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星の降る夜に、僕は何を願うのだろうか  作者: 大澤陸斗
星の降る夜に僕は何を願うのだろうか・上(幼少編)
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第二章「星の子」4

 図書室から見張り塔へ向かう途中、リオラは終始姿を消し、遊び要素を軒並み取っ払った。途中、どこからともなく響くモーゼスの声にビクッと身震いさせながらも、塔に到着する。


 塔の扉は施錠されているので扉を押しても引いても開けることができなかった。


「鍵がかかってて開かないよ」


「どいて。私が開ける」


 リオラがふっと姿を現し鍵穴に手をかざす。何か金属が動く音がガタガタとなり、最後にガチャっという一際大きな音が鳴る。


「あいたよ」


 リオラは鍵穴に添えたまま手で扉を押し開けると、中に入っていく。僕もそれに続き、中の螺旋状に上へと伸びる階段を登ると、もう一つ扉が現れた。その扉の鍵もリオラが解錠する。


 扉を開けた瞬間、隙間から光が漏れ出し、僕は眩しくて目を細めた。扉の向こうは塔の天辺で周りは僕の背丈よりも高い壁で囲われている。


 なるほど壁が高くて外が見えないから二人必要だったわけだ。


 一人で納得をしていると、リオラは壁に駆け寄る。背伸びしたり、よじ登ろうとしたりしたが、頭が壁を越えられず、その場で地団駄を踏んだ。リオラは思考を巡らせているのかその場で俯き考え込むと、やがて良い案が浮かんだのか、僕を手招きする。


「肩車して」


「はいはい」


 あまりに、想定内で(ひね)りのないお願いに、僕は半ば呆れながら壁の前でしゃがんでやった。 


 リオラが僕の首を(また)いで肩に腰を落とす。彼女の重みを感じると、足首を掴んで立ち上がった。


「わあー」


 という一声が風の音に混ざって聞こえた。どうやら彼女には素晴らしい絶景が見えているらしい。


「ラルフ、すごいよ。海が見える。すごく広い。あんなに青くて綺麗なんだね」


「僕には何も見えないよ」


「後で代わってあげるから。——ラルフ、あの時計台すごく大きよ。あの風車も——」


「それはよかったね……」


 時計台も風車も僕にとっては当たり前のものになりつつある。しかし、それを見て感動する人がいて、その反応を目にするというのは興味深いものなんだな……と、上から聞こえてくる声に耳を傾けながら思った。


 しばらくリオラは一人で声を上げて喜んでいた。しかし突然、足をバタつかせ暴れ出す。


「ラルフ、下ろして」


「えっ!? はっ!? おい、暴れるなって」


 リオラは、足を固定している僕の手を解くと、くるりと体を後ろに回転させ僕の肩から降り立つ。すぐに階段の裏側へ向かって駆け出した。


 しかし、間に合わなかった。半分とじかけだった扉がいきなり全開し、中からモーゼスが姿を現す。ぜーはーと息を切らす男の限界まで見開かれた目は、真っ直ぐリオラを捉えていた。


「やっと見つけたぞ」


 リオラは近づいてくるモーゼスの額に向けて指を伸ばす。しかし呆気なくかわされ、リオラはモーゼスに担ぎあげられてしまった。


「知っているぞ。睡眠魔法は普通、額に触れなきゃいけねえってことぐらい」


 リオラは腕や脚をジタバタさせるも、非力な少女の力では、全身筋肉鎧を纏った兵士を怯ませることなどできない。


「ねえ、ラルフ。この人と仲がいいんでしょ? リオラは逃げないから自由にさせてほしいって頼んで」


(いやー。流石にそれは無理がある。現に脱走中だし……)


「ねえ、ラルフ助けてよ。お願いだから、ねえったら」


 リオラは必死に手を伸ばし、僕に助けを求めている。だが、僕はこの状況をどうにもできない。


(ごめん。これ以上は助けられない)


 その思考を読み取ったのかリオラは絶望したように目を丸くした。彼女は伸ばしていた腕をだらんと下げた。


 大人しく連れていかれる彼女の姿を僕は見送った。







 リオラを抱えたまま、モーゼスはリオラの部屋に戻る。戸の鍵を閉め、ソファーの上にリオラを下ろした。前屈みの姿勢から戻ろうとした時、少女の涙に濡れた顔が至近距離で目に飛び込んできた。


(これだからお守りは苦手なんだ。子供の涙にはつくづく弱くて困る)


「ねえ、リオラ何か悪いことした? ちょっと外を見たかっただけじゃん」


 モーゼスは向かいのソファーにドスっと腰を下ろすと、まるで嘆くように言う。


「泣かないでくれよ。こっちにも命に変えて守らなきゃいけないっていう責務があるんだ」


「リオラ、自分の身は自分で守れるもん。おじさんたちの力なんて必要ないもん」


 それはそうかもしれないが、こっちは上から外に出すなって指示されている。こっちだってやりたくてやってるわけではないのに、なんでこんなチグハグせにゃいかんのだ。


 モーゼスは(なだ)め方がわからず困り果ててしまった。すると、ルカが耳元に顔を寄せ小声で話しかけてくる。


「ラルフから伝言です。——星の子の力があればこんな城、簡単に抜け出せる。あんまり縛りすぎて愛想つかされない方がいいと思うよ——とのことです」


(あのガキめ——。的確なアドバイスをくれやがる)


「お前はどう思うんだ?」


「私も同感です。我々がこの子を抑える力がない以上、交友くらい認めるほかないと思います。でないとやはり…………」


「やっぱそう思うよな……」


 と、モーゼスは頭の後ろをかきながら嘆くと、拳で手のひらをポンと叩く。


「よし、わかった。リオラ、これからは自由に出歩いて良いことにする。だけど、条件は決めさせてもらうぞ」


 リオラは泣くのをやめ、モーゼスを見つめる。それを見てモーゼスは悠々と続ける。


「まず、真ん中の王宮には立ち入らないこと。それと勝手に城外に行くのもなしだ。この二つを守ってくれないと俺の首が飛んじまうから必ず守ってほしい」


 リオラは頷いた。それを見てモーゼスはさらに続ける。


「あと、食事の時間と夜間はこの建物から外出しないこと。これらの条件が飲めるなら自由に出歩いてもいいぞ」


「うん。わかった!」


 少女は元気に返事をすると早速、部屋から出ていった。それを見ていたモーゼスとルカは唖然とし、互いの顔を見合わせる。


(俺は首が繋がったまま任期を終えられるのだろうか……)


 呆れ果てた二人はもう、リオラを好きにさせてやることにした。

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