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第四十話 新たな出会いと再会と

 日が沈み、辺りは暗黒の世界が訪れる。星明りがここまで綺麗なのは、現代地球でも、そうそうお目に掛かれるものではない。暗がりの中、繋いだ手を放す事無く歩き続ける。


 やがて、ボンヤリと篝火が見えて来る。地の精霊都市の灯は、先の戦闘によりまだ復旧されていない。俺達の帰還を待ち望む者達が、松明を持ち、篝火を焚いて俺達への道を記してくれる。


「……兄さん。このまま、手……繋いでても、良い?」

「ああ」


 悪い訳がない。俺は頷くと、安芸も微かに笑みを浮かべる。気恥ずかしいだろうが、夫婦となればそんなのは日常茶飯事。既に風の精霊都市でも、散々見せつけて居る事だ。今更気にするもんか。


 そのまま歩き続けていると、都市側からも俺達の姿が確認出来たのだろう。暗がりの中を、駆けだす人影。


「レオナぁぁぁぁ!」

「っ! アリシア!」


 やはりと言うべきか。火の精霊騎士アリシア。安芸、レオナの親友であり、ライバルでもある彼女が、迎えの先陣を切って居る。安芸は手を放すか悩んで居るので、俺は後押しする事にした。


「行って来い。彼女も頑張ったんだ、喜びは分かち合わないと。だろ?」

「兄さん……うんっ!」


 名残惜しそうだが、そっと手を離すと、安芸もアリシアに向けて走り出す。数秒置いて、お互いに抱き締め合う、安芸とアリシア。


「もう、全くもう! 私たちがどれだけ待ったと思ってるのよ!? 無事なら無事と、念話くらい寄こしなさいよ!」

「……ご、ごめんね。色々あって、その」


 距離的には少し離れている程度で、彼女らの会話も自然と耳に入る。流石、親友同士と言う所か。暗がりで良く見えないが、きっと二人とも再会を喜んでいる事だろう。


「でも、生きて帰って来て、本当に良かったよ。レオナが死んだら、私との試合、決着が付けられないもの」

「アリシア……もう、こんな時まで……ふふ、あははは」


 しかし、流石はライバルと言う所か。無事生還を喜ぶ半面、勝負の決着を望む。バトルジャンキー……とは言うまい。何となくだが分かる。きっと照れ隠しなのだろう。


 そんな事を考えながら、俺もゆっくりと安芸とアリシアの元へと歩いて行く。流石に親友同士の感動の再開に、水を差す様な事をするのは野暮と言う物だろう。


 牛歩で歩むその先では、アリシアが捲し立てる様に安芸と会話をしている。ゆっくり近付く俺に気付いたアリシアに、俺は初めて声を掛ける。


「取り込み中済まないな。精霊騎士アリシア、此度の協力に、最大級の感謝を。……初めまして、神の使徒、サクラユウキだ」

「……ふぅん、中々男前じゃない。感謝の気持ちは受け取ったわ。でも、勘違いしないでよね。私はレオナの為に動いたんだから!」

「お、おう」


 アリシアの返しに、俺は軽く怯んでしまった。と言うか、これがツンデレって奴なんだろうか? まぁ、デレるのは俺にじゃなくて、安芸にだろうが。


「アリシア!」

「良いじゃない。それより、ちゃんと聞かせてよ? この戦いが終わったら、話すって言ってた、本当の事をって奴を」


 そんなアリシアの言葉に、安芸はグッと何かを堪えるようにして、凛とした声で返答をする。


「折角なら、全員が居る所で話すよ……でも、先んじて一つだけ。私の本当の名前は、安芸。サクラアキ、これが私の本当の名前」

「……そう」


 レオナの真の名を知り、少し悲しそうなアリシア。俺は二人を促し、都市へ向かう。暫くすると、より一層光度が増す広場に辿り着く。同時に、小さな影が全力で突っ込んで来る。

 

「……ゆ、ユウキ、さん……ご無事で、ご無事で何よりですっ!!」

「それは俺の台詞でもある。助けるのが遅くなってごめんよ……無事で、良かった。本当に良かった」


 俺は突っ込んで来た彼女を、優しく抱き止める。俺の腕の中で、涙を流しながら震える小動物。俺の第二の大切な存在、ノーラその人であった。


 そんな俺達の前に、絶世の美女が現れる。恐らく彼女が、最強の精霊騎士その人だろう。泣き続けるノーラを頭を撫でながら、俺は視線を彼女へと向ける。


「正直な所、可愛い妹を取られて複雑な気持ちです。お初にお目に掛かります。水の精霊騎士、マリンで御座います。さて、ご説明願えますよね?」

「ああ。その前に言わせてくれ。ノーラの救出は、マリン殿の協力が無ければ、決して成功は無かった。改めて言わせてくれ。ありがとう」


 俺を問い詰めたいマリンであったが、俺の感謝の気持ちに興が削がれたのか『妹を助けるのは、姉として当然です』とだけ言い、そっぽを向いてしまった。


 聞く所によれば、ノーラはマリンの事を本当の姉のように慕って居るとの事だ。マリンも義理の姉妹として、ノーラ、ノルンの姉妹を可愛がっていたそうだ。


 そんな妹を取られたと言うのが、マリンには許し難い事だったのだろうと推測した所で、ナグツェリア王国での召喚以来となる二人と目が合った。

 

「ユウキさん。あの時は、助ける事が出来なくてすみませんでした。遅ればせながら、助けに参った次第です」


 そう言って俺に話しかけてきたのは、あの日、あの時、唯一俺を庇ってくれた青年。大賢者マコト君である。あの時はまだレベルも低く、様々な情報が不足して居た事から、行動を起こせなかったと安芸から聞いている。


「ありがとう。あの時のマコト君の援護がなかったら、俺はきっと諦めていたと思う。感謝するよ、流石は大賢者だ」

「ち、茶化さないで下さい! 俺は、弁護士に成るべく勉強して居ました。だから、あんな理不尽が許せなかっただけで……ふぅ。でも、無事な姿を見れて、良かったですよ」

「ああ、お陰でなんとかな」


 そう言って俺は手を出す。マコト君は驚いたが、しっかりと握手を返してくれた。その手は、弁護士を目指していた大学生とは思えない程、傷だらけである。


 恐らく、俺を弁護した事で、様々な苦労をしたのであろう。彼の持つ正義の心に、感謝しなければな。そして、俺は気配を殺している、武人へと向かい直す。


「……精進、している様だな。まさか、こんなに早く其方と巡り会うとは、思いもしなかったぞ」

「俺もそう思いますよ。初めまして、いえ、お帰りなさいと言うべきでしょうか? 鬼神殿」


 俺の言葉に、鬼神殿はニヤリと口角を上げて応える。


「今はムラマサだ。それ以上でもそれ以下でもない……くく、はっはっは!」

「と、そうでしたね。ご助力感謝致します、武人ムラマサ殿」


 マコト君同様、俺達はしっかりと握手を交わす。姿形は変わっても、誇り高き武人の心は変わらず高潔である。


「さて、と。それでは皆さん、一旦神殿内に戻りましょうか。落ち着いてしなければならない話があります。ノーラ、案内を頼める?」


 最後に、安芸の言葉にノーラが、ごしごしと目を腕で拭い俺から離れる。


「……良いの?」

「うん。そう言う約束でだったからね」

「分かった。こちらです」


 言われるがままに、俺達は神殿へと向かう。覚悟を決めた安芸の手をそっと取り、ぎゅっと握りながら。俺達は運命の場所へと向かうのであった。

 

 場所は土の精霊都市へと移り変わる。ここは中央、神殿内部の講堂。俺が上座に、安芸とノーラが左右に座り、アリシア、マリン、ムラマサ、マコト、カエデの五人も席に着く。


「まずは、皆さんに謝らなければなりません」


 安芸の言葉に、全員の視線が安芸に集中する。安芸は全員を見渡すと、ゆっくりと語り始めた。この世界に来るまでの事、この世界に来てからの事。


「私の本当の名前は、サクラアキ。こちらに居る、サクラユウキの、義理の妹でした。そして、レオナ、レオナ・フィンガードは、既にこの世には居ません」

「……」


 安芸の言葉に、アリシアが俯く。今までライバルと、親友と思っていた人が、全くの別人であると言う事が、彼女の心に深く突き刺さっているのだろう。


「レオナさんは既に、輪廻転生をして……この世界の何処かに生まれ変わって居ます。これは、女神セラフィーナ様の神託で知りました。彼女は、悲しき過去を超えて、新たな生を受けています」

「やはり、女神様であるか。ふ、本当に縁の深い事だ」


 安芸の言葉に、同じく転生を果たした鬼神、ムラマサ殿が同意をする。あの短時間の間に転生を行った。前世、鬼神時代の善行と、俺への指導が功を奏したのだと推測する。


「……私が、この星に舞い降りたのは、レオナと時を同じくして、あちらの世界で死亡したからです。所謂、転生者です。私が死んだのは、こちらでは13年前、あちらでは5年前となります」

「サクラアキ、5年前……成程、完全に思い出しました。やっぱり思い違いでは無かったようですね。確か、強盗殺人事件。捕まったのが少年Aだけで、主犯が逮捕されなかった事件か……」


 そう言って当時の記憶を思い出したのが、大賢者マコト君。当時17歳の彼は、この強盗殺人事件で、俺が協力を仰いだ弁護士の息子さんだったのである。


 彼の父親には、俺が佐倉家の家督を引き継ぐに当たって色々な話に乗って貰っていたので、安芸が殺害された時にも、色々協力して貰っていた。何とか犯人をと思ったけど、結局は見つからなかったが。


 それで、か。辻褄が合った。彼がこの世界で、俺を弁護したのは……当時俺の話を聞いて、失意の俺を見ていたから。そして、何の因果か巡り会ったから、と言う事だ。


「はい、ですが……既に犯人の一人、少年Aは死にました。語らせて貰います、あの日の出来事を――」


 あの日、俺は朝の五時半に家を出た。現場まで約二時間、始業に間に合わせる為に、だ。そして、俺が家を出て数分後、一台の車がやってくる。安芸は、寝ぼけ眼で思ったそうだ。俺が何か忘れ物をして、戻って来たのだと。


 玄関をガチャガチャ。俺が暗がりで鍵を開けるのを手間取って居る、と思った安芸は、鍵を開けて玄関を開いてしまう。そこに居たのは、俺ではなく覆面をした三人組。


 お互いに驚いたのか、無言。安芸が叫ぼうとした瞬間に、一番大柄の男に口を塞がれ、取り押さえられた。その後、縛られ、口を封じられ投げ捨てられた安芸。助けを呼ぶ事も出来ず、ただ震えるしかなかった。


 家の中を物色、金品を奪いそれで終わるのかと思ったが、ここで予想外の事が起こった。覆面の一人が、熱くなったのか覆面を脱いでしまった。運悪く顔を目撃した安芸。


 覆面を脱いだ男の顔は、まだ幼さの残る、少年と言っても過言ではなかった。安芸は、脳裏に焼き付けてしまった。顔を見た事を同行者に知られ、安芸は暴行を加えられる。


 その時、三人の内の一人が、徐にズボンを降ろし――その後、安芸は散々甚振られ、輪され、殺された。殺される直前、残りの二人が覆面を脱ぎ去った。その顔に安芸は、驚愕した。


 一人、主犯の人間は、当時安芸を連れ去ろうとした、不良の少年。もう一人は、安芸の会社に入って来た、後輩だったのだ。


 何故、どうして。考える間もなく、何度も何度も、ナイフを突き刺される。お前のせいだ、だから犯した、全てはお前が悪い。散々暴言を吐かれたが、もう安芸の耳には届いていなかった。


「安芸……」


 俺は、力なく語る安芸をそっと抱き締める。俺達が裁きを与えた勇者は、享年18歳。これは最初にステータス鑑定した時に出た年齢だから、間違い無いだろう。


 そして5年前、彼が安芸を犯したと言うのなら、一番最初に安芸に顔を見せたのが勇者と言う事になるが、偶然出会った三人で、強盗計画を立てたとは思えない。


 俺の疑問に、安芸は淡々と語る。主犯だった不良の事はともかく、二人目に覆面を脱いだ会社の後輩。彼と勇者の顔は酷似して居たと言う。犯されている最中も、何度か彼は兄貴、等と言っていた事から、兄弟である事は確定であろう。


 その後、死亡した安芸の魂は、どう言う因果かは分からないが、この世界に流れ着く。不憫な魂を見た、女神セラフィーナ様の采配で、同じく無残にも殺されたレオナに宿る事となったのである。


「以上、です。今まで黙っていてごめんなさい……騙すつもりは無かった。最初から、アキと名乗って居ればと、凄く後悔をしているよ……」


 安芸の悲痛な言葉に、場が静まり返る。無理も無い、最初は俯いていたアリシアも、真実を知り涙を流している。マリンとマコト君、カエデさんは、怒りと悲しみの感情を露にしている。勿論、安芸へではなく、卑劣な殺人者に対して、だ。


「ごめん、レオナ。ううん、アキ。私の思い違いだった、辛い過去を話させて、ごめん」

「初めてレオナと会った時、とても力強い、生命力に溢れた子だと思ったのは、そんな過去があったからなのね……」


 アリシアとマリンが、安芸の境遇に涙を流す半面、マコト君とカエデさんは、憤る。もし、現世に帰れたなら、絶対にその二人を裁く、と。


「……うん、皆に話せて良かったよ。さて、と。随分と夜も更けたし、一旦お開きにしましょうか。まだ、解決しなければならない問題もあるし、気張り続けるのも疲れるから、ね」


 安芸の言葉に、全員が頷きその場を後にした。神殿内には、客室も無数にあり、寝床に困る事は無い。皆が出て行ったあと、背凭れに体重をかけ、ぐったりとする安芸。


「……」


 そんな安芸を、俺はゆっくり抱き上げる。お姫様抱っこで、俺はノーラに与えられた部屋へと向かう。そっと安芸をベッドに横たえ、布団を掛ける。緊張の糸が切れたのだろう、安芸はすぐさま眠りに就いた。


 俺は、ソファに座り考える。壮絶な過去だった。俺はある程度予想はしていたが、概ね予想通りであったのには驚いた。そして警察の無能さに呆れる。確かにあの不良との確執はあったとは言え、彼と喧嘩になったのは、安芸が死ぬ8年前。関係性を洗い出すのは難しいかも知れない。


 けど、けどだ。何故安芸の後輩の事は、調べるに至らなかった? 何かしら事件性があると思われなかったのか? それとも、単純に俺を犯人と疑い、まともに調べなかったのか?


「考えても仕方ない。まぁ、犯人の一人はもうこの世には居ない……俺達の手で、決着が付けれたのだけが、幸いって事か」


 そう言って俺もソファに横たわる。本当に、この短時間で色んな事があった。横たわって分かるのは、俺も相当疲れていたと言う事だ。瞬間的に瞼が重くなる。


「……おやすみ、安芸」


 そう発した直後、意識が途絶えた俺は、泥の様に眠るのであった。


 しかし俺は一つ見落として居た事に気付かなかった。この見落としが、後々暗い影を落とす事を、今の俺はまだ知らない――。





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