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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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終章「星の降る夜に」2

 光が弱まって目を開くと、ゼルフィは人の姿をしていなかった。化け物だ。


 ディアトロスの腕と足を四本ずつ。縄のように発達した筋肉。鋭くとがった巨大な爪。そしてディアトロスと同じ翼と大蛇を思わせる尻尾を持つ。


 仰々しい見た目のモンスターだった。だが、まだ人の姿を残している部分はある。


 それは胴体と顔だけだ。やつの体は怪物の身体に下半身と腕が埋もれた状態で佇んでいる。二つの体を跨ぐように禍々しい赤い血管が束になって奔っていた。


 人のものとは思えないほどの白い肌。白目を失った真っ黒な目。その見た目は悪魔そのものだ。


 奴は、この世に悪魔は存在しないと言ったが、これを見て誰が信じられるだろうか。こんな恐ろしい姿を見たら誰だって悪魔だと思ってしまうに決まっている。


 ゼルフィがぬっと巨大な腕を払う。臭気をまとった生暖かい風が吹き抜け木々を揺らした。すると一斉に草木が枯れはじめる。


 葉は生命の色をなくしてしおれていっては、茶色く変色し散っていく。


 幹も根本から腐ってしまったのか力なく倒れていく。


「見送り人が命ずる。ヨサ、バーバスカムのウィザードは火炎魔法で奴を焼き払え。5、4、3、2、1、放て」


 僕の掛け声と共に数えきれないほどの火球が中空を渡る。


 ヨサ、バーバスカムの両国の魔法兵が一斉に放った火球の全てがゼルフィーに命中し、巨大な火柱をあげた。


 ゼルフィは身を縮め呻き声のような声を上げる。効いているように見えた。


 だが、それだけだった。


 ゼルフィーは四本の腕を体の前で交差させ、炎が奴の本体に到達しないようにしていた。


 奴の魔物じみた腕は全て奴のものではない。化け物の腕を盾にして、腕自体も魔法で急速に回復させてしまう。


 しかも、奴は周りの木々から力を吸い取っている。使える魔力は莫大なものだ。


 ゼルフィーは四本の脚でグッと体を沈め力を貯めると一気にその力を解放する。


「その力をよこせ!」


 飛び上がったゼルフィーは真っ直ぐリオラの方へ向かっていく。放物線を描くように飛んでくるゼルフィーの怪物の拳がリオラに突き出された。


 ——が、リオラには全く効かない。


 巨大な障壁がいきなりリオラの目の前に出現しゼルフィーの拳を防ぐ。反対に障壁が大きな衝撃波を発生させゼルフィーを弾き飛ばした。


 障壁の波動によって突き飛ばされたゼルフィーは、地面と衝突すると、そのままの勢いでぐるりと一回転する。


 ゆっくりと起き上がると人のものとは思えない濁声で言った。


「力を寄越す気がないのなら無理やり奪うまでだ」


 辺りに黒い霧のような靄が地の下から出現する。それも一つではない。その数、十。いや二十はくだらない。靄は一斉に出現し、凝縮していくと悪魔の形になっていく。


 ディアトロスが再び呼び起こされてしまったのだ。


 僕はこの状況がいかに不味い状況なのか察した。


 魔法による障壁は一度に全方向へ張ることが出来ない。それは星の子であっても同じだ。つまり、このまま囲われてしまうと、ディアトロスを防ぎきれず、リオラと接触がされてしまうのだ。直接触れられた後では障壁の展開はできない。


「リオラ、先に行ってろ。このまま、ここにいても見送りの儀式はできない。それにあと一時間もしないうちにあの星は落っこってくる。時間がない」


「でも、それだとラルフが……」


「最悪の場合、エミリーに見送り人をやってもらえ」


 僕はヨサの兵士に尋ねる。


「ヨサの兵。馬車の予備は残っているか?」


「ああ、まだ無傷なのが一つだけある」


「エミリー。頼む。リオラを連れていってくれ」


 それを聞いて、リオラが首を横に振る。


「嫌だ。私ラルフじゃなきゃダメなの。まだ、ちゃんとしたいことできてないから」


「リオラ。わがまま言わないで。あなたが来てくれなくちゃ、みんな死んじゃうの」


 泣き渋るリオラ。そんな彼女に僕は約束する。


「大丈夫だ、リオラ。必ず向かう」


「絶対だよ。来なきゃ呪うから」


 おいおい……。冗談になってないよ。


 リオラとエミリーが駆け出し、離れていく。


 退路を守るため、僕は指示を飛ばした。


「魔法兵。全てのディアトロスを焼き払え。一体も通すな!」


 一斉に火球が全てのディアトロスに放たれる。


 ディアトロスの体を火炎が覆っている間にリオラとエミリーを乗せた馬車は星見の台座の方へ離れていった。


 僕はゼルフィーに向き直る。


「これでお前の選択肢は僕を殺す以外になくなったな」


「お主は、見送り人としての責務を放棄するのか」


「違う。さっきのはリオラがここから離れるための口実だ。僕はお前を殺してちゃんと星見の台座まで向かう。幸いまだ馬は残っているしな」


「わたしが馬を殺したらどうなのだ? そもそも、見送り人の変更はできないはずだ。お主が……。正確にはお主の体が星見の台座に乗っていない限り、星の子は、彗星破壊の力を発現できない。幸いなことにわたしは魂だけで現世に留まることができるから、お主らが彗星の破壊に失敗したとて、どうってことないのだが」


「また一千年も待つのか。もう待てないだろ、お前は。馬は僕の体を乗っ取った後に必要になってくる。だから馬を殺せない」


「なるほど。だが、わしは皆殺しにすれば良いことに変わりはないな」


 ゼルフィーが不気味に笑った。


 僕はヨサの兵士に問う。


「ディアトロスの相手、そっちに任せても良いか?」


「ディアトロスならできる。だが、ゼルフは」


「わかっている。あいつはこっちでなんとかする」


「モーゼス。ルカ、こっちで援護を頼む。魔法兵はディアトロスの殲滅と魔法による僕らの援護を頼む」


 ……行くぞ。


 僕らは一斉に動き出した。




 ◇




 魔法兵が周りのディアトロスを駆逐していく。僕らもゼルフィーに対して攻撃を開始した。


 離れた所からの魔法攻撃は防がれてしまうので、まず距離を詰めることを試みる。しかし、そう簡単に奴は距離を詰めさせてはくれない。


 ゼルフィーは次々にディアトロスを呼び出す。そいつらが立ちはだかってまったく近づけないなのだ。ディアトロスはいくら倒しても、また新しく生み出されきりがなかった。


「どうすんだ、ラルフ。これじゃあ拉致があかねえ」


「そんなのわかっている!」


 いくら魔法兵がディアトロスを殲滅してもまた湧いてくる。魔法兵も僕らに援護する余裕はなく、周りから湧いてくるディアトロスの処理で手一杯だった。


 モーゼス、ルカ、その他の傭兵は、ディアトロスを倒すとはできない。魔法が使えないからだ。


 遠く離れたディアトロスなら魔法攻撃だけで倒せるだろう。だが、近接戦となるとそれが難しい。


 だから、モーゼスたちが近づいてくるディアトロスの攻撃を防ぎ、反撃して怯ませたのち、魔法によるとどめを僕がとる、という戦法を取らざるを得なかった。


 しかし、それではいつまでたってもゼルフィーに届かない。


 湧いてくるディアトロスの腕をモーゼスが斬り飛ばし、僕が火炎魔法でとどめを刺す。


 目の前のディアトロスが全て消えたところで僕らは一度止まった。


 奴も、力の消費を抑えるためなのか僕らが向かおうとしなければディアトロスを生み出してこない。


 見える範囲の木々は全て枯れている。力も無限ではない。


 だが、それは奴が移動しなければの話だ。奴がリオラたちを追って移動すれば再び、移動先の木々から力を吸い取るだろう。


 厳しすぎる。僕の魔力も残りはそう多く残っていないだろう。


 それを察してかモーゼスがスッと前に歩み出た。


「ラルフ。お前はもうディアトロスを気にするな。俺たちがどうにか食い止める」


「死ぬつもりか……。ディアトロスの攻撃を止められるわけないだろう」


「うるせえ! このままいけば状況の打開は不可能だ。いずれ消耗戦になって死ぬだろうよ。だったらいくっきゃねえだろ。それにお前は魔力を消耗しちゃいけねえ。お前は体力をあいつを倒すためにとっておけ」


「ラルフ。私たちの心配はいい。お前はゼルフィのところに真っ直ぐ向かえ」


「わかった。死ぬなよ」


 二人は僕よりも先に駆け出す。僕も後に続いた。また、靄が土から湧いてくる。


 最初に立ち塞がってくるディアトロスをモーゼスが体を張って止めに入った。


 ディアトロスの喉元に剣を突き入れる。怪物の腕がモーゼスの肩に叩き込まれてもモーゼスは怯むことなく耐え続けた。


 二体目が湧くと、今度はルカが対峙した。


 軽い身のこなしで翻弄すると、脚を切り飛ばし動きを封じる。


 三体目が湧き、僕と正面から対峙した。僕はそいつの腕を手早く斬り飛ばし足を剣で掻っ攫うと再び、ゼルフィーに向けて走る。


 その距離がどんどん縮まっていく。もうディアトロスを出しても意味がない。ゼルフィもそう思ったのだろう。


 四本の腕のうちの一本が僕に突き出された。


 咄嗟に僕は飛び上がった。


 丸太のような太い腕が地面を叩きつける。僕はその腕に着地すると腕を駆け上がった。


 腕を伝い、ゼルフィの本体を目の前に剣を振りかざした。


 そして思いっきり振り下ろす。


 ゼルフィーが残りの腕で身体を覆った。その腕を目がけて剣は降りていく。


 接触した瞬間だった。


 ガキーンという金属打音と共に剣身がガラスのようにいきなり砕け散った。


 意味がわからなかった。剣がたった一撃当たっただけで砕けるなんて聞いたことがない。


 まさか、物質変換魔法をしたのか。


 ゼルフィーの拳が僕に照準を合わせる。


 僕は慌てて、飛び退いた。だが、間に合わない。


 自分が虫ケラにでもなったのかと思うほどの巨大な拳が視界を埋め尽くした。


 とっさに右手をかざす。瞬発的に意識できたのは青い閃光だった。手から稲妻が飛び出す。巨大な腕に雷が奔ると一瞬、ゼルフィが怯んだような気がした。奴は拳を突き出すのをやめ、手を閉じたり開いたりして動きを確かめている。


 僕は地面に着地し、まじまじとその動きを見て思った。


 もしかして、雷魔法なら通るのか……。


 ふと、周りが妙に落ち着いていることに気がついて僕は見回した。辺りにいたディアトロスは、全て魔法兵が倒したようだ。モーゼスもルカも一旦さがって治癒魔法による治療を受けている最中だ。


「おっと。わしの下部がいなくなっておる。足さなければな」


 まだ、兵士の治療は済んでいない。僕は雷魔法をゼルフィに向けてはなった。閃光がいくつも枝分かれし、それぞれが矢のようになってゼルフィに向かっていく。ゼルフィが腕を体の前で交差させ防御の姿勢をとった時、喫驚の声がゼルフィの口から漏れた。


 稲妻がゼルフィの体に到達したのだ。化け物の腕を伝って奴の本体まで——。やはり、雷魔法は通用する。


「小賢しい真似を」と、ゼルフィーは不気味に喚いた。

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