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第八十四話 光と闇の輪舞

 マコト君の転移で、精霊首都シンフォニアの外縁へと到着した。予想はしていたが、直接転移は阻害されているのだろう。多分、遊ばれている。魔界と同じく、転移後に爆発させる仕組みを作って居れば、それだけで俺達は自滅するのだ。


「ま、その余裕が、痛手になると言う事を知らせるには良い機会だ……そして、待たせたな。リチャード!」


 そう、俺達の転移を見越して、超越者たるヴァンパイアロードのリチャードと、配下のアークヴァンパイア達が、俺達の往く手を阻む様に布陣している。


 さてどう攻めようか。と思った所で、先制攻撃とばかりに無数の光弾が飛来した。ここに来る直前に、重機召喚スキルから、既に超重機融合、重機外装を展開しているので、排土板シールドで防御の態勢を取る。


「……マコト君。原初の記録書(アカシック・レコード)での解析結果は?」


 それは戦闘開始直前の事だ。重機外装展開時に、相談していた内容。念話にてマコト君に鑑定を頼んで置いた。ケートスから聞いていたのだが、どうやらノーラ達は出待ちを受けていたらしい。


 なので、俺達も出待ちの可能性を考えて、対策を練っていた訳だ。原初の記録書の解析鑑定は、対象が動いて居なければ、その精度が増す。なので動き出す前に対処出来ればと考えていたのだ。


「精霊騎士マリンと同じですね。この状況なら……いえ、これは。不味い! ユウキさん、ここは俺に任せて王城へ! 一刻も早く魔神を討たないと!」


 解析鑑定の結果を聞いた所で、行き成り慌てるマコト君。何事かと思った所で、俺の真横に巨大な魔力反応が、一瞬で出現。空間転移の魔法。現時点でこれを使えるのは、大賢者たるマコト君、火の精霊都市へと向かっている、超魔導サツキさん。


 そして、魔界で戦っている俺の親友。ヴァーミリオン・ロードクラヴィス。そしてもう一人、俺と同じく、半神半人へと至った、転生者。


「彼の言う通りだ。ユウキ、ここは私達に任せてくれ……案ずるな。君は一人ではない……そうだな、ヴァーミリオン?」


 と、金色の髪を靡かせながら、剣を構える先々代精霊騎士、オーディン殿。彼の横には、もう一人の金髪の美丈。魔界で戦い抜いた、俺の戦友。


「ヴァル!」

「待たせたな、ユウキ。今度は俺が助ける番だ……行こう、この世界を取り戻す為に。人魔の新たなる未来の為に!!」


 俺の言葉に呼応するかのように、四対八枚の漆黒の翼を広げる男。魔界公爵、ヴァーミリオン・ロードクラヴィスがここに参戦した。


「これで大丈夫だろう。ユウキ、君はヴァーミリオンと共に魔神を討て。案ずるな、私達も君の仲間を開放したら合流する。ここは任せろ」

「ユウキさん。冗談抜きに時間がありません。詳細は念話で送ります!」


 オーディン殿の言葉に合わせ、俺とヴァルは全力で旧ナグツェリア王城へと移動を開始。当然リチャード達が妨害に入るが、先々代精霊騎士オーディン殿と、大賢者マコト君に阻まれる。


 その一瞬の隙を突き、最大速度で包囲網を突破。まだ旧ナグツェリア王城までの距離はあるが、この速度なら数分もしない内に到達するだろう。


『で、急ぐ必要とは一体なんぞや?』


 王城へと向かう途中、念話で伝えるとの事だったのでマコト君へと呼びかける。あちらも戦闘中ではあると思うが、オーディン殿が居るので問題無い筈だ。


『ええ。そこは申し訳ありませんとしか……ともかく非常事態に違いはありません。リチャードさん達への鑑定の際に、念の為にと周囲も解析鑑定を行った結果。精霊首都シンフォニアは、巨大な魔法陣として作り替えられている事に気付きました』


 マコト君の口から出た言葉。その魔法陣に思い当たる節がある……それは安芸から聞いた話に符合する、今は亡きニルバーナ王国が取った最終手段。アークデーモンを筆頭とする軍勢を、一網打尽とした究極の魔法が一つ。


『俺もこの術式は初めて見たんですが、原初の記録書に記載されているので、間違いなく攻撃魔法でしょう。その効果は――』

『都市外縁部から、都市中央へと魔力を圧縮。その威力を一点に解放する爆発魔法、だな?』

『ご存じだったのですか? 確かに仰る通り、その魔法です。正式名称は、メルト・エクスプロージョン。魔法発動のトリガーは多岐に渡りますが、今回の鑑定で得たトリガーは、時限式の物です。残り時間、約三十分。それが、タイムリミットです』


 思わず心の中で、嘘だろ? と呟いてしまう。現在の状態からすれば、確かに王城へは数分で到着するだろう。何の妨害も無ければ、と言う前提は付くが。


『魔神の野郎が言ってた、都市の改造とはそう言う事か……マコト君、解除の方法は?』

『それなんですが、原初の記録書による解析結果は、王城の完全破壊とあります。文字通り、粉微塵にしない限り術式は解放されません。ユウキさんとヴァルさんなら、余裕でしょうけど……』


 そこで言い淀むのは、魔神の存在だと思う。魔神を相手にしながら王城を破壊、または魔神を倒してから王城の破壊。このどちらかしか手段は無いし、三十分と言う短時間で魔神を倒す必要もある。


『ふむ。マコト、城の破壊に何か特別な条件設定とか、あるのか? 無いなら城の破壊は俺が引き受ける』

『ヴァルさん? いえ、特にはありません。先にも言いましたが、粉微塵にすれば。もっと突き詰めるなら、塵すら残さない方が良い位ですね』

『そう言う事なら問題はない。ユウキ、お前は魔神に専念してくれ。城の破壊と魔法の解除は俺に任せろ……くく、楽しみだ』


 そんな風に、途轍もなく良い笑顔を浮かべるヴァル。まるで破壊と言う行為に、喜びを感じて居る様にすら見える。


『……ヴァル?』

『ああ、済まない。実を言うとな、この短期間で魔界を収めたのには、一つの理由があってな。詳細は後で話す。急ごう』


 あとで話してくれると言うなら、無暗に突っ込む事もあるまい。一応念話で会話をしているが、まかり間違って魔神に筒抜け、と言う事態も無い訳では無いだろうし。


 と思った所で、目の前に高い城壁が聳え立つ光景。言うまでも無く、精霊首都シンフォニアが誇る、元対魔族戦を見据えた城壁である。俺達はそのまま城壁を飛び越え、一気に都市内を突き進む。


「交戦は極力回避! 兵士達は無視して直行する! ヴァル、王城の破壊……本当に任せて良いんだなッ!?」


 俺の言葉に、ニヤリと口角だけを上げるヴァル。若干不安な気分になるが、俺の親友にして戦友。信じて任せる、それだけだ。そう思いながら、剣を手に襲い来る兵士。冒険者、傭兵を避け、場合によっては気絶させながら進撃。


 瞬く間に王城へと到着した俺達に、上空からまたあの邪悪な声が降り注ぐ。魔神、この王城に大規模な爆発魔術を仕込んだ張本人にして、俺と安芸の現世での因縁を持つ相手だ。


『早かったね。流石は神の使徒と言う所かい? まぁ使徒と神では位が違うから、今の君は、僕にとっては雑魚でしかないけどね。そしてその様子だと、魔術の正体にも気付いた感じか。流石に大賢者のスキルに対して、秘匿は無理だったようだね』


 相変わらず不快な声。まぁいい、その余裕もこれで終わりだ。王城の破壊、再興の費用も大変だろうが、今はそんな事を考えて居る余裕も無い。


「当然だ。俺の仲間を甘く見るなよ……そして、このクソったれな魔術の解放の手立てもある。神の力を得てるかもしれんが、人間を甘く見過ぎだ!」

『半分神に片足突っ込んでる奴が、良く言うよ。まーやれるもんなら、やってみれば? 王城を破壊すれば、確かに魔術回路も壊れるけど……一体、何人犠牲になるかなぁ?』


 魔神が放つ邪悪な言葉に、俺は一瞬だけ我に返る。怒りに狂っていたとは言え、王城の破壊。魔神の言いたい事、それ即ち――。


『気付いちゃったね? あーあー、神の使徒だっけ? 人々を守る神の使いが、守るべき人々を、王城諸共破壊かぁ。悪名で済めばいいね? あはははは!!』


 予想して居なかったと言えば嘘になる。多少の犠牲は止む無しとも思って居た。故に、魔神の言葉に俺は思考が止まる。直後、降り注ぐ流星雨。大規模魔法テンペストミーティア。発動魔力さえあれば、行使出来る最上位の魔法。


 魔神。魔の神、魔法、魔術の神。多分そんな感じの神であれば、この魔法の行使も容易いのだろう。厄介な事だ。俺は排土板シールドを構え、フォーステリトリーを発動しようとした。そんな状況下で、冷静に剣を構え詠唱に入るのが、魔界公爵たる親友のヴァルであった。


「ユウキ、心配するな。この程度なら防ぐのも造作も無い。そして、王城内の人々に関しても、任せて置け。我が問いに応えよ……神剣シヴァ!! 我、破壊の神の名の下に! 創世の対となる、破壊の力を今ここに! 解放、ギガ・ディストラクション!!」


 直後、神剣と呼ばれる剣を起点として、ヴァルが大規模な攻撃を発動。それは一瞬で流星雨と王城を包み込むと、見る見るうちに全てが光の粒子となり、天へと昇って行く。


「ヴァル!? 流星雨はともかく、まだ中には人々が……!」

「フ、問題無いと言って居る。ユウキが思って居る程、俺は落ちぶれちゃいねぇよ……見て見な、あの更地をよ」


 ヴァルに言われ目をやれば、そこには王城内に努めていた人々が、無傷のままキョトンと佇む。場所によっては、折り重なるように気を失って居たりするが、魔力探知による生命反応の確認では、死者は零と言う驚異的な結果だ。


「驚くなよ、この結果は必然。これは神剣シヴァ。知ってるか? この世界に創世神が居る様に、魔界にも神が居る。その名も破壊神、名をシヴァと言う。そしてこの剣は、破壊神の名を模した物ではなく、本人と言っても良い」

「先程言って居た、短期間でと言うのはそれの事か……待てよ、破壊神様と言えば、確か……」


 当然俺が半神半人へと至った時の知識の中にもある。破壊神様は、創世神ゼフィロス様の弟にあたる人物だった筈だ。


「ま、そう言う事だ。詳しくは追々……今やるべき事は、なんだ?」

 

 ヴァルの言葉に、俺は再び闘志を取り戻す。人質とも呼べる存在が、俺の行動を鈍らせるなど承知だった筈なのに、な。


「魔神を倒す。そして、真なる平和を掴む事だ。すまん、力を貸してくれ」

「当然だ。ユウキ、お前には何度も助けられた。だからこそ、俺がお前を支え助ける。行こうぜ! 人魔の未来の為にも、邪悪なるものを討つ!!」


 ヴァルに習い、俺も神剣ロード・オブ・シンフォニアを召喚し、王城上空に浮かぶ人影を見据え構えを取る。


『……まさか、そんな手を使って来るとはね。目には目、歯には歯。神には神を、ってか。全く、僕の想定を超えて来るなんて、少しは頭を使っている様だね? でもま、結果は変わらない。来なよ、僕が直々に君達を殺してやる』


 直後、俺達の目の前に瞬間移動してきた魔神。瞬時に剣を振り迎撃するが、その攻撃はピタリと止められる。


『おー怖い怖い。でもさ、そんな鈍間な攻撃で何をしたいの? 攻撃ってのはね、こうするんだ……よッ!!』

「な、ぐはっ!?」


 剣を止められた俺は、魔神の拳を鳩尾に受け弾き飛ばされる。都市内部の建物にぶつかり止まったので、吹っ飛ばされた距離はそれ程でも無い。ただし、攻撃が、見えなかった。


「ユウキ!? チィッ!!」

『おっと、流石に君の攻撃は不味いね。っと、危ない危ない』


 そんな軽口を叩きながら、ヴァルと剣戟を繰り広げる魔神。今度は俺の目にも捕らえられる速度で、攻防を行っている訳だが……つまりそれは。


「ぐっ!?」

『でもま、破壊神の力を得ただけで、所詮君は魔人。いや上位魔人かな? 尤も半神半人以下であるという事実に、変わりは無いないんだよね。確かに剣に宿る力は、僕をも殺し得る。けれど、扱う者が神に至れてない以上、どうにもならないよ』


 くそ、魔神の力は俺達の更に上を行く。俺自身は技量不足。ヴァルも完全に力を行使出来ていない故に。それにしても、付け焼刃とも思える魔神の力を、どうやってここまで引き出している?


 少なくとも、魔神としてその能力を十全に発揮する為には、膨大な時間を要するはず。ムラマサ殿の技量にしても、鬼神時代の数百年と言う経験があってこそだと思うと、だ。


『ああ。僕の力の根源が気になる? そうだよね、君達は間違いなく世界の上位者と言っても過言ではない。けれど上には上がいると知れば、どんな反則を使ったのか気になるよね? 察しが悪いけど、冥途の土産に教えてあげるよ。僕の固有スキル、電脳侵攻による物さ。現世のハッキング技術が、この世界によって昇華された、究極スキルだよ』


 よくもまぁベラベラと喋る物だ。こう言うのは敗北フラグが立つもんだが、全くと言って良いほど付け入る隙が無い。それはヴァルも同様で、一筋の汗を流している様子である。


「……なら、こいつでどうだ!?」


 そんな状況を打破すべく、俺は一気に魔神へと踏み込む。俺の声に合わせ、ヴァルも瞬時に魔神へと突撃し、斬り掛かる。阿吽の呼吸による、神剣による連携攻撃。俺自身強くなったと思って居るし、ヴァルも新たな力を手にしている。こんな所で負ける訳には行かない!


『ふぅん。一人でダメなら二人で、か。まぁ間違ってはいないけど……僕を誰だと思って居るの? 神の成り損ない風情が、調子に乗るなぁ!!』


 魔神が手を振れば、その風圧だけで俺達は圧倒される。ギリギリで踏み止まり、再攻撃、連携するも悉く避けられ、手痛い反撃が徐々に俺達の体力を削って行く。


 俺が肩で息をすれば。ヴァルも額から血を流すと言う状況。不味い、このままでは削り殺される可能性がある。一撃、俺とヴァルの持つ神剣には、超常殺し、つまりは神殺しの効果が付与されている。当たればダメージが通るだろうが、現状では当てる事すらままならない。


『……ま、よく頑張ったと思うよ? 神相手に、ここまで戦っているんだから。普通なら、神気に圧倒されてそれだけで発狂するんだよね。んじゃま、これで終わりにしたげるよ。残念、君達の冒険はここで終わってしまいまし――ッ!?』


 と、ほんの一瞬の間に魔神へと降り注ぐ閃光。


「兄さん!」

「あなた!」


 それは、熾天使として覚醒進化した、安芸、ノーラによる攻撃。風の精霊都市、土の精霊都市の混乱を収めた、最愛にして最強の嫁達。


「若武者よ!」


 それに合わせる様に、一閃の光が魔神を薙ぐ。神をも切り裂く剣閃、超越技術による抜刀術。火の精霊都市の解放を行い、成功させたムラマサ殿の斬撃だ。


『ヴァーミリオン様!!』


 それは、三つの温かい波動。ヴァルを守る様に、三柱の上位魔人がその姿を現す。ヴァルの婚約者たる、アークデーモン級の力を持つ、ジュリア嬢、マイヤ嬢、ヘカテリーナ嬢だ。


「ああ、今なら俺も届く……皆の命を俺にくれ! 解放、破壊神の力を今ここに顕現させる……俺達は、もう二度と負けない。未来を勝ち取る為に!!」


 三名のアークデーモン級の魔人の力が、神剣シヴァを介してヴァルに流れ込むのが確認出来る。ヴァルを含む四名が黒い繭に取り込まれるが、次の瞬間に弾け飛ぶと、そこには先程とは比べ物にならない程、強力な存在値を有する、俺の親友が佇む。


「解放! 破壊神シヴァの名の下に、ヴァーミリオン・ロードクラヴィス、全力で行く!!」


 その力は、間違いなく創世神ゼフィロス様に連なる者。追い込まれた状況下、ヴァルも破壊を司る神の力を開放し、神剣シヴァを構えつつ魔神を睨み付ける。


『へぇ。まさかこの短時間に……成程、リチャード達が制圧されて、アークヴァンパイア達も正気を取り戻したと言う事か。全く、有象無象が、神たる僕の邪魔をするとは……でも、所詮はッ!?』

「無駄口を叩くのは、三下が行う事だ……我が名はオーディン。創世神ゼフィロス様の代理として、神罰を代行する者なり」


 そして先々代精霊騎士オーディン殿。オーディン殿が魔神との間に割って入った瞬間に、俺の脳裏に機械的音質の声が響き渡る。それは、更なる力。魔神を討つ為に、もう一つ先へ進む必要があると言う事実。


『奴に勝つ為には、この力を開放する他無い。幸いにも、解放する為の手段は今ここに揃っている。四つの宝玉を纏め、唱えよ、解放せよ。我が名は――』


 その声、重機召喚スキルに導かれるがまま。俺はその名を呼び起こす。俺がマリンから受け取った、守りの宝玉と呼ばれる、青の宝玉。これに呼応するかのように、ムラマサ殿が持つ、赤の宝玉。ノーラの持つ、黄の宝玉。そして、安芸の持つ、緑の宝玉が光を放つ。


 四大元素属性を司る宝玉が共鳴し、俺の体は光の柱に包まれる――以前の様な、半神半人へと至った様なタイムラグも無く。瞬時に俺は、超重機を纏う姿へと変貌を遂げた。


『……その、姿は……』


 オーディン殿と切り結んでいた魔神が、一瞬呆けたような表情を見せ呟く。漲るパワー。迸る閃光。嘗てない程の、強大なエネルギーを纏い、俺は魔神と対峙する。新たなる神の一柱『超重機神』として――。


 



閲覧、ありがとうございます。明日、遂に決戦の火蓋が落とされます。

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