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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・下(少年編)
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第五章「魔法剣士」2

 魔法剣士は騎馬隊を組み敵陣に向け侵攻した。狙うは敵国の総士官、シュターゲルの首。


 魔法剣士はバーバスカム王国が持つ最強の兵士だ。


 剣の腕にたけ、魔力の消耗を抑えながら戦うことができる。一度の戦で、一人で敵兵を何十、何百人と倒すことも少なくない。周辺諸国からは、魔法剣士の騎馬隊は特に恐れられている。


 魔法によって敵を押しのけ、銃の弾、弓矢ともに諸共せず、一気に敵陣まで攻め込む。隣国が恐怖を抱くのも当然だろう。


 進路上にいる敵の残存兵はすべて魔法で排除した。通った跡には、敵の死体だけが転がる。


 侵攻は順調だった。敵兵が飛ばす矢と鉄砲玉を跳ね除け、敵陣との距離を縮めていく。


 だが、向こうも動き出した。


 矢笛が天高く放たれたのだ。まるで猛鳥がヒューと鳴くように、戦場全体に笛の音が響き渡った。


 これは敵国の突入の合図だろう。だが無駄だ。自陣には魔法兵が待機している。さらに、弓兵も全ておいてきた。


 それが何を意味するのか。


 魔法兵が制御する矢が、敵兵の命を確実に屠るということだ。


 敵兵の居場所は鷹の眼を使って特定済み。すべての敵を逃さず、皆殺しにする。


 作戦は完璧だ。自陣が占領されることはおそらくないだろう。


 僕は構わず隊を進める。


 正面では、鷹使いが警告していた丘がその姿を大きくしている。だが、とうぜんだが、そこに真正面から突っ込むほど僕も馬鹿ではない。接敵して全滅する危険性を考慮して二手に分かれ丘を迂回する。奴らに魔法障壁を打ち破る手段がない限り、接敵しなければ被害が出ることもない。


 だが、一部には魔法障壁を打ち破る武器がある。


 例えば、攻城戦などで使う大砲などの重たい攻撃だ。高速で飛来する砲弾はさすがの魔法でも止めることはできない。


 まさか、持っているのか。そんな攻撃手段を。


 周囲の索敵係のマルセルが何かを察知したのか叫んだ。


「ラルフ。あの丘の上に投石機と弓兵が待機している。一応警戒は怠らないようにしよう」


 丘の下からでもチラッとアームが回転するのが見えた。その先端から馬ほどの大きさの岩が飛び出す。巨大な礫は弧を描き僕らに向かって飛来してくる。


「二手に別れる。すぐに散れ」


 隊は丘を境に分裂した。僕とマルセルは分裂した右手側に着く。南側を大きく回るように迂回する。その間にも上の方から敵の矢が降ってくる。


「左翼、障壁展開!」


 僕の指示通り、隊の一番左に位置する者が障壁を展開する。矢は僕らの手前まで飛んでくるが、何かに弾かれるように落下していく。


「防御を固めれば当たらない。構わず進むぞ!」


 そのまま馬を走らせようと思った。だが、僕は一生分の後悔をこの瞬間にすることになる。


 巨大な雷鳴のような爆発音が北側でした。思わず音のした方を向くと、丘の向こう側から巨大な黒煙が立ち昇っていた。その周りには、中に舞う馬や仲間の姿が見えた。


 ——地雷火だ——。


 地雷火はヨサ王国よりも東の大陸で主流になっている武器だ。なぜテトフス帝国が所有している。まさか、自国で開発したというのか。


 航海の果て大陸極東の国にたどり着き貿易をしていたのなら伝聞によって地雷火が持ち込まれる可能性は十分にある。いや、それ以外にありえない。


 僕は探索魔法で熱源を探す。地雷火には着火用の火種が必ず蓋のすぐ下にくっついている。上から蓋を踏むと重みで下がり、下の火薬に火が移る仕組みだ。その火種が必ずあるはず。


 それは簡単に見つかった。僕らが通る予定だった丘の周りのあちこちに。真っ直ぐに走れば必ず踏むほど、大量に地雷火は仕掛けられていた。


「全員止まれ!」


 南側にきた全員が馬を止める。北側にいった奴は全滅しただろう。ひっきりなしに爆発音が響いている。もう何本もの黒い煙の柱が連なっていた。 


 南側でも同じことが起こると考えると進むことはできない。


 だが、幸いなことに、ここからでも敵陣は見えていた。ここから光弾を飛ばせば敵陣を吹き飛ばすことも可能だろう。


「ここから敵陣を狙う。障壁を張って守りを固めろ」


 皆、馬から降りて魔法で障壁を張る。


 僕も馬から降りると、光弾の精製に入った。光弾は強力な攻撃魔法だ。空気を多量に集め限界まで圧縮すると眩い光と高熱を発するようになる。それを浮遊魔法で敵に飛ばすという攻撃だ。当たった地点から広範囲を消し炭にする威力がある。


 敵陣は現地点からでも、なんとか狙える距離にある。ここから進めない以上やるしかなかった。


 僕が空気を集め回転させ圧縮している間にも、矢はまるで雨のように降り注ぐ。その全てが障壁に打ちひしがれ、まるで障壁の上を流れるように落ちていく。


 光弾の大きさが必要分の約半分に達した時、僕のすぐ脇を何かが高速で通過した。


 その物体が何だったのか僕は最初わからなかった。見えるような速さではない。確実に言えることは、飛んできたのが鉄砲のような軽い弾ではないということだ。


 障壁を打ち破る重たい弾がとんできても、僕は意識を外すわけにはいかなかった。外せばここまで生成した光弾は消滅してしまう。さらに大きくするために僕は集中する。


 しかし、またもや高速でその物体が飛来した。今度は右にいた仲間に撃ち当たった。血を撒き散らし、まるで何かに弾かれたような勢いで障壁の外に飛ばされる。


 そして、さらにもう一弾。さらにもう一弾と仲間に着弾する。障壁を突き破り仲間の体を貫通させるその物体が何なのかわからない。いつの間にか僕の意識は恐怖に染まっていた。


 ここで退いたらどうなるのか?


 この未知なる武器で奴らは進軍してくるに決まっている。そうなったら最後。サンドリアにある王城は陥落するだろう。それはできない。そこにはまだリオラとエミリーがいる。


「ラルフ。撤退だ」


 マルセルが突然話しかけてきた。だが、撤退することはできない。


「できない。ここで相手の首根を断ち切る」


「だが、……」


「邪魔だ。話しかけるな」


 光弾が最大級の大きさ、鎧兜を軽く超えるほどの大きさになり、僕はその光る発光体を手から突き放った。


 光弾は真っ直ぐ飛んでいく。敵陣営がある山の山腹に着弾すると、その周りの木々を巻き込みながら山肌を抉った。光弾が通過すると共に、木や岩、土、そして敵のものであろう天幕がぐしゃぐしゃになりながら空へと飛んでいくのが見えた。


 ——勝った。


 仲間が何人も死んだ。その果ての勝利。あいつらも報われる。


 だが、まだ終わっていない。未知なる飛来物を放つ武器がいったいなんなのか、僕はやっとその武器を目にした。


 地雷火が埋まっている地帯のその先で敵兵が構えていたのは、通常の鉄砲よりも一回りも二周りも大きな銃だった。彼らはその巨銃をわきに抱えるように両手で構えている。


 僕は確信した。テトフス帝国が新型の武器を持ってこの戦場にやってきていたことを。彼らは魔法などもう怖くないほどに進化した武器を手にしたことを。


 僕はリオラがある夜に話した魔法が無くなった時代の話を思い出した。その時代が来るまで、魔法よりも優れた武器や道具が生まれる過程を。


 そうだ。僕らはもう最強の戦士ではない。こうして敵兵が放つ礫弾に撃たれようとしているのだから。


 もう足が植わって動かない。これが失望によるものなのか、絶望したから起こったのか、はたまた無力だと実感したからなのかわからなかった。


 敵が次弾を撃つ。火を吐く銃口。まるで大砲のような音をたてて礫が飛んでくる。


「ラルフ、危ない」


 マルセルが僕を突き飛ばした。


 この時、僕は実感した。嫌でも思い知った。


 僕が彼らを死なせたのだと。



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