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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・上(幼少編)
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第三章「見送り人」3


 図書室の中は真っ暗だった。しんと静まり返った空気だけが満たされている。 


 当然といえば当然だ。夜になってからわざわざ貴重な蝋燭を使ってまで本を読む人なんていやしないのだから。


 僕は左手に魔法で光球を生成し、エミリーに教えてもらった十番棚に向かう。


 十番棚はどうやら伝記が収納されているらしく、有名な戦士の名前やおとぎ話の題名が並んでいた。上の方から順に見ていくと、ある一冊に目が止まる。その本の背表紙には『星の子伝記』と書かれていた。状態からしてかなり古く見える。僕はその本を手に取りテーブル席に移動する。厚手の表紙を(めく)り、僕はそこに書かれていた著者名を見て、まず驚いた。そこには『ルドルフ・ロドリゲス』と書かれていたのだ。僕が元々住んでいた村、《ロナデム村》の初代村長。つまり、僕の遠い祖先ということになる。


 僕はさらにページをめくる。そこに書いてあった内容は大方あの日、姉から聞いた話と同じだった。しかし、数ページに渡り驚くべきことが書かれていた。


 なんと、ルドルフ・ロドリゲスの長男は星の子と子供を作っていたのだ。どうやら星の子は必ずしも子供がなるわけではなく青年期の女性でもなるらしい。


星の子の血を受け継ぐ者は魔法の能力を引き継ぎ、村をどんどん開拓していった。星の子の子孫は数を増やし、やがてバーバスカム王国、それとヨサ王国の各地に移り住み王国の発展に貢献したという。


 そして本の最後のページに予言のようなことが書かれていた。


『星の子がこの地に再び現れる時、ロドリゲス家の若い男を見送り人として選ぶだろう』


 僕が魔法をこんなにも早く習得できたのはロドリゲス家の血筋の問題だったのか……。しかも、リオラが僕を見送り人に選んだのなら、あの行動も納得がいく。隣国で旅をする上で困らないように知識を入れていたのだ。


(謝ろう……)


 明日、ちゃんと謝りに行こう。僕は事情を聞くこともせず、怒りをぶつけてリオラを傷つけてしまった。僕を見送り人に選んでいたのなら、相当傷ついたはず……。


 


 翌日、僕は謝ろうとリオラの部屋を訪れた。 


 扉を叩くと彼女はすぐに出てきた。リオラは僕の顔を見るや否や慌てて頭を下ろした。


「ごめんなさい!」


 僕は、深く綺麗に振り下ろされた上体を見て唖然としていると、リオラは顔を上げた。


「昨日エミリーに言われたの。リオラがどれだけきついことをしていたのか……。どれだけラルフが辛かったのか。だから、本当にごめんなさい」


「いいんだ。もう怒ってないから。こっちこそ、ごめんね。昨日は強く言いすぎた」


 それを聞くとリオラは首をブンブンと横に振る。その様子に後ろめたさを感じながら僕はリオラにある質問をした。


「あのさ、一つ聞いても良い?」


「何?」


「リオラはさ、僕を見送り人に選んだんだよね。どうして僕なの?」


「ラルフならリオラのこと分かってくれると思ったから……。——ねえ、ラルフ。リオラのこと嫌い?」


 不安そうに僕を見つめるリオラ。僕はなるべく表情を和らげて言った。


「嫌いじゃないよ」


「でも、大っ嫌いだって」


「あれは怒って言っちゃっただけだから、気にしないで」


 それを聞くと、リオラの表情が少し明るくなった。けれど、すぐに俯いてしまう。


「じゃあ、何時なら話しかけていいか教えてほしい」


 何時がいいだろうかと考えているとリオラが先に時間を言い始める。どうやら読まれてしまったらしい。


「十九時から二十二時ね」


「じゃあ、僕はこれから仕事だから」


「うん、ばいばい」


「ばいばい」


 リオラは終始悲しげな表情だった。怒っていないことは一応伝えたけど、これでよかったのかな。それにリオラは僕と仲良くなることを望んでいるのかな?


 それと同時に僕は別のことも考えていた。


 ——このまま彼女と仲良くした方がいいのだろうか? 


 リオラは星の子であり、彗星の衝突が近づけばその命を燃やしてしまう。過度に仲を深めると別れが辛くなってしまう。


 でも、彼女がもし、一分一秒でも長く生きたいと思ったら? 世界の滅びを受け入れたら……そうなったら僕らは誰一人として生き残れない。誰かのために彗星の衝突を防ぎたい。そう思わせないと地上は滅ぶ。誰かがその役目を担わないといけないんだ。誰かが辛い思いをしないと……。そのために見送り人はいるのかもしれない。







 余計に気をつかわせてしまったのか、リオラは暇な時間があっても話しかけてこなくなった。それどころか部屋からあまり出なくなったという。


(リオラ、本当はもっと話をしたいんじゃないのかな?)


 そう思うと可哀想に思えてくる。自分以外の人のために死ぬ運命を背負うなんて、僕なら絶対嫌なのに……。


 僕は屋敷を襲ってきた村人を思い浮かべた。この世界に生きる人達の大半があんな人なら、僕は滅びを選択すると思う。あんな人たちを別に生かしたいと思わないからだ。


 どうせ死ぬなら誰かの為に死にたいと思えるほうが幸せなのかもしれない。そうだとしたら、僕が身送り人としてできることはなんなのだろう……。


 考えてみたけれど、今の僕にできることは本当に僅かだ。友達として一緒に過ごすことぐらいで、他に出来る事はほとんど無い。


 あいてる時間にもっと構ってあげたいな。寂しくないように。


 しかし、それにはテレパシーがあった方が便利だ。けれど、こちらからテレパシーを送れないのは不便すぎる。


 明日、やりかたを調べてみよう。


 僕は翌日、自由時間をずっと図書室で過ごし、テレパシーについて調べた。どうやらテレパシーは他の魔法と同じように訓練すればできるようになるらしい。


 しかし、それには相手の正確な位置、座標と呼ばれるそれを把握しないといけないらしく、さらに相手と導線を結ばないといけないらしい。これが困難を極めた。


 導線というのはイメージで生成した糸のようなものだ。自分の頭と相手の頭を直接結ぶ実体のない糸なのだが、僕には生み出すことさえできなかった。


 行き詰まった僕は教人であるオリバーに講義のあとで聞きに行った。


 僕が事情を伝えるとオリバーは感心したように唸った。


「ほう、ロドリゲス。君は自主的に魔法を勉強しているというのか」


「はい、どうやったらテレパシーを送れる導線を出せるのか教えてください」


「ふむ、ロドリゲスよ。先に聞くが、お前は導線をなんだと思っている」


「音を伝達させる糸みたいな感じですかね」


「それではできなくて当然だ。そもそもが間違っているのだよ。ロドリゲスよ」


「テレパシーというのは己の魂を引き伸ばして相手の魂と繋ぐから会話ができるのだよ」


「魂をひきのばす……」


「意識を半分分離させて、片割れを相手に送るつもりでやってみなさい」


 僕は外へ出ると近くにあった長椅子に座り、オリバーに言われたとおりにイメージしてみた。しかし、やはりうまくいかない。


 魂を引き伸ばす。魂を引き伸ばす……。


 何度かやってもうまくいかず、その後、何日か経っても導線の生成はうまくいかなかった。


 ひと月ほどが経った頃、僕はもう一度試みた。いつも通り外の長椅子に座って魂を引き伸ばすように意識する。……が、やはりうまくいかない。もう辞めたと、やけを起こし昼下がりの心地の良い木陰に惑わされるようにぼやーっとしていると、ある異変に気がついた。


 何かが頭上にある。蛇みたいな、ミミズみたいな形の白くて長い半透明のものが、頭上でゆらりくらりしているのが見えた。


(なんだろう、これ。疲れて幻覚が見えてるのかな)


「ラルフ、何してるの。ぼうっと空なんて見上げて」


「エミリー、これ見える?」


「これってどれよ? 何もないじゃない」


(エミリーは見えていない。つまり、自分にしか見えない導線を生み出すことができるようになったのだ)


「やったー」


 拳を振り上げ、僕は立ち上がった。すると——。


 導線が消えた。まるで砂のように崩れ、細かい粒を飛散させ形がなくなってしまった。


「ああ……」と落胆すると、エミリーが不可思議なものを見るような目をして言う。


「あんた大丈夫。なんか変なものでも食べたんじゃ」


「なんでもないよ」


 僕は長椅子に座るとまた空を見上げた。


(意識を半分……。意識を半分……)


「なんか気味が悪いわ」


 その後、エミリーが立ち去ったことも気づかずに、僕は導線の生成を練習した。


 結果的に僕は、導線をうまく出せるようになったが、制御するのが難しかった。なかなか思い通りに動いてくれない。


 食事の時間に正面に座るエミリーで実験してみたが、思うように真っ直ぐ進まないうえに、途中で消滅してしまうのだ。


 僕はめげずに何度も挑戦した。その度にエミリーに気味悪がられた。彼女が言うには、導線を生成しているとき、僕は半目になっているらしい。魂が抜けたように見えるから不気味だという。


 それでも僕は諦めなかった。何度も、何度も挑戦を続けた。


 


「ねえ本当に不気味なんだけど」


 ある朝食時、エミリーは目の前で言った。もう少しで導線が、エミリーの頭に触れそうなところで彼女がそんなことを言うので、導線が崩れ去る。


「あぁ…、あとちょっとだったのに」


「あのさ。何をやっているのか知らないけど、本当に気味が悪いからやめてくれる」


「しょうがないじゃん。リオラのためなんだよ」


「リオラね……」


 エミリーは呟くと、態度をくるりと変えた。


「リオラのためなら仕方ないわね。続けなさい」


「いいの」


「ええ、リオラのためならね」


 念押すように言うと、エミリーはコップに入ったミルクを飲み始める。彼女は食事の最後にいつもそうする。つまり、これが食事時間の最後のチャンスだということだ。


 僕はグッと集中した。自分の意識を引き伸ばすように、導線を頭から出し、先端をエミリーの方に向ける。


 僕の頭から出た導線は真っ直ぐ伸びていき、エミリーの頭と繋がった。


(よし。繋がった。でも何を言おうか……。ちゃんと伝わるのか見てみたいし、反応が大きくなりそうなのがいいよな……)


 僕はリオラが言ったあの言葉を念じた。


『エミリーは将来巨乳安産型』


 そう念じた瞬間、エミリーが飲んでいる途中のミルクを吹き出した。その飛沫が僕の顔全面に吹きかかる。実験は成功だ。でも何か大切なものを失った気がするのは何故なのだろう……。




 その後、僕は導線をうまく繋ぐ練習をたくさんした。実験体はもちろんエミリーだ。乗馬中、動いてる対象に対して導線を繋いだり、対照の動きが見えない部屋の扉越しで繋いでみたりした。不意打ちに驚かしてみたりして、ブチギレられて追いかけ回されたこともあったけど僕はなんとかテレパシーを習得した。

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