「消えない主催」
中村の頭の上に重しがのしかかる。
『日曜』
その二文字が、頭の中で少しだけ現実味を帯びる。
『場所』
必要なのは、まずそれだ。
家に呼ぶのは流石に無い。
公園は天候に左右される。
カフェは座席が固定される。
固定される、というのが少し怖い。
逃げ道がない空間は、まだ早い気がした。
閉じ込められる感じが、今は少し重い。
「そうだ!」
中村が手を打つ。
「ショッピングモールいこうよ。
あそこなら色々楽しめるでしょ」
声はさっきより、少し落ち着いている。
一瞬、沈黙。
「お、急に現実的!」
有本が即座に食いつく。
「ショッピングモールは賢いわ」
指を折りながら数える。
「ゲーセンあるし、
フードコートでスイーツも堪能できるし」
にやっと笑う。
「それに……主催者、ちゃんと“閉じ込めない場所”選んでるの評価高い」
中村はわずかに苦笑する。
図星だ。
三人で盛り上がれたら、それが一番楽しいに決まってる。
笑って、はしゃいで、くだらないことで騒いで。
そういう時間が作れたら最高だ。
でも。
途中でちょっと一人になりたくなってもいいし、
気づいたら二人だけで話してる瞬間があってもいい。
無理に「ずっと三人」でいなくていい。
同じ場所にいながら、
それぞれの時間がちゃんとある。
そのくらいのゆるさが、今の三人にはちょうどよかった。
「……うん」
千代田が少し考えてから頷く。
「それなら、いい」
顎に手を当てる。
「色んなものあるから、それぞれの好みもがわかるのも、面白いかもしれないし」
廊下の窓から差し込む光が、三人の横顔を均等に照らす。
「ゲーセンなら、一人で黙る時間も取れるしね」
さらりと言う。
でもその言葉は、ちゃんとした理由だ。
ーー無理しなくていい時間を、ちゃんと用意してくれたってことか。
中村の胸の奥が、少しだけ軽くなる。
「え、千代ちゃん」
有本がニヤリとする。
「もう攻略考えてる顔してない?」
「……どんなゲームあるかは、事前に把握しときたいだけ」
千代田は視線を逸らす。
「苦手なの避けたいし」
「出た、ガチ勢」
有本が腕を組む。
「じゃあ私はUFOキャッチャー担当で」
中村の方を振り向いて、声のトーンが上がる。
「取れなかったら中村のせいね」
「理不尽すぎる!」
即座に返す。
軽い笑いが重なる。
空気が一段、柔らかくなる。
でも、その軽さの下には、さっきの“消えない”がまだ残っている。
「よし決定!」
有本が指を鳴らす。
「日曜、ショッピングモール集合!」
テンポが戻る。
軽さが戻る。
「主催者さん、
集合時間と場所だけはちゃんと決めてね?」
二人の視線が、また中村に集まる。
主催者。
その言葉が、前とは少しだけ違って響く。
何時集合?
どこのモール?
中村は、ほんの一瞬だけ考える。
曖昧にしたら、また同じになる。
近場のショッピングモールは、“色々思い出すな”と言われても無理な場所だ。
「そうだ、あそこがいい。
隣町のショッピングモール」
言い切る。
「あの、駅から直結のとこ」
「あ、隣町の?」
有本がすぐに反応する。
「いいじゃん、あそこデカいし。
ゲーセンもフードコートも選択肢多いしさ」
スマホを取り出し、検索し始める。
画面の光が、彼女の顔を照らす。
「主催者、ちゃんと“息できる場所”選べてるの偉い」
また、図星。
逃げるためじゃない。
でも、追い込まれない設計。
「……うん」
千代田が小さく息を吐く。
「無理しなくていい場所って、大事だから」
棘はない。
評価というより、確認。
逃げではない。
選択だ。
「じゃあ決まりね」
有本がスマホをしまう。
「何時にどこ?現地集合? それとも駅で待ち合わせ?」
ちらっと笑う。
「まさかとは思うけど、“また来週!”とか言わないよね?」
「言わない!」
即答する。
少しだけ笑いが重なる。
「時間ねーどうしようかな。まぁ、遅刻は置いていくかもだぞ……自己責任ね」
「へー、来週って言わないの偉い」
有本が笑う。
「ちゃんと“続きある終わり方”したもんね」
千代田がほんの少し口元を緩める。
「途中で切らないやつ」
その一言は、軽い。
でも意味はちゃんと重い。
隣町なら、気持ちも切り替えやすい。
「……日曜、ちゃんと行くよ」
千代田が静かに言う。
約束だ。
空気は、さっきより軽い。
でも、全部が軽くなったわけじゃない。
軽さの下に、ちゃんとした緊張がある。
消えない。
逃げない。
でも、閉じ込めない。
日曜。
余白のある場所。
主催者は、そこにいる。




