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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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終章「星の降る夜に」3

 ゼルフィーに雷魔法なら効くとわかっても、他の兵士に安易に使わせるわけにはいかなかった。雷魔法というのは、放つ方向を決められても放ってからの挙動というのは全く制御できないからだ。つまり、近くにいる仲間に当たる可能性だってある。


 それをゼルフィもわかっているのだろう。他の兵士をそっちのけにして僕を執拗に追いかけ回してくる。


 計八本もある手足を蜘蛛のように器用に動かして僕を潰すために迫ってくる。いくら走っても奴は逃がそうとしない。


 ぼうっと視界の横を火の玉が通り過ぎた。さらにいくつもの火球が僕の横を通り過ぎる。


 魔法兵の放った火炎魔法だ。彼らが放った火球を受けるためゼルフィーは立ち止まり腕を身体前で交差させる。


 隙が生まれた。


 僕は迷わず進路を反転させる。


 ゼルフィーから逃げるために動かしていた脚を今度は反撃のために動かす。そして、思いっきり地面を踏み飛び上がった。


 中空に舞った僕を見てゼルフィーが腕をひく。その拳の照準がまっすぐ僕を捕らえた。


 今度こそ僕を叩き潰そうとしている。直感でそう思った。僕に対しては防御をせず、攻撃に徹してきている。


 防御が困難だと確信したからの行動なのだろう。だが、それが僕の狙いだった。


 怪物の禍々しく巨大な腕が突き出される。


 僕は自分の体に浮遊魔法をかけた。体が一瞬、フワッと上昇した。それでもゼルフィーの腕の軌道から外れるには足りず、体を捻る。怪物の拳は背中を掠めて後ろへと抜けていった。


 僕は勢いのままゼルフィの本体に飛んでいく。


 僕は、右手に炎を生成した。この一撃に賭けよう。これで終わらせるんだ。


 体全身から集めた魔力を一気に炎に変換する。片手では手に負えないほどの火球が右手に生まれ僕は、ゼルフィの顔にそいつを押し当てた。


 じゅっと、一瞬にして水分が蒸発した。


 そして——。


「ギィやややややややややあああああ!!!!」


 耳をつん裂きそうな絶叫が辺りにこだまする。


 僕が着地したとほぼ同時、ゼルフィはそのまま倒れ込み、動かなくなった。


 見ると奴の顔は無くなっている。ありったけの魔力を込めた火炎魔法は寸時にゼルフィの顔を焼き尽くしたのだろう。だが、それは僕にも大きな痛手を負わせた。


 鼻から血がポタポタと垂れる。立っていられないほどの眩暈。僕はしゃがみ込み地面に手をついた。


「ラルフ、一旦下がれ」


 駆け寄ってきたモーゼスとルカに両肩を担がれ、足を引きずられながら、ゼルフィから引き離された。すぐさま魔法兵が僕の全身に治癒魔法をかける。鼻血は止まった。眩暈も治った。だが、もう魔法は使えない。僕の魔力は完全に枯渇してしまったのだ。これ以上は体を犠牲にしなければならない。 


 つまり、僕はもう戦えない。


 幸いなことにゼルフィは動きを止めたままだった。頭部の欠損は回復までにかなり時間を使うのだろう。だが、まだ倒せていない。他の兵達もそのことに気づいていた。


 また靄が湧いて、ディアトロスが姿を現す。


「まだ、力を残しているのか。いったい、いつになったらやられてくれる」


「奴はリオラの手を体に取り込んだ。たぶん残っている力はこんなもんじゃない」


 僕が、立ちあがろうとするとモーゼスが上から肩を押さえつけた。


「おっと。まだ体の治癒が完璧じゃないだろ。お前は引っ込んでな。ここは俺たちが攻撃を請け負う」


「モーゼス、何を言って……」


 言っても無駄だと思って僕は口を閉じた。僕が呼び止めようとしてもモーゼスの気は変わらないだろう。ディアトロスを睨む憤りの目。誰にも彼を止められない。


「そういうこった。魔法兵の諸君。援護を頼むぜ」


 モーゼスがディアトロスに向かっていく。続いてルカが……。さらに他の傭兵たちが駆け出していった。


 皆が、無謀にも巨躯の怪物に立ち向かう。


「治癒はあとどのくらいかかる!」


 いつまでも治らない身体に苛立ち、僕の体を治癒している兵士に訊いた。


「まだ半分も済んでない。まともに戦えるようになるにはだいぶかかる」


「それじゃあ、困る。後五分以内に終わらせろ」


 ここに魔法兵がいる限り、負傷したとしても傷を治すことはできる。だが、死亡した場合はそうはいかない。即死の重傷を負ってしまえばもう復活はならない。それで死んだ兵士がもうすでに三十は超えている。


 いずれはモーゼス、ルカその他の傭兵、そしてここにいる全員が殺される。


 兵士が命を散らす様を僕は美しいとは思わない。ただ悲しくて虚しいだけだ。


 だから……。


「……急いでくれ」





 


 予備の馬車にどれくらいの時間、乗っていたか。二頭の馬によって引かれているこの馬車はそれなりに速度が出る。もうだいぶゼルフィーとは離れたのだろう。隣に座るリオラは落ち着く様子もなく窓の外を眺めている。周りの騎馬兵が持つ松明の明かりしかないから、外の様子はあまり見えないはずなのに……。きっとラルフが速馬に乗って追いついてくるのを待っているんだ。


 ただ、エミリーも気が付いていた。ゼルフィーを倒すのは、ほぼ不可能だということを。あれだけの業火に焼かれてもはゼルフィーは無傷だった。不死身だとしか思えなかった。


「あのね、リオラ。もう諦めた方が……」


「まだ、時間がある。ラルフは絶対にくる。だって約束してくれたもん。見送ってくれるって」


 そう思いたい気持ちもわかる。ただ、あの化け物相手にどうなるというのか。エミリーは諦めていた。ラルフは死んでしまう。あの化け物に立ち向かって帰らぬ人になる。それを覚悟していた矢先だった。


 リオラが突然、騒ぎ出す。


「熱い! 熱い! なにこれ!?」


 リオラは慌てて服の首元から腕を突っ込む。まごつきながら引き抜かれたその手にあったのは、小さな巾着袋だった。すっかり忘れていた。リュザクが残した石があったことを。巾着袋の隙間から光が漏れている。リオラが開けようとした時、巾着袋が突然発火した。リオラが手をはなしても袋は浮いたままだった。周りを覆っていた布が燃え尽き、中に入っていた卵型の石は浮遊する。


 石が何かを訴えかけているように見えた。発光し熱を持って、自分達に知らせようとしている。


 リオラは、首をかしげた。


「これで、何をしろっていうのリュザク。あなたの魂が込められたこの石でリオラは何をすればいいの?」


 聞き捨てならないことだった。リュザクの魂はまだこの世に存在していたのだ。


「ちょっと待って。リオラ、リュザクはその石に宿ってるっていうの?」


「そうだよ。ここにリュザクの魂はいる。でも何をどうすればいいのか……。何をして欲しいのかわからないんだ」


 エミリーは疑問に思った。


 ただ、父親を止めて欲しいと伝えるためだけに、自らの魂を一千年も残すだろうか。もし伝えるだけで済むのなら、石板に記して残すだけでもよかったはず。自らの魂を残しておく必要なんてない。


 つまりは、自らを介入させるため、魂だけの存在になっても現世に残った。そう考えるのが自然だ。


 なら、答えは自然と見えてくる。リュザクの望みはゼルフロドリゲスの荒んだ魂の浄化。そこに自らが介入するということは……。


 魂同士を接触させれば良い。


「ねえ、もしかしてリュザクはゼルフィと接触がしたいんじゃないの」


 エミリーの言葉に、石が反応を示す。強い光を発し続けるだけだった石が明滅しし、やがて光が止んだ。


「でも、どこに……」


 リオラが訊いてくる。


「魂がいるところ」


「ということは頭?」


「違うわ。心臓よ。心臓に直接接触させるなら剣にするのが一番よ」


 エミリーの言葉に再び石が反応する。光を発し二回点滅した。


 わかった、とリオラは言うと指先でチョンと石に触れた。その瞬間みるみるうちに石は形が変形していき、卵型だったその石は光りながら先端を伸ばしていった。それと同時に平たくなり、そして……。


 どーんと、馬車の扉を突き破った。


 突然、馬車の扉がありえない破損の仕方をして、周りにいた兵士が困惑の声を上げる。当然馬車は停車。周りの騎馬兵も止まった。兵士が様子を見るために突き破られた扉から顔を覗かせる。


「大丈夫か……」


「大丈夫です。それよりも兵士さん。馬を貸してください」


「えっ!? 馬って何をする気なんだい」


「それを説明している暇はないんです。早くこの剣をラルフに届けないと」


 リオラの両腕に抱えられているのは真珠色の剣。虹のように多彩に輝き、そしてあまりに大きすぎて重たすぎる。リオラが両腕でなんとか持ち上げられるくらいの重量があるのだ。


「思いっきり重たいのに耐えられる馬はどれですか」


「だったら馬車馬を走らせた方がいい。かなりの重量に耐えられるからな。待ってろ。すぐ準備してやる」


 リオラも馬車から出てくると、飛び散った木片にチョンと指先で触れる。その瞬間、木片は鞘に変形した。


「この剣、結構重たい。エミリー、入れるの手伝って」


 リオラが持ち上げた剣の先からエミリーは鞘を被せる。剣身の全部が入り切るとリオラは限界だったのか手を離した。


 グッと重みが自分の両腕にかかる。相当な重みだった。柄の長さ剣身の長さからして両手剣。重さはおそらく、小麦俵と大差ない。


「よし、馬の準備はできたぞ」


 エミリーが先に乗りその後ろにリオラも乗った。


「二人用の蔵がないからな。落っこちないようにな」


「わかってます」


 エミリーは手綱を振る。勢いよく飛び出した馬に振り落とされないように腿の内側に力を込めた。


 他の騎馬兵も慌てて跡を追った。


 エミリーは心の焦りに任せるまま馬を走らせた。なるべく早く。間に合って欲しいと願いながら。

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