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#13 長雨と初めての敵です

皆さん、お正月は満喫しましたか?私はそこそこ満喫しましたよ。3日から仕事でしたが…。

 紫ランクへの昇進を果たした私達は、魔物討伐の依頼をメインに、その道中で採取した薬草類を納品して日々を過ごしていました。

 しかし、ここ1週間。ずっと雨が続いており、仕事を休んでいます。雨が降ると水の精霊が活性化し、火の精霊の働きが鈍ってしまうので、ティアさんの魔法が使えなくなってしまうのです。

 このままでは周囲の環境に左右されてしまうため、ティアさんは冒険者ギルドの図書室で魔法の勉強をしています。

 ギルドには簡単な攻撃魔法の魔導書が置いているらしく、初歩の初歩の魔法を覚えることができるのです。使えるようになるかどうかは本人次第ですが。

 ライラさんは町の武器屋や鍛冶屋を見て回っているので、宿でのんびりしているのは私とリーンさんだけです。なので自然と話をするのですが、リーンさんは故郷の話をあまりしたがりません。私も故郷の話はあまりしたくないので自然とそれ以外で話題になるのですが、早々に話のネタがなくなってしまいました。

「暇ですね……」

「そうですね……」

「雨、長いですね……」

「そうですね……」

 私の呟きに、投げやりっぽい相槌が返ってくるだけ。ただ時間だけが過ぎていきます。

(これはよくないですね。何か暇潰しになる物が必要です!)

 私の頭に浮かんだのはトランプ系のカードと数独と気泡緩衝材くらいです。どれもこの世界では用意できませんね……。

 双六は時間をかければ作れるかもしれませんが、面倒臭いので作りません。そもそも、この世界で紙はそれなりに貴重な物ですから、娯楽に使用するなんてありえないのでしょう。作成の手間さえ考えなければ将棋やオセロもあるのですが……。ちなみに私は将棋はルールを知っている程度でやったことはありません。

 しりとりなんかやっててもすぐに飽きるだろうし、そもそもこちらの世界で通用する単語だけでしなくてはならないので難易度が高い気がします。

「てるてる坊主でも作ろうかな……」

「てるてるぼうず?」

 私の呟きにリーンさんが反応しました。

「私の故郷のおまじないです。翌日の晴天を願って作った人形を軒先に吊すんですよ」

 そう言いながら私は布団のシーツと背負い袋に入っているロープで簡単な照る照る坊主を作りました。

「こんな感じです」

「これを軒先に?」

 しかし、照る照る坊主ってすごく可哀想ですよね。扱いは完全に死刑囚ですよ。祖父から照る照る坊主の童謡を教えてもらったことがありますが、本当に酷い歌だったのを覚えています。

 なにせ、「それでも曇って泣いてたらそなたの首をチョン切るぞ」という歌詞があるんですよ。いったいどれだけの照る照る坊主が断頭台の露と消えてきたことか……。

 そもそも絞首刑ですしね。

 絞首刑の上に雨が止まなかったら斬首刑って、昔の人は本当に残酷ですよね。

 それから私は照る照る坊主の作成を始めました。まず近くの防具屋で安物の革兜を購入しました。これは照る照る坊主の頭に使います。次に雑貨屋でロープを買い足します。背負い袋に入っているロープは長いので、ちゃんと照る照る坊主用のロープを買ったのです。

 宿の部屋に戻ると作成開始です。革兜を予備のシーツで包んで照る照る坊主の頭にして、新しく買ったロープで縛って出来上がり。1分もかかっていません。

「できました!」

 等身大の照る照る坊主です。今軒先に吊してもいいのですが、寝る前にしましょう。それよりもそろそろ夕食の時間です。

 今日の夕食は野菜中心で肉が少しだけでした。最近雨続きで仕事に出る冒険者が少なく、肉があまり入荷できないのです。

 食事が終わってから私はティアさんとライラさんに照る照る坊主の話をしました。

「そのおまじないが本当に効果があるなら、明日は久しぶりに狩りに行きましょう」

 ティアさんの言葉で明日は朝一でギルドに行けるように行動することになりました。具体的には早起きをする、ということです。雨がまだ続いていた場合はそのまま二度寝コースです。

 その後、就寝前に宿屋の部屋の窓から照る照る坊主を吊り下げてからベッドに入りました。


 翌朝、晴れました。昨日までの雨が嘘のように晴れました。雲一つ無い青空。快晴です。

 朝食後、照る照る坊主を回収してからギルドに向かうと、すでに他の冒険者の人達が依頼争奪戦に参加していました。

「出遅れちゃいましたね」

「まぁ仕方ないわよ。新人は余った依頼の中から選ぶしかないわ」

 今なら狩り系の依頼が多いでしょう。あちこちの店で備蓄していた肉が底をついているのです。

 今回は久しぶりの冒険なので、ゴブリンを討伐しながら兎や狼を狙い、道中で薬草を採取するという、新米冒険者の定番コースです。3つの依頼を同時にこなすものですが、どれも常時依頼です。たまに供給過多で掲示板からなくなることもあるので、確認をしてから受付に向かいます。

 もはや私の担当なのではないかというくらいお世話になっているシェリアさんに依頼を受理して貰い、私達はいつまの森に向かいました。

 私達が町を出る頃、私達がよく知る場所で事件が起きていることも知らずに。


「紫に上がったんだし、そろそろオークを狙いたいわよね」

 そろそろ森に着くタイミングでティアさんが言いました。確かにずっとゴブリンばかり倒してます。ゴブリンは1度に約30匹を産み、半年で子供が作れるようになるので、倒しても倒してもキリがないのです。

 恐るべき繁殖能力です。

 オークはまだ遭遇したことはありませんが、図鑑で見たことがあります。二足歩行のブタです。手足は人間と同じですが、それ以外は全てブタと同じです。知能はゴブリンより高く、人の言葉を話せる個体が確認されているようです。

 身体も最大で3メートル近くにまでなる上、基本的に3匹以上のグループで行動するのでゴブリン以上に厄介な相手です。紫ランクでも負ける可能性が充分にある危険な魔物です。

 いつもの森に到着した私は、サッとステータスを確認します。現在のレベルは10。すでにゴブリン程度なら問題なく倒せるようになりました。能力値は突出したもののないバランス型。魔法はそれなりに増えました。ただ魔力が足りなくて使えない魔法も幾つかあります。

 剣術もゲームや漫画の技を可能な限り再現しました。こっちはただの趣味です。

「それでは早速魔法を使いますね」

 ステータス画面を閉じ、1番後ろを歩きます。使う魔法は風属性の探知魔法。

「【エアサーチ】」

 風の精霊の協力のもと、風の流れを感じ取る魔法です。空気が存在する場所でなら、どれだけ上手に隠れていても発見することができるので非常に便利な魔法です。しかし、これは常に発動させている必要があるので、燃費は非常に悪いです。発動だけで魔力が3割もなくなり、5分ごとに1割ずつ減っていきます。つまり35分で魔力枯渇状態になるので他の魔法を使わないことを条件にすれば30分で限界になるのです。

 魔力量が増えればもっと時間が延びるのでしょう。なので魔力はいつもギリギリまで使います。魔力は使えば使うほど総量が増加するのです。筋トレをすれば力が付くのと同じです。レベルアップ以外にもステータスを伸ばす方法はあるのですよ。さすがに木の実やタネでの強化はないようですが。

【エアサーチ】の効果範囲は現在半径50メートル。平野ではあまり役に立ちませんが、視界の悪い森の中では50メートルでもかなり有用です。


 探索を始めてそろそろ30分。【エアサーチ】を切ろうとした瞬間、大きな反応がありました。それも3つ。この反応は……。

「皆さん、待って下さい」

 私は小声で言いました。反応のあった方に目を凝らしますが、何かがいるようには見えません。やっぱり森は視界が悪いです。

「どうしました?」

「探知魔法に大きめの反応がありました。この方向に3つです」

「オーク?」

 リーンさんの質問に答えると、ティアさんが期待の眼差しで尋ねてきました。わかりませんよ。

 けど、今考えると森に入る時にティアさんがオークのことを言ってました。もしかしたらあれがフラグになったのでしょうか?

 ティアさんはフラグ建築士なのですか?

「フラグ建築士ってなによ?」

 しまった。声に出てました。

「気にしないで下さい。それより、何か見えますか?」

「何かが木の陰にいるのは見える。けど、端っこすぎて何かまではわからない」

 私達の中で1番視力のいいライラさんは発見できたようです。んー……あれかな?

 言われてみれば何かがいるような気がしなくもないような……。場所がわかってもその程度です。50メートル、意外と遠いですね。

 ティア「魔物でしょ?なら倒しましょう。どうせこの森には、ヤバい魔物はいないんだし」

 やる気満々のティアさんですが、単に新しい魔法を試したいだけでは?

 しかし、確かにこの森は深い場所に行かなければ初心者冒険者の良い狩場です。ゴブリンだけでなく狼や兎もいるので食糧調達も可能です。稀に現れる鹿はかなりの大物です。

「やっぱりオークだ」

 少しだけ先行していたライラさんが戻ってきました。オークはゴブリンより少しだけ知能が高く、身体はかなり大きく、力もあります。スピードはありませんが、パワーファイターは一撃でも当たれば形勢が変わるので油断できません。

「奇襲で一気に倒すわよ」

 ティアさんはすぐに作戦を立てると、私達はそれぞれ配置につきました。

 さぁ、初めてのオーク戦です!


次回はオーク戦です。

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