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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・上(幼少編)
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第二章「星の子」2

 王都へ出発するのは明日にした。これから日が沈むという刻に出ても、何処かで野宿することになる。それよりかは壁に囲われた屋根のあるところで寝る方が断然、体が休まるというものだ。


 手下に米を炊く支度をさせ、ルカは、井戸の側でラムソンを洗うリオラに話しかける。


「今日、釜で米を炊くが一緒に食べるか?」


「食べる。これも一緒に入れて」


 ルカは籠かごから出されたラムソンの数を見て驚いた。一人で食べるには明らかに多すぎるのだ。


「お前、まさか、私たちの分も……」


「来るの、わかってたから——」


「だったら、この後、どんな目に会うのかも全部わかっているはずだ。なのになぜ……」


「うん。全部わかってる。隔離されるんでしょ? でも、ここに一人でいるよりはいいから」


「そうか……」


 この子は星の子の力を使えるだけであって、結局中身はただの子供なのだ。星の子がどのようにして現れるのかは知らないが、本当なら親元で育てられるはず(よわい)の子が、今こうして廃村に一人で生活している。ずっと一人で寂しかったろうに……。


「同情するなら手伝ってよ」


「……ああ、すまない」


 ルカは新しくたらいを持ってくると井戸水を汲み上げ、たらいに流し込んだ。まだ土のついたラムソンをつまみ上げると、水の中でさっとゆすいでざるに乗せる。ざっくりと水を切ると、米を炊く準備ができた釜の中に入れた。さらに残っていた干し肉も全部入れる。


 飯が炊き上がると、湯気に混ざってニンニクに似た香りと干し肉のクセになる匂いが部屋に立ち込める。これで甘辛の味噌があれば最高だったろうにと思いながらルカは、炊きあがった釜の飯を混ぜ込む。手際よく椀に盛ると壁にもたれながら飯をかき込んだ。他の兵も各々が好きな場所に座り込み飯を食い始める。


 ラムソンのこうばしい豊かな香りと、肉の旨味を纏った米をルカとその他の兵は、一気に平らげた。


 片付け番が外で食器を洗う中、他の部下が次々とリオラに話しかける。ただの言い伝えだと思っていた星の子が、いま実際に目の前にいるのだ。興味が湧くのも無理はない。


「ここでどうやって暮らしてたんだ? 何を食べて生きてきた?」


 リオラは部下の問いに笑顔で答える。


「山で採れる山菜、芋、それと沢にいけば魚も獲れる」


 次に他の兵士がリオラに質問する。


「どうやって魚を取るんだ? 釣り道具なんてないだろ。まさか手づかみか?」


「違うよ。魔法で浮かせて獲るの。そうすると簡単に獲れるよ」


 リオラは兵士と簡単に馴染んだ。これから同じ寮で生活することになるのだから、その点に関しては一安心だ。ただ、五年後この子は……。


 城の中で(かくま)うと言えば聞こえはいいが、単純に外に出さないということは幽閉することと何も変わらない。それでも、この子が王都に行く事を望むのは、いったいなぜなのだろうか……。




 灯りを消し、皆が寝に落ちた後もルカは独り考えていた。


 本当にこんな子供を城に閉じ込めていいのだろうか? 城にいる貴族の子も閉じ込められていると言えばそうなのだが、自由時間に外へ出ることはできるし、領主になれる権利を捨て去れば外で暮らすこともできる。しかし、この子は生きていける年月が少ない上に自由がない。


 ルカは自分ができる範囲なら、なるべくリオラの希望を叶えてやろうと誓った。




 何日か掛け、ルカ達は王城に戻った。貴族を収容した建物の隣。兵舎前の訓練場では今日もあの二人が稽古を付けていた。


 激しく打ちあう二人を見てリオラが兵舎の入り口で立ち止まる。


「あの女の人は?」


「あいつはエミリー・ウィリアムズだ。人一倍頭がよくてな、多分次に領地が与えられるのはあいつだろう」


「あっちの男の子の方は?」


「ラルフ・ロドリゲスだ。魔法が得意で、剣はあんまりだったんだが、努力してあそこまで打ち合えるようになった」


 少しの間、二人の稽古を眺めていると、打ち合いに決着がついたのかラルフが地面に座りこみ、エミリーは剣を持つ腕を下ろした。 


 エミリーが不意に振り向きこちらに気がつくと、手を振ってくる。それを見たラルフもこちらに顔を向け、手を上げた。彼らにとっては挨拶をしているつもりなのだろう。しかし、ルカは慌ててリオラを体の後ろに隠した。


「あまり人目に触れてはいけないんだ。早く中へ入ってくれ」


 ルカはリオラを押し込むように建物の中へと入れる。中に入るとリオラを連れて三階へと上がった。通路を少し進みリオラのものとなる予定の部屋の前までくると扉を叩く。


 中から「入れ」という声が響き、ルカは扉を開け中に入った。


「お頭、ただいま戻りました」


 言うと、正面の長椅子に座るモーゼスが気楽に返す。


「おう、ご苦労さん。ちゃんと誰にも見られずに連れ帰ったよな?」


 その問いにルカは首を横に振った。


「いいえ、ラルフとエミリーには気づかれてしまいました」


 モーゼスは呆れたように額をおさえた。


「よりによってあの二人に……。まあ仕方がないか。それで、その子が星の子なんだよな……、名前は?」


「リオラ」


「リオラか……。光の意味をもつ良い名だ。リオラ、今いるこの部屋がお前の部屋だ。自由に使ってくれ」


 この部屋は元々談話室として使っていた部屋でルカやモーゼスの部屋よりも一回りも二周りも広い。リオラは部屋をゆっくりと見渡し、口を開く。


「思ってたよりも広いね。みんなもっと狭いのに」


 その言葉にモーゼスは感心したように言った。


「へー驚いたな。お前、そういうこともわかるのか?」


 モーゼスの言葉にリオラは頷く。モーゼスはさらに続けた。


「なあ、星の子は不思議な力を使うと聞く。試しに何か使ってみてくれないか」


「いいよ」


 と、リオラは言うと、指でモーゼスの額に触れた。その瞬間、モーゼスはまるで糸の切れた操り人形のように、膝から崩れ落ち、項垂れた。


 そして、リオラの姿は瞬きする間も無く消えた。少女の無邪気な笑い声が響く中、扉が勝手にばたんと開き、その声は部屋の外へと消えていった。

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