表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

#3 ノリス・ファスナーと天使の輪光(アレ)

 ちびっ子(幼女)に少し苦手意識のあるシンジは、どうしたものかと頭を悩ませる。


 餌付けでもしてみるか……。


「アイス食べる?」


 食後のデザート用に買っておいた『月見大福(でーふく)』をルチルに渡す。


「くれるん?」


 ルチルは、花が咲いたような極上の笑顔をみせた。

 付属のフォークを使うことなく、でーふくの中央に人差し指を突き刺した。


「なあ、あんちゃん。チャック・ノリスって人の背中に、ファスナーを付けたらどうなるか知っとる?」


 アイスを食べ終わったルチルは、ベタベタになった指をシンジの服になすりつける。


「知らんがな……」


 とは言ってみたものの、シンジは天使の期待(むちゃ振り)に応えてみたくなった。


「“ノリス・ファスナー”とかになるんじゃないか?」


 そんなわけないか……。

 案の定、シンジの答えをルチルは全く聞いていなかった。


 ちびっこの行動は予測が難しい。

 ルチルの興味は、すでに別のものへと移っていた。


「あんちゃん。えーが見ようぜ!」


 畳の上で胡坐(あぐら)をかいたシンジのヒザにルチルが座る。


「天使の()っ!」


 シンジの顔を見上げたルチルは、ポシェットからDVDを取り出した。


 鬼と手を組んだ桃太郎が神々に戦いを挑むという、サイバーパンク・アクション映画らしい。


 主演 ノリス・ファスナー。


 ファスナーさんは、ここに居た……。


「コイツをルチルの頭にのせてけれ」

「天使はDVDプレイヤーにもなるんですよ」


 しばらく黙って見守っていたリエルが、助け船を出してくれる。

 天使の輪のヒミツにも言及した。


「天使の頭上でふわふわしている輪光(アレ)、実は円盤なんです」


 丸形蛍光管も搭載可能らしい。まさしく天使の輪。

 着脱可能で、普段は隠しているそうだ。


 天使にディスクを載せると、映画や音楽を再生できるとのことだ。「ブルーれいにも対応している」と、リエルがこっそりと教えてくれた。100倍速以上でしか再生できないことが難点だともつけ加えてくる。


 ルチルの頭にDVDを載せると、高速で再生された。


「あんちゃん。面白かったじゃろ?」


 1万倍速で再生されたせいか、映画の内容はサッパリわからない。

 というより、瞬きを2回している間に終わっていた。


「お、おう……」


 守護天使の笑顔に屈したシンジは、そう答えるしかなかった。


 映画の視聴が終わると、ルチルは何かを思い出したかのように玄関へと向う。


「お仕事があるから、ルチル帰るな」

「仕事?」


 帰るって、どこにだよ……。

 助けを求めようと、シンジはリエルを縋るような目で見やる。

 リエルは無言。

 ただ笑みを浮かべるだけだった。


「行ってくるぞい」


 親指を立てると、ルチルは去っていった。

 嵐が過ぎ去った後のように静まり返る室内。


「ルチルの仕事って?」


 部屋に空いた穴を音声で埋めてみようと、シンジはリエルに問う。

 だが、リエルは教えてくれない。

 自分の目で確かめろということか。


「それじゃあ、行きましょうか」


 リエルに手を引かれ、シンジはルチルの後を追った。


 ルチルは駅を目指しているようだった。


 目的の駅につくと、ルチルは自動改札を抜け、ホームへ向かった。

 鼻歌を歌いながら体を左右に揺らし、ルチルは電車の到着を楽しそうに待つ。

 見ているシンジが、つられて笑顔になってしまう動きだ。


 電車がホームに到着すると、「フェード・イン」と言いながら、ルチルは後ろ向きに乗車する。


 ルチルの後に続き、車内に入ったシンジは周囲に目を配る。


 つり革につかまり、読書をするおじさん。

 うたた寝をしているサラリーマン風の男性。

 スマホをいじっている女子大生風の女の子。


 混雑こそしてはいないが、空席もないような感じの車内。

 ゆっくりと流れてくる風。

 床から伝わってくる振動が心地いい。


 霊体モードで稼動中らしい。ルチルの姿は乗客達には見えていないようだ。

 シンジは、ドキドキとワクワクがとまらない。

 何かやらかしそうなルチルへの期待感でいっぱいだった。


 一方のリエルは、授業参観に来た母親のような、少し不安そうな面持ちだ。


 ルチルが動き出した。

 読書をするおじさんの前に立つ。


 ページをめくるため、つり革を放すおじさん。

 ルチルは、“ひょいっ”と、つり革を横にずらす。


 つり革をつかもうとしても、つかめないおじさん。

 ルチルとおじさんの攻防が幾度となく続く。


 こうした現象は天使が起こしていたのだ。


 ルチルはサラリーマン風の男性の前へ移動する。

 次の停車駅に近づいてきたころ、「打つべし」と言いながら、男性のみぞ落ち辺りに軽くパンチをお見舞いした。


 電車の音でかき消されたのか。

 ルチルの声を気にする者はいない。


 腹パンをくらった男性は「ふぁう」と声をあげて目を覚ます。

 慌ててその駅で降りて行った。


 電車で寝ているときに“ビクン”となるあの現象は、天使の仕業のようだ。


 シンジには、ルチルが小ぶりの爆弾のように見えていた。

 こみ上げてくる笑いを必死で抑えながら様子を窺う。


 次の駅に到着。

 駆け込み乗車をしようとする女性。

 赤ん坊を抱きかかえている。


 女性が乗り込む寸前で、閉まりかけるドア。

 ルチルが「ふんがっ」とドアを押さえると、ドアが完全に開く。

 女性は無事に乗車できたのだった。


 大きな仕事を終えたルチルは、赤ん坊に向かって手を振る。

 ルチルが見えているのだろうか。赤ん坊がルチルに向かって手を伸ばしている。


 ルチルって良い子じゃないか。

 ホッコリした気分がシンジの体を満たしていた。


 次々と仕事をこなすルチルの動きは速い。

 シンジは、ルチルを見失ってしまった。

 このまま放置して問題ないのでは? とリエルが言う。


 やっぱり気になる……。

 もう少し探してみようと、シンジが後ろの車両へ移動しようとした時だ。


 車内がケンタッキー臭(フライドチキンのいい香り)に包まれた。


 隅っこのほうで、ルチルがお食事をしている。

 ご丁寧にも、スカートの裾で仰ぎ、車内にケンタッキー臭を振りまいていた。


「お前が犯人かい!」


 シンジは、思わずツッコミを入れてしまう。


「なんだかお腹が空いてきましたね」


 リエルが腹部をさすりながら、シンジのほうを向く。


 シンジも同様だった。


 ケンタッキー臭に食欲を刺激され、腹の虫が泣きわめく。


 ルチルの“仕事”は、どうやら本当に“天使の業務”らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ