#4 ルチル観察
ルチルには幸運、特に金運を引き寄せる力があるそうだ。
ルチルという名は、天然石の『ルチルクォーツ』からきている。
本名ではなく愛称らしい。天界のへんなおじさん、大天使リエルから聞いた話だ。
『金運の天使 ルチル』が近くに居れば、何かしらの効果を発揮するらしい。
チーズ臭がするルチルを抱っこしながら、パソコンの画面に向かう。
いまのシンジの状態は、あぐらをかいたおじいちゃんに孫を搭載した感じだ。
ルチルは、パソコンを見るのが初めてなのだろうか。
あれこれと質問をしてくる。
「なあ、あんちゃん。“スクロール・バー”ってなんじゃ?」
「いろんな方向に“おばあちゃん”が動くやつだな。たまに自由形で泳ぐぞ。結構すごいぞ」
ルチルは、ベッタベタの手でパソコン画面を触る。
「じゃあ、この大人の動画集ってなんじゃらほい」
「これか? 裸と裸のぶつかり合いが収録されたものだ。世界共通の格闘技ってやつだ。ルチルが18歳になったら一緒に観ような」
「エロ動画じゃな。あんちゃんよ」
ルチルは、パソコンのキーボードにも興味を示す。
「バック・スペースって何じゃ?」
ネイティブですか? と聞きたくなるような、良い発音。
意味が分かっているのではないかと思うほどだ。それを踏まえて、シンジは適当に答える。
「後ろがガラ空きってことじゃないか? ま、あれだ、列の最後尾ってことだよ。たぶん」
「あんちゃん、すげえな! 交尾! 交尾!」
シンジ的には、50点くらいの回答だが……交尾を連呼するはやめてくれ……。
このままだと、1日ルチルの質問攻めにあいそうだ。
「そろそろ始めていいか?」
「いいぞ、あんちゃん」
しばらく離れていたFX(外国為替証拠金取引)をやってみることにした。
ルチルと一緒に取引ツールの使い方、チャートなどについて一通り確認する。
ルチルは画面を見て大喜びしている。
「すげえ!」
何がすげえのか分らないが、喜んでいるルチルをみているとこちらまで楽しくなってくる。
さて、どの通貨ペアでいくか……
FXとは、ざっくり言えば通貨の売買である。基本的には、通貨(外貨)を安いときに買い、高くなったら売る。そのようにして利益をあげていく。
日本は『円』。アメリカは『ドル(米ドル)』。当然、各国にも通貨がある。
例えば、ポンド、ユーロ、オーストラリアドル(豪ドル)などだ。円と米ドル(円で米ドルを買い、米ドルが高くなったら売る)など、このように円とポンド、円とユーロなど無数にある通貨ペア(組み合わせ)のうち、どのペアで取り引きしようかと悩んでいた。
シンジは、ルチルの頭を撫でながら考えていた。
なんかコアラに呼ばれたような気がする……。
「よし、豪ドル・円にしよう」
FXを始めたばかりの頃は、恐る恐る取り引きしていた。だが、今はワクワクとドキドキが止まらない。ルチルがここにいるおかげだろう。
早速取引開始だ。ギトギトでよく見えない画面。
今日は値動きが荒い。
チャートの動きにあわせて、『→→↑↑↓↑』のように揺れるルチル。
必殺技が出そうな勢いだ。
飛び跳ねるルチルが繰り出す後頭部ヘッドバッド(必殺技)とキック。
ルチルの繰り出すコンボにより手元が狂い、適当に取引してしまう。大丈夫か? 軍資金……
「なあ、あんちゃん。嫌いな食べ物はなんじゃ?」
「シイタケだな。特に乾燥したやつ」
「ルチルは?」
「レストランのアレじゃ。フォークが浮いているアレじゃ。何つったかな、アレじゃ」
「食品サンプルのことか?」
「おう。それじゃな」
「そうか……」
ルチルの能力は、シンジとルチルの密着度が高いほど効果を発揮する。
ルチルをひざから下ろしたいが、金運が遠のくため無理なのだ。
ルチルが『→→↑↑↓↑』のような動きをした時に取引すると、勝率が上がる気がする。
必殺技が効いたのか、圧勝で取引を終えた。
納税分と種銭(軍資金)を差し引き、残ったお金で皆にプレゼントすることにした。
気が付くと、いつの間にかリエルがいた。
大破した窓ガラスが、すっかり元通りになっている。
「パソコンの画面、きれいに拭いておきましたよ~」
「ありがとう。ところで、いつからいた?」
リエルは、さきほどからモジモジしている。
「大人の動画集が……の辺りから」
シンジとルチルの話に入るタイミングを見計らっていたようだ。
「声をかけてくれたらよかったのに」
「めっちゃ楽しそうだったので……」
言葉とは裏腹に、リエルの表情が少しこわばっているように見える。
なんだろう。この胸騒ぎは……。




