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第五十九話 重機召喚スキル

説明回的な話です。

 あの会議の後、転移攻撃案を纏めていた俺は、書類の合間を縫って、リチャードを伴い俺専用の演習場へやって来ていた。転移による直接攻撃は確かに有効だ、しかし、何故か不安が残る。


 本当に転移による攻撃が大丈夫なのか、誘い込まれているのではないかと疑心暗鬼になっているのだ。ヴァル達を疑う訳では無いが、もしも、もしも本当に俺の予感が的中したとするなら、転移攻撃は辞めるべきだろう。


「考え過ぎならそれでいい。しかし打てるべき布石は打っておくべきだと思うんだ」

「ええ、所でそれと演習場にどんな関係があるのですか?」


 リチャードは俺の側近でもあり、護衛でもある。安芸とノーラが付いて来れない時はこの様に護衛を行ってくれる。相談役としても、副官としても活躍してくれるナイスミドルである。


 俺がこの演習場に来た理由を尋ねられるが、簡単に言えば新たに獲得したスキルの有用性を確かめる為、としか言えない。


 度重なる激戦により、俺のレベルは大幅に向上していた。勇者及びナグツェリア王国討伐後、レベル298だったのが、現在は765となっている。この数値は人魔連合の中で最大であり、次点はヴァルの689だ。


 このレベルアップの過程で、300、500、700の段階で新スキルを獲得した。結局新スキルは使用する事無く戦闘を終えた。正直即実践投入出来るほどの余裕も無かったし、こういう機会でもなければ確認も出来ない。


「新スキルとその有用性を試す。リチャード、俺は何か嫌な予感がするんだ。だから、このスキルを確かめ、この予感を打ち砕きたいと考えて居る」


 そう言ってリチャードを下げると、俺はスキルの詳細を確認しつつ重機召喚のスキルを使用する。レベル300で獲得したのは、重機超強化。通常の作業用重機の馬力や装甲を強化するスキルだ。


「重機召喚、来い! PC200バックホー!」


 そして召喚されるPC200バックホー。しかしその外見は元々の形から大きく変化している。バケットアームやキャビンのフロントガラスガード、ボディやキャタピラ等にも全体的に装甲が増している感じだ。


 どうやら重機超強化はパッシブスキルの様で、召喚時には適用された状態で呼び出せるらしい。念の為解除を試みると、各部の装甲が音を立てて剥がれ落ちる。


「……成程。これは非常に便利なスキルだ」


 重機自体は個々に耐久値を持っていて、その値が超えると強制的に召喚が解除される。この重機超強化は、重機自体に追加装甲を与える。追加装甲にも耐久値が設定されて居るので、敵はこの追加装甲を破ってからでないと、本体に攻撃が届かない。


 俺はPC200バックホーの召喚を解除し、もう一度召喚する。当然追加装甲を纏ったPC200バックホーが再召喚された。


「重機外装、展開!」


 再召喚したバックホーを、重機外装スキルで身に纏う。従来と比べて本体の馬力が大幅に向上、軍用に近い出力と、追加の耐久値が表示される。


「リチャード、攻撃を頼む」


 そう言って俺は防御姿勢を取る。魔法攻撃は結婚指輪により無効化されるので、リチャードには物理攻撃をして貰う事にした。


「……毎度の事ですが、主様を攻撃と言う事自体……いえ、では行きますよッ!」


 すまんなリチャード。こんな役目は副官のお前にしか頼めんのよ。確かに安芸もノーラも、熾天使級の力を行使する事が出来るが、物理火力で言えば、実はリチャードの方が上なのである。


 完全な熾天使となれば話は別だが、自然界における最上位の進化系の一人が、超越者たるヴァンパイアロードのリチャードである。同率の存在で言えばエンシェントセイレーンのマリンのみしか、俺は確認して居ない。


「ッ!!」


 防御姿勢を取って尚、装甲を貫通して俺に響くリチャードの正拳突き。凄まじい衝撃。やはり、最上位。超越者の攻撃は堪えるな。しかし、これにより装甲の謎も解けた。現在俺の防御は、通常装甲に加えシールドを持っている状態だ。


 実際に盾を装備している訳では無いが、追加装甲自体がシールドの役目をしており、この耐久値が削られ無いと本体、俺の装甲にダメージが抜けない仕様となって居る。尤も、衝撃の類は響いて来る。多少威力が抑えられたかと言う感じだ。


「よし、このスキルの検証は完了だ。リチャード、反動は大丈夫か?」

「ええ、まぁ。少々拳が痛いだけですので、この位ならすぐに回復しますよ」


 そう言って俺に正拳突きを放った拳を、軽く擦るリチャード。一応回復テリトリーが俺の周囲には展開されているので、多分様式美的な物だろうと思う。


 さて、次のスキルだ。重機超強化に続いて取得したのが、重機遠隔操作と言うスキルだ。因みにご存じだろうか? 現代日本では災害の現場など、危険な地帯での作業の時に、この様な遠隔操作可能な重機を使う事を。


 俺も一度操作に立ち会う機会に恵まれたので操作した事があるが、現状の問題はレスポンスと言う所だろう。余談であるが現世での普及率は殆ど無いと言って良い。


 理由としては、余りにも高価な為、国交省で数台保有しているだけだと聞いた。俺が立ち会ったのは、確か河川国道事務所の保有する物だっただろうか? 


「……懐かしいと言えば、懐かしいな。まぁ今後、日本の技術レベルが上がって行けば、もっと使い易くなるんだろうが、このスキルはどんな感じかね」


 そんな風に言いながら重機遠隔操作スキルを使った所、既に召喚して置いたPC200バックホーの操作パネルの様な物が頭に浮かんだ。どうやらこのスキルは、思念によるコントロールをする感じらしい。


 試しに土を掘る動作、重機の腕部分、ブーム、アーム、バケットを実際に土を掘る様に、脳内に浮かぶパネルで操作すると、離れた場所に居るPC200バックホーが土を掘り出す動作を行う。


 しかも驚いた事に、実際に掘ると土の重み、強度による抵抗を感じるのだが、これと同じ抵抗を操作パネル越しに感じる事が出来た。現代の遠隔操作重機とは異なる操作レスポンスに、思いもよらず驚く形になった。


「ふむ。もしかしてこいつは……試してみるか。重機召喚。来い、ZX200バックホー、連続召喚、来い、SK200バックホー!」


 スキルで試したい事があるので、俺は新たに二台のバックホーを召喚。今までは超重機融合の為にしか複数召喚をしなかったが、今回取得した新たなスキル、三つ目のスキルが重機並列操作と言う物だ。


 俺の想像通りなら、このスキルは重機遠隔操作スキルありきの物になると思う。現状では同社製の同規格の重機を呼び出せないので、他社の同規格級のバックホーを呼び出してみた訳だ。


 PC200と並ぶ感じで、ZX200とSK200が並ぶ。俺は重機並列操作スキルを使うと、遠隔操作スキルと同じ操作パネルが頭に浮かぶ。


 各社操作パターン、操作レバー配置が違ったりするが、このスキルでは、所謂ISO規格の操作パターンで統一された表示されている。俺が現世で使っていたパターンなので、非常に助かる。


「操作は……やっぱり思念コントロールか。そして重機自体の旋回や可動速度も統一された状態で、全部がリンクして動くか。こいつはすげぇな、壮観だぜ」


 余談だが、各社のバックホーはそれぞれ特徴があり、PC200なら腕の上げ下げの速度が速い。ZX200なら左右の旋回速度が速い。SK200ならコンパクトに動ける、と言う違いがある。


 尤もこの感覚は、俺が務めていた会社が保有した重機での操作感覚なので、最新の機体ならどのような操作レスポンスを返すかは分からないと伝えて置く。


「……ふむ、これも試してみるか?」


 以前は俺が操縦した事が無い重機の操作は出来なかった。まさかとは思って戦闘車両を召喚。この遠隔操作で操作出来るならと思ったので、試しに召喚してみた。


 現代兵器は高価なのだが、既に戦闘用車両は自腹購入しているので、射撃でもしない限りは補給は必要としないので、物は試しと言う所だ。


「ちょ、マジか……」


 本気で驚く。俺の予想は裏切られた。まさか本当に動かせるとは思わなかったのだ。と言っても、相変わらず自ら乗り込んでの操作は不可。遠隔操作からなら操作可能と言う理不尽っぷり。


 けれど、これで戦術の幅も広がる。乗れないとは言え動かせると言う事は、並列操作も加えれば複数の戦闘車両を同時運用、一斉砲撃等も可能になる。


 一応超重機融合時、重機外装として使えるのは分かって居たが、ならばと俺は超重機融合のスキルを試した。そしてその能力に度肝を抜かれた。


 遠隔操作と並列起動により、重機外装としての武装以外に、こう脳裏にキュピーンと来るような感じで、直感で使用する思念誘導兵器の様な扱いをする事が可能であった。


 具体的に言うなら、宇宙空間に飛ばし、思念誘導しつつビームを放ったり、三角形の形にバリアを張るアノ兵器。または、牙と言う別称を持つ、初見で回避がとても難しいアレに例えるのが分かり易いか。


「ファンタジーってか、サイエンスフィクションに片足突っ込んできたな……いや、まぁ俺のスキル自身も無茶苦茶だがよ」


 自身でも正直呆れかけているが、この新スキルを使えば、大規模転移以外にも取れる手段が増える。重機召喚では、戦闘用車両の召喚を行える。勿論アウトリガーやキャタピラ、作業装置が付いたものが前提となるが。


 この理屈に合わせると、兵員輸送用の重車両、歩兵戦闘車や、水陸両用車等が召喚出来る。何処からどう見ても重機ではない気もするが、これをも上回る超兵器が召喚出来るようになっているので、俺はもう諦めた。


「……クレーン機能付き、超弩級戦艦とか、一体何なんだよ……」


 そう、俺がどうしても解せないのがこの存在の事だ。確かに艦船、軍艦にはクレーンユニット等が搭載されている。第二次大戦では、戦艦や巡洋艦に水上機を搭載、格納する為にクレーンが装備されているのは、知識として知っている。


 しかし、しかしだ。逆だろう? 普通軍艦のオプションであって、クレーンがメインのおまけで軍艦とか何を考えて居るんだと小一時間問い詰めたい。


「……確かに、魔界進撃には有効だろうが。納得いかねぇ……」


 以前この重機召喚のスキルに、自我でもあるのではないかと思った事がある。確かに魔界にも、人界と同じく大陸があり、海が存在する。だからこその空間転移で移動する訳なのだが、海路も使えるなら使え、と言う意思がスキルから伝わって来る。


 しかし、これは本当に冒涜ではないのかと思う。戦争は起こるべきじゃないが、その道しかなく戦うしかなかった当時の人々。過去の英霊とも呼べる人達への冒涜に当たるのではないかと俺は思う。


 だからだろうか、俺は無意識に独りごとを放っていた。外ならぬ重機召喚スキルに向かって。


「重機召喚スキル、もし自我があるなら答えろ。何故、こんな物を呼び出せるようにした。こんなの、かつての英霊たちへの冒涜だ。答えろ……」


 答え等帰って来る筈も無い。分かり切っていた。スキルは所詮スキル。自我を持つなどあり得ない。あり得ないからこそ、俺は怒りを露にする訳だ。


 そんな事を考えて居る俺に、予想外の答えが返って来た。まるで電子音声の様な、機械的声で。


『……必要と判断したので出しただけです。誤解なされていますが、これは重機です。クレーン機能を持つ艦艇が存在して居るのは事実です。これだけで十分です』


 まさか、本当にスキルから回答が来るとは思わなかった。思わず俺は怒鳴る。傍から見れば一人発狂して居る様にしか見えないが。


「ふざけるなよ!? この一覧にある奴は、何処からどう見ても戦艦大和じゃないか! 人類を、先人たちを冒涜するな!!」

『ですから、それは戦艦大和ではありません。クレーン機能付き超弩級戦艦、です。敢えて言うならば大和型戦艦、同型艦ですので何も問題ありません』


 ダメだ。このスキルに対して俺が何かを言った所で、既に決定した事なんだろう。文句は山ほどあるが、言って意味が無いなら言うだけ無駄か。


『それに、貴方の理屈で言うならば、重機外装、戦闘車両も論外でしょう? 今更何を言っているんですか?』

「ぐ……それは、そうだが……」

『では、貴方が納得出来るように提言します。過去の英霊達も、人魔の争いを止める為なら許して頂けると思いますが、違いますか?』

「…………現時点で納得は、しない。せめて異世界から召喚された者たちの意見を聞いてからだ」


 その言葉に重機召喚スキルは声を潜めた。確かに厄介ではあるが、実際問題として使えるなら、どうしても俺が拭い去れなかった懸念。もしも、元勇者の兄がこの世界に転生しているなら。


 もし転生先が魔王で、現代のハッキング技術を発現出来るなら。空間転移系の魔法等も、阻害される可能性がある。と言う仮説を立てていたので、これなら敵を欺く事が可能かもしれない。


「……すまんな。戻ろうリチャード、スキルの確認は終わった。書類をまとめ直す」

「承知しました」


 そう言ってリチャードの空間転移で即時精霊首都シンフォニアに帰還した俺は、即時安芸と新生勇者パーティを呼び出し、この話を伝えた。結論から言えば、満場一致で使用に賛成との事だった。


「…………分かった、皆がそう言うなら俺も納得しよう。魔界への移動手段の見直しを検討する」


 可決された事から、移動計画を立て直した。表向きには大規模空間転移による移動だが、実際は陸路と海路を使う事にしたので、多少なり俺の嫌な予感も外れてくれる事を期待する。


 そして。こうなってしまった以上、本当に諦めるしかない。過去の英霊達が許してくれる事を願うだけだ。人魔の戦争の歴史に終止符を打つ為に。先人達よ、お力添えをお願いします。





毎度、閲覧ありがとう御座います。昨日はとても寝苦しかったと思ったら、もう立夏なのですね。

寝不足はダイエットの天敵でもありますので、皆様も十分睡眠は取られますよう(*'▽')b

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