第八十一話 解放、水の精霊都市
精霊騎士マリンの救出に成功したが、これだけで水の精霊都市に住む、民間人の洗脳は解放されていない事が分かった。マリンとの戦闘は、大賢者マコト君により、周囲からの認識されない様に、広範囲を認識阻害の魔法で妨害して貰っていた。
この為民間人がこちらを認識してはいないが、あの神の使徒は敵と言う、異様な光景。張り紙も剥がす事も無い事に、不気味さを覚える。何とかしたい所ではあるが、今の俺には、これを回復する手立てはない。
「救命救急、カエデに習って居て良かったですよ。でも、これからどうします? 原初の記録書による解析ですが、このままではマリンさんはともかく、人々の解放は出来ませんね」
と、どうするか悩んで居た所であるが、既にマコト君が原初の記録書により解析鑑定を行っていた様だ。俺は余り知性が高くない、故にマルチタスクは苦手だが、それをマコト君が補ってくれている。
「凄まじいな。まさかマリン以外にも、解析を行っていたのか……それで、結果はどんな感じに?」
マコト君の固有スキル『原初の記録書』。現世地球でも、概念的存在であるとされている、この世の全てを記録した書物とされている。
その為、膨大な量のデータと演算を常に行う必要がある。それこそ普通の人間では、脳が耐えきれず、気が狂い、最悪死に至る程の物。大賢者たるマコト君だからこそ制御していると言う、正に人知を超えた叡智の結晶体なのだ。
「はい。そして解除の方法も発見しました。ここに来るまでにすれ違った人も観察していましたが、当人たちに洗脳の術式は確認できませんでした。故に対象を、構造物と言った無機物に指定して、鑑定を行って居たんです」
その頭の回転の速さには脱帽するしかないと思う。俺はマリンを救出すれば、芋づる式に民間人、水の精霊都市の解放も出来ると思って居ただけに。
「まぁ、精密な解析鑑定は、対象が静止していてこそ可能なので、流し見程度でしたけどね。一般人はこの手のスキル、魔法に耐性がないので、調べる事ができたんですよ。結果、この世界固有の洗脳魔法による物だったので、比較的解析も容易でした」
「……今更だけど、決してマコト君を敵に回しては駄目だな。まるで勝てる気がしない……本当に、君が仲間で良かったよ」
言うは易し行うは難し、と言う奴だ。それだけの演算と解析、同時に可能なのは恐らくマコト君だけだろうに。素直に彼が仲間で良かったと思う。考えてみれば、俺がこの世界であの扱いを受けた時でも、唯一味方になってくれたのもマコト君だった。
「いえいえ、ここまで来て裏切るとか、それで何の得があるんです? それに俺は、直接戦闘系じゃありません。強いと言っても限度はあります。まぁ、ユウキさんに習う訳ではありませんが、幾ら直接戦闘が苦手とは言え、簡単に倒される気もありませんけどね。さて状況ですが……」
謙遜しつつも、マコト君は原初の記録書の効果により、宙に半透明な、展開図的なモノを浮かべる。それはまるで、電子キーボードか、または相手のステータス画面を見ている様な感じだ。
「ここ、この神殿全体が、洗脳の為の、強力な魔法陣となって居るんです。個人、一般人へ掛けられた洗脳は、この魔法陣を解除すれば良いのです。そして破壊方法に付いてですが……」
「破壊か。つまり神殿を破壊すれば、民草は元に戻ると言う訳か。破壊、解体は得意だぜ。俺に任せてくれ……よし。重機召喚、コール。クローラークレーン。オプションパーツ、鉄球――」
破壊ならお手の物だと、重機召喚スキルを使い、クローラークレーンを呼び出そうとして――。
「ちょっと待って下さい」
「おおう!?」
急遽止められ、クローラークレーンの召喚は行われなかった。前に魔王城の障壁を破壊したように、鉄球クレーンでと思ったのだが。
「最後まで説明は聞いて欲しかったですね。確かに破壊した方が良いですが、ただ破壊するだけでは意味がありません。寧ろ、破片等が飛び散り、二次災害と言う感じになる可能性の方が高い。その役目は俺に任せて下さい。更に言うなら、神の使徒たるユウキさんが、神殿を壊す等、見聞が悪いでしょうし」
マコト君の言う通りだった。俺は目先の民草の救出の為に、と気が逸っていたのだと思う。
「そんな事を言って居る場合か? 確かに支持率何かは重要だと思うし、洗脳されているとは言え、現状一般人の目は無い。ならば――」
確かに神の使徒たる俺が、各都市の象徴でもある神殿の破壊と言う行為、神に反逆する物と、自分で宣言している様な物であるが、壊さない限り人々の洗脳が解けないのであれば、致し方ないと思う。
『念話にて失礼します。ユウキさんがやるべきではありません。その様子だと、ユウキさんは気付かれていないと思いますが、現在の状況は敵に筒抜けとなっています……上空、遥か高空に、高密度の魔力体を感知してます。そして、アレはこちらの動きを注視している』
そんな念話をマコト君から届けられる。マコト君が嘘を言う訳もないが、魔力探知をアクティブからパッシプに変えて探知した所、確かに上空に魔力の集合体を感知出来る。
魔力探知にもアクティブとパッシブの二種類があり、アクティブは自分から魔力を発し、跳ね返りを観測する探知方法。パッシブは、受動探知とも言うべきもので、相手の魔力を感知する探知方法だ。
『なんと……ふむ、あれか。って、あの黒い瞳じゃないか!? まさか監視されているとは思わなかったが、それが何の……』
確かに俺達を監視している、黒い瞳を確認は出来た。けれど、監視されているだけでそれ以上に出来る事など無いと思うが。と言うか既に、神の使徒が水の精霊騎士を倒した、と言う状況は捉えられている筈。
『マリンさんの件は仕方ありませんよ。一応先手を打ったのは、あちらです。そして……相手は、ハッキング技術を持っている、と仰ったのはユウキさんですよ。考えてみて下さい。ハッキングは『現代地球の技術』です。だったら、アレを中継して、使徒が神殿を破壊と言う『生中継』だって可能だと、考えられませんか?』
『ッ!!』
言われて納得した。そう、現代技術であるならば、パソコンやインターネット環境、配信と言った事が可能ならば、俺の悪行として全世界に知らしめる事も可能だと言う事だ。
『だから俺がやりますよ。まぁ俺なら平気です。前例がありますからね……』
そう言って決意を新たにするマコト君。そして前例と言うのは、言わずもがな。以前戦った四天王の一人、絶氷のクリスコフィン。正式な名は、大賢者クリストフ。元人間で、現地人として大賢者に至った人間だ。
『マコト君の言いたい事は分かる。けれど、それでは――』
『言わないで下さい。かつての英雄、大賢者クリストフと同じ結末を辿る可能性がある、と言いたいんですよね? だからこそですよ。汚名を被るのは、一人で十分です。それに、俺は一人じゃない。決して、クリストフと同じ道は辿りませんよ。俺を信じて、任せて下さい』
本当に、何処まで見抜けるのか、逆に怖くなってくる。そして、かつてない程、真剣な眼差しを向けるマコト君。そうだな、彼が俺を信じてくれている様に、俺も彼を信じる。
「……分かった。任せるよ。ただし、民間人への被害は絶対にない様に。厳しい条件かも知れんが……」
自然と俺はそんな言葉を紡いでいた。あの黒い瞳によって、映像として残されたとしても、最低限罪なき人々を巻き込まなければ、汚名返上の機会だってきっと存在する。
「フ。俺を誰だと思って居るんです? 大賢者、その名に恥じぬ活躍をお見せしますよ……まあ、後でマリンさんには謝って置きましょう。流石に、起きて神殿がないでは、アレですしね」
そんな風に若干口角を上げ、苦笑いをしながらも、マコト君の周囲の魔素が集約されて行く。マコト君は複数魔法を同時に行使、演算可能なマルチタスクを備えて居る。それも原初の記録書による、補正が加えられてである。
「太陽光の収束、反射率を補正、光度強化、収束開始。降り注げ、天なる炎、原初の灯を今ここに!」
マコト君の詠唱に、神殿上空に光が集結し、一点へと集約されて行く。その高度、熱量は計り知れない程強力な物だ。俺の攻撃方法は、物理的接触破壊。対するマコト君の攻撃方法は、恐らく太陽光を収束放射した、熱量攻撃だと推測出来る。
「って、待て待て!? そんな魔法、ここでぶっ放したら――」
「そんなヘマはしませんよ。既にフォースフィールドを、神殿の外縁部に展開済みです。そして制御は俺自身が行います。被害何て、起こりえません……では、行きます! 集え閃光よ、我が問いに応え顕現せよ。宇宙魔法、ハイパーノヴァ・シリウス!!」
その直後、辺りを一瞬で埋め尽くす、極大閃光。あの時邪神が使った魔法が、スーパーノヴァと言う魔法だが、俺が半神半人への進化した時の、原初の知識を紐解いて行けば、このハイパーノヴァ自体は、スーパーノヴァの下位魔法に当たる筈だ。
「こいつは……」
けれど、その威力は着弾した段階で違う事も分かった。シリウスと名付けているだけに、巨大恒星シリウスの様な、膨大な熱量を加えたと言う事だろう。次の瞬間には、眩い閃光は消えてなくなり、既にその場には、水の大神殿の影も形も存在しない。
「言ったでしょう? ヘマはしないと。そして、再解析完了です。やはり原初の記録書通り、魔法陣は完全に破壊成功です。これで人民も、回復する事でしょう」
「……本当に、凄まじいな。助かった、やはりマコト君に同行して貰って正解だったな。さて、この情報の共有を行おう。これで少なくとも、人民達の無事は確保出来るだろうしな」
一先ずこれで、水の精霊都市の解放、精霊騎士マリンの救出は成功を収めた。残るのは、風、火、地の精霊都市と、精霊騎士達だ。
正し懸念は残る。上空に居る魔神の配下、眷属的な、あの黒い瞳に、マコト君の行為は捉えられている。何も起こらなければよいが……今は、耐えよう。
「……よし、俺と聖獣の、魂のパスを通して、聖獣達への連絡は完了だ。マリンを連れて、一度戦艦ヤエザクラに戻ろう。流石にこのままには出来ない」
「了解です。転移魔法、行きますよ!」
各地へ向かう聖獣達への連絡も終え、マリンを保護したので、一時退却の為に戦艦ヤエザクラに転移する決定を下すが、その先で大規模な戦闘が行われていた等、今の俺達に知る由は無かった――。
閲覧ありがとう御座います。水の精霊都市解放戦完了。残る精霊都市は、火、風、土。
それゆえ、視点は他のキャラに変わります。ご容赦ください(´▽`)
追記
少々現実が込み入った状況になって来ましたので、一応活動報告には書いたのですが、一時更新停止致します。
完結はしますので、少しだけお待ちください。




