グーたれた組織
「ダンジョンに行きます」
「うぇ?」
「ダンジョン行きます!」
「うぇ〜」
私の言葉に気怠い返事をする翔太は、ゴロリと寝返りを打つ。
私達の住む教会の地下3階は、宇宙人がデザインした造りとなっているため、土足禁止である。故に、翔太は床でゴロゴロと転がっている。
「俺、今日は休みたい気分なんだけど……ペトラもそうだよな?」
「ん? ううん。今日はダンジョンに行きたいきぶん!」
「……。理沙はどうだ?」
「そうですねぇ。私も今日は動きたい気分です」
「おのれ、裏切り者。耳を千切ってやる!」
「え、こわ! リシアさんヘルプミー」
とたとたと走り私の後ろに隠れる理沙。
同郷だけあって、翔太と理沙の相性は良いと思う。
翔太は理沙のテンションを苦手としてるみたいだけど、理沙はかなり懐いているように見える。
「決まったね! たすーけつが成立します!」
「おいおい、待てよペトラ。少数派意見の尊重が大事だと思うんだが?」
ペトラの言葉に翔太が意見する。
何やら難しい言葉が出できたので、私は少し静観する事にした。
「良いですよ、翔太先輩。だったら、私達3人を納得させられるだけの理由を挙げてくださいよ」
理沙は得意気な表情でそう言うと、言葉を続けた。
「少数派意見の尊重なんてもの、あってないようなものです。そんな言葉、言わば少数派の考えに耳を傾けることで、便宜上はそこに議論があった、という言い訳作りのようなものです」
ダメだ、よくわからない。
「えと、理沙ちゃん。それはつまり?」
「はい。つまりですね──」
「つまり、少数派の意見に価値はないということだよ。──ただし、それが普通の議論なら、だけど」
理沙の言葉を継いだは翔太だった。
「……どういう事ですか?」
翔太のドヤ顔を見た理沙が眉をひそめる。
「確かに、多数決は強い。だが、半数……半数なんだよ。多数派の半分を味方につければ、道は開けるということ、そして今回の件、俺は少数派でありながら有利であると言える。何故なら、議論している人間が4人であり、お前ら3人の中から1人を味方に引き入れれば、多数決は瓦解するのさ」
確かに、多数決は分母の数が少なければ少ないほど、有利性を保てない決定法でもある。
翔太はそこを突くつもりなのか。……しかし!!
「冗談はやめてくれない? それはつまり、ペトラちゃんと理沙ちゃんが私を裏切るってことでしょ? 馬鹿げてる。私達は深い絆で結ばれてるの」
今更2人が翔太に寝返るなんてありえ……ない。
「どうした、リシア? 口が引き攣ってるぞ。女の友情に自信が無いのか?」
「う、うるさい」
私達は互いを支え合う家族だ。
翔太なんかに屈したりしないんだから!
「では、始めようか、少数派のプレゼントを!」
翔太のあまりにも自信満々な言葉に、私はゴクリと息を呑んだ。
「まぁ、そうカリカリしないで下さいよー。リシア様ー」
間延びした声で家族のひとりが私を慰めてくる。
翔太ってば、ほんと、腹立つ!!!
「ごめんね、リシア!」
「すみません、リシアさん!」
先程の議論、たった数秒耳打ちされた2人は、いとも簡単に私を裏切った。多分好条件で買収さたんだと思う。
お陰で私はボッチ。
「ねぇ、エルネスタさん、一緒にダンジョン行きません? みんなが意地悪するんで……」
エルネスタとは、赤み掛かったプラチナカラーの長髪をした二十代前半の女性である。少々性格に難があるが、戦闘に対しては前向き。黒の方舟のメンバーでもかなりストイックな方だ。
「私は別に構わないけど。二人で行くの? 翔太くんは?」
あーあー。この人もか!
どいつもこいつも、二言目には翔太の名前を……。
「翔太は来ないらしいです。他にもう一人くらい誘おうとは思うんですけど……」
「んだよ。女だけか」
「そもそも我が家には男1人しかいないし……」
「仕方ねぇよな。クハクさん連れて行くか」
「どうして?」
クハクとは、翔太のペットで白銀の毛並みを持った九尾である。
最近、人化の術を覚えたこともあり、いつもけしからん女体でうろちょろしている。
「クハクさんさ、いつも翔太くんに化けて鏡の前でうっとりしてるんだよな。もしかしたら、ダンジョンで戦ってる間は翔太くんに化けてくれるかもしれないだろ?」
……我が家には色ボケ野郎しかいないのだろうか。
「じゃあ、私とエルネスタさんとクハクちゃんの三人と、後は何人か新人を連れて行くってことでいいですか?」
「ああ。了解。新人教育ね、得意分野だ」
エルネスタは黒の方舟のメンバーではあるが、表の顔は冒険者ギルドのギルドマスターである。
黒の方舟の戦闘訓練は基本的に私が行っているが、彼女も教えるのは上手い……らしい。
メンバーにちょっと不安はあるけれど、今回出かけるダンジョンはそんなに難易度も高くないし、気軽に行ってこようかな。
夕方までには帰って来れるだろうしね。
私は軽食と武器、その他諸々を準備して家を出た。
──しかし、この時の私は気付いていなかったのだ。まさかこのセリフが宇宙人が言うところのフラグになっていたことも、この身の不幸体質があまりにも凶運である事も。
高評価、ありがとうございます!
励みになります。次話もよろしくお願いします!




