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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第六章「逃亡」7

 僕らは急いで山を登った。国境となる山脈の道は簡単には、速く移動をさせてくれない。平坦の道は馬で駆けたとしてもすぐ、急な坂が出てくる。人を二人、一人と大荷物を抱えての乗馬は負担が大きすぎた。


 馬はすぐに息を荒げてしまう。今までに聞いたことのないほどの荒げ方だったが、止めるわけには行かなかった。ここで歩いたら後ろから迫るテトフスの兵士に追いつかれてしまう。


 しかし。僕の乗る馬が咽せるような仕草を見せ始め僕は馬を止めた。


「なんで止まるの!?」


 エミリーの問いに僕は飛び降りてから答える。


「捨てよう。このままだと追いつかれる。鞍と手綱を外して。荷物もおろして。ここからは走って逃げる」


 後ろを見ればテトフスの兵は弓矢の射程圏内に入ろうとしていた。


「射抜かれたくないなら急げ」


 僕はエミリーとリオラを先に走らせる。馬の尻を叩き、ここから離れるように促すと、二頭の馬はウサウサと敵兵とは違う方に歩いて行った。


 それを見送り僕は、敵兵の方に目をやる。奴らは既に長弓の射程圏内に入っていた。何人かの弓兵が矢をつがえているのが見えた。鋭く張った長弓から矢が放たれる。


 矢は陽の光を反射させ、高速で飛来する。僕は鞘から剣を引き抜くと、飛んでくる矢に目を凝らした。同時に左手に熱をイメージする。


 飛来してくる矢の数は五本。


 それぞれが少しずつ時間と照準をずらして飛んでくる。


 まず、先に飛んでくる矢を剣で弾くと半歩後ろに下がる。他の矢が当たらないところに素早く移動すると、左手にためてた熱を火球へと変換する。ボーッと出現する火球。顔よりも大きいそれを敵兵共に向けて発射した。


 矢を越える速度で飛来する火の玉を、鎧を着込んだ兵士が避けられるわけがなかった。敵国兵の一人に命中し、その兵士は燃え上がった。さらにその兵士との衝突時に火の玉が爆散し、周りの兵士にも火の手が襲う。


 一回の攻撃で四人以上の犠牲者が出た。牽制にはなっただろう。敵兵たちが狼狽しているのを見て、僕は坂を駆け上がる。先に行った二人に追いついても走り続けた。


 


 走り続けるとやがて足場はゴロゴロとした岩ばかりになる。壁のように急な坂。水が流れていた跡なのか、道の両側は崖になっていた。


 もう随分と登ってきた。目眩もしている。


「この先に碧い泉がある」


 そのリオラの声が唯一の救いだった。——けど限界だった。


 いくら吸っても荒れる呼吸。足が鉛のように重い。今ここで立ち止まってしまえば、踏ん張りが効かずに今まで登ってきた道を転げ落ちてしまう気がした。


 だけどもう限界だった。


 僕は地面に手をついた。


 全身から噴き出る汗。全身がじわりと暑く頭がくらりとした。


「ラルフ!?」


 先に登っているリオラが僕の異変に気がついて降りてくる。僕の腕を肩にかけると体重をかけるように促してくる。


 エミリーもそばまで来て肩をかす。二人に支えられる形で急坂を登ろうとした。


 なぜ、こんなに体が重たいのか皆目見当もつかない。戦場では魔法をもっと惜しみなく使えたはずなのに、今はなぜか使うたびに体を消耗していくようなそんな感覚があった。


 ——いったいなぜ?


 なんとか動かない足を運ぼうとしていると、後方で火薬の弾ける音が聞こえた。ついこの間、戦場で聞いたあの音だ。まるで大砲のような巨大な音。それが鳴ったあと、数秒もしないうちに真横の岩が弾け飛んだ。


 三人同時、坂に張り付くように身を伏せた。顔だけ振り返って下の方を見ると、そこにはさっき撒いたはずの兵隊がいた。


 彼らは横に列を作り、脇に大きな銃のようなものを抱えていた。


「石火矢だ」


 リオラが呟いた。


「石火矢? 東洋の攻城戦で使われるあの兵器か? なんでそんなものがテトフスにある」


「誰かが根回ししたとしか言いようがない。早く逃げないと」


 リオラは急いで登ろうとする。でも僕は脚を動かさなかった。


 もういい加減追われるのに疲れた。なぜ僕らがこんな目に遭わなければいけないのか。僕らが今いるこの星を救うためにただ、星見の台座に行こうとしているだけなのに。なぜこんなに攻撃をされなければならない。


 腹の底から怒りが湧いてくる。僕は体を反転させ尻を斜面についた。その場で両腕を交差させた。手に意識したのは見えない巨大な綱。その綱が両側の崖、僕らよりも少し前方の岩にビッタリとくっついていることを意識する。そして両の腕を広げようと力を込めた。


「ラルフ、何をしようとしてるの? そんなことしたらラルフの体が……」


「もたなくてもいい。こいつらに目に物を見せてやる」


 僕がやろうとしているのは崖くずしだ。これだけの急斜なら崩した岩々が斜面をくだって兵隊共を押しつぶすだろう。


 その場しのぎのためならそんなことしなくたっていい。そのくらい僕もわかっている。火球を奴らに放ってしまえば、奴らが持ってる火薬に引火して隊を壊滅させることができるだろう。


 だが、それだけではまた奴らは兵士を送りつけてくるかもしれない。


 この無意味な争いを終わらせるためには道を塞ぐ必要もあった。


 びくともしない腕を無理やり動かそうとすると、関節が外れそうになる。肩、肘が悲鳴をあげていた。靭帯も筋肉もちぎれそうだと言っているようだった。


 いや、もう切れていたのだろう。突然腕から血が噴き出た。痛みもあった。でも止まらない。


 不意に敵の礫だまが目の前まで飛んでくる。


 その礫だまをリオラが障壁を張って防いだ。


 腕が引っこ抜けて飛んでいきそうになる。意識も飛びそうになる。さらに、身体の奥の方で何かが煮えたぎるように熱くなっていった。


 それでも……。


 岸壁がバリバリと音を立てはじめる。崖から剥がれた小石が落ちてきては斜面を転げ落ちていく。何度も何度も落ちていくたびに僕の両腕は広がっていく。そして、僕の両腕は一気に開いた。僕の両肘から尋常でない血が噴き出る。


 崖から二つの岩の塊が剥がれ落ちた。そして、何もかもの感覚が途絶え、視界が真っ暗になった。

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