最終話 俺達の軌跡
あの戦いから十八年が経過した。俺とヴァルの協定の元、人魔の争いは絶えている。それどころか、俺がこの世界で蒔いた種。農業用重機、工業用重機、精霊都市の技術、魔界の技術交流と、様々な種が芽吹いた。
多くの種族が助け合い、手を取り合い。日々技術を磨き、鍛錬を重ね。魔族と言う共通の敵は居なくなったが、依然としてモンスターは存在しているし、稀に大氾濫等も起こっているので、戦い自体は無くなってはいない。
当然そんな日常では、命を落とす人も少なくはない。だからこそ俺達は、様々な分野で、自らの持つ経験、知識、スキルを用いて世界の発展を見届ける事としたのだ。
そう。結局、俺達異世界人は……元の世界へ帰る事は叶わなかった。ならばと俺達はこの世界で生きて行く事にした。マコト君は、原初の記録書を元に法整備を。
上位僧侶カエデさんは、マコト君と結婚。治癒の奇跡を用い、現代医学を元に医療技術の発展に努めている。補佐するのは当然マコト君だ。元々この世界では医学が進んでおらず難儀したが、何とか施行に至れたようで一安心である。
そして超魔導サツキさんと、竜騎士カズヤ君も結婚を果たした。元々恋人同士だったが、異世界召喚を経てその絆はより深まった、と言う事だろう。二人とも、新婚だと言うのに冒険者の道へ進み、今ではマリンに次ぐ、オリハルコン級として言わせている様だ。
結果として、新生勇者パーティ、異世界人の面々の力と協力も有り、精霊首都シンフォニアは、この世界でも有数の超大国として、先進国家として成立している。これも、陰で支えてくれている、元官僚のアンナさん。吸血鬼族筆頭の、リチャードがいるから、ここまで来れている。
各精霊騎士達も、それぞれに人生を歩んでいる。水の精霊騎士マリンも、後継者にその役目を引き渡し、優雅な隠居生活を送っていると聞くし。風の精霊騎士フィリア、土の精霊騎士ノルンも、引退してそれぞれ幸せを育んていると聞く。
何より一番驚いたのが、火の精霊騎士アリシアと、剣聖ムラマサ殿が結婚したと言う事だ。元々アリシアの窮地を救った事に起因し、あの大戦で火の精霊都市解放の際に、思いをぶつけ見事、鬼を射抜く事に成功したそうだ。
嘗ての魔王被害者である、ラファエル、ティナ、サクヤ、ミリアも、それぞれの場所へと帰還。今では各国の首脳として、精霊首都シンフォニアとの国交の中核となって居る。
ラファエルは人界、魔界と天界の外交官として。ティナは竜人族の里の代表として。サクヤとミリアは、獣人族の外交担当と補佐と言う形で、国交に尽力していた。これにより、各国との貿易や、対モンスター戦での協力、情報共有が広まり、世界単位で犠牲者が減る事となって居る。
そして俺はと言えば、既に精霊首都シンフォニアの政務から退き、嘗て戦艦ヤエザクラを召喚した、巨大湖の畔で、自営業を行いながら生活をしている。計四名の嫁を迎え、ハーレム状態である。
一人目は言わずもがな。現世で悲運の死を遂げ、この世界に転生した最愛の義妹、安芸。戦いの後、二人の子宝にも恵まれた。現在は一番最初の子である、長男のユウトは、既に十七歳にしてミスリル級冒険者にまで上り詰めている。
その戦闘センスは、風の高位精霊騎士であった安芸譲り。二番目の子が、長女のサキだ。ユウトとは一つ違いの十六歳。所謂思春期真っ盛りと言う事も有り、少々風当たりが強いのは、恐らく仕様だ。
二人目は、元地の高位精霊騎士、ノーラ。一度は振った彼女だが、彼女の熱意と、安芸の協力もあり結ばれる運びとなった。ノーラも二人の子供を授かった。
安芸の子は人族であったが、ノーラの子は獣人族。猫っぽい感じがとても可愛い、双子の女の子であった。ノーラの妹であるノルンも、それはもう溺愛っぷりが凄まじく、何かに理由を付けてはここにやってきている。
姉妹揃って、仲の良い事だと思う。それはノーラの娘達にも引き継がれている。が、此方も年齢は十五歳。お父さんは除け者感だよ。可愛いから許すがな。
三人目。正直無いだろうと思って居たが、戦後無事に嫁として迎え入れたのが、ハイエルフのミスティス。どちらかと言えば、俺が惚れたと言うのが正しいか。結婚後は、ともかく献身的に俺を支えてくれている。
ハイエルフ族は、エルフ族と同じく子宝に恵まれ難い体質だが、ミスティスは無事に一人授かった。ハイエルフの男の子。性格は俺に似て居るが、容姿はミスティスを引き継ぎ、今は超絶美少年と言う感じだ。
そして、俺達の努力の甲斐も有り、ハイエルフの国と、精霊首都シンフォニアは、正式に国交を結ぶ事が出来た。現在ミスティスは、俺の嫁をしつつ、ハイエルフ国の女王として君臨して、超多忙な日々を送っている。
だからこそ、ここに来た時に甘えっぷりは凄まじい。普段は凛々しい女王なのに、俺の前ではとても可愛い女の子になる。ギャップ萌えと言う奴か。俺には勿体ない位の嫁さんだ。
余談ではあるが、今の立場となる事に、反対の声は一切なかった。と言うのもミスティスの親父さん、前国王さんは、洗脳下でも意識だけはあったらしく、あの言葉が深く突き刺さり、再起不能となって居た事も起因していたとだけ、伝えて置く。
最後に、疑似精霊種のヤエが嫁となって居る。彼女は疑似精霊と言う事も有り、子供を作る事は叶わない。それでも『主様の寵愛を頂けるなら』と、嫁兼愛人的なポジションに収まった。俺的にそれは良いのかと思うが、本人の意思を尊重しているので、多分これで良いのだろう。
この十八年間。本当に様々な事があった。モンスターの大氾濫は、魔界でも起こっている。時折ヴァルからの救援で、再び人魔共闘を行ったり。またある時は、禁止したはずの異世界召喚を行った国に、裁きを与えたり。これも、神の一柱としての俺の役目でもある。
幾度と無く繰り返される召喚。呼び出される異世界人。色々気になって調べ、保護をしていたが……やはり俺と同じく、重機操者の様な、直接戦闘に関わらない職業は見受けられずであった。
この世界では、既に俺の齎した重機技術が進み、現代とは違った魔力動力による、半永久機関として運用されている。単価も高く、操縦者も職業ではなく、後天的操作技術を覚えるだけなので、重機操者は今の所世界で俺だけと言う事になる。
だが、少なくとも俺の様な扱いが、今後召喚された者にも、される可能性はある思う。あれだけ天誅を下しても、人の欲望は果ての無い物。
「そう、か。風の女神セラフィーナ様は、きっと俺のような気持だったんだな……」
不遇なる存在を救い出したい。あの時俺が救われたように、俺も誰かを助けれればそれが一番かも知れない。尤も、召喚と言う名の誘拐ではある。防げるのが一番なのだがな。
「兄さーん。お昼出来たよー」
「おう、今行くぜ……楽しみだな。米の品種改良をして十八年。遂に、遂にこの時が来たんだからな」
俺がこの世界に齎した重機、機械技術。確かに発展はしているが、半永久機関というだけで、その性能は現世の重機、俺が召喚する重機には遠く及ばない。まぁ、このスペックだと、現世の重機すら凌駕する、超重機と言っても過言ではない。
そして、俺は異世界に来たとは言え、現代日本に生きた日本人だ。やはり、米は食べたいと思うが、中々上手く行かずの日々。だが、その苦労も終わりが見えている。
「ふふ、確かに私も楽しみだよ。もし、出来が良かったら、マコト君達にも分けて上げたら?」
「そいつは勿論だ。だがまずは出来の確認からだ……嗚呼、マジで懐かしい。自然と笑顔になって来るわ。炊き立ての白米……」
これに味噌汁や漬物でもあれば完璧だが、実を言うと……味噌も漬物も既に用意してある。俺の召喚する重機で、トラクター系列を召喚し、自宅裏の畑で家庭菜園の真似事をしている。それ故に、新鮮な野菜も確保出来る。
味噌の原料は、大豆。漬物も多岐に渡るが、比較的取れやすいキュウリなどを生産している。塩に関しても、岩塩の確保の他に、海水から精製した塩も、俺達、そして新生勇者パーティ内では普通に流通していたりする。
世話に関しても、元土の精霊騎士たるノーラの力もあり、その品質も、現世日本と同等かそれ以上の、超品質を維持している。味噌、醤油に関しても、マコト君の原初の記録書により、現代日本と変わらない品を作っている。
売りに出せば、それだけで一攫千金になると言う代物だったりするのだが、何分生産量が少なく、言ってしまえば希少品。中世の時代、香辛料が高価だったのにも頷けると言う物だ。
「くっくっく……待ちに待ったよ、この日をな。白米、味噌汁、漬物。湖で取れた焼き魚。ああ、これぞ日本の食卓……」
「本当に、漸く此処まで来れたね。また、生きてこの光景を見れるとは思わなかったよ。ノーラも、私たちの無理を聞いて貰って、ごめんね?」
「気にして居ませんよ。私も、新しい料理。そして調味料に張り切っちゃいましたし。では、冷めない内に食べましょうか」
ノーラの言葉に、俺達は手を合わせて合唱する。この食事にも、多くの命が関わっている。だからこそ、この言葉は忘れてはいけない。
『いただきます』
それは、久しぶりに食べた、祖国の味。味付けは、最愛の嫁による、絶妙な加減の効いた、俺好みの味。ああ、帰って来たのか……そんな思いと共に、俺達の冒険は幕を閉じる。
長き時を生きる、神の一柱として。これからも俺は、この世界を、この世界が辿る軌跡を守って行く。
こうして、世界は平和が訪れた。例えそれが、仮初の平和だとしても。俺とヴァルが生きている限り、この平和は維持して行くつもりだ。幸いにも、俺もヴァルも、神への進化に伴い、不老不死と言う能力まで得る事となった。
とは言っても、最初から最後まで国主や王を務める訳でもない。俺達は示し合わせた様に、この十八年間で、様々な改革や技術昇華、そして世代交代を行い、世界が自立して行けるようにして来た。
人々は平和な世界を謳歌し、繁栄を極めて行く。時に大災害に遭おうとも、人魔、種族の垣根を超えて、世界は一つとなって行く。それでも、この世界はまだまだ現代から比べれば、足りないものも多い。その一つが娯楽だ。
だから、と言う訳では無いが。せめてもの娯楽として、今までの記録を残そうと思う。記録、いや自伝と言うべきか。俺は筆を執り、一つの物語を書き始める。既にこの物語を書き始めて、半年と言う時間が経過している。
中々に、今までの出来事を纏めるのは難しい。それでも、こんな話があったのだと言う記録を残す為に。ただ、無心に書き続ける。
「兄さん?」
そんな執筆の最中に、最愛の嫁である安芸が声をかけて来る。それは少々心配そうな声色だ。いかんな、どうにも筆を取ると、時間の感覚がマヒして来る。
「おう、晩飯か? すまんな、もう少しだけ書いてから……あと少しで、書き終わるんだ」
「そっか。所で、その自伝は、どうやって広めるつもり? 現代日本と違って、インターネットだってないんだし……って、あ。アレを使うの?」
ふふ、流石は我が嫁。そう、俺はあの時、魔神が残した、上空のライブ中継の様な物の利用を考えて居た。この世界は、言ってしまえば娯楽は少ない。せめて読み物を、と考えた上で、広めるならと言う形で考えたのが、これだった訳だ。
「成程ね……でも、何時までも魔神の置き土産を使う訳にも行かないよ?」
「分かってるさ。行く行くは紙の媒体で出すつもりだよ。せめてもの娯楽供与の為にな……まぁ、なるかも分からんがな」
そう言って安芸と二人で笑い合う。こんなささやかな幸せも、本当に尊い物だ。漸く俺達は、本当の幸せを掴む事が出来たんだ。
「あ、そう言えばさ……その自伝。タイトルとか決めてあるの? と言うか、どうせなら一番最初の読者は、私が良いな。兄さん、ダメ?」
少し悪戯染みた表情でありながら、若干の上目遣いで問いかけて来る安芸に、俺は答える。
「当然だろ。タイトルからして、まずは安芸にと決めてたんだ。タイトルはな――異世界重機オペレーター。ま、俺の事だな。サブタイトルが、義妹と往く異世界冒険記」
直球過ぎぃ!? と言う安芸の言葉を聞きながら、俺はそっと筆を置いた。受けるか? 受けないか? 流行るか? 流行らないか?
そんな事はどうでも良い。ただ、俺が戦い抜いた記録を。最愛の存在と巡り会った記憶を。ここに残す、それだけだ。
閲覧ありがとう御座います。これにて完結となります。自分が思う様に、自分が思い描く物語を書く。自分の、自分による、自分の為の小説。
故に、誤字脱字等の改稿は行いましたが、本文に関しては修正の予定も一切御座いません。シナリオ構築能力の低さは、自身の詰めの甘さだと思います。
ですので、無いとは思いますが……例えプロ小説家さんに指摘を受けたとしても、本作の改稿は行いません。
自我は通してなんぼ。元より小説は自由なモノ。それを体現する為に、思い切って筆を取った次第です。
そして同時に、拙作にお付き合い頂いた皆様にも、多大なる感謝を。少々込み入った現状もあり、毎日投稿と言う結果を残せなかったのが残念でなりません。
それでも、お時間を頂き、読んで貰えて本当に嬉しく思います。今後の予定としては、資格取得後にまた投稿できればな、と考えて居ますが、少しお時間を頂きます。
少しでもいい作品を書ける様に、今回の反省を生かせるように。やれる範囲で頑張って行きます。ありがとう御座いました!




