第三十七話 消えた勇者
俺と勇者の戦いは、佳境を迎えている。主に俺は防戦をメインに戦っている。攻勢に転じても良いのだが、ここで攻勢に出ると勇者が限界突破のスキルを使って来る。とにかく俺の役目は、現状では時間を稼ぐ事。
あの時の記憶から推測するが、恐らく限界突破した状態でも、戦えるとは思う。が、物事に絶対は無い。確実に倒せる瞬間を作り、最終的に倒す。
「この、何時まで逃げてんだ!? 戦え! 本気で、全力で来い!!」
巨剣を振り回し、狂乱の勇者。俺は構わず、迎撃を中心に戦っている。そして、隙を見て拳を叩き込む。
だから学習しろって。俺の事を底辺だの、理解がない馬鹿だの言う前にその空っぽの頭、何とかした方が良いと思うぞ。
「ぐ、いい加減にしろぉぉぉぉ!! もう許さねぇ! そんなに勇者の力を見たいなら、見せてやんよ!! 解放、限界突破!!」
ち、予想より早く使ったか。しかし、あの時とは違う。今の俺の出力なら、捉え切れる。勇者が多角から、連続攻撃を繰り出す。時折残像が視えたりするが、俺はその攻撃を的確に捌いて行く。
「そこ!」
「ぐぅ!?」
攻撃の振れ幅、完全に見切れた訳では無いが、何とか攻撃速度に反応し、反射で攻撃を打ち込めるようにはなった。俺の拳が勇者の腹に直撃し、苦悶の表情と声を上げる勇者。
「馬鹿な、限界突破だぞ!? 勇者たる俺が、限界を超えて、捉えられるだと? ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!! 殺す、てめーは絶対に殺す!!」
「……」
激高する勇者。無理も無い、絶対勝利を確信していただろう。だが、それを俺は超えた。そして、俺は遂に反撃の時を迎える。安芸からの念話で『任務完了』との報告が得られた。
「遊びは終わりだ、行くぞ勇者!」
「舐めるなぁぁぁぁ!!」
舐めて居るつもりは無い。純粋に発想が子供……いや、18歳は子供か。子供が癇癪を起しているだけの状況だが、その癇癪一つで人が死ぬだけの力がある。油断は出来ない。
俺は重機召喚スキルにて主力戦車と自走対空機関砲を召喚し、超重機融合にて重機外装の組み換えを行った。
右腕を戦車の持つ44口径120ミリ滑空砲に、左腕を90口径35ミリ連装対空機関砲へ換装する。この二つのユニットは、砲撃をメインとするが、砲身を反転させれば、より強力な格闘戦ユニットとしても使える、万能兵器だ。
「な、なに!?」
脚部のキャタピラユニットに力を込めて、勇者の懐に踏み込む。今までの超重機融合状態をも上回る超出力での踏み込み――勇者の目に捉える事は出来たかな?
「ぶっ飛べ‼」
そのまま右腕を全力で打ち抜き、勇者を遥か彼方へ吹き飛ばす。吹き飛んだのと同時に、左腕に備えた機関砲ユニットが火を噴くと、勇者が着地したのと同時に、大量の土煙が舞い上がる。
機関砲弾が着弾し地面を穿った結果だ。砲弾一発一発に超常殺しの効果を付与しているが、勇者から経験値を得られない。つまり、まだ生きていると言う事だ。
「……まさか、耐えたと言うのか? となると、やはり聖剣に効果を付与して、直接斬るしかないか」
念の為、120ミリ滑空砲を指向し、照準器越しに勇者の位置を確認する。倒れたまま動きが無いが、それなのに何故、機関砲弾は当たらなかった?
「試してみるか……装填、良し。自動照準、追尾良し。火器管制、フルオート……ファイア!!」
ズドン、と言う腹に響く音を立て、戦車砲弾が飛翔する。真っ直ぐに、勇者へ向かう。着弾まで、三、二、一。弾着、今!
「……やったか?」
着弾で巻き起こった土煙が晴れると、そこに勇者の姿は存在しなかった。経験値の取得も確認出来ない。今の俺は、戦闘車両が保有するセンサーの類で、周囲の感知も出来ている。熱源、光学、音響、全ての計器は正常、勇者の反応が無い。
「どう言う事だ? 逃げた、のか?」
魔力感知が出来ない俺だが、それでもあの邪悪さは感知出来る。それが、一切合切この場から消えている事に、俺は驚きを隠せない。そして、俺以上に驚きを隠せなかったのが、ナグツェリア王国軍の兵士達であった。
「ゆ、勇者様が……総員、抜刀! 勇者様の敵討ちだ、全軍……突撃!!」
そんな隊長格の号令で、ナグツェリア王国軍の生き残り、凡そ数万の軍勢が一気に押し寄せる。大地を踏み鳴らす轟音、怒号に合わせて無数の矢が放たれる。まるで時雨の様に空を無数の矢が埋め尽くす。
「く、勇者を警戒しなければならないってのに! ええい、やるしかないか!」
咄嗟に俺は、戦車砲と対空機関砲を換装。右腕にブレーカーユニット、左腕にブルドーザーの排土板シールドの構成に変えた。排土板シールドは、勇者が奇襲をした場合の防御の為。魔法耐性が皆無の俺が、唯一防御時のみ、若干耐性を得られるのが強みだ。
そして、メインウエポンのブレーカーユニット。少なくとも俺の攻撃力、重機召喚による火力は、対人戦には過剰火力である。その点、ブレーカーユニットなら、その余波であれば、殺傷能力を極限まで減らせる。
しかしその前に、この矢時雨を回避するのが先だ。正直言えば、ダメージは皆無と見て居る。しかし油断して生身の部分に当たって、という結果を考慮し排土板シールドで防御を固める。
「……まるで集中豪雨って感じだな」
俺はこの世界で数多の戦闘を重ねて来た。そして、自身が死ぬ未来でも全身全霊を込めて戦った。結果として、この程度の攻撃で俺は怯む事も無い。
そんな事を考え防御していると、瞬く間に歩兵が俺に迫り来る。長剣、長槍と言った武器を以て殺到するが、近接戦でその取り回しが難しい武器はどうなんだと言いたい所だ。
「勇者様の敵だ! 喰らえ!」
しかし俺の考えを余所に次々と攻撃を仕掛けてくる歩兵達。俺から見れば勇者は悪逆非道の限りを尽くしている筈だが、ここまで慕われていると言うの意外である。
まぁ、何となく理由は分かるのだが……この兵士たちは、所謂『甘い蜜』を吸わせて貰っていたのであろう。ったく、現金な奴らだ。
「ブレーカーユニット、スタンバイ」
俺は排土板シールドで防御の姿勢を保ちつつ、重機外装の装甲で攻撃を弾く。この重機外装自体がフルプレートアーマーと同じ構成だが、各種関節や装甲は桁違いの防御力を有する。
シールドを構えて居ない個所に被弾するのを気にせず、俺はブレーカーユニットのチャージを開始。
「こいつなら……それでも、至近距離の奴らは死ぬだろうな。けど、俺もここでやられる訳には行かない。勘弁してくれよ!」
そう言って俺はその右腕を大きく振り被る。その威力全てを、直下の大地に叩き込む為に。
「悪く思うなよ。マキシマム、ブレーカー……インパクトォ!!」
俺の現在地は、言ってしまえば敵軍勢のど真ん中である。俺は技名を叫ぶとブレーカーユニットを大地に叩き付ける。同時にブレーカーユニットを起動した。
超重機融合状態のエネルギーをチャージした、ブレーカーユニットのピックが大地に打ち付けられると、着弾点を起点として同心円状に、凄まじい衝撃波が発せられる。
本来のブレーカーではありえないが、今の俺は超重機融合状態。その力は何十倍、何百倍と増幅されている。結果として、ナグツェリア王国軍の兵士達が、同心円状に、次々と吹き飛ばされていく。
俺の危惧した通り、直近に居た兵士は、凄まじい衝撃波で内臓が破裂。死亡してしまう。この世界に来て、初めての殺人だ。許されようとは思わない。どの道俺は、勇者を地獄に送らなければならないのだから。
そして同時に俺は確信をした。人類種を殺しても経験値は手に入る。モンスターと比べてかなり大きい経験値が手に入ったが、依然として勇者の経験値が獲得出来ていない。つまり、生きている。
「マキシマムゥゥゥゥ……ブレーカァァァァ……」
俺はもう一度同じ技を使おうと、技名を大声と叫ぶ。同時に如何にも力を貯めていますよ、というポーズを取る。結果として、俺の力に恐れをなした兵士は、次々にその場から逃げ去る。
「き、貴様ら、逃げるな! 戦え! ええい、逃げる者は斬るぞ!! 国家反逆罪で、捕らえるぞ!!」
「やってられるか! 行くならあんたが行けよ!! ぎゃあ!?」
指揮官に反発した兵士が、無残にも切り殺される。おいおい、自分で自軍の数を減らすとか、何を考えて居る?
いや、何も考えて居ないのか。確かに俺は、ナグツェリア王国と事を構えるのはしないと言った。念の為にと各種資料は調べては置いたが、その資料に呆れかえった物だった。
余りにもお粗末。強制徴用からなる兵士を、使い捨ての様に扱う訳だ。そりゃ兵士は指揮官を憎むだろうし、指揮官も遠慮なく斬る訳だ。
話しが逸れた。そして、俺は一応ナグツェリア王国軍からすれば敵。それに見向きもせずと言うのは、幾ら何でも頂けないだろう。
「インパクトォ!」
そんな事を思いながらブレーカーユニットによる攻撃を行う。チャージした物をそのまま保持するのは難しい。下手をすれば暴発し俺が自爆する恐れもある。
二度目の衝撃波が放たれ、兵士を切り殺した指揮官が弾け飛ぶ。大地に打ち付けられ、ピクリとも動かない。そんな指揮官に、多数の兵士たちが群がり――。
「あんたのせいで、戦友が死んだ! ふざけるな!」
「勝てるって言ったんだろ? なんなんだよ、この法螺吹き野郎!」
無抵抗の指揮官を、文字通りフルボッコにする兵士達。俺の事など眼中にない様だ。と言うか、掌返し早過ぎでは無いか? 結局、俺は二回、ブレーカーユニットを起動しただけで、ナグツェリア王国軍は半壊。敗走して行った。
「……しかし、本当に勇者はどこに消えたんだ?」
俺は周囲の警戒を行うが、依然として発見出来ていない。俺は一抹の不安を覚えつつも、警戒しながら、地の精霊都市への帰還を急ぐのであった。
休日更新夜の部になります。




