第四十七話 資材調達
休日更新夜の部です。
思い立ったら即行動。俺は資材調達を含めて家造りを開始する事にした。元々最初に立てた計画書は、安芸とノーラの許可さえあれば後はどうとでもなる仕様なので、速攻で終わらせて置いた。
まぁ言ってしまえば、俺の説明指導の下に建設用重機の体験試乗をすると言う企画だ。下準備、布告掲示には時間が掛かるが、重機を用意する事は、スキルを使用して一瞬なので何ら問題はないのである。
「遂に重機召喚スキルが日の目を見るのか、胸が熱いな……」
そんな、どこぞの聯合艦隊旗艦が擬人化したゲームの台詞を引用する訳だが、大真面目に本心である。今でこそ神の使徒、勇者、国主と言う立場であるが、この世界に召喚された俺の役割は、重機操者。
聞いた事のない役割と言う事で酷い目に遭ったが、様々な困難を超えて俺達は幸せを掴む事が出来た。この世に不遇の職業等ないと言わしめる為にも、頑張りたい。
「俺達が問題を超えた様に、この世界の住人だって様々な問題に直面、解決してるんだ。今回の重機に関しても、超えて行けるさ」
勿論これら重機の模倣や技術検分、解析鑑定と言った事は許可する。動力源に関しては風の精霊都市のエルフ、ドワーフ連合が解決済みなのでそれを流用するか、技術提携をするかで開発すれば良い。
重機自体はスキルで幾らでも用意できるので、後は俺の日程だけであった。国主と言う立場の為、政務他外交と言ったレベルでも日々忙しいので、中々都合が付けられずに居た。
「ふむ、待てよ。この際他国巻き込んでやれば、俺の外交政務も減るんじゃね!?」
「……兄さん、疲れてるのは分かるけど……多分、うち等もっと苦労するよ? まぁ、やると言うならいいけど、んじゃ日時決定しちゃうね」
「えっ」
そんな訳で企画日程を決めたので、後は野となれ山となれ。と言う状態になった。なのでこの際開き直って、建材の確保に走る事にした。
今回集める資材は山砂、砕石である。建設予定地の地盤掘削改良を行い、基礎砕石の敷き均し転圧までが俺の担当する分野となる。
その為にはまず、山砂の採取と、砕石の採取が第一。これらは精霊首都近郊の山を開拓し必要量だけ確保した。元々国有地であり採取に関しては、取得した山砂の数量に合わせて国庫へ還元と言う形である。
「んじゃ行くぜ。重機召喚、PC200バックホーを召喚!」
そう言って俺は重機召喚のスキルを用いて、バックホーを召喚。今回は戦闘ではなく作業なので、重機に乗り込み直接操作を行う。
「重機足場の確認、ヨシ!」
指差呼称による、現地KY(危険予知)を行い重機の足場を確認する。万が一軟弱地盤であれば、下手な操作を行えば重機が転倒しかねない、確認は大事だ。
バケットアームを操作して表土を剥ぎ、良質な山砂を露出させる。どうしても表土と山砂が混ざると、施工時に強度や地盤沈下等の問題になるので、良質な部分だけ取得するのだ。
「続いて重機召喚。CD110R、MST2200VD、召喚!」
次に召喚したのは不整地運搬車。掘削した山砂を積載する為に呼び出した。重機召喚スキルの中には、一応大型ダンプの存在が確認されている。
その事を安芸にも話したら、使えばいいじゃんと言われたが、敢えて俺は断った。確かに有効だと思うが、そもそも。
「え、大型免許が無いから乗らない?」
「ああ。深視力が弱いのもあって、受からなかったんだよ。大型免許」
そんな安芸の言葉からも分かると思うが、現世で俺は大型免許を有して居ない。乗って乗れない事は無いと思うが、ならば慣れていて、資格も保有している不整地運搬車の方が安心できる。
まぁどの道スキルを解除して空間格納するのだから、大型ダンプを召喚しても良いのだがな。慣れない仕事をするから、事故を起こす可能性があると知っているので、無理はしない事にしたのだ。
「分かったよ。私としても、事故で怪我をする兄さんは見たくないし、そのまま封印で行こう。じゃ、次は採石かな」
一先ず山砂の採取は終わったので、今度は採石の確保に走る。重機召喚は解除すれば即時空間格納されるので、移動も短時間で済む。本来ならトレーラー等に乗せて移動する物だからな。
更に山の一角にある採石場から、必要量の石を確保した。またしてもスキルによりバックホーで巨石を掘り起こし、ブレーカー配管仕様を呼び出し小割する。この後ガラパゴスと呼ばれる自走式破砕機を召喚し、小割した石を細かく砕き、砕石を確保。
またしても不整地運搬車を呼び出し、砕石を積み込み格納。普通の空間格納魔法では数トン単位の資材を格納不可能なので、俺のスキルは破格の性能だ。ある程度敷地面積を計算しているが、足りなかったらまた取ればいいべ! と言う、割と土方発想である。
「とまあ、久しぶりに重機に乗ったよ……しかし書類仕事と大して変わらんね。振動、騒音があるか無いかの違いだったな」
「そりゃね。でも気分転換にはなったんじゃない?」
「ああ」
安芸の言葉に頷く俺。この採掘、採取現場には監督として安芸が付いてきている。ノーラは政務関連、書類仕事の為留守番。最近は政務に携わる後継者の育成も開始しており、結構忙しくなっている。
ともかく久しぶりに乗る重機は、なんだか何時もより新鮮さが違っていた。日々乗って居た重機は、仕事、作業の一環であったが、今回の資材調達は最初から最後まで俺が主導。
一応、重機外装にて直接と言う方法も考えたのだがこれはやはり却下した。理由は単純、純粋に馬力が有り過ぎてごらんの有様だよ。になってしまうからだ。こうね、ブレーカーステークをしただけで、石が文字通り粉微塵になると、ね?
ならばと乗用型の物、重機召喚によりバックホーを呼び出す形となった。何より俺がスキルで呼び出す重機は、最新鋭機。
俺が現世で務めていた会社の様な、骨董品ではないので動きもスムーズだし、冷暖房も完璧である。快適な環境で行う仕事がこんなに良いとは思わなかった。思えば俺は、古い機械ばかり預けられて酷い思いをしたっけなぁ。
「……ほんと、お疲れ様。思い出してたんでしょ?」
「あぁ……」
あの時は本当に辛かった。時期は冬、場所は山。道路改良工事だった。あの時俺は雪が深々と降る中バックホーを操作していた。そう、骨董品でヒーターすら効かないバックホーを、である。
服を着ても寒い。ヒーターが出ないので寒いし窓が曇る。曇るから窓を開ける、冷気と雪が舞い込むの悪循環。寒いし濡れるから、と窓を閉めるてタオルで拭きながらやっても、窓ガラスの外が濡れて視界不良。ワイパーが壊れているので外側が見えず窓を開けるしかない。
結果、俺は風邪をひいて数日ダウンした。あの時、安芸に風邪をうつさない様にと細心の注意を払い苦しみながら過ごした。辛い思い出だ。しかしその辛さもあり、安芸は無事に過ごせたのが幸いであった。
「今は創世神の加護のお陰で、病気や状態異常には無縁となった。本当に神の采配に感謝だよ」
「兄さん、その……ううん、なんでもない」
安芸は何か言いたそうであったが、何故か口を噤んだ。いや、言わんとしている事は分かる。神の加護で風邪を防ぐと言う贅沢を超越した使い方をしているのだから。
「とにかく資材確保はここまでだ。あとは木材だが、これは現地の住民に任せるとするよ。運搬は俺の方に回す様に手配を頼む。にしても意外だったな、ノーラがあんなに図面に精通してるとは」
「あーうん。この世界での建築は、エルフ、ドワーフが中心だからね。ノーラもドワーフの血筋である事に違いはないから、図面なんかにも明るいみたいだよ」
そう、ケットシー種に進化を遂げたノーラは、元々がドワーフ、獣人のハーフである。父方のドワーフが鍛冶職人、母方の獣人が建築家と言う家庭に生まれたのがノーラだ。
生まれ付き物作りを始め、母の建築製図をよく見ていたノーラも、将来は建築家と考えて居たらしいが、精霊への適正の高さが目に留まり精霊騎士への道へと進む事となった。
結果的に地精霊ノームと契約を果たし、地の聖獣ベヒーモスの加護を受けて高位精霊騎士となった経緯がある。それでも日頃から鍛冶の現場視察、建築現場視察、自らも空いた時間で図面を引くと言う生活を送って居たのが功を奏した形だ。
「確か、精霊ノームの恩恵で各種職人の能力にバフが掛かる、的な事があるんだったな」
「そうよ。地精霊ノームの恩恵は、筋力、体力、技量の向上がメイン。私の風精霊シルフだったら、瞬発力、敏捷性、直感って所だね。他の精霊でも強化個所は違うけど、基本戦闘では身体強化、魔力強化も可能になるよ」
余談だが火精霊サラマンダーなら、攻撃力、攻撃速度、魔法火力が高まり、水精霊ウンディーネなら防御力、魔法耐性、回復力が向上する。
「便利だな、と思ってるんじゃない? 一応兄さんの加護の方が凄まじいんだけど。基本全精霊の恩恵を受けれてる筈だよ。ほら、この間ガルーダ様以外の全ての聖獣様と召喚契約を結んだじゃない?」
「そう言えばそうだな。戦闘時だけだとばかり」
あの時結んだ召喚契約で、ガルーダ以外に、ベヒーモス、イフリート、ケートスの聖獣が限定使役出来るようになった。確かに能力バフ等も掛かるが、それは全て戦闘中だけだと思っていた。
「戦闘時以外にも恩恵は受けれているよ。そもそも精霊種は聖獣様の眷属であるんだから、最上位の聖獣様を使役出来るなら、自然と恩恵を受けれてると思うよ、ただ、桁が違い過ぎる。恐らく兄さんが無意識でブレーキを掛けているんだと思うよ」
安芸の言葉を総括すれば、基本精霊種が与えるバフは小規模から中規模の物。だが、精霊種を統べる聖獣であればその効果は大規模、超性能の物になる。
例えばリンゴを握り潰すには約80キロの握力が要るが、精霊の恩恵があれば半分程度の40キロで。聖獣の加護があれば更に半分の20キロでと言った具合の性能を誇る事になる。
流石にそれでは日常生活に影響が出るとして、俺の脳が自然とブレーキを掛けていると言う事だ。成程、言われて納得したわ。
「……あのね、神の使徒って言う位なんだから」
「はい。気を付けます」
本気で怒っている訳では無いだろうが、若干呆れられている感じなので素直に謝った。既に一般人と言うのは無理な立場故に、俺ももう少し勉強しなきゃなと心に誓いながら精霊首都への帰路へと付いていた。
閲覧、ありがとう御座います。もう少し日常パートが続きますが、どうぞよろしくお願い致します。