第三十九話 異世界召喚の果てに
対勇者戦、決着。そして――。
俺は、しがない一般人。ごく一般的な日本人、建設会社の社員で、重機オペレーターだった。異世界への召喚と言う事件を超え、様々な試練を超え、最愛の存在と再会する。そんな幸せを打ち砕く、勇者と呼ばれし邪悪が立ちはだかるのは何の因果か。
そして今、邪悪なる勇者を打ち取るべく俺達は最強最悪の敵に挑む。不遇の扱いを受けた固有スキル、重機召喚からなるスキルを従えて。
俺がこの世界に召喚されたのは、ほんの一月程前の出来事だ。訳も分からずステータス鑑定を受けて、勇者だ賢者だと騒がれる中での事だった。勝手に膨らむ期待。急転直下の絶望。
俺自身も華やかな勇者のサクセスストーリーの一部になると思ったけど、現実は甘くは無かった。重機操者と言う職業。重機召喚と言うスキル。聞いた事のないスキルとして役立たずの烙印を押されたあの日から、俺の苦難は始まった。
「勇者、底辺と言ったお前が断罪しようとした俺とスキルは、間違いなく今ここでお前に牙を剥く。覚悟ッ!!」
「調子に乗るなよ、底辺ッ!!」
そう言って俺は勇者に攻撃を仕掛ける。全ての始まりは勇者の一声。俺も最初は訳も分からない誹謗中傷に唖然としたが、それが始まりであった事は言うまでもない。
牢屋に叩き込まれ、理不尽な暴力を受け、冤罪のまま死刑判決と言う結果だった。正直受け入れようとしていた俺は、異常だったのだろう。
けれど、俺は救われた。安芸を救った存在、風の女神セラフィーナ様によって。俺を主と慕ってくれた、聖獣ガルーダによって。そして俺は超えて来た。最悪の未来と言う結果を超えて、今一度未来を切り開く為に。
「底辺底辺と、馬鹿の一つ覚えに言うだけか。だがそれも今日で終わりだ!」
「やれるもんならやってみろ! お前を殺して俺が正義と言う結果が残るだけだ!!」
勇者とのやり取りが無ければ、未来と歴史は変わっていたのかも知れない。同時に、安芸と再会する事も無ければ、鬼神殿と手合わせをして、高みに上る事も無かっただろうし、ノーラと言う大切な存在と巡り会う事も無かったのかも知れない。
そう言う意味では、逆に感謝をするべきなのか。いや、そもそも勇者が安芸を殺害した事から始まっているのだ、勇者の断罪は必然だ。終わらせる、悪しき勇者のストーリーを。
「ったく、俺は一般人だったってのに、な! ブレーカーステーク、打ち抜けぇ!」
「当たるかよ……ぐ、耳が……耳がああああ!?」
先程巨剣を受け止めたグラップルアームユニットを換装し、右腕に装備し直したブレーカーユニットで勇者に攻撃を仕掛ける。馬鹿正直に喰らう勇者ではないが、衝撃波に当てられ動きが鈍る。
無理も無い。当たりはしなかったが、超至近距離でブレーカーユニットの起動音を聞いたのだ。幾らステータスで補正されているとは言え、五感の一角、聴覚にダイレクトダメージが入ったのだ。無事な訳が無いのだ。
「らぁ!!」
「がはっ」
ふらつく勇者に追撃の回し蹴りを入れて後方へ大きく弾き飛ばし、俺は軽くバックステップをして勇者から少し距離を取る。
「今更でしょっ! 受けなさい、バニシングテンペスト!」
「ごふっ!?」
吹き飛ばされた勇者を待ち受けていた安芸。連携技の如く安芸の剣技、バニシングテンペストが炸裂。通常の突き攻撃に、強力な暴風の力が加えられた突進攻撃だ。背後からの強烈な一撃に、勇者が俺の方へと弾き飛ばされる。
俺が後方へ下がったのは、安芸が勇者を弾き飛ばす事を分かって居たからだ。強力な思念伝達、思念リンクにより、綺麗な連携が続く。まさに以心伝心。
「ま、悪くなかった、がな! お前と巡り会えたこの奇跡だけは、間違いなく本物だ。今度は直撃させる。ステーク、行けぇ!」
「うぉぇ……」
弾き飛ばされてきた勇者を、今度はステークが捕らえる。ブレーカーユニットを最大出力で起動すれば、超高速の連続打撃音が轟き、勇者の鎧を打ち砕く。
ブレーカーユニットは打突に特化した物だ。一点集中で勇者の装備する鎧を打ち砕いても止まる事は無く、生身の肉体にその鉄の杭がぶち込まれて、勇者は嗚咽を上げる。
前後に弾き飛ばされながら、俺と安芸の連携攻撃に、手も足も出ない勇者。時折防御する様な仕草はするが、俺と安芸の連携は、言ってしまえば阿吽の呼吸。
実際の所、俺達は深い絆で結ばれている。お互いの思念が共有され、お互いの次の一手が分かる。弾く、返す。殴り飛ばす、切り返す。打ち上げて、叩き落とす!
「安芸!」
「返すわ! お願い!」
それはまるでピンボールの様に、俺が弾き飛ばし安芸が打ち返す。おい勇者ピンボールしようぜ、お前が玉な。と言う感じで連続攻撃を叩き込む。
絶え間ない連続攻撃に、勇者は若干であるが抵抗の意思を無くして居る様に見えるが、ここで油断する事はない。確実に仕留める為に、ダメージを与えて行くだけだ。
「あいよ。で、もう一丁!!」
「はいはい。喰らいなさいこの腐れ外道!!」
勇者は抵抗する間もなく上空へと打ち上げられる。俺は超重機融合状態の超出力で跳躍し、無防備になって居る勇者に強力な踵落としを喰らわせ、叩き落とした。
超重機融合、重機召喚スキルの派生スキルで、複数の重機を融合させる俺の固有スキルだ。重機外装と言う重機召喚の派生スキルと合わせる事でその真価を発揮する。
正直言ってチート級の能力だと思う。重機自体の持つ馬力、出力のみを直接行使と言う、強力無比なスキル。かつて役立たず烙印を押されたスキルとは思えない。
尤も、俺はこのスキルが役立たずと思った事はない。このスキルが無ければ、今ここに俺は無かった。無駄な物など決してない。だから、俺はここにいる。最愛との未来を掴む為に!
「な、舐めるなぁぁぁぁ!!」
地面に叩きつけられ、一瞬攻撃の手が止んだ隙に、勇者は無作為に魔法攻撃を打ち出す。火の玉、氷の槍、雷の矢、石の礫。本来初級魔法だが、異世界人にして勇者。その威力は、一発一発が上級魔法以上の超火力を叩き出す。
当たれば一撃で致命傷を負いかねない攻撃だが、今の俺にはこのリングがある。安芸があれだけの雷魔法を無力化していたのだ、ベヒーモスを、エルダードワーフを信じて俺は障壁を張った。
「守れ。障壁!」
俺は安芸から貰ったリングを起動し、対魔法の障壁を張る。強力とは言え、魔法による攻撃だ。魔法を無効化するリングによって分解されてしまい、俺達には届かない。
忌々しげな表情の勇者に、俺達は追撃を加える。魔法の乱射で出来た一瞬の隙を逃さず、圧倒的速度の連携攻撃で勇者を追い詰める。
「安芸!」
「任せて!」
反転攻勢。俺と安芸は、更に加速し、阿吽の呼吸で連続攻撃を加えて行く。勇者も応戦するが、純粋に手数は倍。次第に押し切られ、次々と全身に被弾、傷跡を増やして行く様は――。
あの時鬼神と戦って居なかったら、きっと攻撃の緩急、ギアの入れ替え。様々な面で、安芸の足を引っ張って居ただろう。今一度、鬼神殿に感謝をしたい。
「底辺野郎ぉぉぉぉ!!」
最後の最後まで、勇者は抗い続ける。間違いなく今まで戦った中では最強の敵だ。しかし、今の俺にとっては倒すべき敵でしかない。俺は、最大出力で踏み込み、最大火力の攻撃を叩き込む。
安芸が受けた痛みを、俺が伴った悲しみを、この世界の全ての勇者の被害者達の想いを、この一撃に籠める!
「マキシマム、ブレーカー……ステェェェェク!!」
「がっはっ……」
渾身の一撃が勇者に直撃し、また勇者は弾き飛ばされる。全身を強く打ち付けながらも勇者は何とか立ち上がるが、巨剣を杖代わりにやっと、と言う状態だ。全身フラフラで、肩で呼吸をする勇者。やるなら今しかない。
俺は持てる全力を聖剣シンフォニアに注ぎ込む。安芸も、精霊の加護を受けた両刃直剣に、最大級の魔力を集中させる。さぁ、最後だ。
「その悪行は、地獄まで持って行きなさい! フォースエレメント・ヴァニッシュ、セイバァァァァ!!」
四大精霊騎士の中でも、各属性精霊との親和性の高い安芸の必殺技、その名もフォースエレメント・ヴァニッシュセイバー。四大精霊の力を収束した、精霊力と光の奔流が、巨大な光剣となって勇者を薙ぎ払う。
「勇者、お前はやり過ぎた。過去、現在、未来。お前の居場所は、この世の何処にも存在しない。奥義! 魔劫、消滅斬!!」
同時に、超常殺しの力を増幅させた、聖剣シンフォニアにて、俺も最大の奥義を繰り出し、真っ向から振り落とす。創世神ゼフィロス様が超常たる存在を討つために編み出した、魔を断つ聖なる裁きの刃。
「あ、あぁ……ふ、くく……この、人殺し……共め…………」
それは、もう抵抗する気力も、余力も残されていない勇者の最後の言葉。呪詛のように聞こえるそれも、俺には届かない。
「返すぞ、その言葉……地獄へ堕ちろ、腐れ外道!!」
「へ……地獄、で……待ってる……ぜ…………」
俺と安芸の斬撃が交差する。それはまるで十字架の様に。勇者は、その極大攻撃を受け、光の中へと消滅して行った。もう二度と、俺達の前に現れる事は無いだろう。
勇者の魂は浄化され、真っ新な状態でこの世界への輪廻に加わるが、恐らくその機会に恵まれるのは、果てしない程先の事だろう。その大罪を償い、真っ当な魂として。今度は道を間違えない事だけを、祈って置こう。
そして、今度こそ経験値の取得を確認出来た。正真正銘勇者は死んだのだ。
「……終わった、ね」
「ああ。帰ろう、俺達の紡いだ未来へ」
俺達は、手を繋ぎ歩き出す。夕暮れの灯に照らされる、お互いの左薬指に輝くリング。婚約指輪では無く、永遠の愛を誓った証拠と共に、俺達は未来へと歩み出す。
土の精霊都市への帰路。俺達はお互い無言のまま、ただ今ある幸せを噛み締める。きっと、この先も苦難辛苦が襲い掛かるであろう。だから、今だけは、今だけは、この幸せを享受したい。
「兄さん?」
俺は立ち止まり、安芸と向かい合う。今までにない緊張感が、俺の心を支配する。想いは既に伝えて居るが、このリングを付けた以上、今一度彼女へ本当の愛を誓おう。
「思えば、本当に長かった。長い道のりだったよ……随分と、長い間……悪夢を見ていた。でも、もう悪夢は終わりだ」
「……」
俺の言葉に、安芸も無言で頷く。そっと俺に寄り添う彼女を、強く、強く抱き締める。少し苦しそうな安芸だが、俺は構わず言葉を続ける。
もう二度と離さないと言う決意を胸に。彼女へ送る言葉……転生した彼女と、再び巡り合えたこの奇跡を噛み締める様に。
「現世でも、この世界でも。俺を慕ってくれて……ありがとう。好きだよ、心から安芸の事を愛している。これからも、ずっと俺の隣に居て欲しい。共に歩もう、未来へ」
それは、俺の心からの想いであり願いだ。様々な困難を超えて辿り着いたこの奇跡を、永遠に忘れない。
「はい……何時までも、何時までも。望まれるのなら、永遠にお傍に。もう、離れたくありません……大好きです、お兄様」
俺の言葉に、大粒の涙を浮かべながらも答えてくれる安芸。大きく伸びる二つの影が重なり、重なる唇。夕暮れの太陽のみが、俺達を優しく祝福してくれている。やがて、日が沈み満天の星空が、映し出されて行く。
随分と、遠くに来たもんだ。あの何処かに、地球もあるのかも知れない。
でも、今はどうでも良い事だ。俺の帰るべき場所は、最愛の存在である安芸が待つ場所なのだから。
本日はここまで。閲覧、ブックマーク。そして評価と、本当に感謝の至りです。ありがとう御座います。
一先ず対勇者戦は終了。話的には第一部の終了と言う感じになります。
少々駆け足気味でしたが、一部完を目指して走らせて貰いました。明日以降は、またのんびり更新して行こうと思います。
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もっと書き込めよ、続きはよ。等と言う意見も、誤字脱字もお伝えいただければと思います(当然可能な限り自確認します)。
最後になりましたが、皆様の閲覧に心からの感謝を。
引き続き、異世界重機オペレーター~義妹と往く異世界冒険記~を宜しくお願いします。




