合、1番強いのは虫だ。というのを聞いたことがありますが、確かにその通りですね。アリですら自分の50倍の重さのものを運べるわけですし。
「それじゃあ行くわよ」
オークの後方に回り込み、周囲に危険そうな生き物がいないことを確認して【エアサーチ】を解除。
ステータス画面で確認するとMPが魔法1発分もありませんでした。危ない危ない。魔力枯渇状態になると意識混濁になるんですよね。
私とライラさんは剣を抜き、駆け出す準備をします。
「風よ、刃となりて敵を切り裂け。【エアカッター】!」
ティアさんの新魔法が発動する。風属性なんですね。
ティアの手から放たれた風の刃は、進路上の邪魔な枝を切り払いながらオークの背中に命中しました。オークがこちらに振り返り、目が合いました。さぁ、戦闘開始です。
ティアさんはオークと距離があるうちに【エアカッター】を可能な限り連発します。しかし、あまり大きなダメージにはなっていないような気がします。
リーンさんはすぐに治癒ができるように回復魔法を用意しています。
私は両刃のアイアンソードを、弓を引くように構えます。本来なら刀でする技ですが、刀がないので仕方ありません。
「アイナ!ライラ!」
ティアさんの合図で私とライラさんが駆け出します。狙いは1番前のオーク。ティアさんの魔法で地味に切り傷を負ったオークです。
……火力不足ですね。おそらく、風の刃というのをイメージできていないのでしょう。これが終わったら私の【ウィンドカッター】を見せるとしましょう。
オークが私達の接近にタイミングを合わせて大きな棍棒を振り上げました。棍棒の大きさは成人男性くらいはあります。あんなの喰らったら良くて骨折です。
「はぁぁぁっ!」
振り下ろされた棍棒をライラさんが剣で受け流し、懐に潜り込んで袈裟切りにしました。そのままオークの脇の下を潜り抜けて離脱するのと同時に私の攻撃がオークの鳩尾に命中します。
しかし、所詮は付け焼き刃の物真似剣技。必殺技と言えるほどに昇華させたわけではないので決定打にはなりません。
薙ぎ払われた棍棒を、身を低くして躱し、後ろに退きます。
私の剣ではあまりダメージになりそうにありません。しかし、だからと言って長期戦は無理です。オークは1体ではなく3体いるのです。辺りに生えている木が障害になっているのでギリギリ戦えていますが、今の火力では無謀な戦いのようです。
「よし、これを使いましょう」
オークの雑な攻撃を躱しながら私はポーチから魔力回復薬を取り出します。これ1つで体力回復のポーションが5つも買えるんですよね。
私はマジックポーション(ドロッとした苦いゲル状の物)を勢いで飲み込み、魔法の準備をします。
私は『魔法剣士』。両方を使ってこそ真価を発揮するのですよ。
まずは火属性魔法です。森の中でも使える火属性をちゃんと用意しているのですよ。実際に使うのは初めてですけど。
「【ファイア・ウェポン】」
私の剣が炎に包まれました。これは剣が燃えているのではなく、術者が発生させた炎で剣を覆っているだけで、まだ魔法を術者の手元に残しているだけ。そのため術者は熱を感じることがないので安心して使えます。
振り下ろされた棍棒をスパッと切断し、そのままオークの腕に斬りかかります。まるで熱したナイフをバターに刺すかのようにオークの腕を切り落とすことができました。これは予想以上の攻撃力です。
腕を失ったオークが悲鳴をあげます。かなりうるさいです。ちなみに出血はありません。熱で血管が溶接されているからです。切断面は……かなりヤバいです。見てしまったことを後悔しています。
これは使うのに勇気がいりますね。
勇気があれば何でも切れる。燃える闘剣!ビンタはありませんし、カウントダウンもしません。
あれ?なんか焦げ臭い?
「アイナ!燃えてる!木が燃えてる!」
「えっ!?あぁぁぁぁぁっ!【アクアクリエイト】!」
切り落としたオークの腕が燃えて、それが原因で危うく森林大火災になるところでした。やはり森は火気厳禁です。
なので、目の前にいる怒り狂った隻腕のオークには別の魔法を使います。
「【ドリルショット】!」
足下の土から掘り出した石や岩をドリルに加工し、発射するロマン魔法です。ドリルは男のロマン、なんて言いますが、女の子でも好きな人はいるんです。髪型にするくらいなんですから。ちなみに私はドリルはそんなに好きではありませんが。
発射したのはソフトボールくらいの大きさの石のドリル。それがギュンギュン回転しながらオークの腕に突き刺さり、ズブズブと食い込んでいきます。
うわぁ……。自分でやっといて何ですが、エグい光景ですね。あまり見ていたくないのでサクサク片付けちゃいましょう。
「【エアスラッシュ】!」
剣に纏わせた風の魔力を飛ばす魔法です。こうすれば簡単に風の刃にできるんですよね。いわゆる飛ぶ斬撃です。
それは見事にオークの身体に吸い込まれるように命中し、オークの身体を上下に分断。それぞれの傷口から大量の血が……うげぇ……。
とりあえず【ウォーターカーテン】で返り血を防ぎましたが、これはやりすぎですね。魔法は使う魔力の量とイメージで威力が決まるのですが、もう少し消費魔力を抑えないといけませんね。加減が難しいです。
その後、残る2匹のオークもライラさんとティアさんで倒し、私達はほとんど無傷で3体のオークの討伐に成功したのでした。
ちなみに負傷者は木の根に躓いて膝を擦りむいた私だけでした。
3体のオークの討伐証明部位を確保し、解体を終えた私達は、町に戻ることにしました。とはいえ、オークは1体でも4人では持ち帰れないので、高く買い取ってもらえる部位を優先的に持ち帰るだけです。
あぁ、アイテムボックスとかがあれば全部持ち帰れるのに……。どうして私は【キャラクターメイキング】なんて選んだのでしょう……。
周囲を警戒しながら重たい荷物を持って歩き続け、ようやく森から出た時にはすっかり昼を過ぎていました。今からなら夕食前くらいには町に戻れそうです。
オークの肉は魔法で氷付けにして布にくるんでいるので急いで戻る必要がありません。
なので一旦休憩です。
「で、あの魔法はなんなのよ?」
重たい荷物を下ろして身体を休めていると、ティアさんが話しかけてきました。
「あの魔法って、どの魔法ですか?」
オーク戦で使った魔法のどれかを指しているのでしょうが、色々使ったのでどの魔法を言っているのかわかりません。
「風の魔法よ。確か【エアスラッシュ】って言ってたわよね?」
あー、エアーでスラッシュしたあの魔法ですか。切れ味が良すぎて相手を怯ませるどころじゃなかったですね。むしろあまりの切れ味とグロさに私が怯みましたよ。
「私が頑張って覚えた【エアカッター】よりずっと強いじゃない!なんで魔法剣士みたいにどっちつかずの中途半端なあんたの魔法が、純粋な魔法使いの私より強い魔法を使えるのよ!ズルいじゃない!」
「そんなこと言われても……」
術者の魔力とイメージを受け取った精霊が、術者のイメージを形にしたものがこの世界における魔法です。精霊のランクによってイメージの伝わりやすさや効率が変わるのですが、最終的には術者の消費魔力とイメージが魔法の威力や効果に影響を与えます。
私は魔法を使うときにはゲームの魔法をイメージしているので、明確なイメージが精霊に伝わっているのでしょう。そして、魔法のメカニズムはこの世界の魔法使いには常識なのです。
呪文や魔法名はあくまで術者が魔法をイメージしやすくするための物なので、無くても問題ありません。高位の魔法使いになれば無詠唱で魔法名を叫ばずに使うことができるようです。もっとも、私は魔法名を言いますが。なぜかって?その方か格好いいから!
「ティアさんは、風の刃ってどんなイメージですか?」
「風の刃のイメージ?」
もしかするとイメージに問題があるのかもしれないので、確認をすることにしました。ちなみに私は刀をイメージしています。西洋の剣は波面で叩くようにして切るものですが、刀は包丁同様に引く力で切るものです。重さで切るか、技術で切るかの違いがあるのです。
「そんなの、切るんだからもちろん剣をイメージしてるわよ」
「でしたら、包丁をイメージして使ってはどうでしょうか?」
「包丁?」
ティアさんは少し考えてから森の方を見ると、詠唱を始めました。
「風よ、刃となりて敵を切り裂け!【エアカッター】!」
風の刃が放たれ、木に命中しました。近寄って見てみると、薄く深い傷が入っていました。
「すごい……ちょっと変えただけなのにこんなにも威力が変わるなんて……」
今の一言であっさり威力上昇に成功させたティアさんも凄いですけどね。
刀があれば手っ取り早いんだけどなー、なんて思いながらの説明でしたが、上手くいって良かったです。
……そうか、刀か。よし、いつか刀を手に入れましょう。女性の侍というのも格好いいですしね。そうなれば『魔法剣士』ではなく『魔法侍』ですね。
「アイナちゃん、私にも魔法を教えて下さい」
今までニコニコと見守っていたリーンさんに言われました。なぜ急に?
「私は回復魔法は使えますが、攻撃魔法はあまり自信がありません。一応、自衛手段として1つだけ使えますが……」
そう言ってリーンさんは氷柱を発生させました。サラッとやってますが無詠唱です。
しかも氷属性は水属性の高位技術です。もしかしてリーンさんってかなり凄い人?
「私、リエース王国の出身なので、氷柱はイメージしやすいんです」
私の疑問にリーンさんはあっさりと答えてくれました。リエース王国は帝国の北にある雪国。確かにそれなら氷柱は見慣れていてイメージしやすいのかもしれません。
「ですが、これを高速で射出するイメージができなくて……」
確かに氷柱を水平に飛ばすのはゲームのないこの世界ではイメージしにくいかもしれません。なら、別の手段で射出すればいいだけです。
「だったら、敵の頭上に大量発生させて落としてしまえばいいんじゃないですか?」
「……なるほど」
私の提案に目から鱗のご様子。
「今度試してみますね」
休憩を終え、私達は町に向かって歩き出しました。あぁ、アイテムボックスなんて贅沢は言わないから、車と運転手が欲しいです。
女神様にお願いしたら派遣してくれないかな……。いや、そんなことしたら女神様が来そうです。そして携帯で上司に怒られて、泣きながら帰っていく。そんな未来しか見えません。
いつかアイテムボックスを使えるように頑張ろう。そう決意をしながら重たい荷物を持って私達は町への道をただひたすら歩き続けたのでした。
今回、刀の話をチラッと出しましたが、いつか和風文化の国に行かせてあげたいですね。
それまでネタが続けばいいのですが…。




