第1話:姉リリアナと妹オリビア
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私、リリアナ・ヴォルテールはヴォルテール侯爵家の長女だ。
私には3歳下の妹オリビアがいる。
妹は、小さい頃から私の持っているものを欲しがった。
病弱で、私より行動範囲を制限されていたせいかもしれない。
妹が「お姉さま、いいなあ」と言うたびに、私は妹に自分の持ち物を譲ってきた。
最初は7歳のときだったと思う。
同じ年の子どもたちが集まるお茶会に参加したときのこと。
お茶会の主催者は気を利かせて、子どもたちにお土産として、クッキーの入った可愛らしい包みを渡してくれた。家に持って帰ると、オリビアは言った。
「お姉さま、いいなあ」と。
私はお茶会でケーキを食べてきていたので
「これオリビアにあげる。私はお腹いっぱいだから」
と言って渡した。
オリビアは、若草色の瞳をキラキラさせて、嬉しそうに受け取った。
「ありがとう、お姉さま」
「リリアナは妹思いの良い姉だな」
父も母もそう言って、私を褒めてくれた。私はとても誇らしい気持ちになった。
後から父は、そっと私に街の人気店のマカロンを渡してくれた。
また10歳のころ、こんなこともあった。
優秀な人材を子どものうちに見出そうという国の教育機関の考えで、王家主催の子ども研究発表会が一度だけ開かれた。この年10歳だった子どもは、私も含めて全員参加させられた。優秀者には賞金が、参加しただけでも参加賞がでるとのことだったので、私は期待して参加した。
でも参加賞は、王立学園の校章が入った分厚いノートだけだった。しかもノートは子ども向けにアレンジされていた。ノートを手に家に帰ると、オリビアがいつものように
「お姉さま、いいなあ」
と言うので、オリビアにあげた。王立学園は2年後に入学する予定なので、わざわざ先に学園のノートを使いたいとは思わなかった。父も母もそんな私たちの様子をニコニコしながら見ていた。
また11歳のころ、こんなこともあった。
隣のガーランド侯爵家の次男、ジョシュアを私の婚約者にという話が持ち上がった。
ジョシュアのことは、小さい頃から家同士で行き来があり、よく知っていた。
このときは幼くて婚約を結ぶまではいかなかったが、学園を卒業するころになったら正式に婚約を交そうということになった。
この年の私の誕生日、ジョシュアはブローチをプレゼントしてくれた。
オリビアはブローチを見ると
「お姉さま、そのブローチを少し貸してください」
と言うので、渡したらそのままになった。
12歳になった私は、ジョシュアとともに王立学園に入学した。
王立学園では、入学してすぐに新入生歓迎パーティがある。私は新しいドレスを作ってもらったが、オリビアが私の部屋にドレスを見に何度も来るので
「そんなに欲しいならあげるわ」
と言って、妹のクローゼットにかけた。
父は苦笑いをし、母は顔をしかめた。
結局ドレスは、また作ることになった。
もう一度作ってもらったドレスでパーティに出席したら、
「あら?前にお話しされていたドレスと違うように思うのですけど」
と友人たちに言われた。
事情を説明すると、皆私のために、呆れたり怒ったりしてくれた。
15歳になったとき、大変なことがおきた。
母とオリビアが流行り病にかかってしまったのだ。
母は亡くなり、オリビアは治ったが学業どころではなく、静養が必要な状態になった。肺を病んだ後は、空気がきれいな場所が良いということで、王都から離れた父方の祖父母のところへオリビアは行くことになった。
母は亡くなる直前まで、私たち姉妹のことを心配していて、それぞれに言葉を残していった。
「リリアナ、自分の願いに正直でありなさい」
私が17歳、王立学園の6年生に進級するとき、オリビアは静養を終えて2年遅れで入学してくることになった。本当は1年の静養で十分だったのだが、オリビアがもう1年祖父のところにいたいというので2年に延長されたのだ。
妹やジョシュアのことを、友人たちに時々話していたので、私は大変心配された。
”杞憂かもしれませんが”と前置きされたうえで
「リリアナ様、大丈夫ですか? ご両親にお願いして、ご婚約のお話すすめたほうがいいんじゃないかしら」
とまで言われてしまった。
♢♢♢♢
私、オリビア・ヴォルテールはヴォルテール侯爵家の次女だ。
2年遅れて、14歳でやっとあこがれの王立学園に入学する。
小さい頃は病弱で、同世代との交流がほぼなかったので、人付き合いやマナーに自信がない。マナーについては、おばあ様からある程度教わったが、静養1年目の冬に、おばあ様は倒れて亡くなってしまった。あまりに突然のお別れで、おじい様も私もただ茫然とするしかなかった。
お母様が亡くなるときは、まだ心の準備をする時間があった。
お母様も、お姉さまと私に思いを伝えることができた。
「オリビア、自分の本当の願いを大事にしなさい」
お母様は、私にそう言ってくれた。
今日は新入生歓迎パーティの日だ。
人より遅れて入学する私が、新入生歓迎パーティに参加してよいものか迷ったが、お姉さまが気にしなくて大丈夫というので参加することにした。
パーティー会場にただ行くだけかと思っていたら、”女子新入生は男性のエスコートで入場するのが慣例よ”とお姉さまに言われてしまった。エスコートは、唯一の知り合いであるジョシュア様にお願いすることになったが、入場した途端、お姉さまの周りにいるご友人たちから一斉に視線を向けられた。
エスコートをお願いする場合、婚約者か兄弟、従兄弟が一般的なので、姉の婚約予定の男性というのがやはりまずかったのかもしれない。
本当は、私は昔からジョシュア様がちょっと苦手だ。琥珀色のギョロっとした目でじーっと見られると、なんだか逃げだしたい気持ちになる。
とはいえ、将来義兄になる予定の人が
「オリビア、エスコートする人がいないのなら僕がしよう。リリアナも心配していたし」
と言われたら断るわけにはいかなかった。
入場したら、パーティがお開きになるまで壁の花に徹しようと決めていた。動きまわるより観察している方がいいと思っていたからだ。
お姉さまのご友人たちは、こちらを時折見ながら何か言っているようだった。よくわからなかったが、「あのドレスは」と言っている声が聞こえてきた。
もしかして5年前のドレスをアレンジしただけなのが変だったのかしら。
でもこのドレス、一度も出番がないままなんて可哀そうだし。
私が着ているドレスは、お姉さまの新入生歓迎パーティ用として作られたドレスだった。素敵なドレスだなあと思って眺めていたら、お姉さまがオリビアにあげると言ったドレスだった。
14歳の私には少し丈が短いので、スカート部分の段々をほどいて丈を伸ばし、糸を解いた跡を隠すようにリボンとレースを縫いつけた。肩や袖、ウエストも修正し、同じようにリボンとレースを縫いつけ、華やかにしたつもりだったんだけど、おかしな感じに見えるのかしら。たしかに今の流行の型ではなさそうね。今はパステルカラーに淡い貴石を使ったドレスが人気なのだわ。春らしいものね。
皆様の素敵なドレスを眺めて静かにすごしていると、姉の同級生と思われる方々が
「お姉さまを困らせないようにね」
と声をかけて去っていく。どういうことなのかしら?
それでも、パーティは私にとって、とても充実した時間になった。
王立学園での勉強が始まった。
私もお姉さまみたいに友人を作ろうと楽しみにしていたのだけど、うまくいかなかった。同級生より2歳上、しかも皆様入学前から交流されていたようで、私は溶け込めなかった。最初は頑張って話しかけてみたけど、一言二言ですぐに去っていかれてしまった。
入学して2週間で、友人を作ることに関して、私は気持ちを切り替えることにした。
王立学園自体は素敵なところだった。勉強は嫌いじゃないし、何より図書館が素晴らしいのだ。
いつのまにか授業以外は図書館の奥にこもるようになっていった。
お昼の時間はたまに困ることがあった。
すべての学年が同じカフェテリアを使うので、そこで姉と話すこともある。姉は友人に囲まれていて、私は一人だ。病気のとき部屋で食事をしていたので、一人で食事することに抵抗はないけれど、姉に気を使われてしまうことがあった。
ときどき私のところにやってきて
「これ見て。数量限定のクロワッサンサンドを買えたのよ」
「美味しそうですね」
「ならあげるわ」
そう言って姉はクロワッサンサンドをすばやく置いて去っていく。
先に買ってある私のランチもあるので、どうしようかと考えていると、いつのまにかジョシュア様が現れて
「そんなに食べきれないだろう。引き受けてあげようか」
「・・・・・申し訳ございません。お願いいたします」
ということになり、この様子を姉のご友人たちが見て、険しい表情に変わっていく。
クロワッサンサンドに限らず、たまにこういうことがある。
いっそお昼を抜こうかしらと思うのだけど、本当にたまになので考えてしまう。
モヤモヤする時は図書館だわ。
私のお気に入りは図鑑のコーナーだ。小説や授業に直接関係する参考書などは入口の方に、図鑑や専門書などは奥まったところに置かれている。本棚の近くにはコーナーごとに大きな机と椅子が何脚か設置されている。図鑑コーナーのところには滅多に人が来ないので、ここの机と椅子は私の独占状態だ。
今日も鉱石と布地の図鑑を広げて、好きなだけノートに思いついたことを書こう。




