第八十二話 新旧決戦
クレーン機能付き超弩級戦艦 対 最新鋭垂直離着陸機能搭載ステルス戦闘機
主様がこの戦艦ヤエザクラを発った直後、電波探信儀に微かな反応を検知。その識別コードから、間違いなくこの艦に搭載されていた、F-35BライトニングⅡだと思われます。
「まさか、主様と入れ違いにですか……主様と見た、黒い瞳。あれがこちらの位置、行動を把握していると言う事でしょうね……」
念の為に、と錨を上げて移動はしましたが、焼け石に水程度だったと思われます。それに、どちらにしても、超音速機の機動力には、遠く及びません。
「皆さま、聞こえておりますか? 現在、本艦に向けて高速の飛翔体が四つ。恐らく、各方面に放ったF-35BライトニングⅡだと思われます。本艦は戦闘配置に付きます。各自、身の安全の確保を」
本艦。正式名称、クレーン機能付き超弩級戦艦、戦艦ヤエザクラ。主様から頂いた、この尊い名と艦船は、完全に私の指揮下にある、半自動操縦の艦船です。一応各種兵装、機銃座等は、人員を配置して射撃も可能ですが、現状ではそこまでする事も有りません。
「念の為に救命胴衣の装着と、技術班はダメージコントロールの用意をお願いします」
そのように指示を出します。主様からの指示で、エルフ、ドワーフ連合、精霊騎士マリン配下の軍人達には、艦のダメージコントロール、応急修理を担当して貰う事になりました。
短い時間ではありましたが、各員危機感を持って訓練に参加し、実戦に置いても、辛うじて何とかなるレベルにまで漕ぎ付けています。
「……自己再生能力などがあればよいのですが、その様な都合の良いものなどありませんし」
そうなのです。兵装、移動と言った行動は私が直接行えますが、被弾個所、浸水個所等の応急処置は、どうしても人の手が必要となります。普段なら、主様の召喚を解除し、再召喚すれば完全回復するのですが、無い物強請りは出来ません。
「来ましたか。主砲、三式対空弾……副砲、高角砲、準備良し。各機銃、制御系統正常。主砲、打ち方始め!」
轟音が鳴り響く。508ミリ主砲には、対空迎撃用の砲弾、三式弾が装填されています。空中で炸裂し、航空機を一網打尽にするべく開発された弾です。史実、現世に於ける米軍の対空兵装、VT信管には及びませんが、航空機に対しては絶大な効果を期待できます。
「……抜けられましたか。続いて副砲、射撃用意……打ち方始め!」
射程距離約31海里、キロに直せば、58キロメートルの射程を誇る508ミリ主砲。三基九門による砲撃を繰り出すも、その全てが潜り抜けられます。
無理もありません。F-35BライトニングⅡは、超音速で迫るだけではなく、東西南北、各方面から、一機ずつ飛来して居ます。旧軍の様に、集団、密集編隊なら撃墜も出来たでしょうが、雀の涙にすらならなかった様です。
「く、まさかここまで苦戦するとは……って、ミサイルアラート? いえ、そんな馬鹿な。偵察用兵装の筈が、何故対艦ミサイルを搭載しているのです!?」
電波探信儀の反応に、焦りを隠せません。対艦ミサイルとは、文字通り艦船を撃沈する為のミサイルで、一応F-35BライトニングⅡにも装備出来ますが、そもそも偵察兵装、短距離対空ミサイルと、偵察用ポッド、外部ガンポッドしか搭載して居ない筈なのに。
「不味い! 総員、衝撃に備えて下さい! 迎撃、機銃自動射撃開始!」
念の為に、艦内に居る乗組員へ、ミサイルが被弾した時に備えて、衝撃に備えて貰う形を取りました。理論上は本艦に搭載する、25ミリ機銃でも迎撃は可能な筈ですが。
「と言うか、対艦ミサイルと言う事は、空対艦のハープーン。最大射程からすれば、ここまで接近する事も無い物を……そう、か。舐められているんですね」
確かにこの戦艦ヤエザクラは、旧式の軍艦その物です。一応レーダー類、動力類は最新鋭の物と遜色ない性能ですが、火器自体は旧式と言わざるを得ません。せめて、現代艦の装備する、速射砲、CIWS等があれば話は別でしたが。
「ふ、ふふ……良いでしょう、いいですよ、ええ。ならば見せてやりましょう。大日本帝国海軍としての意地を。コアリンク開始……主様、英霊達よ。私に力を……艦魂同調開始……ッ!!」
分かります。戦艦ヤエザクラが、全て私の物となる感覚が。視えます、白煙を焚き飛翔する誘導弾が。そして――。
『当たりなさいッ!!』
全神経をレーダーと同調させ、主砲、副砲、高角砲、機銃をハープーンミサイルへ放つと、爆音と閃光が鳴り響く。第一波として放たれたハープーンミサイルは、合計四発。F-35BライトニングⅡには、最大二発のハープーンが装備出来るので、これで残りの本数は、計四発。
『全弾撃破確認……第二波は、無し? 距離を詰めて……しまった、対艦ミサイルと、爆弾の複合兵装状態!?』
気付くも遅く、高速で頭上を通過するF-35BライトニングⅡから、無数の爆弾が投下されており、真っ直ぐに本艦へと向かって来る。回避も試みようにも、恐らくただの無誘導爆弾では無い。全速力で回頭しましたが、それに追随する様に爆弾が迫ります。
『レーザー誘導の爆弾ですか……それにしても一体、どうやって補給整備、搭載をしたと言うのです!? 迎撃が、間に合わない……ッ!』
直後、船体各部に着弾し、爆破炎上する誘導爆弾。戦艦ヤエザクラの装甲は、全面、全区画に装甲が施されています。その為、F-35BライトニングⅡに搭載される爆弾では、大規模な被害は受けない筈です。ですが、私は全身に酷いダメージを負って居ます。
『う、く……ですが、まだ。まだこの程度で……戦艦が簡単に沈む物ですか!!』
現在私の状態は、戦艦ヤエザクラと完全に同調した状態。即ち、私も直感的に敵を攻撃、撃破可能な反応速度を有して居ますが、同時に被弾すればそのダメージは、艦を通して私も受けると言う、諸刃の剣状態です。
『く、各部チェック。被害状況……外部装甲、小破。航行能力に支障なし。つぅ、魔王城での攻撃は、艦とリンクして居なかったから然程ではありませんが、リンク中だと効きますね……』
まさかとは思いますが、私がリンクする事を見越して攻撃方法を変えた、とでも言うのでしょうか。ですが、現状リンク状態でないと、反応速度が追い付かないと言う状況。
最後の一機でもある、空対空兵装満載のF-35BライトニングⅡを出しても良いのですが、操られる、または四対一の状況となれば、無為に失うだけ。手詰まり、ですか。
『……え、後部甲板から、F-35BライトニングⅡが発艦要請? いえ、私の制御下でしか行動出来ない機体が何故……』
そうなのです。戦艦ヤエザクラに搭載されている艦載機は、私の指令無くして稼働する事はありません。それが、正に自我を持ったかのように行動するとは一体どう言う事なのでしょう。
『……』
『そ、それは……ですが、万が一……分かりました、貴方を信じます。F-35BライトニングⅡ、発艦!』
戦闘機、F-35BライトニングⅡからの思念を受け取り、私は発艦要請を許可。垂直離陸からの推力偏向にて、機首を上空に向けると、上空を旋回する敵方のF-35BライトニングⅡが、ロックオンされたようです。
その状態から、計四発の空対空ミサイルが発射。同時に即座に推力を前進状態に偏向し、その場を離脱。直後、後部甲板。発艦した場所へと再び爆弾が落ちて、爆発音が響く。
『くっ、ですが、かすり傷です!』
その場でホバリングからの、機首のみを上空に向け、空対空ミサイルを放つと言う曲芸をやってのける、F-35BライトニングⅡ。お陰で私も被弾しましたが、白煙を引いて飛翔する空対空ミサイルは、敵目掛けて突入。
必死に旋回と、電子妨害を試みている敵の奮戦も空しく、瞬く間に三機が撃墜されました。残るは、敵方の一機と、此方の一機のみ。
『一騎打ちですか……って、対水上電探に感あり。まさかここで!?』
空中では、同機種同士の一騎打ちが行われていますが。その状況を後目に、水平線上から大規模なモンスターの群れが現れます。水上を移動するモンスターの群れ。今まで何処にいたのかと思う位の数に、私は急遽砲弾を対艦、対潜用の徹甲弾に変え、迎撃体制を取ります。
『うん、ここは僕達に任せて貰おうか……ヤエと言ったね。ケートス、出るよ』
と言いつつ、戦艦ヤエザクラの直下から空中に浮かび上がるのが、水の聖獣ケートス様。主様を主と仰ぐ、この世界を守護する聖なる存在の一角。
『ケートス様』
『君は上に気を付けて……対水上戦闘は、僕が引き受けるよ。ユウキから、もしあの空飛ぶ奴が居る内は、控えて置いてと頼まれていたのでね。援護出来なくてゴメンよ』
そうなのです。確かに聖獣と崇められるケートス様達ですが、主様の予見では、下手をすれば致命傷を負う可能性がある、と言う事でした。その為、ケートス様は、直下から艦の防御力を上げる、補助に徹して居られました。
こうして顕現された理由も、恐らく敵の対地、対艦兵装が尽きたからと思われます。状況としては、こちらのF-35BライトニングⅡが優位。更に言えば、ケートス様の誇る防壁を纏っており、敵の攻撃は当たっても致命傷に至らないと言う状況です。
「ケートス様!」
と、水上モンスターと対峙するケートス様へ声を掛ける存在。医務室へ居た筈のハイエルフの騎士、ミスティス様を始め、魔王城で被害に遭った女性たちと、精霊騎士マリン様の配下の者達が、総出で甲板に現れました。
『うん、援護して貰えるのかな? いいよ、でも決して無理はしないでね。ユウキが悲しむ。僕が討ち漏らした敵の掃討、頼んだよ』
『お任せ下さい!』
ケートス様の言葉に、ミスティス様を含めた、全員が強く返答を述べています。まだ距離がありますので、その分余裕を持って戦闘の準備が出来ると言う事でしょう。では、私も優勢とは言え、最後の一機。F-35BライトニングⅡの援護に回るとしましょう。
『全兵装完全制御。射撃モードを単射に設定。撃ち抜かせて貰います!』
そう言いつつ、対空射撃を開始。敵方は自衛用の空対空ミサイルを二発搭載していますが、既に打ち尽くし外付け機関砲のみ。対してこちら側は、計八発。空対空兵装満載で出た事も功を奏しています。
『回避行動を妨害しつつ、移動経路の阻害』
戦艦ヤエザクラと同化、完全連動しているので事細かく制御可能な、高角砲と機銃。射撃を開始し敵の動きを制限して行くと、此方のF-35BライトニングⅡが背後を取り、自衛用でもある短距離ミサイルを発射。
このミサイルは、現世と同じ最新鋭の物で、妨害や欺瞞に強い、撃たれたら回避が極めて難しい物となって居る。必死に回避妨害用の熱源体を放つも、その欺瞞に惑わされずに敵方へとミサイルが着弾――。
『!?!?!?!?』
それはまるで、何故だ。と言って居るかの様に。敵方のF-35BライトニングⅡは、湖上へと落ちて行きます。暫しの猶予の後、湖面と衝突し爆発炎上。これによって、敵に鹵獲運用されたF-35BライトニングⅡは、全機撃墜しました。
元々は戦艦ヤエザクラ搭載の艦載機。私の指揮下で運用する兵器だったので、敵方の懐が痛む事もありません。空しさだけが過ります。
『……水上戦闘の様子は?』
ですが、感傷に浸っている余裕はありません。電波探信儀の反応を探ると、短時間の間にモンスターの数が大幅に減っている様です。
ケートス様は、広範囲攻撃型の聖獣。湖上でも津波を起こし、モンスターを押し流し。巨大な渦潮を巻き起こし、その身をバラバラに砕いて行く様は、正にこの世界を守護する、最強の一角でしょう。
それだけではありません。ミスティス様を筆頭として、魔法を始めとする遠距離攻撃。竜人族であるティナ様も、空中に現れたモンスターを、片っ端から撃墜して行きます。
『成程、主様の仰っていた通り。戦える女性達なのですね。では、私もその背を押させて頂きます!』
そのように呟きつつ、モンスターの殲滅戦に加わりました。結果は必然。以前主様が仰っていましたが、どんなに分厚い皮膚や脂肪を持っていた所で、鋼鉄と殴り合って勝てる訳が無いと。
読者様からのご要望で、急遽投稿の運びとなりました。
少々スケジュールが過密故、チマチマ書いております。勉強の合間に、と言う感じでして。
最終話までの道のりは出来ていますので、もう暫くお付き合い頂ければ幸いです(*'▽')




