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第五十三話 悪夢を超えて

 邪神ナグツェリアートは確かに消滅した。自身でも驚く程の経験値を取得。戦闘に参加した全ての仲間へ分配されてこの値と言う事から、どれだけ凄まじい事かが分かる。経験値の取得に伴いレベルも向上し、ステータスも大幅に向上している。

 しかし、それにも拘らず目の前の人型の内包する力は俺の想像の遥か先を行く。正しく超常の化け物と言っても過言ではない。ステータスの解析鑑定も行うが、返される答えが鑑定不能と言う物。

 

「行くぞォォォォ!!」


 相手が超常の化け物だとしても。俺は進み戦わなければならない。俺は自身に発破を掛ける様に、自身の弱き心を奮い立たせる様に、持てる最大の力を以て、嘗て勇者と呼ばれた者へと踏み込む。

 瞬時に懐まで迫った俺は、右手に構える剣を振り下ろす。聖剣シンフォニアが煌めき、白銀の剣閃が刻まれる。元勇者は俺の攻撃を避ける素振りも見せず、その巨剣による迎撃も行わない。

 

「なにっ!?」


 斬撃は確かに決まった。しかし元勇者に一切の傷もダメージも見受けられない。超常殺しの力も上乗せしているのに、届いていない。いや、これは。


「チィッ!」


 俺は瞬時にバックステップで距離を取る。直後俺の居た場所に降り注ぐ無数の黒き刃。避けたと思い安堵の息を付く暇もなく、次々と俺を追従する闇の刀剣が無数に襲い掛かる。


「クソッ! この! 避け切れないか、まずっ……!」


 サイドステップを踏み、剣を振るい迎撃するがその数は圧倒的だ。迎撃が追い付かず、驚異の速度で迫り来る刀剣に俺は捕捉される。

 このままでは回避し切れない。咄嗟に足裁きだけではなく、キャタピラユニットによる高速移動も併用して、漆黒の刀剣を振り切りつつ迎撃、なんとか回避して行くが――。


「つぅっ!」


 キャタピラユニットに着弾。鋼鉄製のキャタピラが断ち切られ、高速移動を止められてしまう。もう少し上手く事を運べば、等と言ってる場合では無いだろう。

 そのまま更にサイドステップで避けつつ、迎撃を繰り返したが、無数の刀剣の一本が俺の右足に被弾。刀剣自体は重機外装の装甲が受けたが、装甲ごと切り裂かれ右足から鮮血が噴き出す。


「ぐっ!」


 痛みに歯を食い縛るが足に力が入らず、ステップを踏む事は叶わない。ならばと聖剣とアースオーガで可能な限り叩き落とすが、とてもではないが捌き切れず、被弾個所が増えていく。


「づぁ! ぎぃ!? がああああ!?」


 左足、左手、右手、腹部。装甲を施されている箇所が容易く切り刻まれる。力が抜け迎撃が出来なくなった四肢に、数多の刀剣が突き刺さる。


「ぐああああぁぁぁぁ!!」


 その後も四方八方から無数の刀剣が殺到し、重機外装の上から俺にダメージを与えてくる。重機外装は耐久値制の強化外骨格だ。装甲が耐久値分のダメージを肩代わりするが、最近はこれすらも突破してダメージを与えてくる攻撃が多い。

 以前は魔法ダメージも素通ししていたが、これは俺と安芸達の結婚指輪によって解消されている。魔法は完全に無効化するが、それでも物理魔法の混在攻撃なら辛うじて突破する事は、精霊騎士アリシアとの模擬戦でも把握している。

 あの時は聖剣シンフォニアによる結界も張っていた為、ダメージは最低限に抑えられたが……実際にあの炎のレーザーを直撃したら、凄まじいダメージとなって居たのが予想出来るが、この攻撃はそれとはとても比較にならない。意識を保つのが精一杯だ。


「ぐふっ……」


 俺は吐血しながら地に屈し膝を付く。辛うじて聖剣シンフォニアによって体を支えているが、全身に突き刺さる無数の闇の刀剣によって殆ど行動不能と言う状況に陥っている。

 嘗て元勇者と対峙した時以上の、圧倒的絶望感に襲われる。勝てない。俺では決して届かない。創世神ゼフィロス様から貰った、超常殺しの力すら通じない。こんな相手に勝てる筈がない。


「……諦めない、諦めたくない。けど……ぐ、無理だろ……どうすりゃ、いいんだよ……」


 辛うじて視線を向けたその先には、微動だにせず俺を見下す悪意に満ちた瞳。嘗て鬼神殿と対峙した時以上の、圧倒的な存在感と絶望感。更にその瞳に宿る悪意は、人の心の根源から恐怖を呼び起こす。

 大賢者マコトとノーラによる各種バフを得ている状態でやっと耐えれている訳だが、それすらをも貫通して俺の精神を蝕んでいく。直視する訳には行かないが、俺の視線は固定されたかのように動かす事が出来ない。


「…………俺、は……まだ、正気、だ。ぐ、おおおお!!」


 腹に力を入れ、気合を入れて俺は立ち上がろうとする。まだだ、まだ終われない。こんな所で終わる訳には行かない。


「ククク……何ガ出来ル? コノ世界、否。コノ星ハ救世ニ値シナイ。愚カナル人類ハ、等シク全テ我ガ贄ニ過ギヌ。サァ享受セヨ……己ノ呪ワレシ宿命ヲ……捧ゲヨ、ソシテ眠ルガ良イ……敗北者ヨ」


 立とうとする俺に元勇者から紡がれる、機械的だが悍ましい声。姿形は元勇者だが、中身は邪神そのもの。消滅したのは外側の巨体だけだと言うのか? ならばあの取得した経験値はなんだと言うんだ?

 そんな疑問を抱きつつも、俺の正気度がガリガリと削れて行くのが分かる。同時に俺の周囲に漆黒の魔法陣が四つ展開され、そこから四体の人型が現れ俺を取り囲む。


「元四天王、否。狂邪神将ト成リシ我ガ眷属ヨ。嘗テノ恨ミ、ソノ者デ存分ニ晴ラスガ良イ」


 それは嘗て俺が倒した四天王、神雷のケリュケイオス。先の邪神戦で散った、獄炎のインフェルナグと地神グランゲイル。そしてその身と魂を生贄として捧げた、絶氷のクリスコフィン。

 単体でも驚異的存在であった彼らが、邪神由来の力で先の戦闘以上に強化されているのが分かる。恐らく勝機は零に等しい。けど、ここで諦める訳には行かない。

 恐らく勝てないだろう、だが……最後の最後まで抗い続ける。せめて最後に一矢報いる。あの時より俺の力は大幅に向上している。怖いのは後の請求だけだ。


「がふっ……うぐ、まだ……やれる、最後の最後まで諦めるものか……装甲強制解除! はぁぁぁ!!」


 既に重機外装の耐久値は限界を迎えている。本来耐久値が無くなった重機外装は自動的に解除されるのだが、闇の刀剣に縫い付けられている現状では自動解除が出来なかった。仕方なく強制解除を行い装甲をパージ。

 パージした装甲ごと闇の刀剣が引き抜かれ俺は辛うじてフリーで動けるようにはなって居る。しかし、この状態での防御力等文字通り無いに等しい。唯一魔法攻撃のみ完全に無効化出来るが、それでも一秒持てば良い方だろう。


「自ラ鎧ヲ外スカ。人間ハ理解出来ヌナ……死ヌガ良イ」


 そんな言葉と同時に、邪神の頭上に先程より巨大な刀剣が無数に顕現する。周りにいる狂邪神将も個々に魔法陣や巨剣で攻撃準備をしている。その一瞬で十分だ。追い詰められた人間を、甘く見るなよ。


「開放、超重機融合!!」


 もう予算が等と言っている場合ではない。俺は重機召喚から戦闘車両を呼び出す。主力戦車、自走榴弾砲、対空ミサイル車両、対艦ミサイル車両を召喚。一瞬で超重機融合させ、重機外装にてその身に纏う。


「らぁぁぁぁ!!」


 左腕に装備された120ミリ滑空砲を神雷のケリュケイオスに、右肩に装備された155ミリ榴弾砲を獄炎のインフェルナグに指向し射撃を開始する。

 同時に左右の腰部サイドアーマーにマウントされた、6連装対艦ミサイル発射機から全12発の対艦ミサイルを発射。地神グランゲイルを狙い白煙を吹き出しながら殺到する。

 最後に左肩に装備された、対空ミサイル発射機から4発の対空ミサイルが絶氷のクリスコフィンへ放たれる。

 この対空ミサイルは超高機動弾でもあり、回避されても再度反転し目標を追尾し続けるが、それでも当たらない場合信管が作動し強制的に損害を与える。


「聖剣シンフォニア、その力を示せ!!」


 射撃し終えた俺は、結果を確認せずそのまま邪神へ直行する。最大限まで超常殺しの出力を増幅した魔劫消滅斬なら、斬れない道理は無い。

 聖剣を振り被り、魔劫消滅斬を真っ向から叩き込む。邪神は迎撃する素振りはない。どうせ効かないと高を括っているのだろう。その傲慢、打ち砕いてやる!


「魔劫消滅ざ……」


 真っ向から振り落とした聖剣が届く前に、俺の攻撃は防がれた。邪神は一切動いていない。同時に感じる腹部の熱に、俺は恐る恐る視線を腹部に落とすと、そこには獄炎のインフェルナグが装備していた巨剣が突き出ている。


「ごふっ……耐えた、のか……155ミリ榴弾砲を……ぐわああああ!!」


 それだけではない、突き刺された巨剣に無数の稲妻が落ちる。魔法による完全耐性を持つ俺だが、直接魔法を行使された訳では無い。所謂感電による間接ダメージを狙ってきたのだ。


「ぐぅ、この巨剣を避雷針代わりにかよ、対策早過ぎだろ……つか、120ミリ滑空砲もダメなのか……くっ、しまった!? 足が凍結してるのか!?」


 俺の頭上から巨大な岩が自由落下してくる。対艦ミサイルを裁き切った地神グランゲイルの攻撃だろう。回避しようとするがその足場は凍結し、俺の脚部も永久凍土に締め固められたかのごとく微動だにしない。

 氷結の魔法なら効かないのだが、相手は地面を凍結させ俺を間接的に凍らせると言う方法を取って来ている。不味い、完全に魔法無効化に対策がされている。


『言ッタ筈ダ。何ガ出来ル、ト。サァ運命ヲ受ケ入レヨ』


 迫る巨石。俺は必死に120ミリ滑空砲と155ミリ榴弾砲を発射するが、まるで歯が立たない。見た目は巨大な岩であるが、中身は超硬質な物質となっているのだろう。現状俺の最大火力が通じて居ない。多分、積みだ。


「くそっ! まだだ、まだ負けていない。攻撃が効かないなら、腕力で止めてやるまでだ! 全出力を脚部と両腕に! 来いやぁぁぁぁ!! ぐ、ああああああああ!!」


 腹部を貫かれ万全の状態では無いが、魔力を集結させた際に僅かにリジェネの魔法を発動し傷の鎮静化を行った。この回復が功を奏したのか、全身に力が漲って来る。傷の再生に伴い魔力回路が修復されたのだ。

 結果としてギリギリの所で巨石を受け止める。同時に俺の周囲が罅割れ地盤が沈下するのが分かる。少なくとも魔王種ギガンテスをも跳ね返す事は出来た。仮にそれ以上の質量であるとしても、あの時以上のパワーを行使出来る俺なら、止めれる筈だ。


「ぐ、ぐぎぎ……お、おおおお!! これが、国主魂だぁぁぁぁ!!」


 どこぞの某合衆国大統領をモチーフにしたゲームの台詞を引用しつつ、俺は受け止めた巨石を邪神に投げ返す事に成功した。もっとも、その巨石すら邪神は念力の様な何かで一瞬にして砕いた訳だが。


『無駄ナ足掻キヲ……』

「無駄では無いさ。ああ、認めよう。俺は弱い。たった一人の人間では邪神の系譜に打ち勝つ事が出来ない。認めよう……だが、今の俺は国主。国を預かる者。そして国主は人々を束ねる。時間稼ぎは十分だ」


 俺は忘れていた訳では無い。この邪神を始めとする一行との戦闘は、ある種の時間稼ぎであった。そう、人類、共闘者である魔族との連合軍が揃い踏み、真なる敵を討伐する為の、文字通り命懸けの時間稼ぎだった。

 俺がこの邪神との交戦に入ったと同時に、周りには漆黒の結界に包まれていた。俺と邪神とのタイマンと言えば聞こえは良いが、内容はただの敵が有利なフィールドに引き摺り出されただけである。

 そして、ビキリ。と結界に罅が入ると、瞬く間にその罅は結界全域に到達し――。

 

『何!?』


 ここに来て初めて邪神が驚く。同時に漆黒の結界は砕け散る。眩い光に幻惑されるが、俺の目には確かに映っていた。巨大邪神と対峙した仲間達、新生勇者パーティ。いや、違うな。


「人魔連合、ここに参上だ。ユウキ、遅くなって済まない」


 人魔連合。新生勇者パーティ、安芸、ノーラ、ムラマサ殿、カズヤ君、サツキさん、マコト君、カエデさんからなるパーティ。そして、神格化した四聖獣に、リチャードを始めとする超越者に、各都市の精霊騎士達。

 そのパーティと肩を並べる魔族と人類の和平を求む者。ヴァーミリオン・ロードクラヴィス。デーモンロード級の魔人である彼と、配下のアークデーモン級二体の魔人。そして子飼のグレーターデーモンを召喚しその軍勢は少数だが決して人類に引けを取らない。

 それら全て従え、圧倒的カリスマで軍勢を率いるヴァル。俺がこの結界に閉じ込められた時に、真っ先に勇者パーティを始めとする全戦力の集結を提言したのが彼である。


「さあ反撃開始だ、人魔連合の力を見せてやる! 皆、俺に続け! ユウキと共に、今こそ邪神の系譜を打ち取り、この世に平穏を!!」

『オオオオオオオオ!!』


 ヴァルの掛け声に合わせ、この場に駆け付けた全ての仲間が号砲を上げる。そうだ、俺は一人ではない。人は支え合ってこそ人なんだ。高貴も下賤も無い。条件は皆同じ。生きるか死ぬか、今この場に於いてはそれだけだ。






閲覧ありがとう御座います。やっと遠方の現場から解放されました。ふぅ。

ただ、近場では無いので19時投稿は見送って20時台に変更する予定です。

にしても、暑かった……なんで当社の重機、エアコン効かないんですかねー(;´・ω・)

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