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告白の後の告白

 ――千代田も、きっと色々抱えている。


通話を切ったあと、そんな考えが頭から離れなかった。

ちゃんと「ありがとう」と言えただろうか。

助けられたことを、伝えられていただろうか。


頭の中はまだぐるぐるしている。

それでも、不思議と――

また、あの声が聞きたくなった。


自分勝手だと、わかっていた。

それでも。


中村は、もう一度スマホを手に取った。


「……千代田。もう一回、少しだけ話せる?」


しばらくして、返事が返ってくる。


「……うん。いいよ、少しなら。

今日、頭使いすぎててさ」


その「少しなら」が、

本当は断れない言葉だと、二人ともわかっていた。


通話が繋がる。


「こんばんは」


「また? ふふ……こんばんは」


眠れなかった、と千代田は言った。

中村も、同じだった。


言葉に詰まりながら、中村は正直に話した。


安心できる相手がいるって大事だ、

そう言われた言葉が、通話を切ったあとも残っていたこと。

有本のことで悩んでいるはずなのに、

気づいたら「千代田に話してよかった」と思っていたこと。


「……それって、甘えてるだけなのかな」


「そうかもね」


あっさりとした返事。

でも、そのあとに続いた言葉は、優しかった。


「でも、甘えてくれて嬉しいよ」


胸の奥が、少しだけ揺れた。


けれど、千代田ははっきり線を引く。


「安心と恋は、一緒にしちゃだめ。

混ぜると、誰かが必ず苦しくなる」


その言葉は、静かだけど重かった。


中村は、うなずいた。


安心すると、楽になる。

このままでいい気がしてくる。

でも、それを恋と呼んだら、どこかで間違える。


それが、今なら分かる気がした。


「千代田がいてくれるから、

僕、有本のことでちゃんと悩めてる。

逃げずに向き合おうって思えてる」


感謝だった。

それ以上でも、それ以下でもない――

そう思いたかった。


「……ありがとう。

それだけ、ちゃんと伝えたかった」


その瞬間、通話の向こうで、

千代田の呼吸がわずかに乱れた。


「……ねえ」


声が、少し震えていた。


「『見てるだけでいい』って言ったでしょ。

あれね……嘘じゃないけど、本当でもなかった」


中村は、言葉を失う。


「そう言い聞かせないと、立っていられなかっただけ」


好きな人の声を聞いて、

その内容が“別の誰か”の話で。

それでも「聞くよ」と言うしかなかった。


「……ごめん」


反射的に出た謝罪を、すぐに遮られる。


「謝らないで。

それ、余計につらい」


千代田の言葉は、鋭かった。


「中村、自分がどれだけ残酷なことしてるか、分かってる?」


「……分かってない。

だから、聞いてる」


苦笑混じりの声が返る。


「ずるいよ、そういうとこ」


期待していなかった“つもり”だった。

好きにならないと決めていた。

割り込まない、邪魔しない。


でも、夜になると声が離れなくて。

電話に出た瞬間、少しだけ期待してしまった。


「馬鹿だよね」


自分で線を引いて、

自分で傷ついて。


「中村が『安心する』って言うたび、思ってた。

じゃあ、私は何?

居場所? 避難所? 感情のゴミ箱?」


「そんなつもりじゃ――」


「分かってる!

分かってるから、つらいんだよ!」


優しいから。

壊れていることに、気づかないふりができる。


「応援なんて、したくなかった。

背中押す役、やりたくなかった」


それでも放っておけなくて、

また聞いてしまう。


「それで『ありがとう』なんて言われると、

嬉しくなっちゃう。

最低だよね」


中村は、言葉を探した。


「……最低なんかじゃない」


でも、千代田は首を振る。


「じゃあ、この気持ち、どこに置けばいいの?」


答えは、出なかった。


「中村は有本を選ぶ。

分かってるのに、私のところには来る。

弱った顔で、優しい声で」


希望を持つなと言われる方が、無理だった。


「今日は、もう無理。

これ以上話したら、責めるか、壊れる」


「……分かった。今日は、ここまでにしよう」


「……ごめん」


「いい。

今のは、ちゃんと千代田の言葉だった」


通話が切れる。


了解。

感情を止めないまま、身体だけが動いてしまう夜として、

指定された動作を散りばめて書き直します。



部屋に残ったのは、

言えなかった言葉と、

言いすぎたかもしれない沈黙。


中村はベッドに転がり、

枕に顔を埋めるようにして息を吐いた。

手元には、もう使わないはずのスマホ。

画面は暗いままなのに、指だけがそこに残っている。


「見てるだけでいい」

そんなわけがなかった。


千代田は仰向けのまま、

天井をじっと見つめていた。

何も映らない白い面が、

逆に頭の中をうるさくさせる。


「安心する」

それだけは、嘘じゃなかった。


夜になると、声を思い出す。

中村はスマホを胸の上に置き、

通知が来てもいない画面を、

何度も点けては消した。


連絡していい理由を、探してしまう。


千代田は枕の端を、

無意識にぎゅっと握り締める。

触れている感触だけが、

ここに自分がいる証拠みたいで。


「少しだけ」と言いながら、

本当は、離れたくなかった。


目をギュッと瞑っても、

思考だけは止まらない。

中村は眉を寄せ、

何も見えない暗闇の中で、

同じ言葉を何度も反芻する。


応援すると言いながら、

選ばれたらいいと願ってしまう。


千代田はスマホを裏返し、

画面を伏せる。

来るはずのない通知から、

逃げるように。


答えを出さず、

そばにいようとする卑怯さ。

壊すのが怖くて、

恋だと言えない弱さ。


優しさは、ときどき自分を削る。

そして、その削れた部分に、

誰かが気づいてしまう。


中村は天井に視線を戻し、

静かな部屋で一人、

小さく息を吸う。


大人でいたかった。

子どものままでいたかった。


千代田は枕を抱き寄せ、

そこに顔を埋める。

声に出さない言葉だけが、

胸の奥で渦を巻く。


だから、少し離れる。

それが、自分を守る方法で。


それが、向き合う合図でもあった。


中村はスマホを置き、

布団の中で手を握り締める。

千代田は目をギュッと瞑り、

深く、深く息を吐く。


――おやすみ、中村。

――おやすみ、千代田。


同じ夜に、

同じ言葉を思いながら、

天井の向こうにいる誰かを想像して、

二人は少しだけ、遠ざかった。

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