#11 異世界クリスマス騒動記
とりあえずクリスマスネタをやってみました。少し未来の話です。
来年まで生きていたら別のクリスマスネタをやってみたいですね。
どうも、アイナ・フォルレイクです。
私がこの世界に来て、もうずいぶん経ちました。ライラさんやリーンさん達とも仲良くなり、連携もバッチリできる今日この頃。
「どうしてこんなことに……」
私は目の前の惨状に小さく呟くように声を漏らしました。死屍累々。そんな言葉が脳裏をよぎります。
「ティアさん!ライラさん!リーンさん!しっかりしてください!」
私は倒れている仲間に声をかけました。しかし、誰も起き上がる様子はありません。ただ、苦しそうに顔を歪めるだけでした。
どうしてこんなことになったのでしょう……。私は数日前の出来事を思い出していました。
全ての始まりは、ある冷えた朝、私が言った言葉からでした。
「最近、冷えてきましたね。そろそろクリパの準備も考えないといけませんね」
「「「クリパ?」」」
私の言葉にティアさん達は首を傾げながら聞き返してきました。あれ?この世界にクリスマスはないのでしょうか?って、確かクリスマスはキリストの誕生日でしたっけ?
本来は家族とすごす聖なる夜なのに、日本では恋人とすごす特別な日、という認識が強いんですよね。
「クリパ、って何なのですか?」
「えっと……私の故郷にあったパーティーのことです」
私はクリスマスのことを簡単に説明しました。
曰わく、特別な偉人の生誕を祝う日。
曰わく、どさくさに紛れてワイワイ楽しんじゃおう、という所からパーティーが行われるようになった。
曰わく、いつもよりちょっと贅沢な食事を楽しむ日。
曰わく、プレゼント交換というドキワクイベントがある。
調子に乗った私はサンタクロースの話もしました。
1年間、良い子にしていた子供にプレゼントを持ってくる赤い服の白ヒゲお爺さんの話です。空飛ぶトナカイにソリを引かせ、世界中の子供にプレゼントを配り渡る夢のあるお話です。しかし……。
「犯罪の臭いがするわね……」
「何でですか!?」
ティアさんの感想に私は思わずツッコミをしてしまいました。
「だって、明らかに不法侵入じゃない」
「それは……」
「おそらくは、かなり大規模な組織なのだろう。1人で、たった一晩で世界中の子供にプレゼントを渡すなんてできない」
「それに、魔物使いの可能性もあります。空を飛ぶトナカイというのは、飛行系の魔物を比喩しているのだと思います」
あれー?なんだかサンタさんがおかしな方向に……。
「赤い服というのも不自然だ」
「……どこがです?」
いったい何を言い出すのでしょうか?見当も付きません。
「聞いた感じだと、サンタというのは子供達に姿を見られないように行動をしているのだろう?鍵開け技術だけでなく、隠密の技術も優れている証拠だ」
「そうね。赤い服なんて目立つ格好、おかしいわよ」
「つまり、元々は違う色の服を着ていた可能性がありますね」
ティアさん、ライラさん、リーンさんの間でどんどん話が進みます。うーん……。夢を壊さないようにサンタクロースの起源とか話さなかったけど、話した方がいいかもしれませんね……。
「あの……実はサンタクロースというのは……」
「血染めの服、ということなのだろう」
「「それよ!(それです!)」」
(サンタさんが猟奇物に変貌した!?)
思いも寄らないサンタさんのジョブチェンジに私は愕然と……してる場合じゃないです!このままだと、血を求めて聖夜を徘徊する白ヒゲのお爺さんが誕生してしまいます!
「まさかそんな危険な存在がいたなんて……」
「これは気をつけなくてはならないな……」
「冒険者ギルドに報告をしておきませんと……」
「待って下さい!」
なにやら大事になりそうだったので私はサンタクロースのネタばらしをすることにしました。
「……というわけで、サンタクロースというのは空想上の存在なんです」
実際に海外には「サンタクロースの家」があり、そこにサンタさんが暮らしている場所もあるのだけど、ちょっと変わったボランティア郵便局みたいなものだったような……。細かい事は覚えてませんし、わざわざ話を蒸し返す必要もないのでリアルサンタさんは黙っていましょう。
ともかく、サンタさんの誤解が解けた所で、私は再び話をクリスマスパーティーに戻しました。
私達が利用している宿屋『安眠亭』の店主であるゾルベさんにも話をして、クリスマスパーティーの開催が決まりました。
料理はクリスマスらしいメニューを伝えるので、あとはいい感じにお任せします。私はケーキを作ります。
飾り付けはリーンさんに見本を見せて、あとは丸投げ。
プレゼント交換用の買い物は各自個別に行い、当日までの秘密にすることになりました。予算は銀貨5枚まで。それなりに良い買い物ができる金額です。
ちなみに私はマフラーを編む予定です。そのための道具も購入済みです。問題はケーキ作りに使う砂糖の確保です。
薄々気付いていましたが、砂糖はかなり高いです。東にあるアルトゥーラ王国は色々な調味料の原産国で、当然砂糖も作って輸出しているのですが、製造量が少ないのか、砂糖は平民が気軽に購入できるような物ではないのです。何か代用品を探す必要がありそうです。
ともかく、こうして私達4人と『安眠亭』一家によるクリスマスパーティーの準備は着々と進んでいるのです。
そして、待ちに待ったクリスマスパーティー当日。この日、『安眠亭』は早めに営業を終え、臨時休業の木札を出しました。泊まり客の方にはクリスマスパーティーの簡単な説明をしていて、私達とゾルベさん、奥さんのマルメラさん、看板娘のメレットちゃんを加えた7人。そこに泊まり客が3組5人増えて総勢12人のクリスマスパーティーです。ちなみにプレゼント交換は私達4人だけで行います。
「それでは、まずは乾杯をしましょう」
この中で唯一クリスマスパーティーを知る私が乾杯の音頭を取ります。
「私がメリークリスマスと言ったら、皆さんも続けてメリークリスマスと言って乾杯をしてくださいね」
ここでちゃんと説明をしておかないと、ぐだぐだな乾杯になりそうなので、乾杯前に伝えておくことを忘れません。
「それでは、メリークリスマス!」
「「「「メリークリスマス!!」」」」
ジョッキを掲げて乾杯の音頭を取ると、みんながあとに続いてくれました。若干発音にバラつきがあるのは気にしません。
ジョッキに入った果汁水を半分くらい飲んだあとは料理の攻略です。
この日のためにみんなで頑張って狩ってきました。ウサギと鳥を中心に、鹿を1頭手に入れることができたのは大きいです。
この世界の鹿はかなり大きく、そこそこ危険な動物でした。地球のサイくらい大きな身体をしていて、角だけでも150センチくらいはあります。体重も1トン以上もあるので、運ぶのに苦労しました。風の魔法で浮かした隙に幾つもの並べた丸太の上にロープをつけた板を置き、その上に鹿を着地させ、私とライラさんが丸太を入れ替え、ティアさんとリーンさんがロープを引っ張って帰ったのです。使い切れない分はギルドに売りました。100キロくらいしか取らなかったので、大部分がお金に化けました。金貨ゲットですよ。
さらに鹿肉は高級食材として扱われているだけあって、非常に美味しいのです。
味覚的にも美味しいだけでなく、経済的にも美味しいなんて……鹿に足を向けて寝れませんね。食べちゃいましたが。
さらに鳥は唐揚げの他、ターキーにしました。七面鳥ではありませんが、クリスマスにはターキーです。
ひと通り料理を楽しんだ私達は、4人で集まってプレゼント交換を始めました。
「それでは始めましょうか」
歌に合わせてプレゼントをぐるぐる回すことを考えましたが、私はこの世界の、みんなは地球の歌を知らないので断念。仕方がないのであみだくじで選ぶことにしました。もし自分のが当たれば他の人と交換、あるいはやり直しです。
結果、私はティアさんの、ティアさんはライラさんの、ライラさんはリーンさんの、リーンは私のプレゼントが当たりました。
「それじゃあ私から開けてみようか」
最初にプレゼントを開けたのはライラさんです。いったいリーンさんは何を買ったのでしょうか?
「これは……」
出てきたのは1冊のノートと羽根ペン。数本のインク瓶でした。
「それで日記を、と思いまして」
ノートの紙質は1番悪いものなので、書き心地はよくないですが庶民が手に入れることのできる紙ですね。私も何冊か購入して持ち歩き用の図鑑にしています。
魔獣図鑑、動物図鑑、魔族図鑑、植物図鑑、魔法図鑑。意外とかさばるので邪魔になりがちです。アイテムボックスが使えれば便利ですが、そんな便利魔法はありません。
「次は私の番ね」
ライラの隣に座っていたティアさんがプレゼントを開け始めます。
形は長方形。大きさは定規くらいの小さな物です。木目調の落ち着いた雰囲気の箱から出てきたのは、細長い金属の針のような物。
「なにこれ?」
「簪ですね」
首を傾げるティアさんに私が答えました。
「よく知ってるね。どうやら髪飾りの一種らしいんだ」
スイートピーのような赤に5枚の花弁の花がデザインされた可愛い簪です。
「髪飾り?どうやって使うのよ?」
「挿すんです」
「「「刺す!?」」」
「はい。挿します」
なんか皆さんびっくりしてますね。どうしてでしょうか?
あ、これあれだ。多分、脳内変換が間違っているのでしょう。よくある勘違いです。
「ちょっと貸してください」
私はティアさんから簪を受け取ると、ティアさんの後ろに回ってリボンを解き、代わりに簪でポニーテールを作ります。
「こんな感じですね」
「「おぉ~」」
ライラさんとリーンさんが感心しながら小さな拍手をしています。
「それでは次は私が開けますね」
私が席に戻る間にリーンさんがプレゼントを開け始めます。あれは私からのですね。
薄く軽い木の箱は、風の魔法で板状の木材を加工して作った自慢の一品です。日本家屋で見られる『焼き杉』という技法を取り入れているので、表面は黒くなっていますが、高級感が出ています。箱を開けると、中には私が頑張って編んだ純白マフラーが!両端にはニードルフェルトの要領で作った丸く固めた綿を付けています。
高校時代、演劇の衣装を作ったり、お姉ちゃんや妹に帽子や手袋、マフラーを編んでプレゼントしたりしていたので、かなり出来は良いですよ。
「すごい……」
「綺麗……」
使用したのはちょっと高めの毛糸。それを水の魔法で水分を含ませて潤いを与え、ちょっと高めの毛糸が高級シルクのような滑らかな手触りになりました。ただの水分ではなく魔力を持った水分なので成功した荒技ですね。
これは単純に魔力を込めて編めば、すごいマフラーになるのでは?と思って実験をしたのがきっかけでした。6つの属性の中から水を選んだのも理由があります。
火は危ないし、風だと切ってしまうかもしれません。地は汚れそうだし、光は眩しいから目立つのでダメ。闇は気持ちが沈むので止めました。つまり、消去法です!
思いつきで始めましたが、大成功でしたね。
ちなみに、装備すると防御と魔法防御が上昇し、水属性の完全耐性が付きます。思ってた以上に高性能です。当たり前ですが、普通のマフラーとしても使えます。
「最後は私の番ですね」
リーンさんがマフラーにうっとりしているので、次にいきましょう。というわけで最後の私の番です。ティアさんからのプレゼントです。
私はワクワクしながら正方形の箱を開けます。
「………………なんですか、これ?」
箱の中を見た私は、ジト目で向かいに座るティアさんを見ました。ティアさんはそっぽを向いています。ちょっとこっちを向いてくれませんかね?
「……眼鏡よ」
確かに眼鏡に違いはありませんが。
「眼鏡は眼鏡でも、普通の眼鏡じゃないですよね、これ」
「……そ、そうね」
私は中に入っている眼鏡を取り出しました。
「これは、鼻眼鏡です!ただのパーティーグッズじゃないですか!」
「ただのパーティーグッズなんかじゃないわよ!銀貨7枚のところを5枚にまけてもらったんだから!」
「無駄遣い!」
やっぱりティアさんの価値観は理解できません!ケチなのか浪費家なのかどっちかハッキリしてください!
ものすごく残念なプレゼント交換が終わった後は、再び料理の攻略です。
それから2時間後。
「どうしてこんなことに……」
私は目の前の惨状に小さく呟くように声を漏らしました。死屍累々。そんな言葉が脳裏をよぎります。
「ティアさん!ライラさん!リーンさん!しっかりしてください!」
私は倒れている仲間に声をかけました。しかし、誰も起き上がる様子はありません。ただ、苦しそうに顔を歪めるだけでした。
「うぅ……」
「ティアさん!」
私の回想をぶった切ったのは、ティアさんの苦悶の声でした。
「気持ち悪い……」
「誰がティアさんにお酒を飲ませたんですか!?」
私は死屍累々の店内を見渡しながら言いました。しかし、答えてくれる人はいません。
どうやらお酒に酔ったティアさんが所構わず火属性魔法を乱れ撃ちしたらしく、店内はあちこちが焦げていました。
火はリーンさんが水属性魔法ですぐに消したのでしょう。店内は水浸しです。
ゾルベさん達も泊まり客の人達も、ティアさんの魔法の直撃、あるいは余波を受けて倒れています。
リーンさんとライラさんはティアさんを止めようとしたのでしょう。しかし、お酒の入った身体で動き回ったせいで酔いが回ってダウンしたようです。
まさか私がお手洗いのために席を外したわずか数分で、こんなことになるなんて……。
そう言えば、以前ティアさんが言ってましたね。自分を大事にしたいからお酒は飲まないって……。あれはこういうことだったんですね。
ちなみに宿屋の修理はクリスマスパーティーの参加者全員で行ったため、全ての作業をわずか5日で終わらせることができました。
次回はもっと平和的なパーティーになるように頑張ります。
今回はあくまで番外編的内容です。そのうち時系列を戻しますが、あと何話か番外編をやりたいと思います。




