表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キュンマグ!  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

行って帰るまでが遠足

 中村はふと、頭の中で言葉を組み立てる。


 仲良くするためだ。


 「無事に帰ってこよう。

 そう、行って帰るまでが遠足だったよね?

 間違ってないよね。」


 今って、絶対人生で最高に頭をフル回転させている。


 「って、僕、必死すぎてキャラ崩壊中?

 もしかしなくても……。」


「……うん、崩壊してるね」


 有本が即答する。


 間髪入れない。


 でも笑っている。


「でもさ」


 少しだけ声を落とす。


「その崩れ方、嫌いじゃない」


 優しい目で中村を見ながら。


「必死なの隠そうとしてない分、今までで一番分かりやすい」


 “分かりやすい”


 その言葉に、中村の胸が少しだけ軽くなる。


 千代田が続ける。


「……間違ってないよ」


 静かに、でもはっきり。


「“行って帰るまでが遠足”って言葉」


 一瞬視線を上げる。


「今の状況には、むしろ合ってる」


 中村を見る。


「途中で楽しくなくなったら」

「帰り道が気まずくなっても」


 少し口角が上がって。


「それも含めて、一緒に過ごした時間だから」


 その言葉は、逃げ道を塞ぐのではなく、覚悟を共有するものだった。


「てかさ」


 有本が肩をすくめる。


「仲良くするためのイベントで、主催者が一番テンパってるの、逆にレアだよ?」


 くすっと笑う。


「普通さ、余裕あるフリくらいするもんじゃん」


 余裕あるフリ。


 中村は一瞬、過去の自分を思い出す。


 笑って。

 軽口叩いて。

 空気を整えて。


 自分の緊張は、後回し。


「……でも」


 千代田の声が重なる。

 少しだけ柔らかい。


「今の中村は、“ちゃんと一緒にいようとしてる”」


 そしていつもの口調で。


「ただ……キャラ崩壊してるかどうかで言えば」


 小さく息を吐く。


「やっとキャラ外してる」


 その言葉は、否定ではなく許可だった。


 有本が指を一本立てる。


「だから結論ね」

「必死=失敗じゃない」


 少しだけ笑う。


「必死でやる遠足、意外と記憶に残るから」


 千代田が静かに頷く。


「……うん」

「間違ってない」

「少なくとも、一人で抱え込もうとしてた時よりは」


 二人とも、中村から目を逸らさない。


 主催者じゃなくて。

 一緒に行く“中村”として。

 その視線は、役割ではなく存在を見ている。


 中村は深く息を吸う。

 胸の奥の緊張は消えていない。

 でも、隠す必要もない。


「じゃぁ、決めた。朝から行くよ」


 ぽつりと口をつく。


 一瞬、二人が固まる。


「なんなら、開店前並ぶ」


 言い切る。

 廊下の時間が、一瞬止まる。



「……は?」


 有本が数秒フリーズする。


「ちょ、待って」

「開店前に並ぶ遠足って、どこの修行イベント?」


 でも、だんだん笑いがこみ上げてくる。


「朝から全力すぎでしょ主催者」

「体力配分って知ってる?」


 中村は少し照れくさく笑う。


「だってさ」


 口をちょろっと尖らせながら。


「逃げないって決めたなら、中途半端は嫌だし」


 言いながら、自分でも驚く。

 これは、見栄でもない。

 格好つけでもない。

 本気で、ちゃんとやりたいと思っている。


 千代田は一瞬考えてから、真顔で言う。


「ふふ……嫌いじゃない」


 中村を見る。


「“逃げない”って、そういうことだと思うし」


 有本に向き直って。


「朝からなら、人も少ないし、空気も軽い」


 有本が吹き出す。


「まさかの賛成派なのかぁー」

「はぁー朝活遠足かぁ。レアだねー」


 腕を組む。


「でもさ、開店前って何するの? ドアの前で決意表明?」


「それもアリかも」


「やめて、注目集めるやつ」


 笑いが重なる。

 軽い。


 でも、逃げていない軽さだ。

 中村は続ける。


「行って、遊んで、疲れて」

「帰り道で、今日どうだったか言えたらいい」


 中村は、気づけば自然に笑っていた。


「それが“行って帰るまで”かなって」


 千代田の目が、少しだけ柔らかくなる。


「……うん」

「それなら、遠足っぽい」


 有本が頷く。


「帰り道込み、ね」

「主催者、最後まで責任持ちなよ?」


「持ちます」


 即答する。

 笑いながら。



 廊下の人波が少しずつ減っていく。

 放課後の空気に変わる。


 日曜の朝。

 まだ少し涼しい空気。

 シャッターの前に並ぶ三人。


 想像すると、少しだけ笑えてくる。


 でも。


 逃げないで並ぶ。

 その姿勢が、今は大事だ。


「じゃあ決まりね」


 有本が最後に言う。


「朝活遠足」


  笑いながらも、目はちゃんと中村を見ている。


 千代田が、ほんの少しだけ視線を落とす。


「……うん」


 そして一言。


「ただし条件付き」


 廊下の空気が、ほんのわずかに変わる。

 中村の足が止まる。


「え?」


 有本も眉を上げる。


 千代田はゆっくり顔を上げる。

 逃がさない目。


 千代田の口元から、二人は目を離せないでいた。



そして千代田の口元が、ほんのわずかに動く。

 その瞬間だけ、廊下のざわめきが遠のいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ