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第四十一話 敗北の一報

 ナグツェリア王国、国王は焦燥感に駆られていた。勇者の進言により、地の精霊都市への侵攻を決め、魔法使いによる大規模転移による奇襲で、一気に制圧。制圧後は統治戦団総大将に持たせていた、長距離通信用の魔道具にて報告を受け取る事になっていた。


「遅い、統治戦団総大将は何をしているのだ」


 ナグツェリア王国、国王。ヴィンセント・ナグツェリアの言葉に答える者は居ない。何故なら、下手な事を口にすれば瞬く間に処刑されてしまう。ナグツェリア王は暴君として有名だ。野心家で有り自分こそが世界の統治者と信じて疑わない男だ。


「遅過ぎる、統治戦団総大将はもとより勇者まで応答しないとはどういう事なのだ!!」


 勇者パーティとナグツェリア王国軍の兵士達が発ち、既に三日が経過しているが、未だに通信用の魔道具に音沙汰が無い。勇者の話では、一日もあれば余裕だろうとの事で送り出したが、現実は三日経っても音沙汰無しである。


「よもや、図られたのか。勇者に……おのれ、おのれ恩師らずの異世界人め。儂がどれだけ目を掛けたと思っている……」


 ナグツェリア王は、何か魔道具に不具合でもあったのだろうと、焦燥感に駆られつつも待ち続けた。五日、七日、十日と経過し、遂にナグツェリア王は報告を受けた。


「き、緊急のご報告になります。王よ、どうか慈悲を。我々は敗北してしまいました。軍勢も半壊、勇者様も討たれ……」

「もう良い! この者の首を斬れぃ! そのような御託を聞く必要などないわ!!」


 このナグツェリア王国軍に所属する敗走してきた兵士によって、ナグツェリア王国の敗戦の報が届けられた。同時に勇者パーティも行方不明、勇者に至っては死亡の報告が成された。ナグツェリア王は頭を抱えた。本来なら勝利の報が届く筈が、逆に敗北を知る事になったのだ。


 その腹いせに、報告に来た兵士は斬首の刑に処されるが、それでナグツェリア王の気が済む訳もない。帰還兵全てを処刑すると言う発表を出し、数多の兵士が無残にも殺された。


「使えん兵士共よ。儂がどれだけ兵士に厚遇をして来たか、恩を仇で返し寄ってからに……」


 ナグツェリア王国は魔族との闘いの最前線でもある、超大国を自負している。なので、今回の地の精霊都市への遠征も勝利で終わる筈だった。多数の奴隷を獲得し、優秀な兵士の子種を育て、精霊騎士の一角を手に入れる計画が、脆くも崩れ去った。


「せめて、地の精霊騎士さえ手に入っておれば……」


 何故地の精霊都市を狙ったか。四大精霊騎士の中で一番レベルが低いのが、地の精霊騎士ノーラである。そして彼女を溺愛するのが、水の精霊騎士マリン。そう、ノーラを人質にマリンを隷属化するつもりだったのだ。


 そしてなにより、ナグツェリア王国軍の敗北の直接原因となったのが、あの指名手配の異世界人であった事もナグツェリア王の頭を悩ませる。無能の烙印を押し、勇者の太鼓判を得た上で処断しようとした男が、ここで立ち塞がったのだ。


「忌々しい異世界人め」


 しかし、ナグツェリア王国の苦難はここから始まる。本来戦争と言う物は、宣戦布告があり期の物。ナグツェリア王国は、宣戦布告をせず攻撃を開始。勝つのが前提であり、属国化が確定していた故に。


 勇者はナグツェリア王にこう言った『勝てば官軍。その前にはどんな小事も問題にならない』と。実際、ナグツェリア王国が周辺国を併合した時も、宣戦布告はせず奇襲、闇討ち、そんな形で制圧。民は抑圧、圧制を敷き、反論がある者は切り捨てて来た。


 故に、今回ナグツェリア王国に齎された『正式な宣戦布告』の告知がとても重く圧し掛かる。問題が地の精霊都市だけであれば、何とでもなっただろう。しかし、今回の布告は『四大精霊都市全て』からであった。


 ナグツェリア王国は、大陸中央部に位置する巨大国家。防衛線も膨大になるが、その為の予算も大量に確保。魔族との交戦が前提となって居る為、防備も厚い。しかし、それは魔族や、対立するのが一対一での場合に限る。


 対して精霊都市側の戦力は、数の上で言えば多くは無い。ただし、個々の戦力で言えば段違いだ。少なくとも、一番レベルの低いとされる地の精霊騎士でさえ、不意打ち、奇襲、勇者と言う超戦力を当てなければ、数万の軍勢でやっと、と言う相手だ。


 そんな相手が四名。当然部下や傭兵、冒険者と言った精霊都市側の人間も対立するであろう。現状四方面全てを守りつつ、勝利を取る事は不可能である。兵力の分散は愚の骨頂。かといって、王都のみを守っても意味がない。

 

「……どうすればよい。どうすればよいのだ!!」


 しかしその問いに答える者は無い。答えた所で戦況が覆る訳もなく、ただ不敬罪として処断される事が分かって居るから、誰も声を出さないのだ。


 一応、ナグツェリア王国にも貴族が存在しており、独自に兵力も備えて居る。しかし、当てになる程の戦力ではない。国王は貴族の必要以上の兵力保持を、固く禁じていた。万一自らに刃を向けられた時、制圧し易くする為だ。


「ええい、誰か何か策は無いのか!!」


 そんな怒号が飛ぶ王座の間。貴族たちも答えようとはするが、どれもナグツェリア王の逆鱗に触れる可能性があるので言い出せずにいる。


 実を言うとナグツェリア王国貴族はその勢力を大きく二分する。大多数の交戦派はナグツェリア王に従ったが、それでも下手な意見は怖いらしい。


 対照的に反王派、融和主義の者達も居たのだが、左遷と言う形で属国化した国を守らせている。当然必要以上の税を課し、虐げ続けている。故に、攻め込まれたら反王派の貴族は、即座に降伏。無血開城する事だろう。


 こんな事になるなら、さっさと処刑して置けば良かったと悔やむが、内政に関しては敏腕とも言える手腕を備えた者達であった。故に、遊ばせておく訳にも行かずの対応が、裏目に出てしまった。


 しかし悔やんでも仕方のない事。現状では無条件降伏でもするしかないが、よりにもよって地の精霊騎士ノーラに手を出してしまったのだ。地の精霊騎士を溺愛する、水の精霊騎士マリンが黙って居る筈もない。


 本来なら、地の精霊騎士を人質に、最強と言われる水の精霊騎士を隷属化させる手筈であった。その後、火と風の精霊騎士を落とし、史上最強のナグツェリア王国軍として、魔族を打ち、絶対国家として君臨する筈だった。


「異世界人、サクラユウキ……貴様さえ、貴様さえ居なければ!!」


 しかし、幾ら呪詛を吐いた所で現実は変わらない。そんな時、兵士が駆け込んでくる。緊急の伝令と言う事で報告に来たそうだ。聞けば、国境線の向こうに、各精霊都市の軍勢が現れたと言うのである。


 そう、既に宣戦布告は受け取って居る。現状集められる兵力を総動員して迎え撃つか、王都のみ守らせるか。決断を迫られる。その気になれば自分だけでも逃げられる可能性はあるが、時既に遅し。転移用の魔法陣の反応が全て消えている。


 この転移用の魔法陣を用意したのは、勇者パーティの一員、魔法使い。最悪の場合を想定して用意させたが、肝心の時に使えないのでは意味がない。実際の所、魔法使いは既に精霊騎士達と共闘する立場となって居るが、それを知る術は存在しない。


 この魔法陣を用意する為、魔法使いを懐柔しようとして、多くの美男子を送り篭絡を狙ったが、あろう事か拒否を重ねる。遂には強引に事を進め、無理矢理協力させる事が出来た。犠牲は大きかったが、王と言う立場に比べれば安い物であった。


「忌々しい異世界人共め……全軍出撃、最後の一兵まで戦うのだ! 精霊騎士等恐れるに足らず、討ち滅ぼせ!」


 ナグツェリア王国の兵力は、約50万と言う数字だ。これを四方面に分散し、各個撃破で対応する。昔から魔族と相対して来た、その矜持を以て迎え撃つ事を決意した。


 尤も、兵士たちの士気は最低。そしてこの50万と言う数字は、予備役を含めての数であり実際は20万が精々と言う所だ。配分は各方面に5万。全力戦闘を行い撃破、その後結集し残りの方面を叩くと言うのが、国王の作戦だ。


 しかし、この作戦が成功する事はまずあり得ない。勝てる訳がないと言う意識が蔓延している軍隊だ。相手が普通の軍隊ならまだ可能性はあったかも知れない。


 敵の戦力は、風、火、水、地の精霊騎士が私的に保有する戦力。斥候により確認されたのは、凡そ50人程の人員。中には雇われたと思われる傭兵、冒険者が数十名。


 その中に、あり得ない人物たちが居た事までは報告されなかった。いや、する事が出来なかった。見つける事さえ出来なかったのだから。


 その兵力は、ナグツェリア王国の上空に存在した。隠蔽魔法、消音魔法、飛行魔法、重力操作等の超魔法を行使する一団。神の使徒、守護星騎士、剣聖、大賢者、上位僧侶、竜騎士、超魔導の、新生勇者パーティである。





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