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第七十七話 天使の加護

 ハイエルフの国での情報収集を計画した俺達。未だ目を覚まさない大賢者マコト君と、超魔導サツキさん。慌ただしく動く戦艦ヤエザクラの艦内で、手持無沙汰にしていた少女、天使族のラファエルが、ふよりふよりと浮かびながら、俺の元へとやって来る。


「お兄ちゃーん。ちょっとお話しよー?」

「ラフィ? っと、おいおい危ないぞ。ほら、しっかり頭を掴んで置きな」


 そう言いつつラフィを肩車する事になった。ふむ。昔親父が、俺や安芸を肩車した時って、こんな感じだったのか、と何か感慨深いものを感じる。いずれは安芸とノーラの子供を、なんて。


 にしても、だ。ラフィの見た目は本当に子供。良くて中学生くらいの背格好と言う位の外見。こんな少女まで、魔王は毒牙に掛けた訳か。本当にあの犯人連中は、下半身が脳味噌なんじゃないかと、不愉快な気分が沸き上がって来る。


「……お兄ちゃん?」


 危ない。少々険しい顔をし過ぎて居たかも知れない。取り繕う、と言うのも変だが、ラフィは俺に話がありやって来たんだったな。


「いや、ちょっと考え事をな。で、話ってなんだ?」

「ええっとねー……その話は、先代ラファエル様がしてくれるから、ちょっとだけ場所を変えて欲しいな」

「……何?」


 先代ラファエル。つまり、この世界に存在する、もしくはしたとされる、四大天使の一角が、俺に何かあると言うのか? 


 まぁ、一応神の使徒、創世神ゼフィロス様の使徒である俺だから、神々の遣いでもある天使が、何か個人的な話があっても不思議ではないか。


「分かった。その話は、人に聞かれると不味い奴かい?」

「そう、だねー。一応防音の魔法は張るけど……あ、でもアキお姉ちゃんと、ノーラお姉ちゃんなら良いって言ってるよ」


 ふむ。一体何があるのだろうか。安芸とノーラは俺の妻だから、会話を聞いても大丈夫と言う事だろうが、本当に一体何があるんだ? と言うか、ラフィは現在進行形で、ラファエルから話が届いているのか。


「んーそれじゃあ艦長室へ向かおうか。あそこなら比較的防音もしっかりしてるし、防音魔法の効果もでかいだろうしな……所でこのまま行くか?」

「……降りた方が良い?」


 若干の困り顔と共に、コテンっと小首を傾げるラフィ。くっそ可愛い。まぁ、肩車の状態で歩いても良いんだが、ぶっちゃけ艦内は狭い。


「どうしても、と言うならこのままで良いけど、頭ぶつけるなよ?」

「あ、そっかーそうだね。降りるよ、ごめんねお兄ちゃん……んしょっと。はい、手を繋いで行こう?」


 凄まじい破壊力を秘める笑顔を向けつつ、小さな手を伸ばす様。ヤバイわこれ。ラフィマジ天使。あ、いや、種族天使だし天使と表現するのは間違って居ないのか?


「お兄ちゃーん?」

「お、おう。んじゃ行こうか」


 魔王を肯定する気にはなれないが、父性を引き出そうとするラフィに、俺は内心圧倒されている。人は外見では分からないものだが、ラフィも外見以上。いや、もしかすると……等と考えながら、艦長室の扉を開ける。


「防音魔法……できたー。それじゃあお兄ちゃん、ちょっとだけ失礼するね?」

「ん、なにが……ッ!?」


 艦長室に入った途端に、即座に防音魔法を張ったラフィ。少々驚いて居る所でラフィが浮かび上がり、そっと俺と唇を重ねてくる。余りにも唐突だったので、俺はそのままの状態で目をぱちぱちしている位だ。


 けれど、そんな状態でもしっかりと魔力の流れが確認出来る。それも、魔力だけではなく若干の神霊力の流れも見受けられる。つまり、これは……。


「いきなりごめんねー……でも、これで大丈夫…………失礼しました。神の使徒、サクラユウキ様。私は、四大天使が一人、ラファエルと申します。使徒たる貴方様へ、この様な無礼をお詫び申し上げます」


 少女の声から、一瞬で大人びた声帯に変化したラフィ。いや、その一瞬で身体的特徴も一気に変化。恐らくこれが、本来の『熾天使』たるラファエルの姿と言う事だろう。


 頭上に輝く金色の輪、三対六枚の純白の羽。腰まで届く銀髪に、靡くロングツインテール。容姿的には、髪型と色以外だと、火の精霊騎士アリシアに近いが、幾分ラファエルの方が大人びて見える、そんな感じだ。


「いや、顕現する為には必須だったと言う事だろう? 半神半人に進化した時の情報にあったよ。と言う事は、ミカエル、ガブリエル……ウリエルを含めての四大天使だな?」


 因みに俺が知る限り、現世地球の知識として語るなら、七大天使と呼ばれる筈だが、この世界では四大天使と言われている。多分、四大女神、四大聖獣、これに連なる様に、四大天使と呼称されていると言う事だろうな。


「はい。私は創世神ゼフィロス様の命を受け、地上へと降りました。ですが、運の悪い事に、天使本来の力を発揮できず、ラフィの様な状態で固定されてしまい……使徒たる貴方様を騙すと言う形になり、申し訳なく思います」

「気にしてないよ。それよりも、大変だったろうに……それで、話とは一体何なんだ?」

「それに付いてですが、私は一つの権限を預かって来ております。本当の熾天使と同義たる、力を与える為に。安易に口外出来ない故に、この様な形でとなりました」


 熾天使と同義たる力。この時点で俺でも察する事が出来た。安芸、ノーラは『限定的』に熾天使級の力を発揮する事が出来る。そう、限定的にだ。これは現在二人の種族が天使の様な、精神生命体では無い故である。


「……俺としては、現状からすれば歓迎したい。だが、本当に良いのか?」

「そうですね。そこに関しては、貴方様を信じるとしか言えません。ですが、ゼフィロス様からも言われているでしょう。貴方の判断に任せる、とも。それはつまり、審判者としての役割も含まれております」


 ラファエルの言葉に少々眉を吊り上げてしまう。確かに俺は、ゼフィロス様から『超常殺し』の使い方に関して一任されている。当然その中には、世界の膿と成りし者の粛清も含まれる。


 私情で暴走する事はないとは思うが、二名の熾天使と言う存在が加わる事で、俺のブレーキが外れる可能性も無くはない。裁き、か。


「ラファエル、俺は――」

「全ては貴方様の御心のままに――どうやら、役者は揃ったみたいですしね」


 ラファエルの言葉に首を傾げると同時に、防音魔法を施された艦長室の扉が勢いよく開かれる。


「兄さん!」

「あなた!」


 そこにやって来たのが、最愛の嫁二人。今の話題、渦中の二人だ。恐らく防音魔法が張られた事に、慌てて駆け付けたと言う辺りだろう。


「って、え。だ、誰よこの美人さんは。兄さん、女の人を連れ込んで何を……」

「あなた?」

「……はぁ。落ち着け。ラファエルだよ。理由があって本来の姿に戻ったんだ」


 一応説明はするも、ジト目を変えない嫁二人。まぁ、一言彼女らに言ってから行けばよかったのだが、その一言すら述べる前に来ちまったしな。嫁として心配と言うのも分かる。


「この姿では、お初にお目に掛かります。四大天使が一角、熾天使ラファエル。故あって、創世神ゼフィロス様の遣いとして参りました」 

『ッ!?』


 安芸とノーラは、俺の嫁であり、俺が授けられた『創世神の加護』の庇護下で、種族進化を果たしている。


 安芸は人類種の最上位たる、聖人。ノーラは精霊の流れをくむ妖精、ケットシーへと。間違いなくこの世界の上位者であるし、限定的に熾天使の力も行使出来る、最強の一角だ。


 けれど、そのエネルギー量は、純天使であるラファエル。それも天使階級の最高位たる、熾天使には遠く及ばない。だからこそ身構える訳だ。しかし焦っているとは言え、これは少々頂けないだろう。


「落ち着け。ラファエルに敵意は無い。警戒するのは分かるが、彼女が本気で俺を殺そうとするなら、既に俺はこの世に居ない。ま、仮に戦うとしても、只で死ぬほど弱いつもりはねぇが、な」

「お戯れを……天使は主たる神々の遣いであり、使徒である貴方様へ害をなす事など、絶対にありえません」

「……害をなさないだけで、倒せないとは言わないんだな」

「…………ラフィを虐めるの? お兄ちゃん……」


 俺の言葉に、一瞬で声色を変え、瞬時に涙目を作り出すラファエル。不味い。その容姿でお兄ちゃんと言う言葉は、俺の精神に凄まじいダメージを与えてくる。


 冗談抜きに、本気で、一瞬で即死するかと思う程の、凄まじい圧力を感じたぞ。間違いなく天使の最高位、熾天使か。油断ならんな。


「ごめんごめん。でも、普通に死にかけたわ。ラファエルが可愛すぎて、生きてるのが辛い状態だったぞ!?」

「ふーん。それが好みなんだね。お兄ちゃん?」


 と、ラファエルの言葉に対抗するかのように、ジト目の安芸が、昔の様に俺を呼んでくれる。何時しか『兄さん』と言ってくれるようになり、少しだけ寂しかったのが懐かしい。


「……懐かしいな、本当に。さて、ラファエル、遊びはここまでにして本題に入ろう」

『本題?』


 俺の言葉に、首を傾げハテナマークを浮かべる嫁二人。そう、ラファエルがこの場に顕現した理由は、安芸とノーラに種族進化を齎し、真なる天使。熾天使として真の力を解き放つ為である。


「はい。アキ様。ノーラ様。現状は理解して居ますね? 私は創世神ゼフィロス様から、貴方達の力を昇華する為の権限を持たされております。熾天使として、使徒様を支えて貰う為に」


 ラファエルの言う通り。これからハイエルフの国へ情報収集へ向かう訳だが、現状では手詰まり感が否めない。それを打破する為の、天使族としての昇華と言う訳だ。


「突然すぎるよな。安芸、ノーラ。無理にやれとは言わないが――」

『やります』


 俺が言いきる前に、はっきりとした返答を返す嫁二人。即答と言うレベルの回答に少々苦笑いでもある。まぁ、確かに彼女らは、俺の庇護下で不老と言う存在になって居る。今更天使になったとして、何かが変わる訳では無いか。


「答えは決まったようですね。いえ、聞くまでも無かったかも知れませんね。それでは、参ります……主なる神々の遣いとして、新たなる星々に力を与えん。我、ラファエルの名の下に、彼の者達へ力を。セラフィム、解放」


 ラファエルの言葉に呼応するかの様に、三対六枚の羽が大きく広げられると、安芸、ノーラが光の繭へと包まれて行く。俺が半神半人と至った時と、同等クラスのエネルギーが収束されて行くのが見て取れる。


「……ッ!!」


 その光景に見入っていた俺の眼前で、光の繭が弾け飛ぶと、繭の欠片が光の粒子となり、安芸とノーラの背中へと、三対六枚の羽を形成していく。形成が終わると同時に、俺でも後退る程の強烈なエネルギーを纏った、二柱の熾天使がそこに佇む。


「無事、種族進化成功です。アキ、ノーラ。今後とも、使徒様の事を頼みます……」


 安芸とノーラの進化を見届けたラファエルだが、当然二人分の進化に、膨大なエネルギーを放出した為か、ふらつき倒れ掛かる。


「っとぉ。ラファエル、大丈夫か?」

 

 だから俺は瞬時にラファエルを抱き止め支えるが、その時点で背筋が凍る思いをする。軽過ぎる。それはまるで、抜け殻とでも称するのが正しいか。


「ら、ラファエル……?」

「……御心配には、及びません……ですが、再び、貴方様と巡り会える事を、心より……願っております……それと、どうか、どうかラフィを、頼みます……あの子は、私であり、私の子供でもあります。どうか――」


 そう発して眩い光に包まれるラファエル。次の瞬間光が弾け飛ぶと、熾天使ラファエルを抱いていた腕には、天使の少女ラフィが、穏やかな表情で寝息を立てている。


「兄さん、ラファエルさんは……」

「悲しい顔をするな。天使や悪魔と言う存在は、精神生命体でもあるし、魂と言う核が砕かれない限り、何度でも蘇る。ただ、今は……ラフィと言う存在が依り代であり、一時的に存在値を消しただけだ」


 これも俺が半神半人へと至った時に得た情報である。高次元の生命体でもある、神族に連なる者たちは、ある種不滅の存在でもある。


「だからこその超常殺し……俺は間違えない。全てはこの星の未来の為にだ」

『……』


 気合を入れる俺に、嫁二人がそっと寄り添ってくれる。新たに熾天使として再臨した、文字通り最上位となった嫁達と共に、この苦境を乗り越えていく。





閲覧ありがとう御座います。今回は、嫁達の強化回。そして、最強に可愛い天使娘の登場回です。

天使、ラファエル。本作上では、敢えて『熾天使』として扱って居ますので、ご理解頂ければ幸いです。


さあ、皆で唱えましょう! ラフィマジ天使!

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