特別編 艦に宿りし者
おはようございます。今回は特別編をお送りします。夜にもう一本行きます。
マコト君を筆頭とする現代日本から召喚された異世界人、この面々に俺のスキル、重機召喚スキルから呼び出せる、クレーン機能付き超弩級戦艦――何処からどう見ても戦艦大和――の使用の可否に付いて協議をした。
俺は否定的な立場を示す。やはり、大戦時の英霊に失礼だと言うのが俺の意見だ。しかし思いの他、勇者パーティの面々は何故に? と言う表情をしている。
「ユウキさん、まず俺の意見ですが、戦力として使うならアリです。確かに英霊への冒涜、と言われるとそうかもとは思いますが……それを言ったら、現世の海戦ゲームや、擬人化ゲームなんてもっと冒涜では?」
と言うのは大賢者マコト君。確かに一理ある。俺も良く知る海戦ゲームは、とある横やりで開発中止に追い込まれたと言う話を聞くし、擬人化ゲームと言うのも、ある意味では冒涜と言える。
しかし、俺が言いたいのはそう言う事じゃない。由緒正しい戦闘艦を、重機と言い張るスキルに納得が行かない。そんな俺の主張を聞いたマコト君が切り返してくる。
「……成程、そう言う事ですか。確かに言い分は理解出来ます。ですが、今この場が俺達にとっての現実です。使えるものは何でも使う、それが平和への近道だと言うなら、尚更の事です」
そう、実際問題として、内容はアレだが間違いなく有用な戦力となる。俺は戦艦等操作した事は無いが、恐らく重機遠隔操作スキルによって完全制御可能だろう。
これは俺の直感だが、何となく操作の感覚がとあるゲームの操作方法に酷似する予感がするのだ。間違いなく戦力として活用出来ると思われる。
「分かった。他の皆も同意見なんだな?」
そう言って日本から呼び出された面々に確認を取ると、全員が無言で頷く。そうだ、確かに今は事が事だ。平和の為に、人魔の未来の為に、使えるものは使うべきか。
「と、所でユウキさん、ちょっと良いですかね?」
「ん? なんだろう。意見があるならどんどん言ってくれ」
おずおずと手を上げ俺に質問をする、竜騎士カズヤ君。何だろうと聞き返した所で、少し顔が強張っている。
「そ、その……その、クレーン機能付き超弩級戦艦、実際に見て見たいなーなんて。無理ですかね?」
その一言に、その場の全員がハッとする。そう言えば俺は概要のみを説明して、実物に関しては全く公開していないな。しかし、こんな巨大な物を何処に呼び出すか。
俺がそんな風に悩んで居ると、カズヤ君はヤベ。不味い質問だったか? と焦りの表情を醸し出している。
「ああ、問題ない。出すのは問題ないんだが、何処に召喚するべきかと思ってな」
「へ?」
そう言って俺は現世の記憶を思い出す。確かに俺も良く海戦ゲームをしていたから、割と艦船のスペックに付いては詳しいと自負している。戦艦大和は巨大戦艦、と言われているが、実際全長なら米海軍のアイオワ級の方が大きかったりする。
俺の記憶の範囲で有名な写真だと、戦艦大和の姿を隠す為に、軽空母鳳翔を並べたと言う物を見た事もある人も多いのではないだろうか?
「俺も正確には覚えていないんだが、確か全長は260メートル位、全幅が38メートル位の巨体だからな」
「え? あの、戦艦ってもっとデカいもんだと思ってたんですけど、護衛艦いずもとあんまし差が無いんスね」
俺の回答に、思いの他小さいと言う反応を返すカズヤ君だが、俺からすれば護衛艦いずもの大きさを知っていると言う事に驚きだ。俺は現物の護衛艦いずもを見た事が無いが、カズヤ君の口ぶりなら護衛艦いずもをその目で見て居るのだろう。
そんな俺の疑問を悟ったのか、カズヤ君が護衛艦いずもに付いて軽く注釈を入れて来る。
「ああ、俺の実家が横須賀の方でして。海岸線が近い事も有り結構見てたんスよ。でも、それより巨大なのがジョージ・ワシントン、あれも滅茶苦茶デカかったっスね」
「……成程な。見る機会に恵まれてる故にって所かな」
そんな大きさに関する会話をする俺とカズヤ君。話をする分にはいいが、現実問題としてその巨体がネックになる。出す場所がマジで無い。精霊首都シンフォニアは大陸の中央にあり港湾施設を備えて居ない。と言うかそもそも海が無い。
一応湖はあるのだが、地球で言うカスピ海的な物であり、海へと繰り出す事は難しい。スエズ運河の様に切り開くにしても、手間も暇も掛かり過ぎる。
せめて黒海から地中海へ抜けるような地形であれば、運用も考えられるのだが現状では無用の長物に成りかねない。パナマ運河の様な物を作るにしても、技術的に難しいだろう。
この大陸自体の大きさは、以前ガルーダから聞いた話から推測するに、現世のオーストラリア大陸と同程度と思われる。
海洋都市、と言えるのが東西南北に別れる精霊都市群になる。各精霊都市は港湾施設も、海軍も備えて居るが内陸の国は基本陸軍だけである。一部飛竜等を用いた空軍を保有する国もあるが、基本的に陸続きなので陸軍主体だ。
そして海軍を持つと言っても、帆船がメインで火砲の類も開発は進んでいない。これも魔法と言う存在があり、火薬を採取加工して砲弾を使うより、爆発魔術を使った方が手っ取り早いんじゃね? 的な事と聞いている。
「あー……いや、すんません。無理言ったみたいで」
少し残念そうなカズヤ君だが、そこに一陣の追い風が吹いた。
「兄さん、別に出すだけならあの湖でも良いんじゃない? あそこ、水深もあるし周りに人家も無いし」
その言葉を発したのは、俺の最愛の存在で妻の安芸だ。そして、安芸の言葉にその場にいた全員が、ガタっと言う感じで椅子を転がし立ち上がる。
成程な、現代日本人からすれば、形態はどうであれ戦艦と言う物に興味があると言う事か。確かに俺も冒涜とは思ったが、確かに実際に呼び出してみたいと言う気持ちが無い訳では無かった。許されるなら、と言う前提が付くが。
「兄さん、確かに言いたい事は分かるよ。でも、私達は進み、守らなきゃ行けない。戦う為の力でない、守る為の力。きっと、先人たちも許してくれるよ」
迷っている俺に、安芸は凛とした声で諭してくれる。そう、か。そうだな。この先の人魔連合の戦いは、文字通り人魔の戦いの歴史を終わらせるべき物だ。
人々を守る為、魔族との共存の道を描く為。そして、この星の未来を紡ぐ為に。
「そう、だな。俺も少し過敏になり過ぎていたかも知れないな……分かった、行こうか」
そう言って会議の場を立ち、この精霊首都シンフォニア北部に位置する湖へと移動を行う。超魔導サツキさんが大規模転移をすると言ったが、大賢者マコト君がこれを制し、自ら転移魔法を使用した。
そうして俺達の前に現れる巨大湖。流入、流出共に細い川でのみで、最終的に海と繋がっている。その大きさは、現世のスペリオル湖より大きい程度。
現世の情報は、俺が持っている物である。これを水の聖獣ケートスの知識と照らし合わせた結果なので、大体あって居ると思われる。
「……んじゃ、行くぞ。重機……召喚。コール、クレーン機能付き超弩級戦艦」
俺の言葉、限りなく力のない言葉に、呼び出されたのは巨大な黒鉄の城。艦尾にクレーンユニットを搭載した、超弩級戦艦が巨大湖にその姿を現す。
重機召喚は、その場にポンっと出てくることが多かったので、このクラスの戦艦。総排水量7万トンクラスの物が着水したら、巨大な津波が起こると心配したと言うのもある。
しかしそんな予想を裏切る様に、湖の上にそっと現れたので取り合えずは一安心だ。そして改めてクレーン機能付き超弩級戦艦を拝見する。
『戦艦大和』
俺を含めた召喚被害者と、安芸の声が揃う。当時、第二次大戦を知る人々からすれば、日本一有名な戦艦は長門と言うだろう。実際そうだったと聞く。
俺も最初は大和が有名と思っていたが、クロスロードと言う実験で長門の事を知った一人だ。正に、日本の象徴たる超戦艦だと思ったよ。
ただし俺を含めた現代人からすれば、やはり世界最大最強の大砲を備えるこの船。放射能汚染から地球を救う為に旅立った、あの船の印象が強い。
「ん……? 甲板に、人?」
皆が巨大戦艦にくぎ付けになる中、俺は艦首に佇む人影の様な物に目を奪われる。
「呼んでいる……?」
俺は、何故か呼ばれているような気がしたと思ったら、何時の間にか戦艦の艦首、人影の傍に移動していた。転移、いや転送の魔法か?
『お呼び立てして申し訳ありません。神の使徒、サクラユウキ様。私はこの艦に宿る、一種の魂的な存在。私を開放してくれた事、感謝致します』
そう言葉を紡ぐ存在。話には聞いた事がある。日本には、八百万と言う神々が存在する。恐らく彼女もその様な存在の一つなのだろう。
しっかし、何と言うか……これこそ日本の、大和撫子と言う位の美人さんだ。黒い長髪、黒い瞳に白い肌。
桜模様の着物を纏うその女性からは、天界の存在、女神セラフィーナ様を始めとする四大女神と同等の神々しさを感じ取れる。
『貴方様の想いは、過去の英霊達と共に受け取りました。私達の為に本気で想ってくれる人がいる、それだけで十分救われています』
そう言われると同時に、俺の頭にこの戦艦の名前が過る。俺は自然とその名を口に出した。
「戦艦、ヤエザクラ……桜、日本の心……君は」
『はい。拝命致しました……戦艦ヤエザクラ。そして、艦魂ヤエ。私達の力は貴方達の為に。貴方達の紡ぐ未来へ捧げます』
そう言って人型の存在が薄れていく。同時に俺は元居た場所へと戻ると、皆が俺を見詰めている。恐らくあのやり取りを目撃していたのだろう。
あれは、艦船に宿る英霊の意思にして、艦船の魂。俺はあの艦船に、再び名と役目を与える事となった。
「皆、聞いてくれ。俺は、あの艦船の魂とも呼べる存在から、あの艦を託された。艦名は、戦艦ヤエザクラ。我々日本人の心を体現した物だ」
俺の言葉に、その場の全員が頷く。桜は、日本人の心。その名を冠するこの艦は、間違いなく未来を切り開く、一振りの太刀だろう。
過去の英霊達に感謝を。俺達は未来を切り開く。人魔共存と言う新しい未来へ向かって。
閲覧ありがとう御座います。作中の表現、艦船に限らずあらゆる物に神が宿っていると言います。
余談ですが、本来のサブタイトルは『ヤエのサクラ』でしたが、多分アカンだろうなーと思い変更しております。




