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第七十六話 ハイエルフの国へ向けて

 マコト君とサツキさんが、過度な魔力消耗により気を失ってしまった。残された仲間達も、疲労で言えば限界に近い所にあった。なので全員に休息を取らせ、俺は一人艦橋で考え込むが、大筋での検討は付いている。


「勇者は、兄はハッキング技術が凄まじいと言って居た。魔界の転移阻害も、多分これだ。ならば、やはり。人の精神すらハッキング出来るとか、マジモンのチートじゃないか。どうするか……」


 何とかしたい所ではある。只のハッキングであるなら、何かしらの方法で解除出来るかも知れない。又聞きではあるが、ハッカーに対抗出来るのはハッカーのみ。そして既に誘い込まれているなら、此方の積みでもあると言う。


「……パソコンが使えて居た程度では、対応も何も出来ないな。いや、でも……待て待て、可能性だけで考えてみよう。たらればでの考えは危険だが、仮説だけなら」


 と、唐突に思い付いたのが、ハッキング技術が、スキルとして仕えた場合の事。俺の重機召喚、重機外装の様に、スキルとして使えるなら。何かしらの解除の方法もある筈だ。


「よし。この案を主題として会議をしてみよう。ただ、皆寝静まって居るだろうし、明日が勝負か」 


 議題は決まったが、仮説である事に違いはない。ともかく会議をすべく、今は休む事にした。艦長席から動こうとしたが、相当俺も疲れているのだろう。体が重い。


「……まぁ、良いか」


 そのまま仮眠を取り、翌朝を迎えたが……正直全身がバッキバキになって居て、痛みが酷い。そんな痛む体を引っ張りながら、俺達は戦艦ヤエザクラの会議室にて、対策会議を行う事となった。


 参加者は、マコト君、カエデさん、サツキさん、カズヤ君を除いた全員。彼らの不参加は仕方のない事だ。今までに負担の為か、未だに意識が回復して居ないのだ。


「主様、こちらを」

「おう……分かった。取り合えず今、艦載機を上げて各方面の偵察を行わせている。これは画像メインになるから、そう情報が回収出来る訳ではないが……少なからず軍の動き等は把握できる筈だ」


 ヤエから貰った資料に目を通しながら、参加者へ情報を伝えていく。俺の副官たる、ヴァンパイアロードのリチャード。彼を始めとする吸血鬼族は、俺に忠誠を誓ってくれた。なのに俺達は攻撃を受けた。これもハッキング技術が関係しているとするなら。


 ならば、もしかすると他の国、他の精霊都市でも同じような事が起こる可能性もある。どの道軍勢が動くには、大規模な前準備が必要になるので、全てを隠し切るのは難しい。その為の航空偵察でもある。


「そしてまずは、俺の見解を述べる。恐らく敵は……情報操作に連なる力を有して居て、俺の仲間達はそれに操られている。と仮定して作戦を進める訳だが……」


 そこで昨日から考えて居た、敵の事を前面に押し出す。あくまで仮定ではあるが、凡そ確定している様な物。要は、この仮定を肯定したいだけなのだ。


「ユウキ様、宜しいでしょうか?」

「ミスティス嬢、発言をどうぞ。と言っても何となく分かってはいますが」


 俺の発言に挙手をしたのは、ミスティス嬢。先の魔王城から救い出した女性の一人。ハイエルフの国のお姫様で、新緑の姫騎士と言う二つ名を持つ、絶世の美人さん。エルフで姫騎士が好きな俺には、もう凄い勢いでぶっ刺さって来る。その為か、若干安芸の目が怖い。


「はい。まずは本国へ帰国し、私の無事を報告。と言うのを建前として、現状の原因を探りたいと考えて居ます。少なくともあの攻撃は、私達を救い出し、人魔の和平の為に尽くした人達にする行為ではありません」


 ミスティス嬢の言葉に、俺は思わず涙ぐみそうになった。確かに人魔の未来の為にと戦った。が、戻った途端にと言うのが、どうしても腑に堕ちない。だから調べると言う事だが……。


「助かります。ただし、一体どの様に情報を? それに、ハイエルフの国も同じような事態に陥っている可能性も、無くはないでしょう」

「いいえ。私はそうは考えていません。理由としては……そうですね、ユウキ様は、ハイエルフの国が何処にあるか、ご存じで?」


 唐突に聞かれ大陸の地図を思い浮かべたが、思い当たる場所が一切ない事に気付く。地理は好きだったので、結構地図も見ていたし国家の名前も覚えて居た筈だが、ハイエルフの国に合致するものが、無い。


 いや、ミスティス嬢が居る以上確かに存在するのだろう。そう、地図上に存在しない。それはつまり、隠していると言う事に他ならない。


「……成程、な」

「そう言う事です。そもそも我がハイエルフの国は、この世界の何処よりも、情報戦に長けて居ます。ユウキ様の懸念されている事も、隠蔽し切って、情報戦を優位に進めている国にまで届くのでしょうか?」


 自信満々のミスティス嬢。確かに話には聞く、超大国であると言う噂、文献は、膨大な情報戦により齎されていると。ただ、相手はハッキング能力を持つ相手。油断はするべきではないだろうが、ここは一つ彼女の伝手を頼ってみよう。


「分かりました。一先ず情報集めの為に、赴きましょう。因みに移動に関しては……」

「一応、私も転移魔法は行使可能です。少人数となりますが、私を除いて、二名が限度ですね。一人はユウキ様として、もう一方は如何されますか?」


 小規模転移は可能、か。しかし誰を連れて行くか。全状況に対応するなら、安芸。魔眼による看破で守りを固めるなら、ノーラ。二人同時に行動出来れば最良ではあるが。


「ならば……これを」


 なので一つ、俺はアイテムを取り出して手渡す。それがこの、魔力増幅用アクセサリー。小さな宝石型のアイテムは、半年間の政務中に、時折あのエルダードワーフさんに相談して作って置いて貰った物。日の目を見なかったが、ここで役に立ってくれるだろう。


「ふむ。これは……そう言う事ですか。一人を選べないのですね。優柔不断……失礼。思いやりの――」

「ミスティス嬢。言い繕わなくて良いです……正直安芸、ノーラの二人は必須です。全状況に対応しつつ、嘘を看破するには絶対に必要なので」


 まぁ一人を選べ、と言われて誰かを選ぶのは、正直難しい問題でもある。それが二人しかいない嫁さんだと、どっちを選んでも少々後に響く恐れがあるし。さらに複数いたら、余計拗れるか?


「分かりました。ともかくこれで私を含めて四名、転移出来ると言う訳ですね。では、出発は……」

「……明日、明朝に行きましょう。滞在期間がどの位になるか分かりませんし、この艦の備蓄食料等の問題もありますので」


 そう言いつつ視線をヤエに向ければ、コクンと頷く様を確認出来る。魔界でも降ろしてきたが、未だ大量のクラーケンのゲソの切り身があるので、上手く調理もして貰おう。


 余談ではあるが、この戦艦ヤエザクラには、現代における文明の機器。冷蔵庫、冷凍庫が備え付けられている。生鮮食品の保管も問題ない。主機もガスタービンである他、艦内に発電施設も備えて居るので、普通に電気も通っている。いやマジチート過ぎん?


「承知しました。所でお伺いしたいのですが、どの位の日程を考えておりますか?」

「ふーむ……そうですね、大体長くて数日と言う所です。本来の情報収集なら、もっと時間が掛かると思って居ますが……俺の勘が告げて居ます、何か、嫌な予感がするんです」

 

 無駄に鋭い俺の勘。嫌な予感ばかりを探知できる故に、今回もまた第六感が告げている。


「分かりました。では私も準備を進めて置きます。ただ、これだけは約束してください。絶対にハイエルフの国の所在を漏らさない事。幾ら恩人であるとは言え、ここを譲る訳には参りません」

「承知しております。何なら、目隠し等をして情報の遮断をして下さい」


 ミスティス嬢の言葉に怒気が垣間見える。当然だ。実を言うと、ハイエルフに限らず、エルフ族すら、人攫いに遭い奴隷として売り捌かれる事が多々あるのだ。


 エルフの上位種でもある、ハイエルフの国が見つかったなら……恐らく、如何なる犠牲を払ってでも、手に入れようとする国が湧く事だろう。それは絶対に阻止しなければならない。だから、俺は――。


「ミスティス嬢、いや……ミスティス。俺は決して君を裏切らない。信じられないと思うならそれでも良い。だが、既に君は仲間だと思って居る。だからこそ、貴女の気持ちは痛いほど良く分かる。協力して欲しい。この星の未来の為に」

「……ふふ。存外、お熱い方なのですね。ええ、良いでしょう。信じます。ですが、もし裏切った時は――責任を、取って貰います。嫌とは――言わせませんよ?」


 その責任が、どう言う意味なのかの察しは付いた。チラリと嫁達に目をやれば、二人ともコクリと小さく頷くのみ。正直言えば、ミスティスクラスの超絶美女はそう居る者ではない。男なら誰もが欲する、最強に近い美貌を備えるハイエルフのお姫様。


「……そうならない様に、細心の注意を払います」

「本当に、誠実なお方です事……ですが、嫌いではありませんよ。と、話の腰を居りましたね。続きをどうぞ」


 そうだった。ミスティスの会話で思い出したが、今は対策会議の最中。現状ミスティスの案をと考えたので、一先ずその話題は終わらせておく。


「まあ、と言っても基本俺から出せる議題はこれで終わりなんだがな。済まないが行動に着いては、艦に残る皆には不便をかけるが、待機と言う形で頼む」


 正直言えばミスティスだけではなく、アンナ以外の四名も国に還してやりたい所ではある。が、俺でさえこの状況。やはり情報を得て、本当に帰還しても大丈夫とならないと、万が一の場合に寝覚めが悪い事になりかねない。


「よし。ミスティスは転移の準備を頼む。そして他の皆は、待機に備えて、備蓄や食料の確認。俺の在庫からの搬入を行う。皆、手を貸してくれ」

『はい!』


 マリン配下の軍人さん、エルフ、ドワーフ連合の技術者も返事をしてくれた。まぁ。すし詰め状態になる訳だし、飲料食料は自分で選びたいと言うのもあるだろう。食事は三大欲求の一つだしな。


「因みに節制中ではあるが、状況が状況だ。俺の持つ個人資産、ここから贅沢品も出すから、俺達が戻るまでの間少しだけ我慢してくれ」


 そんな訳で、会議場とのやり取りの後、戦艦ヤエザクラの倉庫に移動した俺達。俺のスキル、重機召喚から、食料品を梱包し、満載した不整地運搬車を複数取り出し、各自食料品の荷下ろしを行っている状況だ。


 今喋った通りなんだが、俺のスキルによる格納。不整地運搬車に積載した状態でなら、時間経過無しの、無制限に近い格納庫として運用できる。当然中には、酒類や葉巻と言った類の物も含まれている。


「俺は嗜む程度だから、遠慮なく選んでくれていい。なに、国家間の付き合いがあるんでな」


 一応酒は飲むが、本当に嗜む程度。付き合いって、マジで辛い。後は葉巻などだが、俺は吸わないから、無用の長物に成っている。溜まる一方で、正直処理に困っている品だ。献上品の一部として送られてくるので、安易に捨てる訳にも行かない。


「……で、兄さん。今度の嫌な予感って、一体何が起こりそうなの?」

「む、そうだな……」


 そんな中で安芸から質問を受ける。指を顎に当てて、どう説明したもんかと考える。何かいい例え。あ、アレならいいか?


「いや何、あん時と同じさ。大震災、覚えてるか? あの日の朝、俺が買って置いた非常食を出しておいて。って言った事、あっただろう。あんな漠然とした予感でな……」


 物凄い的確な例えが出来たと思って居る。そして事実、安芸は俺が予知した通りに非常食を用意して、結果的に俺達は難を凌いだという経緯が存在する。


「え、いや、ちょ……それ、割と洒落にならないんじゃない!? 確かに、あの時の兄さんの言葉を聞いて、何言ってんの? と思ったけどさ。それで助かったのも事実だったし」

「だが、漠然とし過ぎている。それに同じ事を言うと、魔界での転移阻害だって、似た感覚の嫌な予感だったんだぞ? 何が起こるか迄は予期出来ないから、不安になってるよ」


 当然、そんな嫌な予感など当たらない方が良い。寧ろ外れてくれとさえ思う。残念な事に、昔から悉く当たっているだけに、外れろと何度恨んだ事か。


「だったらさ、その未来を変えよう? ううん、今までも変えて来た。だから今回だって、超えて行ける。兄さんの勘があったから、私達は超えてこれたんだよ?」

「安芸……ありがとな。流石にそこまで思い上がるつもりは無い。けど、やれる事をやろう。ここで倒れたら、何の為に戦ったのか分からなくなるしな。ヴァル達だって頑張ってんだ。ここで俺達が頑張らなくてどうするってな」


 そうだ。俺とヴァルは人魔の争いを終らせる為に戦った。恒久平和、例え虚構だとしても。無益な争いを無くし、皆が笑い合える世界を作ろうとしたんだ。負けられない。


「ともかく、その為の第一歩だ。ハイエルフの国が、味方で有ってくれることを祈るのみだ」


 そう締め括り、再びスキルの在庫確認を行っていく。さて、ハイエルフの国。鬼が出るか蛇が出るか……。




閲覧ありがとう御座います。遂に登場したハイエルフちゃん、姫騎士です。

多分、クッ! 殺せ! な展開は……(´▽`)<続きはまたな


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