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第六十七話 ティタニス侯爵領攻防戦

まさか残業になるとは……遅れて申し訳ありません。

 艦橋での一幕、興奮冷めやらぬ状況下で、戦艦ヤエザクラは、静かにティタニス侯爵領の港湾施設に寄港した。港湾施設を始めとする一帯は、今だ魔王軍の手が伸びて居ない事も有り、比較的安全な場所だと聞いている。

 

 これも、ヴァルの使い魔による連絡で知り得た情報だ。そして、既にグラニート侯爵は、俺達の攻勢を待っている状態だと言う事も把握している。


「民たちへの情報封鎖も完了している、厳戒令が出されているので、外へ出る民も殆ど居ない筈だ」


 そんな話を聞き、グラニート侯爵の支持率が無茶苦茶高いと言う事を思い知る。貴族とは、民があっての物。貴族は民から搾取するだけの存在ではない、と言う事を体現しているのだろう。


「よし、んじゃ進撃開始だ……ヤエ、万が一があると厄介だ。俺達が内陸へ進んだら、湾から出て待機。後の行動はヤエに一任する」

「承知しました、ご武運を」


 俺達を降ろしたヤエは、速やかに湾外に退避。その様子を横目に、闇世の世界を駆け抜ける。目標はティタニス侯爵領外縁に構える、交戦派貴族の一角。


 ティタニス侯爵領に進撃した交戦派貴族の総数は、軽く五十万を超えている。複数貴族の連合とは言え、基本貴族同士は仲が悪いとされる。己の功績の為にと言う点で、齟齬があるのだ。


「……皆、準備は良いか?」


 俺は勇者パーティと、俺達に同行したジュリア嬢に告げる。ヴァルとバモスさん、マイヤ嬢とザイン伯爵、そしてノーラとムラマサ殿は、既にグラニート侯爵と合流を果たしている時刻だ。


 そして何故ここにジュリア嬢が居るのかと言えば、これはヴァルが言い出した事。所謂、俺達が預かる人質と言う事だ。


『ユウキ、確かにお前は強い。けど、俺が裏切らない保証はない、少なくとも王侯貴族ならその考えを持て。ジュリアを預ける、頼むぞ』


 と言われていたのだ。この辺はお人よしの、現代日本人の感覚だ。確かに背中を預け合って戦った仲だとは言え、何が理由で手を切るかは、それこそ神のみぞ知るだろう。


『分かった。けど、それなら俺も同じ事だ……ノーラ、ムラマサ殿、頼めるか?』


 ここまでする必要もなく、ノーラの魔眼により、ヴァルが裏切る事は無いと分かって居る。が、形式上必要だから覚えようと言う事で、俺達の意思は一致したのだった。

 

「よし、派手に行こうぜ……ヤエの航空偵察の情報は、思念リンクによる敵味方識別として送る。暗がりだが、これで同士討ちは避けられる。行くぞ!!」

『了解!!』


 俺の号令に合わせて、各自がそれぞれの攻撃手段で攻撃を開始。竜騎士カズヤ君は、人竜一体により竜人族に近い力を発揮する。その援護に、アークデーモン級である魔人ジュリア嬢が付く。


 現在勇者パーティの状況は、近接職が俺、カズヤ君、そして万能型のジュリア嬢の三名だ。マコト君、カエデさん、サツキさんは魔法使い、僧侶と言った後衛職に当たる。


「……もっとも、単純な後衛職の火力じゃねぇけどな。行くぜ、重機召喚。来い、ZX135TF-3! 連続召喚、PC200、SK200、オプションパーツ、グラップルユニット!」


 今回俺が召喚した重機は、ZX135TF-3。双腕仕様機と言うバックホーで、読んで字の如く二つのアームを備える重機になる。主に解体現場等で使われる事も有り、最初からグラップルユニットを搭載している。


 続いて召喚したのは、毎度馴染みのバックホーだが、ブレーカー配管仕様の物。この配管が無いと、ブレーカーユニットもグラップルユニットも使えないのである。


 これは現実も同じ事で、この配管や、マルチ操作に対応して居るかいないかで、価格が変わって来る。尤も、本体価格に比べれば誤差程度の物だが。


「重機並列起動! 続いて重機遠隔操作による制御……しゃあ、行けぇぇぇぇ!!」

 

 と、気合を入れて声を張るも、実際は脳内に移るコントロールパネルで、並列操作をしているだけだ。それでも、エンジンの唸る音、キャタピラが大地を進む音、暗がりで良く見えないと言う状況が、敵兵に与える心理的ダメージを狙ったのだ。


「続いて、重機召喚。来い、PC138バックホー、D37PXブルドーザー、90式戦車! 超重機融合、重機外装展開!!」

 

 遠隔並列操作しながら、更に重機を召喚。俺自身も近接戦闘に対応する為、重機外装にてその身に纏う。右腕にバケットアーム、左腕に排土板シールドを装備。重機超強化のお陰で、追加装甲もある事で、如何にも重騎士と言う様相だ。


「行くぜ!」

 

 俺は脚部に力を入れて、暗闇を進撃する。超重機融合には、各種重機の備える機能を、俺が行使出来ると言う特性がある。この為90式戦車の暗視装置等が使える状態で、暗闇すらを物ともしない。


 それにしても、俺も大概チート染みてると言える。魔族なら、現代の重機を破壊する事も可能だろう。だが、俺が召喚しているのは、簡単に破壊されない耐久値を備える重機。巨石の直撃を受けても割れないガラスに加え、追加装甲も纏っている状態だ。


 これらの反則染みた重機を召喚して、意のままに操る。かつ、自身も格闘戦が可能な上に、下手な魔法攻撃も無力化する。これをチートと言わずとして何という。でも、殴りサモナーとか、割とロマンあるやん?


「バケットォォォォ……ハリケェェェェン!!」


 超出力で魔界貴族の陣地に突入した俺は、その場で思いっ切り腕を振り被り、薙ぎ払う様に大回転を行う。直後、風が竜巻状に巻き上がり、暴風の刃となって魔族達に襲い掛かる。

 

『て、敵襲――!!』


 魔界貴族の兵士が叫ぶも、既に手遅れだ。俺の攻撃を皮切りに、広範囲に陣取る貴族の兵士達に無数の、超級魔法による爆撃が降り注ぐ。


 その様は、阿鼻叫喚の地獄絵図と言っても良い。何とか混乱から逃げ延びたかと思えば、そこには巨大な鋼鉄製のグラップルアームを構えた、重機の群れが待ち構える。


「ひ、ヒィ!?」


 爆炎に照らし出されるその光景に、兵士達は腰を抜かしたり、気を失ったりと様々な反応を示す。一部勇敢に立ち向かう者もいるが、超強化された装甲に弾かれ、決定打を与えられていない様子だ。


「ば、化け物……!」


 そう呟いた兵士は、自分の攻撃に自信があったのだろう。少なくとも重機の『追加装甲』の耐久力は、全体の1パーセント程度も削れたので、かなり強力な攻撃だと言う事が分かった。


 この強襲により、この近辺に展開して居た魔界貴族の戦力は半減以下に。指揮を取って居た貴族は我先にと逃げ出した様で、残された兵士は隊長格に従い、何とか生きている状態だ。


「悪いが、逃がさん!」


 後顧の憂いを立つ為に、申し訳ないが魔王配下、交戦派の魔人たちには、ご退場願う。眠れ、安らかに。


「……ヴァル達も始めたようだな」


 俺達が勢いそのままに、殲滅戦をする反対方向でも、反撃の狼煙が立ち上っている。ヴァルを筆頭として、グラニート侯爵達と共同戦線を張っているのだろう。


 少なくとも、ヴァルの側にも一騎当千の猛者、俺の嫁のノーラと、武人ムラマサ殿がいる。仮に魔王種級の敵が居たとしても、現状で俺達に負ける余地は無い。


「換装、ブレーカーユニット」


 そして俺も追撃を入れる為に、バケットアームからブレーカーユニットへと換装を行い、キャタピラユニットに力を入れて、敵軍勢内へと跳躍。


「ぶち抜け! マキシマムブレーカーインパクト……三段打ち!!」


 跳躍中にブレーカーユニットのチャージを行い、着地と同時に技を発動。ブレーカーユニットを大きく振り被り、大地に打ち付け、広範囲に同心円状の衝撃波を巻き散らす攻撃だ。


 今までは耐久力の問題で、一撃しか行えなかったが、レベルの向上と、重機超強化による補正により、連続攻撃が可能となって居る。


 召喚重機による武装と、攻撃レパートリーは多々あるが、俺の常用出来る広範囲攻撃は、バケットアームによるバケットハリケーンと、ブレーカーユニットによる、マキシマムブレーカーインパクトが基本となる。


 自重しなければならない範囲攻撃が、アースオーガによる、ギガントドリルブレイカーだ。半神半人となった今でこそ制御可能であるが、制御してもその威力故に、広範囲に二次被害を及ぼすので、極力使いたくはない。

 

 後は戦闘用車両の射撃、砲撃になるがこちらもアースオーガと同じく切り札。早々に切る訳には行かない。それに、弾薬代も馬鹿にならないので乱射する訳にも行かないのである。


「っし、赤外線センサーに反応は……いい感じだ、撤退を始めたな」


 闇夜の襲撃と言う事も有り、相当数の屍を築きながら敵軍勢は撤退を開始。とっくに司令官たる魔界貴族は逃げ出しているのに、忠誠心に厚いのか、必死の抵抗を行った戦士の大半は骸と化している。


「……止むを得んとは言え、人型の相手を倒すと言うのは、何時まで経っても慣れないな……そう言えば」


 ふ、と思い出したのは、嘗てこの世界に召喚された時の事。勇者に罵倒されたっけな。なんだったか、底辺で犯罪者予備軍で、快楽殺人をする最低野郎と罵られたんだったか?


「今ここで思い出す事でも無いだろうに……」


 数多の屍の真ん中で呟く言葉。でも、俺は後悔していない。ここで敵軍勢を止めなければ、結局同じ事になるだけだ。グラニート侯爵が討たれ、罪なき人民が尊厳を踏み躙られ、人界もただでは済まないと言う状況が目に見える。


「せめて、来世では倖あらん事を……眠れ、安らかに」 


 後味の悪さを残しつつ、俺達の参戦した戦場は沈静化させる事に成功した。念話越しに伝わる状況で、ヴァル達も敵軍勢の壊滅に成功。防衛対象である都市、市民、そしてグラニート侯爵の救援も完了したと言う報告を受けた。


「なんとか、終わったな……」

「……兄さん」


 念話を終えて、一息いれた所で……安芸がそっと俺に寄り添ってくれる。妻になって俺を支えてくれる為か、思わず弱音を漏らしてしまう。


「俺は、誓った。例えこの手が血濡れになったとしても、と。だがこの様だ。今まで散々戦い、殺してきたのにな……」


 そう言って両手の掌を見ると、微かに震えが残る。命を奪う事、俺が、他人の人生を奪ったと言う後悔か。

 

「大丈夫だよ。私も、皆も付いてる。兄さん一人だけに、その業は背負わせない……だから、最後まで戦おう。人魔の争いを終わらせる為に」

「安芸……そうだな。すまん、俺は――」


 安芸を見据えて、言葉を紡ごうとして、俺の唇が塞がれる。暫しの沈黙の後、そっと離れた安芸は言葉を紡ぐ。


「ふふふ、少しは元気が出た?」

「おう、お陰で元気百倍って所だ。覚悟は決まってんだ、突き進む。それだけだ」


 安芸のキスのお陰で、揺らいでいた決意を取り戻す事が出来た。微かに震えていたその掌も、今は思いっ切り握る事が出来ている。


「その意気だよ。皆気持ちは一緒なんだ。私だって、マコト君だって、ノーラも、ヴァルさんだって同じなんだよ。誰しも、戦いなんて望んでいない。人の死何て見たくない。でも、犠牲無くして、平和は成り立たない」


 安芸の言葉に深く頷く。それは地球でも歴史が証明して来た。綺麗事だけでは、真の平和は成り立たない。平和の陰には、必ず犠牲となる者が居るのだから。

 

 そして、本当の意味で真の平和の為に。俺達は進む。未だ見ぬ魔王の暴挙を止める為に――。





閲覧ありがとう御座います。本日、急遽残業にて投稿が遅れました。

重ねてお詫び申し上げます(;´・ω・)

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